■Chap.8 -詩情(ノバラの花言葉) 語り部:三好夏凜
「ああ、もう!そんな作品分かるわけないじゃない!」
自宅に戻ってきたものの、スマホをベッドに投げ出して、仰向けに寝転ぶ。
『乃木園子』の作品について調べていたが、あらすじですらない、「作品のテーマ」だけでタイトルが分かるはずない。
効果的な検索の仕方といった知識は、東郷が強いのだが、少なくとも今日連絡を取るべきじゃないと分かっている。
くだらなくて、さっさと片付けてしまいたいのに、自分の力ではどうにもならないもどかしさ。
誰でもいいから、小説に詳しい人、いないかな。
…
ベッドから体を起こし、検索したのは「知恵袋」というサービス。
質問を書きこむと、ネット上の『誰か』が答えを書き込んでくれる。
【にぼしのサプリ】
内容は、ダメなサラリーマンが美女に恋して努力するような話です。確か、5月か、6月くらいから連載していたと思います。
読んだことある人、いませんか?
あとは野となれ山となれ。
とりあえず、1時間ほど様子を見ようと、ランニングマシーンで体を動かす。
シャワーまで浴びて、さっぱりしたところで返事が来ていないか確認する。
予想に反して、すでに10件ほどの回答があった。
一つずつ、回答を読んで、検索したり、リンクを確認して行く。
その中でも特に1件、気になるものがあった。
【嵐が丘中学*1】
著者は超大作「スペース・サンチョ」を執筆された偉大な先生です。
ただ、先生はその年の10月、体調を崩されたという活動報告を最後に、更新が止まっています。
私は今でも、先生の復活を願っています。
回答をもらった作品は、どれも私が質問した内容に沿っているし投稿時期も外れてはいなかった。
しかしその中でも、この作者だけ「活動休止している」というのが、とても気になった。
とりあえず、この方を「ベストアンサー」に指定して、流し読みしてみたものの…店長なのか、微妙に分からない。
店長だとすれば美化されすぎていると感じたし、そうでないにしては台詞などの雰囲気が似ている気がする。
結局のところ、私にはお手上げなのだった。
次の日、勇者部に顔を出すか、迷った。
すぐにでも作者のことを店長に知らせた方が良いように思ったが、昨日、私・風・樹と店長で話したことは早急に、その場にいなかった東郷と友奈にも共有すべきだ。
ただ、東郷の様子が気になる。いつもに比べてぼんやりしているようだし、休み時間はいつもより友奈が構っていたから、まだショックが残っているのだろう。
友奈は、こういう人の心の機微に敏感だ。
まだ、店長との距離が近い私が話しかけるのは、避けた方が良い気がした。
風にでも連絡を入れて『みきお』に行こうかと思ったところで、友奈に声をかけられた。
「おーい、夏凜ちゃん!部活行こう!」
さっき思った「心の機微」云々は取り消すべきだろうか。
ともあれ、友奈、東郷と一緒に、部室に向かうのだった。
部室に着くと、風と樹はすでに来ていた。
これで全員集合だ。
さて、昨日の店長の話をしようにも、東郷への影響が心配だ。どうしたものかと考え、頼れる部長様に小声で聞く。
「昨日の話、切り出しなさいよ、部長でしょ?」
「ちょ、待ってよ。東郷の様子みたら、分かるでしょ?今日その話はできないわよ。早い方が良いと思うなら、夏凜が話せば良いじゃない。」
そんなやりとりをしていれば、意外な声が遮った。
「お姉ちゃん、夏凜さん、そんなこと、言い合ってる場合じゃないです。」
「東郷先輩、友奈さん、つらいかも知れませんが、昨日、あの後あったことを、話しても良いですか?ううん、
「「樹…」」
「樹ちゃん、ありがとう、気を遣ってもらって。友奈ちゃんも、昨日からずっと、励ましてくれてありがとう。風先輩、夏凜ちゃんも、ご迷惑をおかけしました。」
樹の頑張りに応えるように、東郷の目に力が戻る。
「東郷さん…ううん、やっぱり東郷さんは、強いね。」
「…コホン。じゃあ、アタシから話すわ。」
そうして風は昨日のことを話した。
店長に勇者の御役目が、危険なものだと勘づかれたこと。
口を滑らせて、バーテックスとの戦いのことを知られたこと。
大赦は、すべてを説明してくれていないこと。
その上で、『「助けて欲しい」と言って良い』と、諭してくれたこと。
「悩んだら、相談」の相手として、特別顧問という形で、協力してくれること。
「夏凜ちゃん、店長さんって、カッコいいね!」
一連の流れを聞いた友奈が、明るい声を上げた。
「え⁉︎」
東郷の顔が一瞬で般若に変わる。
「ア、アンタってああいうのが好みなの?」
店長の命の為にも、私の「
「ううん!店長さんの『生き方』が、カッコいいんだよ!『私達のためになることを勇んで実行してくれる』、
ああ、そうか。
昨日は美化されすぎているように思ったけど、「時本」は間違いなく店長がモデルなんだと、妙に納得できた。
早く『乃木園子』を見つけたと、教えてあげなくちゃ。
「…読んだのか?」
意気揚々と『乃木園子』を見つけたと報告したのに、店長にとってまず重要なのは、そっちらしかった。
「そりゃあ、読んだわよ。読まないと判断できないじゃない。」
「作中の主人公は、どうだった?」
「安心して。普段の店長よりかっこよかったわよ。『乃木園子』さんって、店長のこと、よく見てたのね。*2」
私の素直じゃない表現は正しく伝わらなかったようで、ショックを受けたような顔をしている。
私としてはちょっと安心した。すんなり伝わっても困るだけだ。
「そんなことは、どうでもいいのよ。」
「『乃木さん』は、間違いなくこのアカウントだと思う。」
「更新は止まってるけど、最後に『体調を崩した』という活動報告を書いているから、『ある日突然何かが起こった』というようなことには、なってないはず。」
「しかしそれくらい、『乃木家』の誰かが、失踪したと思われないように、代わりに書いたということは―――。」
「いいえ、それもないわ。この作者のアカウントページで、ブックマークした作品の一覧を見て。」
「この作品と…この作品、どちらも最後の活動報告よりも後に連載が始まってる。」
「…つまり?」
「ああ!もう察しが悪いわね。『乃木さん』は『読む』側としては、まだこのアカウントを使ってるのよ。」
「だから、店長がこのサイトの機能で『ダイレクトメッセージ』を送れば、近々連絡が取れる可能性は、高いと思う。」
まずは店長に、このサイトのアカウントを作らせるところから始めないといけないわね。
作者の中で樹ちゃんの評価はかなり高いです。
いかにも「ムードメーカーのマスコット枠」みたいな第一印象だったのに、1話で迷いなく戦い出したあたりの、鋼のメンタルが一因だと思ってます。
なので、この作品でも要所要所を締めていくキャラクターになっています。