あの独特の「ゆるさ」を表現するのに、せいぜいキャラの名前をひらがなにするくらいしかできず…
文才の無さが恨めしい。
■Chap.5 -好奇心(プラタナスの花言葉) 語り部:三好夏凜
「すいませーん」
「いらっしゃいませ、ただいま伺います。」
驚きで次の言葉が出てこない中、店のドアベルが鳴った。
店長が接客のためにそちらへ向かう。
「適当にドリンク飲んだら、解散してくれ。そろそろ日が傾く頃だしな。」
スマホを私たちに預けたまま、そう言い残して、席を立った。
「夏凜、その写真、アタシたちの端末に送れる?」
聞こえないように小声で、風がとんでもないことを言い出した。
「お姉ちゃん、店長さんのプライベートのスマホだよ⁉︎」
「いえ、これは我が勇者部メンバーと、御役目に関わる話よ!とはいえ、流石に悪いと思うから、一番仲がいい夏凜に操作してもらおうかと…」
「お姉ちゃんはほとんど興味本位でしょ?無責任だよぉ…」
「…ちょっと待って、それにはアドレスを手打ちしないと…」
「夏凜さんまで⁉︎」
「ううん。店長さんはこの間の誕生日会の時、勇者部のアドレスにメールをくれてる。きっとメールが残ってるから、写真を付けて再送信して。アタシのスマホで受け取れるから。」
店長とは気のおけない仲だと感じているものの、それでも悪いという自覚はあった。
でも、私は店長が言う三人組、その内の一人の『結末』を知っている。そしてその残酷な報せを伝えることは、きっと出来ない。
そう、現状、先代勇者から『端末を引き継いだ』のは完成型たる自分だけ。なら、残りの二人には会えるはずだ。
そう考えたら、自然に体が動いた。
「風、私から勇者部に依頼を出すわ。『鷲尾須美という少女の秘密を探って』よ!」
そう言って、送信ボタンを押した。
「あいわかった!」
「いいのかなぁ…」
『勇者部員による特殊依頼』
それは、彼だけでなく、この世界にとっても転機となる部活動になるのだった。
その晩、風と樹にチャットを送る。
かりん『今日の依頼の件だけど今いいかしら?』
風 『良いわよー』
いつき『はい、まだ起きてます』
風 『あ、まずはこの写真ね』
風 『tencho.jpg』
かりん『ありがと』
いつき『見れば見るほど似てますねぇ』
かりん『風はどう思う?』
かりん『私は中1の東郷は見たことないから…』
風 『これは同一人物よ!』
いつき『根拠は?』
風 『見た目もそうだけど、このメガロポリスよ』
風 『少なくともこのサイズ以上に育ってるわけでしょ?』
風 『そんな中学生、東郷以外ありえないわよ』
いつき『お姉ちゃんサイテー』
風 『なんで⁉︎』
かりん『明日、やりたいことがあるわ』
風 『アタシも』
いつき『私からも1つ』
かりん『東郷をこの写真と同じ髪型にして、写真を撮りたい』
いつき『わかりやすくていいですね』
風 『じゃあヘアアレンジの依頼でもでっち上げましょ。ブラシと髪留め持って行くわ』
かりん『ありがと』
風 『アタシは直球』
風 『この制服、神樹館小学校のでしょ?』
風 『卒業生がウチの中学にいないか、探したい』
かりん『風にしてはいい案ね』
かりん『知っている人がいれば、全部決着がつくかも』
いつき『ちょうど各学年ひとりずつですから、各学年で聞き込み?』
風 『異議なし!』
風 『これは「カワイイ制服ランキング」を作ってるってことにしましょうか』
かりん『了解』
いつき『わかった』
いつき『私のは思いつきなんですけど』
いつき『東郷先輩の瞳、珍しい色ですよね?』
いつき『ご両親とか、血縁の方はどうなのか、聞いてみたいです』
かりん『普通に聞けば答えてくれそうだけど』
風 『それなら漫研の依頼に合わせましょうか』
風 『ちょうどいいのがきてるの。任せて』
風 『特になければ、こんなところね』
かりん『大丈夫よ』
いつき『はい』
風 『じゃあまた明日、おやすみなさい』
