愚者は惑えど勇者は懼れず   作:佐々木剣蔵

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1話3000字前後と思っているのに、重要なシーンだと妥当な切れ目がなくて、長くなってしまいます。

7/27 精霊のくだりが設定と矛盾するため、変更しました。


第六幕

■Chap.7 -秘密(オトギリソウの花言葉)

 

 

カウンターに移動し、結城さん、東郷さん用の飲み物と、目を冷やすおしぼりを用意しながら、尋ねる。

 

「さて、今から聞くことは、ほぼ確実に大赦の機密に関わることだろうから、YesかNoかで答えられるように聞く。」

「俺が知ってる鷲尾さんと、東郷さんで明確な違いがある。当然わかると思うが、彼女の足のことだ。」

「…君たちが務めている『御役目』というのは、半身不随になる可能性があるほど、危険なものなのか?」

 

「っ!…………」

 

「この場合の沈黙は肯定と取る。」

 

「………………」

 

樹ちゃんは戸惑うように部長さんと夏凜に視線を送るが、誰も答えない。答えられない。

 

「では、次の質問だ。君らはその『御役目』を今すぐ辞められるか?」

 

「…………いいえ、それはできません。」

 

これには、部長さんが答えた。

 

「『今すぐ』でなければどうだ?」

 

「…自分の意志ではやめられません。ただ、御役目の終わりは…あります。」

 

 

「わかった。最後にもう一つ。危険を遠ざける策は、講じられているか?」

 

「これは、YES…ね。おそらく、()()()()()()2年前より……っ!!!!!!!!」

 

心配をかけまいと必死な夏凜にとって、この質問は答えやすかったのだろうが…一言、口を滑らせた。

 

「『()()()』…ね。俺が想像していた以上に、ヤバそうだ。あぁ、夏凜、また『この世の終わり』みたいな顔になってるぞ。大丈夫だ、俺が何を言いふらしたところで、誰も信じやしない。」

「それに、君らのためにも、言いふらすつもりもない。」

 

そのまま、言葉を続ける。

 

「だが、俺は『男』で『大人』なんだ。関わりのある『女性』の『こどもたち』が危険だというなら、守るべき立場だというのは、分かってもらえるだろう?詳しく、話を聞かせてほしい。ここは、絶対に譲らない。」

 

たっぷり30秒、沈黙が続いた。それでも、俺は3人から視線を外さなかった。

 

「わかった…これは、口を滑らせた私の責任。私が話す。」

 

「「夏凜(さん)!」」

 

 

夏凜が、観念した。

 

「よし。そろそろ東郷さんも落ち着いただろう。これを渡してくる。」

 

3人をカウンターに残して、用意していたドリンクとおしぼりを届けに行く。

隣を通りすぎるとき、夏凜が服の端を掴んだ。

 

「正直に話すけど、絶対に『()()』話せないことがある…の。これは…後にして…

 

「…わかった。まずは話せる範囲で、お願いしよう。」

 

 

そうして、残してきた2人のところに向かうと、東郷さんは泣き止んではいたものの、憔悴していてとても話ができそうにはなかった。

少なくとも今日は、この2人を帰らせた方が良いと判断し、おしぼりとドリンクだけ渡して、タクシーを呼ぶ。

 

「今日は泣いてしまったり、タクシーのお金のことも…、本当にすみません。」

 

「いや、俺の身勝手で、東郷さんのデリケートな部分に踏み込んだんだ。次の機会には改めて、謝らせてほしい。結城さん、すまないが、東郷さんのことを頼む。」

 

「…任せてください。」

 

「君も、俺に言いたいことはたくさんあるだろう。改めて、クレームは受けるよ。それも、店長の、大人の責任だからね。」

 

「いえ、むしろ…ありがとうございました。東郷さんは、店長さんのことばで傷ついたんじゃありません。悲しみに繋がるかもしれないけど、東郷さんが失くしたものをひとつ、見つけてくれたんです。」

「だから、本当に…ありがとうございます。」

 

「…君たちはとても良い友人なんだね。」

 

「はい。最高の親友です。」

 


 

「――さて、待たせしてしまってすまない。夏凜、頼む。」

 

「ええ、こっちも覚悟を決めたわ。」

 

そうして語られたのは、まるで俺に説明するために、夏凜が即興で作り上げた架空の物語のような内容だった。

いきなりのことで整理がついていないこともあるのだろう、説明が足りない部分は、犬吠埼姉妹が、たどたどしくも、補足してくれた。

 

「…簡単に言えば、バーテックスとかいうエイリアンと、時間の止まった世界の中で、神樹様の力を借りて戦っている。」

 

「ええ。」

 

「さらに言えば、その力を借りれるのは、選ばれた少女だけで、俺が戦うのはもちろん、止まった時の中で動くことすらできない。」

 

「そうね。」

 

「神樹様の力は『勇者』に変身して戦う力を得ることと、『精霊』という身を守ってくれる力の2系統。」

 

「ええ。『精霊』は…店長には見えないと思うけど、私のすぐ隣にいるわ。」

「勇者全員に、それぞれ『精霊』が付いていて、身を護ってくれてる。」

 

