一応、ゆゆゆWikiの年表に準拠してお話を作っています。
思った以上に夏凜入部~誕生日が短かった…
■Chap.2 -大事な人(6/12の誕生花アキメネスの花言葉*1)
約束通り、三好さんが食い逃げした分の支払いをした2日後、6月12日のことである。
お昼ごろにえらく暗い顔をして、彼女がやってきた。
「いらっしゃい。今日は何かの稽古かい?」
支払いに来た際、「年下ですし、このお店が気に入ったので、気軽な口調でいいですよ」と言われている。
とはいえ、さすがに一言目に「何があった?」とプライベートに踏み込むのは気が引けたので、彼女が下げた木剣袋を会話のきっかけにする。
「ええ、『御役目』には鍛錬が必須なのよ…そう、それが私の役目。」
「今日は、日替わりのハヤシライスのセットをちょうだい…」
「かしこまりました。」
前半はまるで自分に言い聞かせるような言い方だった。
気にはなるが、まずは自分の仕事をしっかりこなして、彼女の空腹が満たされるのを待つことにしよう。
そうすれば気持ちに余裕も出るだろう。
食べ終えて早々に出ていこうとするところを呼び止める。
前回と同じく、アイスコーヒーのセットをテーブルに置いて、話しかける。
「三好さん、どうだ?お腹も膨れて、ちょっとは余裕が出たか?常連*2に『この世の終わりのような顔』されると、さすがに気になる。良かったら話していかないか?」
「それとも、話にくい内容かな?」
「………そうね。店長さんは関係者じゃないし、ちょっと愚痴でも聞いてもらおうかしら。」
「あと、『夏凜』で良いわ。あまり苗字で呼ばれるの、慣れてない*3の。」
聞いてみれば何と言うか、しょうもない理由だった。
彼女は讃州中学で「勇者部」なる部活に入ったらしい。
そこで、今日は幼稚園でのお遊戯会をする予定だったのだが、集合場所を間違えてしまい、怖くなって逃げだした、という事である。
もっとも、彼女はそんな殊勝な表現はせず、「私には関係ないから、ぶっちぎってやったのよ!」「私は御役目のために来たんだから、そんなのに付き合う義務はないわ!」と言っていたが。
うーん正直、「お前が悪いから、一言謝って今からでも合流してこい」と言いたいところである。
彼女の反応からすれば、携帯にも連絡があったようなので、その場で素直に謝っていればとっくに終わっている話である。
とりあえず現状、彼女に正面から謝るにはプライドが邪魔で、部活仲間も責めているわけではなさそうだ。
であれば、少しおせっかいを焼くくらいで丁度いいだろう。
「わかった。そういう訳なら何も言わんさ。精々、部活仲間には一言謝ればいいと思うがね。食い逃げした時はあれだけ慌てて謝ってたお前が、意地張ってもかわいいだけだぞ。」
と揶揄ってやれば、顔を真っ赤にして「
「しょうがない、今晩の飯、決まってないなら1食だけサービスしてやる。19時頃に、もう一度おいで。」
と言えば、「そう…?じゃあ、お邪魔するわね」と素直な返事が返ってきた。
落ち込んだ時に行動するのは、ひどく億劫なものだ。
食事の準備でも楽できるならするだろう、と読んだが正解だったか。
そうして出て行った三好さん改め夏凜を見送って、俺は母親に作り置きをお願いするとともに、スマホを取り出したのだった。
さて、当日19時。
半分シャッターを閉めた店に夏凜がやって来た。
「いらっしゃい。誘っておいてすまんが、お袋が帰るんでメニューは決められん。
「ええ、構わないわよ。…ごめんなさい、気を遣わせちゃって。」
「精々食べて、明日は素直になれるようにしろよ。」
「ぐぅ…うるさいわね…」
作り置きと残り物の賄飯を配膳して、俺も厨房に入る。
―――丁度そのタイミングで、勢いよく店のドアが開いた。
「夏凜ちゃ~~~~ん!いるぅ?」
「アンタどこ行ってたのよ、店長さんが連絡くれたからいいものの!心配したじゃない!」
半分締まったシャッターをくぐって入ってきたのは、元気の良い赤い髪の女の子と、ツインロングの茶髪の娘。後ろにあと2人、続いているようだ。
「な…⁉アンタたちどうしてここに?っていうか店長が連絡って?ええ⁉」
スプーンを持ったまま、何が何やらわからない、という状況の夏凜。
口周りにピラフ付いてんぞ。
「いらっしゃいませ。今日は当店の常連客のためにお集まりいただいてありがとうございます。」
「あ、店長さん、
「今回は持ち込みさせていただいた上に、場所までお貸しいただけるなんて、本当にありがとうございます。」
部長さんと簡単に挨拶を交わした後、夏凜のテーブルに案内する。
思ったよりも、俺のおせっかいは
夏凜が帰った後、とりあえず「讃州中学勇者部」をWeb検索。ヒットしたHPから、お問い合わせメールに「部員が失敗を気にして落ち込んでます」って連絡を入れてみたのだが…
返ってきたメールには夏凜が体調を崩したわけでないことに安心した、という内容と、なんと彼女のサプライズ誕生パーティーのことが書かれていた。
こうなったら乗りかかった船である。
丁度、19時ごろに夏凜が来店予定であることを伝え、「喫茶 みきお」を持ち込み可のパーティー会場として貸すことにした。
「「「「サプラーイズ!!!!!!」」」」」
祝われる彼女は…感激のあまり涙目で、「こんなこと初めてだから、どうしていいのかわからない」とえらくかわいらしいことを言っていた。
ちなみに俺だけ横目で睨まれて「覚えてなさいよ…」と言われたのはなぜだろうか。
■Chap.3 -疑い(アンズの花言葉)
さてさて、夏凜はまだ色んなことが起こりすぎて目がぐるぐる状態だが、俺はどうしても気になることがあったので、切り出すことにした。
「夏凜、すまないが他のメンバーを紹介してもらえないか?」
ハッとした彼女は「ゴホン」と咳ばらいをした後、話し出した。
「えー、みんな、今日はありがとう…そして、迷惑かけちゃって、ごめんなさい。」
意外にも、彼女の口から出た一言目は、御礼と謝罪。
俺はなんだか娘が成長した場面を目にしたような気分になった。
感情の起伏がバグった結果、素直な気持ちが脳から直接出力されたか?
