7/27 精霊のくだりが設定と矛盾するため、変更しました。
■Chap.7 -秘密(オトギリソウの花言葉)
カウンターに移動し、結城さん、東郷さん用の飲み物と、目を冷やすおしぼりを用意しながら、尋ねる。
「さて、今から聞くことは、ほぼ確実に大赦の機密に関わることだろうから、YesかNoかで答えられるように聞く。」
「俺が知ってる鷲尾さんと、東郷さんで明確な違いがある。当然わかると思うが、彼女の足のことだ。」
「…君たちが務めている『御役目』というのは、半身不随になる可能性があるほど、危険なものなのか?」
「っ!…………」
「この場合の沈黙は肯定と取る。」
「………………」
樹ちゃんは戸惑うように部長さんと夏凜に視線を送るが、誰も答えない。答えられない。
「では、次の質問だ。君らはその『御役目』を今すぐ辞められるか?」
「…………いいえ、それはできません。」
これには、部長さんが答えた。
「『今すぐ』でなければどうだ?」
「…自分の意志ではやめられません。ただ、御役目の終わりは…あります。」
「わかった。最後にもう一つ。危険を遠ざける策は、講じられているか?」
「これは、YES…ね。おそらく、
心配をかけまいと必死な夏凜にとって、この質問は答えやすかったのだろうが…一言、口を滑らせた。
「『
「それに、君らのためにも、言いふらすつもりもない。」
そのまま、言葉を続ける。
「だが、俺は『男』で『大人』なんだ。関わりのある『女性』の『こどもたち』が危険だというなら、守るべき立場だというのは、分かってもらえるだろう?詳しく、話を聞かせてほしい。ここは、絶対に譲らない。」
たっぷり30秒、沈黙が続いた。それでも、俺は3人から視線を外さなかった。
「わかった…これは、口を滑らせた私の責任。私が話す。」
「「夏凜(さん)!」」
夏凜が、観念した。
「よし。そろそろ東郷さんも落ち着いただろう。これを渡してくる。」
3人をカウンターに残して、用意していたドリンクとおしぼりを届けに行く。
隣を通りすぎるとき、夏凜が服の端を掴んだ。
「正直に話すけど、絶対に『
「…わかった。まずは話せる範囲で、お願いしよう。」
そうして、残してきた2人のところに向かうと、東郷さんは泣き止んではいたものの、憔悴していてとても話ができそうにはなかった。
少なくとも今日は、この2人を帰らせた方が良いと判断し、おしぼりとドリンクだけ渡して、タクシーを呼ぶ。
「今日は泣いてしまったり、タクシーのお金のことも…、本当にすみません。」
「いや、俺の身勝手で、東郷さんのデリケートな部分に踏み込んだんだ。次の機会には改めて、謝らせてほしい。結城さん、すまないが、東郷さんのことを頼む。」
「…任せてください。」
「君も、俺に言いたいことはたくさんあるだろう。改めて、クレームは受けるよ。それも、店長の、大人の責任だからね。」
「いえ、むしろ…ありがとうございました。東郷さんは、店長さんのことばで傷ついたんじゃありません。悲しみに繋がるかもしれないけど、東郷さんが失くしたものをひとつ、見つけてくれたんです。」
「だから、本当に…ありがとうございます。」
「…君たちはとても良い友人なんだね。」
「はい。最高の親友です。」
「――さて、待たせしてしまってすまない。夏凜、頼む。」
「ええ、こっちも覚悟を決めたわ。」
そうして語られたのは、まるで俺に説明するために、夏凜が即興で作り上げた架空の物語のような内容だった。
いきなりのことで整理がついていないこともあるのだろう、説明が足りない部分は、犬吠埼姉妹が、たどたどしくも、補足してくれた。
「…簡単に言えば、バーテックスとかいうエイリアンと、時間の止まった世界の中で、神樹様の力を借りて戦っている。」
「ええ。」
「さらに言えば、その力を借りれるのは、選ばれた少女だけで、俺が戦うのはもちろん、止まった時の中で動くことすらできない。」
「そうね。」
「神樹様の力は『勇者』に変身して戦う力を得ることと、『精霊』という身を守ってくれる力の2系統。」
「ええ。『精霊』は…店長には見えないと思うけど、私のすぐ隣にいるわ。」
「勇者全員に、それぞれ『精霊』が付いていて、身を護ってくれてる。」
『ショギョームジョー』