かりん『お休み』
いつき『zzz』
次の日、少し早めに家を出た。
もちろん、神樹館小学校の卒業生の聞き込みのためだ。
「おはよう」
そう言って中に入ると、まばらにだが教室に同級生がいる。
「ねえ、ちょっといい?いま勇者部で『カワイイ制服ランキング』を作ってるんだけど、神樹館小学校の卒業生だったりしない?それか、知り合いにいないかしら?」
手当たり次第に声をかけてみるが、反応は芳しくない。
私は今月この学校に来たばかりの転校生だから、クラスメイトの出身は、全然想像がつかない。
そもそも神樹館小学校といえば、かなりのお嬢様校。そこから公立の讃州中学に進学するというのは、よっぽどのことだろう。
そうこうしているうちに、友奈と東郷が登校してきた。
…これ以上は難しいわね、一旦諦めましょう。
つまらない授業を終えて、ようやく放課後。
友奈と東郷に声をかけて、部室に向かう。
「お、来たわね。今日は2つ、依頼が来てるわ」
「お!どんなのですか?」
「デート用のヘアアレンジの依頼*1と、漫研の依頼。1つ目は、髪の長さが東郷くらいらしいから、協力してもらえる?」
「もちろんです。」
「ありがと!じゃあ早速。ブラシと髪留め、その他ヘアピン、ヘアゴムは用意してるわ!悪いけどいくつか試して、写真撮らせてもらうわよ。」
そう言って三つ編み、編み込み、サイドテール…女子中学生が5人も集まれば色んな案が出る。
無邪気に友奈が色々試しては撮影している。
場が暖まったころに、本命のスタイルを提案する。つまり、写真の『鷲尾須美』のヘアスタイル。
セッティングは、風が買って出てくれた。
「わぁ、東郷さん、これも良く似合ってる!」
「ふふ、ありがとう、友奈ちゃん」
「じゃあ撮るわね〜」
果たして撮れた写真は、同一人物説を後押しする1枚となったのである。
(でも、友奈も東郷も特に反応なし…か。)
少なくとも、友奈に出会ってからは、このスタイルにはしていないようだ。
情報としては弱い。でも、判断材料にはなる。
続けて次の案。
「次は漫研の依頼。描いてるキャラクターに似合う眼鏡を考えて欲しい、らしいわ。」
「めがね?」
「幸い、アタシと樹以外は、それぞれ目の色が違うでしょ?その人の色に、どんな眼鏡が似合うか、考えて、まとめるだけの簡単なお仕事よ。」
「はいはーい!東郷さんは、目の色がキレイなので、フレームが無い細身のやつがいいと思いまーす!」
「なるほど!『先生』ってカンジ?やだ、こんな色っぽい先生、個別指導してもらいたくなっちゃう!」
そんな軽口の間を縫うように、樹が本命の話題を紛れ込ませる。
「でも、東郷先輩の目の色、本当に綺麗ですよね。私とお姉ちゃんも、少し緑掛かってますけど、そんなに鮮やかな色じゃないです。」
「そう?ありがとう、樹ちゃん。でも、私は樹ちゃんの優しい緑も、友奈ちゃんの強さを感じる赤も好きよ。」
「そう言ってもらえると、うれしいです。東郷先輩のご両親も、同じ色をされてるんですか?」
「うーん、そうねぇ。母が、私に近いかな。でも確かに、他のご家庭ではあまり見かけない色かしれないわね。」
結論から言えば、東郷の母親方の血筋なら、ありえないことはない、か。
確定的な情報を見つけ出せないまま、放課後は過ぎて行く。
「ねえ、風先輩、夏凜ちゃん、私達に
だから、東郷がいきなりそんなことを言い出した時は、心臓が飛び出るかと思った。
『鷲尾須美』について探っていることを勘づかれた?今返事するのはまずい。
挙動不審になっている自信がある。
助けを求めて頼れる部長様の方を見ると…目が高速で泳いでいる。
もう…ダメか、と思ったところで、声が響いた。
「東郷先輩、友奈さん、ごめんなさい。ちょっと、秘密の依頼をしてたんです。」
樹?いきなり何を言い出すの⁉︎
「昨日『みきお』で、お客さんが話してたんです。娘さんが小学校に上がるらしくて、カワイイ制服のところないかな、って。」
