この作品は本編で描かれている部分に主人公が絡むことがないため、主人公がいることで変わった小さな学校の出来事などを描くことはありません。
書かれていない部分は、「本編通り」のイベントがあったんだな、くらいで考えてください。
第一幕
■Avant ‐変化(ルリハコベの花言葉)
俺が地元、讃州市に戻ってから約2年。
父親の病状を見ながら小料理屋を手伝っていたが、昨年からは正式に店で働いている。
名目上は店長である。
とはいえ、親父の世話もあるし、母子揃って夜遅くまで営業することは難しい。
思い切って、喫茶店として昼間中心の店に転向することにした。
内装も少しおしゃれな洋風に変え、「小料理・酒房 幹夫」(勝手に俺の名前を店名にしてやがった)を「喫茶 みきお」として、リニューアルオープンさせたのだ。
軽食は調理師免許を持っている母が務め、ケーキなどの甘味は商店街の店から直接仕入れ。
俺は趣味と前職を活かし、コーヒーをはじめとするドリンク係と、掃除レジ打ちといった雑用全般が担当である。
元々有明浜に近い立地で、「海を見ながら昼間から酒を飲める」が売りであった「幹夫」だが、今ではもっぱら主婦の奥様方や、地元の学生のたまり場となっているのであった。
地域密着型で、知らない顔が来店するなどめったにない「みきお」に、見慣れない少女が訪れたのは、6月に入ってすぐのことだった。
少し日に焼けた肌、細身で150センチくらいの背丈、髪はサイドに2つ括った、短いツインテールのような恰好。
学生に見えるが、平日にも関わらず制服ではなく、旅行者にも見えない軽装だった。
お昼には少し早いくらいの時間で、主婦の皆様もおらず、席は空いている。
少女はどの席に座ればいいか、少し戸惑ったようだったが、「お好きな席にどうぞ」と声を掛けるまでもなく、近くのテーブル席に座った。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「…サンドイッチのAランチを」
「セットのお飲み物は何になされますか?」
「オレンジジュースをください。」
「かしこまりました。」
一言目は少しぶっきらぼうな口調だったが、本人も思った以上に冷たい声が出た、と感じたのか、二言目は丁寧な口調で注文を受けた。
厨房の母親に注文を伝えて、ドリンクの用意をする。
少女はその間、もの珍しそうに店内や、少し遠い目で、窓から見える海を眺めていた。
「お待たせしました、Aランチとオレンジジュースです」
配膳を終え、所定のカウンターまで戻ると、少女はモクモクとサンドイッチをかじりだした。
小声で「あら、おいしいじゃない」と聞こえたので、ふとそちらを見ると、顔を赤くして、少しうつむいて食べる姿があった。
そうして15分ほど経ったころだろうか。
丁度ランチを食べ終えた少女の携帯が、けたたましい音を響かせたのは。
その音に驚いてそちらを見たときには――――
その時俺は、2年前、別れの挨拶が出来なかった少女たちとの運命の歯車が、軋んだ音を立てて再び動き出すのを、感じた気がした。
■Chap.1 -再会(サネカズラの花言葉)
俺から見て少女は正体不明であった。
突き止めようにも彼女の名前も住所も知りようがない。
背格好からすれば中学生くらいかと思うが、保証もなく、学校に問い合わせることははばかられた。
唯一の心当たりがあるとすれば、大赦——おそらく「御役目」というキーワードから問い合わせることはできるかもしれないが、積極的に関わりたくはない。
まあ、なぜ彼女のことをそんなに知りたいのかといえば、一目ぼれのようなロマンチックなものではない。
勿論、とてもややこしそうな「御役目」のことでも、2年前のにぎやかな三人組のことでもない。
純粋に料理の代金をいただいていない――
彼女に配膳したランチを下げながら、とりあえず俺の財布から、料金を立て替える。
この時、なぜか俺には、彼女がまたこの店に料理を食べにくるだろう、という確信があったのだった。
―――そうして果たして、数日後の夕方に、彼女は讃州中学の制服を身にまとって現れたのである。
ただし、前回料金を払っていないという事に、
機嫌よく、前回と同じ席に座ってメニューを手に取っている。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「今日はオムライスとサラダのセットをいただけるかしら?」
「お飲み物は何になされますか?」