「正直、戸惑ってはいるが、俺は実際に人が消える瞬間に2度も立ち会ってるし、東郷さんが普通じゃない怪我をしたことも理解してる。それに、ここまで来て夏凜が嘘を吐く性格だとも思ってない。…信じるよ。」
「店長…ありがとう、信じてくれて。…じゃあ、わかったでしょ?」
「店長にはどうしようもないってこと。」
「私たちが無事、御役目を終えられるように、大赦も協力してくれてること。」
「……私たちからは、『無事を祈ってて』としか、言えないこと。」
「1つ目の意見には、同意するしかない。しかし、2つ目と3つ目の意見には、言いたいことがある。」
「え…?」
「まず、2つ目の方から話すか。協力してくれてることは、確かだろう。でも、冷静に考えてくれ。どうして『御役目』を終えたはずの東郷さんが、
「……ッ!!!!!!!」
「東郷さん、いや2年前の鷲尾さんが御役目を終えた理由はわからない。無事十二体の敵を全部退けたのかもしれないし、足の負傷が原因の
「ただ、『3人で無事に御役目を終えた後に事故でケガをし、記憶を失った』と言われても信じられないのは、わかるな?」
「ええ。」
声にしたのは夏凜だけだったが、犬吠埼姉妹もしっかりとうなずいている。
「『乃木園子』と『三ノ輪銀』が居なくて、なぜか記憶を失った『鷲尾須美』だけが、大赦の話にはない2周目の戦いに参加している。」
「この事実だけでも、大赦が何かを隠しているのは間違いない。だから、今俺が言えるのは、『勇者部の仲間以外を信じすぎるな』『自分の身を精一杯守れ』の2つだけだ。」
「「「…はい!」」」
「いい返事だ。じゃあ、次が、今日最後の話かな。3つ目の方だ。夏凜、部長さん、樹ちゃん。もちろんこの場にいない結城さんと東郷さんもだから、よく聞いて欲しい。」
「君たちは『
「『
「店長…」
「どうか、俺には『どうせ何もできないから』『無力さで傷つけるだけだから』と、君たちだけで抱え込まないでくれ。」
「………勇者部五ケ条、ひとつ…」
部長さんが、ぽつりとつぶやいて、樹ちゃんと目を見合わせた。
「勇者部には、皆で決めた五つの約束があるんです。その中のひとつが、『悩んだら、相談』。…店長さんも、アタシたちの相談を…受けてくれますか?」
「任せなさい。では、たった今から、俺こと佐藤幹夫は、勇者部特別顧問で、ここ『喫茶 みきお』は讃州中学勇者部の有明浜出張所だ。」
「ありがとうっ…ございます!」
こうして、何もできない俺の『御役目』が、定まった。
「今日は、友奈や東郷のこともですけど、ありがとうございました。…少し、気が楽になりました。」
「ああ、気をつけて帰るんだぞ。」
「じゃあ、一旦私も家に戻るわ。」
「店長さん、遅くまでお邪魔しました。夏凜さん、また明日、学校で。」
そうして別れて15分もしないうちに…夏凜が戻ってきた。
「おいおい、忘れ物か?もう暗くなるぞ。」
「『一旦』戻るって言ったでしょ。それに、『後回し』にした話、今しないといけないの。」
「…ってことは、『今は』の理由は東郷さんに聞かせたくない、だけじゃなかったのか。」
「正確には、『勇者部の
「…『三ノ輪さん』か。」
「⁉︎ どうして⁉︎」
「この店で、初めて夏凜に三人組のことを尋ねた時、『三ノ輪さん』の名前が出た瞬間、完全に『訳アリです』って反応をしたんだが、覚えてないか?」
「機密で言えないだけなら、あんな顔はしない。…今日の話を聞いて、ある程度、理由は想像できた。…だから、言ってくれ。」
「店長……私の、私のね、勇者システムは…、三ノ輪さんが使っていたものを、引き継いでる。」
「私は、会ったこと、ないんだけど、彼女の…結末を、知ってる………。」
「夏凜、お前は悪くない。…俺に引け目なんて…感じるんじゃない。だから、泣かなくていい。」
「私は、泣いてないわ…今、店長の目がぼやけてるのは…」
「バカか…っ。大人のッ…!男は、泣かないんだ。だから、これは、お前が、泣いてるんだ。」
「そうね…だったら、私が泣き止むまで、少し待って。」
「…すまなかった。そして、ありがとう。」
「どういたしまして。特に何もなければ、今度こそ帰るわ。」
「2つ、話がある。家まで送ってやるから、今聞いてくれ。」
「私、店長より強いからそれは要らないわ。それより、さっさと聞かせて。」