『ショギョームジョー』

 

 

「正直、戸惑ってはいるが、俺は実際に人が消える瞬間に2度も立ち会ってるし、東郷さんが普通じゃない怪我をしたことも理解してる。それに、ここまで来て夏凜が嘘を吐く性格だとも思ってない。…信じるよ。」

 

「店長…ありがとう、信じてくれて。…じゃあ、わかったでしょ?」

「店長にはどうしようもないってこと。」

「私たちが無事、御役目を終えられるように、大赦も協力してくれてること。」

「……私たちからは、『無事を祈ってて』としか、言えないこと。」

 

「1つ目の意見には、同意するしかない。しかし、2つ目と3つ目の意見には、言いたいことがある。」

 

「え…?」

 

「まず、2つ目の方から話すか。協力してくれてることは、確かだろう。でも、冷静に考えてくれ。どうして『御役目』を終えたはずの東郷さんが、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……ッ!!!!!!!」

 

「東郷さん、いや2年前の鷲尾さんが御役目を終えた理由はわからない。無事十二体の敵を全部退けたのかもしれないし、足の負傷が原因の戦闘不能(リタイア)かもしれない。少なくとも2年前に世界は滅びてないわけだから、退けたんだろう。」

「ただ、『3人で無事に御役目を終えた後に事故でケガをし、記憶を失った』と言われても信じられないのは、わかるな?」

 

「ええ。」

声にしたのは夏凜だけだったが、犬吠埼姉妹もしっかりとうなずいている。

 

「『乃木園子』と『三ノ輪銀』が居なくて、なぜか記憶を失った『鷲尾須美』だけが、大赦の話にはない2周目の戦いに参加している。」

「この事実だけでも、大赦が何かを隠しているのは間違いない。だから、今俺が言えるのは、『勇者部の仲間以外を信じすぎるな』『自分の身を精一杯守れ』の2つだけだ。」

 

「「「…はい!」」」

 

「いい返事だ。じゃあ、次が、今日最後の話かな。3つ目の方だ。夏凜、部長さん、樹ちゃん。もちろんこの場にいない結城さんと東郷さんもだから、よく聞いて欲しい。」

「君たちは『()()()()()()』と、言って良い。」

「『()()』とも『()()()()』とも言って良い。俺は、わずかなことしかできないかもしれないが、君らの力になりたい。」

 

「店長…」

 

「どうか、俺には『どうせ何もできないから』『無力さで傷つけるだけだから』と、君たちだけで抱え込まないでくれ。」

 

「………勇者部五ケ条、ひとつ…」

 

部長さんが、ぽつりとつぶやいて、樹ちゃんと目を見合わせた。

 

「勇者部には、皆で決めた五つの約束があるんです。その中のひとつが、『悩んだら、相談』。…店長さんも、アタシたちの相談を…受けてくれますか?」

 

「任せなさい。では、たった今から、俺こと佐藤幹夫は、勇者部特別顧問で、ここ『喫茶 みきお』は讃州中学勇者部の有明浜出張所だ。」

 

「ありがとうっ…ございます!」

 

こうして、何もできない俺の『御役目』が、定まった。

 

 


 

 

「今日は、友奈や東郷のこともですけど、ありがとうございました。…少し、気が楽になりました。」

 

「ああ、気をつけて帰るんだぞ。」

 

「じゃあ、一旦私も家に戻るわ。」

 

「店長さん、遅くまでお邪魔しました。夏凜さん、また明日、学校で。」

 

 

 

 

そうして別れて15分もしないうちに…夏凜が戻ってきた。

 

「おいおい、忘れ物か?もう暗くなるぞ。」

 

「『一旦』戻るって言ったでしょ。それに、『後回し』にした話、今しないといけないの。」

 

「…ってことは、『今は』の理由は東郷さんに聞かせたくない、だけじゃなかったのか。」

 

「正確には、『勇者部の()()()聞かせられない』話。できれば、店長にも…ううん、店長には()()()()()()()()()()()。」

 

「…『三ノ輪さん』か。」

 

「⁉︎ どうして⁉︎」

 

「この店で、初めて夏凜に三人組のことを尋ねた時、『三ノ輪さん』の名前が出た瞬間、完全に『訳アリです』って反応をしたんだが、覚えてないか?」

「機密で言えないだけなら、あんな顔はしない。…今日の話を聞いて、ある程度、理由は想像できた。…だから、言ってくれ。」

 

 

「店長……私の、私のね、勇者システムは…、三ノ輪さんが使っていたものを、引き継いでる。」

「私は、会ったこと、ないんだけど、彼女の…結末を、知ってる………。」

 

 

「夏凜、お前は悪くない。…俺に引け目なんて…感じるんじゃない。だから、泣かなくていい。

 

「私は、泣いてないわ…今、店長の目がぼやけてるのは…」

 

バカか…っ。大人のッ…!男は、泣かないんだ。だから、これは、お前が、泣いてるんだ。

 

「そうね…だったら、私が泣き止むまで、少し待って。」

 

 

 

 

「…すまなかった。そして、ありがとう。」

 