「そうね、今日はアイスコーヒーをください。」
「かしこまりました。」
注文を通し、ドリンクを用意した後、奥でおしゃべりに夢中になっている奥様方に声を掛ける。
「申し訳ありません。本日少し早いんですが、ラストオーダーのお時間です。何か、ご注文なさいますか?」
「あら、それじゃあお邪魔よね。今日は解散しましょうか。」
奥様方も夕食の支度があるので、17時ごろにお声がけすれば、大抵お帰りになる。
(ちなみに「みきお」は19時まで営業しているので、本来18時30分がラストオーダーである。)
大声を出すつもりはないが、食い逃げ疑惑を他人に聞かれるのは、少女にとっても都合が悪いだろう。
戻りがてら少女への配膳を済ませて、奥様方の会計を行う。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。」
「はいはい、明日もお邪魔するわよ。15時くらいになるかしら。」
そんな会話の後、皆さんがお店を出たところで、アイスコーヒーとグラスを持って、少女の席に近づく。
「おかわりはいかがですか?当店のサービスです。」
「あら、ありがとう。でもいいのかしら?」
「ええ、
「……………あんた、何者?大赦の人…じゃなさそうよね?」
少女の警戒心が跳ね上がった。先日の一言目よりもさらに冷たい声である。
見ればテーブルに置かれた食器のナイフに指がかかっている。
……オイオイ、えらく物騒な中学生だなぁ。
「ええ、しがない喫茶店の店主です。厨房の母に頭が上がりませんけどね。」
少女の分と自分の分、2つ新しいコーヒーを注いで、シロップ・ミルクとともに渡す。
「いえね、以前も同じことがあったんですよ。目の前で人が消えるってことが。もっとも、前回は前払いだったので、
そう聞いた少女は考えが及ばなかったようで、呆けたような表情になった。
そのあと、顔が赤くなったと思えば急激に青ざめていく。
「ご、ごごごごご、ごめんなさい!私、前回のランチの時、お会計をしてなかった⁉」
「ええ、あなたの携帯が不思議な音を出したと思えば、影も形もありませんでしたね。前の時も聞いたのですが、一体全体、どんなイリュージョンなんですか?」
「それは…………………話すことはできない、です。でも、『御役目』ってことは知ってるんですね?」
「ええ。その時も『大赦』がらみだと聞いていたので、詳しいことは聞かず終いでしたね。」
「ええっと、それより今日合わせてお会計を…あ、学校帰りで持ち合わせがあんまりない!あぁ、どうすれば!」
「慌てないでください。お代は次の時で結構ですから。」
「本当にすみません、私は讃州中学の2年、三好夏凜。代金は明日、必ずお持ちします。」
「三好さん、都合が悪ければ明日じゃなくてもかまいません。」
「それより、今日お時間はありますか?もしよろしければ、私が出会った『前回』、仲良しの三人について、何かご存知ならお聞かせ願えませんか?」
少し落ち着いた彼女に、気になっていたことをぶつけてみた。
「仲良しの三人……?樹が入学したのは今年だから、風と友奈と東郷のことかしら…?」
「いえ、『鷲尾須美』『乃木園子』『三ノ輪銀』の三人です。2年前、坂出のイネスで知り合ったんです。」
三人、いや、三ノ輪さんの名前を聞いた時点で、急に表情がこわばった。
「……………………………………ごめんなさい、御役目に関わることは、話すわけにはいかないの。」
どう見ても「
「………そうですか。無理を言ってすみません」と話を切り上げた。
「当店のアイスコーヒーはシロップが特別性なんです。良かったら、たっぷり使ってご賞味ください。では、ごゆっくり。」
彼女のもとを離れると、10分ほどして、彼女が本日分の会計をして帰っていく。
「アイスコーヒー、おいしかったです。今度、『御役目』の仲間を連れてきてもいいですか?」
「ええ、もちろん。お待ちしていますよ。」
これが、彼女「三好夏凜」との、長い付き合いの始まりだったのである。
Avantはにぼっしーが引っ越してきた日で、カプリコーン戦のために樹海入りしました。
初陣で気合入ってるんだからお会計くらい忘れます。
その数日後に彼女は讃州中学に転入、勇者部に入部します。
Chap.1はちょうど、入部した日です。
この日彼女が上機嫌なのは友奈たちの影響です。
Q.にぼっしーがこんなに素直なワケないやろ?妄想か?
A.ご都合主義です。が、お店の人にツンデレ対応するわけないじゃないですか。
そんなに失礼な娘ではないです。