「…わかった。1つ目は、俺についてだ。夏凜は『大赦の勇者』だと言っていたが、秘密を知った俺のことを、報告するつもりか?」
「正直、悩んでるわ。昨日までの私なら、迷いなく報告したけど、今日の店長の『信じすぎるな』って話、理解したつもりだもの。」
「悩むくらいなら、報告しないほうがいい。」
「それは、保身のため…じゃないわよね?」
「ああ、これは『最悪の場合』だが…東郷さんの記憶が、
「なっ…いくらなんでも、それは!」
「2年前、鷲尾さんが、敵の攻撃で負傷して、
「………」
「ないと、言い切れるか?」
「私は大赦がそこまで人の心を失ってるとは思いたくないけど、確かにメリットはあるし、絶対ないとはいえないわね。道具だけを見れば、私も三ノ輪さんの再利用…って涙目にならないで!」
「大人の男…「それはもういい!」」
「…グズン」
「つまり、『大赦に都合が悪いことを報告すると記憶を消されかねない』ってわけね。」
「…あくまで可能性だが、その通りだ。」
「わかった。少なくとも今日私は、自分の意思でこの内容を大赦に報告しない。」
「よし。じゃあ、2つ目だ。『三ノ輪さん』については……………わかった。では『乃木さん』については、どうだ?」
「乃木…か。乃木家が、大赦でも特に力のある家系ってことは知ってる。でも、先代勇者とは誰も…。」
「ああ、そうじゃない。俺が聞きたいのは『乃木園子の端末』が再利用されて、今の勇者が使ってたりするのか?ってことだ。」
「それは大丈夫。私以外にも『勇者になる』ために訓練してた子は多くいたけど、その中で選ばれたのは私一人。もし、『乃木さん』が戦えないなら、もう一人、選ばれてるはず。」
「会える可能性は、十分残ってるわ。」
「なるほど。悪くても、東郷さんのように『復帰できる見込みがある』状態か。」
「なら、『乃木さん』に連絡が取れないだろうか。」
「大赦を通して面会を、という意味なら、難しいと思う。さっきも言ったけど、私は勇者の訓練をしていたけど、先代の誰とも会ってない。」
「普通なら、先駆者の手ほどきがあってもおかしくないはずよね。」
「そうだな。『乃木家』が名家だというなら、家の連絡先自体は調べられそうだが。」
「うーん…なんとも言えないわね。その『乃木さん』って、どんな子だったの?」
「そうだな…本人に伝わるなら、明日東郷さんが『鷲尾です、久しぶりに遊びませんか?』って電話すれば、飛んできそうな感じの子だ。」
「…冗談にしても笑えないわよ。乃木家の電話番が取り次いでくれるとも思えないけど。」
「…ひとつだけ、可能性は薄いが、直接連絡できるかもしれない手段を、今日思い出したんだ。」
「え⁉︎ ならそれを先に言いなさいよ!」
「…夏凜、お前ネット小説に詳しいか?」
「はぁ⁉︎」
大手ネット小説の投稿サイト「小説を書こう」。
その中に、『乃木園子』が書いていた小説が、残っているはずだ。
俺はあまり詳しくないが、大体こういうサイトには、ファンレターや感想を書く機能があるはず。
それを使えば、『乃木園子』と直接連絡出来るかもしれない。
東郷さんは記憶が消えているが、本人の気質は鷲尾さんの時と変わっていない。
ならば、仮に『乃木園子』が同じ状況だったとしても、この趣味を続けている可能性は十分に考えられた。
問題は、俺が当時教えてもらった彼女のペンネームを、完全に忘れてしまっていること。
そして、知っている作品内容が「俺をモデルにしたダメサラリーマンが美女に恋して努力するラブストーリー」だけだということ。
まず、俺はその作品を『読みたくない』。
自分がモデルの恋愛小説とか、おぞましいとすら思う。
次に、できれば知り合いに『読まれたくない』。
気の知れた夏凜ですら言い出すのにかなり勇気が要った。
1時間前に偉そうなことを言ったが、他の勇者部員にはとても相談できそうになかった。
やっぱりにぼっしーは気遣いができる子なんやなって。
店長が泣いてる(爆)時の台詞回しとかスッゴイ悩みました。
「東郷さんの記憶が大赦に消されてる説」の提唱、これも、この作品の構想段階からあったものです。
大赦って悪いやつだなー。
この作品では大赦の出番はほぼありません。
だって主人公消されかねないんで。