「その関係で、神樹館小学校の制服の写真が撮れないか、それぞれのクラスメイトに聞いてたんです。正式に依頼を受けたわけじゃないから、その場で聞いた3人で対応してたんですよ。」
「なんだ、そんなことならはじめに相談してくれれば良かったのに。手伝いましょうか?」
「ううん、大丈夫です。さっきも言いましたが、依頼されてるわけではないので、写真が手に入らないならあきらめようと思ってたところですから…ね?」
そう言って目線で合図をくれた樹が、救いの女神に見えた。
このファインプレーのおかげで、ピンチをなんとか乗り切ったのである。
今日の部活も終わり、夕焼けの橙に染まった校門を出て、家の方向へ。
私も皆の後ろをついていきながら、『鷲尾須美』の写真と東郷を、見比べる。
私、風、樹の中で、疑惑は確信になりつつある。
だけど、確定的な情報が得られなかったことに、落胆の色がにじみ出た。
「夏凜ちゃーん、何見てるの?」
前で東郷の車椅子を押していたはずの友奈が、いつの間にか後ろにいた。
慌てて前を見れば、いつの間にか樹に交代している。
「靴ひもがほどけちゃったから、ちょっとの間交代してもらってたんだ。それより、何の写真?見せて見せて!」
「あっ…!」
驚きで動きを止めた瞬間に、手元のスマホをのぞき込まれた。
「あれ?東郷さんの写真?でも、これって私が会うより少し前かな!ほら、お気に入りのリボン、してないもん。」
一目で同一人物だと断定して、時期と違いを見破った。
「ん~?こっちの子がしてるのが、今東郷さんがつけてるリボンかなぁ。どうしてそんな写真、夏凜ちゃんが持ってるの? ………
完全にバレた。
こういうときの友奈の勘の良さを恨めしく思う。
東郷に聞こえないように、少し声を落として、手短に説明する。
「そう、これは店長が残してたの。正真正銘、『鷲尾須美』さんの写真よ。」
「そんな…じゃあ、やっぱり!」
「私と風、樹も…多分同一人物だと思ってる。正直、今のアンタの一言で、
「…実はね、東郷さん、小学校数年間の記憶が、あいまいだって、聞いたことがあるの。その…足の、事故のせいだって…」
「友奈、私は近いうちに、このことを東郷に伝えたいと思ってる。」
「…っ! …私も、東郷さんの空白を埋めてあげたい。…けど、『怖い』って言ってたの…過去を知るのが。今が幸せだから、変わるのが怖いって!」
「……できれば、本人の意志は尊重してあげたいけど、もし同一人物だとすれば…東郷の足や記憶は、バーテックスの攻撃によるものかもしれない。」
「でも!私たちは牛鬼たちが守ってくれて!」
「実際に、東郷はケガをしてる。精霊のバリアが通用しない敵がいるのかもしれない。」
「ただの興味本位や、店長に『鷲尾さん』のことを教えてあげたいだけでは、ないの。」
友奈はそれに反論できない。
「だから、友奈、東郷に『覚悟』をさせてあげて。無責任に聞こえるかもしれないけど、私では、それはできないの。」
「東郷の『心』を、少しでも守ってあげて。」
ああ、私はやっぱり『大赦の勇者』なんだと自己嫌悪と後悔が押し寄せる。
こんなにも、無責任に、酷いことを仲間に押し付けるのだから。
「…気持ちを落ち着けたら、東郷さんのところに戻るね。夏凜ちゃん、『みきお』に行く日が決まったら、すぐに教えて。」
そんな私を見透かすように、こちらを見つめ返す友奈の目は。
まさしく東郷が言った「強さを感じる赤」だった。
実は結構この話で悩んだのが、「東郷さんは神樹館小学校の制服を持っているか」でした。
事故以前の記憶があいまいといっても、鷲尾家の養子になってから、銀ちゃん園子に出会うまでの記憶も全部消えてんのかなあ?というところ。
一度は、「神樹館小学校の制服なら家にある」が物証になる展開を考えたんですが、ボツにしました。
それでよかったと思ってます。