「どういたしまして。特に何もなければ、今度こそ帰るわ。」

 

「2つ、話がある。家まで送ってやるから、今聞いてくれ。」

 

「私、店長より強いからそれは要らないわ。それより、さっさと聞かせて。」

 

「…わかった。1つ目は、俺についてだ。夏凜は『大赦の勇者』だと言っていたが、秘密を知った俺のことを、報告するつもりか?」

 

「正直、悩んでるわ。昨日までの私なら、迷いなく報告したけど、今日の店長の『信じすぎるな』って話、理解したつもりだもの。」

 

「悩むくらいなら、報告しないほうがいい。」

 

「それは、保身のため…じゃないわよね?」

 

「ああ、これは『最悪の場合』だが…東郷さんの記憶が、()()()()()()()()って可能性、あると思うか?」

 

「なっ…いくらなんでも、それは!」

 

「2年前、鷲尾さんが、敵の攻撃で負傷して、心的外傷(トラウマ)戦闘不能(リタイア)したする。…大赦がなんらかの方法で、そのままでは戦えない東郷さんの記憶を消して、再び戦わせる…いわば『勇者の()()()』。」

 

「………」

 

「ないと、言い切れるか?」

 

「私は大赦がそこまで人の心を失ってるとは思いたくないけど、確かにメリットはあるし、絶対ないとはいえないわね。道具だけを見れば、私も三ノ輪さんの再利用…って涙目にならないで!」

 

「大人の男…「それはもういい!」

「…グズン」

 

 

 

「つまり、『大赦に都合が悪いことを報告すると記憶を消されかねない』ってわけね。」

 

「…あくまで可能性だが、その通りだ。」

 

「わかった。少なくとも今日私は、自分の意思でこの内容を大赦に報告しない。」

 

「よし。じゃあ、2つ目だ。『三ノ輪さん』については……………わかった。では『乃木さん』については、どうだ?」

 

「乃木…か。乃木家が、大赦でも特に力のある家系ってことは知ってる。でも、先代勇者とは誰も…。」

 

「ああ、そうじゃない。俺が聞きたいのは『乃木園子の端末』が再利用されて、今の勇者が使ってたりするのか?ってことだ。」

 

「それは大丈夫。私以外にも『勇者になる』ために訓練してた子は多くいたけど、その中で選ばれたのは私一人。もし、『乃木さん』が戦えないなら、もう一人、選ばれてるはず。」

「会える可能性は、十分残ってるわ。」

 

 

「なるほど。悪くても、東郷さんのように『復帰できる見込みがある』状態か。」

「なら、『乃木さん』に連絡が取れないだろうか。」

 

「大赦を通して面会を、という意味なら、難しいと思う。さっきも言ったけど、私は勇者の訓練をしていたけど、先代の誰とも会ってない。」

「普通なら、先駆者の手ほどきがあってもおかしくないはずよね。」

 

「そうだな。『乃木家』が名家だというなら、家の連絡先自体は調べられそうだが。」

 

「うーん…なんとも言えないわね。その『乃木さん』って、どんな子だったの?」

 

「そうだな…本人に伝わるなら、明日東郷さんが『鷲尾です、久しぶりに遊びませんか?』って電話すれば、飛んできそうな感じの子だ。」

 

「…冗談にしても笑えないわよ。乃木家の電話番が取り次いでくれるとも思えないけど。」

 

「…ひとつだけ、可能性は薄いが、直接連絡できるかもしれない手段を、今日思い出したんだ。」

 

「え⁉︎ ならそれを先に言いなさいよ!」

 

 

「…夏凜、お前ネット小説に詳しいか?」

 

「はぁ⁉︎」

 


 

大手ネット小説の投稿サイト「小説を書こう」。

その中に、『乃木園子』が書いていた小説が、残っているはずだ。

 

俺はあまり詳しくないが、大体こういうサイトには、ファンレターや感想を書く機能があるはず。

それを使えば、『乃木園子』と直接連絡出来るかもしれない。

 

東郷さんは記憶が消えているが、本人の気質は鷲尾さんの時と変わっていない。

ならば、仮に『乃木園子』が同じ状況だったとしても、この趣味を続けている可能性は十分に考えられた。

 

問題は、俺が当時教えてもらった彼女のペンネームを、完全に忘れてしまっていること。

そして、知っている作品内容が「俺をモデルにしたダメサラリーマンが美女に恋して努力するラブストーリー」だけだということ。

 

まず、俺はその作品を『読みたくない』。

自分がモデルの恋愛小説とか、おぞましいとすら思う。

 

次に、できれば知り合いに『読まれたくない』。

気の知れた夏凜ですら言い出すのにかなり勇気が要った。

 

 

1時間前に偉そうなことを言ったが、他の勇者部員にはとても相談できそうになかった。




やっぱりにぼっしーは気遣いができる子なんやなって。
店長が泣いてる(爆)時の台詞回しとかスッゴイ悩みました。


「東郷さんの記憶が大赦に消されてる説」の提唱、これも、この作品の構想段階からあったものです。
大赦って悪いやつだなー。

この作品では大赦の出番はほぼありません。
だって主人公消されかねないんで。
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