なぜか部長の犬吠埼さんも涙目になっていた。夏凜のお母さんかな?
「で、こちらが、今日この場を用意してくれた、『喫茶 みきお』の店長さんよ。」
「どうも、私は『喫茶 みきお』の店長、佐藤幹夫です。これからもごひいきに。」
「…店長、私にはもう接客モードは気持ち悪く聞こえるから、皆にも普通に話してもらえないかしら?」
ナイショで勇者部に連絡を入れた意趣返しのつもりだろうか。
ついこの間出会ったばかりだというのに、『気持ち悪い』とは随分である。
「……そうか?皆がイヤでなければ、こちらの口調が素だ。夏凜とはこの口調で話しているが、どうだろうか。」
「…私たちは構いません。楽な方で大丈夫です。」
軽く周囲を見渡した後、代表して部長さんが答えてくれた。
「実は店長は、私たちが何らかの『御役目』を担ってるってことを、知っているわ。」
「な…っ!
「いいや、昔、ちょっとした縁があっただけなんだ。大赦とは関係ない一般人だよ。」
部長さんに尋ねられたが、否定すると安心したようだった。
「じゃあ、続けて勇者部員の紹介ね。確か、風とはさっき挨拶していたわね。じゃあ、その隣は、妹の犬吠埼樹。」
「犬吠埼樹です。中学1年生です。よろしくお願いします。」
「こっちの隣の、赤い髪が結城友奈」
「讃州中学2年の結城友奈です。夏凜ちゃんとは同級生です。」
「その奥の、車椅子の子が、東郷美森よ。」
「東郷美森です。どうぞ、よろしくお願いします。」
全員の紹介が終わったところで、俺は本題を切り出すことにした。
「すまない、東郷さん。少し尋ねたいのだが、君は今、中学2年生かい?」
「はい、そうですが…」
「店長……いくら東郷が中学生離れした体型*4だからって、その質問はないんじゃない…?」
なぜか夏凜にドン引きされている。誤解である。
「そうじゃない!…という事は、2年前、98年の5月は、小学校6年生だよね?」
「…はい、そうなりますね」
「君に
「………ッ!…店長?」
誰もが予想しなかった質問に、一同が息を飲んだ。
「……いえ、私には双子の姉妹も、よく似た従妹にも、心当たりはありません。人違いだと思います。」
東郷さんは、少し考えた後、そう答えた。
嘘を言っている気配はない。鷲尾さんと同じ
その隣で、結城さんが何か言いたそうに、東郷さんの横顔を見つめているのが印象的だった。
その日は話題を変えて、そのまま、解散に至った。
初めての顔合わせでもあるし、この場はあくまで夏凜の誕生日祝いだ。ケチを付けたくはない。
しかし、東郷さんは鷲尾さんに、あまりに似すぎている。
俺の中で、二人に何らかの関係があることは、疑いようがなかったのである。
友奈はその日の帰り道、東郷の迎えの車に同乗していた。
「東郷さん、店長さんの言ってた2年前って…」
「ええ、そうね。私の記憶が、事故の影響で曖昧な期間。もしかしたら、彼は私の何かを知っているかもしれない…」
「じゃあ!」
「ううん、友奈ちゃん。私は今、この場所で確かに生きている。その間の記憶を取り戻して、何かが変わってしまうことが怖くもある…できれば、あまり触れないでおきたいの。」
「そう…なんだ。じゃあ………しょうがないよね。でも、東郷さんは、東郷さんだよ。失った記憶がはっきりしても、私たちの関係は変わらないよ。」
「ありがとう、友奈ちゃん。それでも。それでも私は…」
こうして長かった6月12日の夜は、更けていった。
当初のプロットなら、ここで東郷さん=鷲尾さんがほぼ確定するハズだったんだぜ…
でも、勝手に東郷さんが逃げたんです。
よく言いますが、『キャラって本当に勝手に動くんだなぁ』と思い知らされました。