■Chap.4 -チャンス到来(ブルーエルフィンの花言葉)
さて、顔合わせをすませたことで、勇者部の連中と「喫茶 みきお」の交流は、加速度的に深まったといってもいいだろう。
夏凜は休日の食事の内1回はうちの店で食べるようになったし、平日の夕食も、3日に1回は来ている。
いい意味で遠慮が無くなったものの、夕飯に来るたびに営業時間が19時までなことに文句をつけてくる。
犬吠埼姉妹は、この店、というよりは俺の母親の料理に興味があるようだ。
誕生日サプライズの際、夏凜が食べていた夕食を見ていたらしく、姉妹揃って店を訪れた。
今では二人は週末になると、食材を持ち込んでは俺の母と料理をするようになった。
「こんなの、なんてことない『おふくろの味』ってやつよ。」と母は言っていた。
それに対していつも二人は、「レシピ本には載ってない、
この姉妹も、俺には想像もつかないものを抱えているのかもしれない。
ちなみに、二人の評価について聞いた時、「風ちゃんの料理は煮物以外は私とそう変わらない。特に炒め物とうどんは絶品」「樹ちゃんはがんばり屋さん」と言っていた。
…樹ちゃんの料理については、どうやらノーコメントを通すらしい。
転機は、夏凜と犬吠埼姉妹が揃って店にいた、6月4週目の週末だった。
客の足が丁度途切れたあたりで、何気なく夏凜が話かけてきた。
「東郷は来ないのか?って聞きたそうね。」
「い、いや、そんなことはないぞ。」
「…まあいいけど。東郷なら当分、ここには近づかないんじゃないかしら。」
「そんなに踏み込んだつもりはなかったんだがなぁ。」
「よく考えなさいよ。店長は、女子中学生に向かって『あなたによく似た人を知ってますが心当たりは?』って聞いたのよ?」
「なにそれ?下手なナンパか、そうじゃなきゃストーカーよ。」
「…ぐうの音も出ない正論だな」
「はぁ…店長、そもそもなんだけど、店長とその三人組って、どういう関係なの?」
「…そっちは機密で話さないくせに、俺には聞くのか?」
「私も、『先代』に興味がない訳じゃないのよ。」
そんな会話が聞こえたんだろう、犬吠埼姉妹が会話に参加した。
「お、何々?3人って誰?店長さんの恋バナ?」
「お姉ちゃん…ちょっと、いきなり失礼だよ…」
「そうだな、その辺の事情をきちんと話した方がいいか。」
今後、東郷さんと引き合わせてもらうにせよ、皆の協力が必要だと思ったし、俺自身、三人組との思い出、情報の整理が必要だと思った。
別に後ろめたい思い出でもないし、聴いてもらおうか。
「三人組というのは、2年前におそらく君たちと同じ『御役目』を務めていた、女の子たちの話だ。」
「知り合ったきっかけは、今から2年前の5月…夏凜には『似た状況』になった時に話したと思うが、当時の勤務先でな、会計中のお客様が
「消えた?それって…」
「そうね、確かアンタたちも授業中に『御役目』に出たことがあったハズだから、わかるでしょ?
「ああ…それは驚きますよね。学校では大赦の人から説明があったので、クラスメイトたちは何も聞かないでくれてるんですが…」
「なるほどねぇ〜。それは店長さん、偶然とはいえ、珍しい瞬間に居合わせたものねぇ。」
姉妹の相槌に軽くうなずいて、続ける。
「慌てて探したが、どこにも居なくてな。当時は途方に暮れたぞ。」
「『御役目』とはいえ食い逃げの形になるなんて…アタシ達も気をつけないといけないわねぇ。」
事情を知らない部長さんの言葉が夏凜にグサグサと刺さっている…とてもバツが悪そうだ。
「いや、代金を預かったところでな、商品もお釣りも渡せずという状況だったんだ。店に損はなかったが、相手は小学校の制服を着た女子3人。とてもじゃないがそのまま代金を受け取れる気分じゃなかったよ。」
「え〜⁉︎じゃあその後学校に問い合わせたりしたんですか?」
「いや、一人はよく買い物に来てて顔を覚えてたから、次の来店を待つことにした。…まあ、待つほどでもなく、次の日に来てくれたがな。確か『祝勝会』と言っていたか。」
「ああ、それは祝いたくなる気持ちがわかるわ…アタシたちは初回はそんな感じにならなかったけどね…」
「東郷先輩を怒らせちゃったから…」
「うぅっ…」
部長さんが涙目になって妹に慰められている…一体何があったんだ…
「それが、『鷲尾須美』『乃木園子』『三ノ輪銀』の三人組だ。俺が店を辞めてこっちに帰ってくるまでの2ヶ月くらいか、よく店に来てくれてな、そこそこ仲良くなったんだが…きちんと別れの挨拶が出来なかったのが心残りだったんだ。」
「何かあったの?」
「確か挨拶しようとした時は、すごく楽しそうだったから先送りにしたんだったか。その後、1週間程度はまだ店にいたんだが、3人とも来なくてな…間が悪かったようだ。こっち来てからは気になりつつも、何も出来ず。」
「同じ『御役目』に就いているだろう、夏凜達なら何か知ってるかと思ったんだがな。」
「う〜ん、少なくともアタシは何も知らないわねぇ。勿論、樹もね。」
「あ、でもその手がかりを、東郷先輩が持ってるかもってことなんですよね?確かその中の『鷲尾さん』でしたっけ?」
「ああ、そうなんだ。俺の記憶が正しければ、東郷さんと鷲尾さんは双子のように似ている。苗字も名前も違うし、鷲尾さんは車椅子ではなかったが、他人の空似だとは思えない。何らか血縁があると考えたんだが…」
「そうなんですね。写真とか、残ってないんですか?そこまで似てるなら、私も見てみたいです。」
「写真………⁉」
「樹、流石に店長が女子小学生の写真持ってたら盗撮で通報しなきゃいけないわよ。」
「事情を聞いた限りはそんなやましい関係じゃないようだけどねぇ。」
「……ナイスだ樹ちゃん!ちょっと待っててくれ、あれは変える前の携帯だから…!」
そう言ってスマホからクラウド上に保存された写真にアクセスして、遡っていく。
「え、ホントに女子小学生の写真撮ってたの⁉ ︎風、これは『勇者』としては社会風紀のため警察に…」
「オイ、そこの食い逃「冗談よ!冗談!」」
調子に乗る夏凜を牽制すると、慌てて大声を被せてきた。
夏凜よ、遮ったのはいいが、部長さんにジト目で見られてるぞ。
「…あった!祝勝会の記念に撮ったんだ。ただ連絡先は聞けないから、結局三ノ輪さんの端末で撮り直したハズだ。」
全員、それを消してないのはヤバいんじゃないのかと思っているだろうが、好奇心には勝てないようで、口には出さず俺のスマホを覗き込んだ。
「ウソ!」「これって…」「え〜っ!」
「「「東郷(先輩)じゃない(ですか)」」」
反応は三者三様だったが、最後の結論は、全員同じものだった。
次回から、勇者部側で動いてもらう人員として、夏凜視点が入ります。
にぼっしーマジヒロイン!と思ってらっしゃる方も多いと思いますが、私の中で彼女は相棒(バディ)です。