summer pockets reflection blue 前章[Asterlore] 作:八咫鏡光
結構ここから意味深な場面とかが出てくるので、お楽しみに!
「・・・・・・さん。起きてください」
「聞こえ・・・・・・ますか?もしもーし?」
寝ている俺の近くで声が聞こえた。聞いたことのない、いや、どこか懐かしい感じの声が・・・・・・。
「うるさいなぁ。お前は俺の母さんか何かか?」
「なぬっ!?」
「ん・・・・・・?あれ?」
目を覚ますと、小さな少女が立っていた。だが・・・・・・。
「あれ?」
「まだ、■■けているんですか?■■■■冷めるから、起きてください」
まだ眠気があるせいか、少女の顔がはっきりと見えない。っていうか透明な何かが、少女の顔を覆うようにしている。声も所々ぶつ切りで、大事な部分がよく聞こえない。まずは、目の前の少女が何者なのかを探ってみよう。
「あの・・・・・・。君は誰?」
「あ、はじめまして。■■です」
えっ?なんて?
「ごめん、よく聞こえなかった」
「だから、■■です」
「いや、ごめんもう一回」
「■~■で~す!もう!大丈夫ですか?」
ダメだ。肝心なところが、砂嵐のような雑音のせいで聞こえない。それに、段々眠気が・・・・・・。
「■■■■■■。■■■■■■■■■■■■!!」
「・・・・・・」
ついには、視界全てがまるで混ざるようにぼやけて、声すらも完全に聞こえなくなってしまった。
「■■■■■。■■■■」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺の意識は、再び途切れてしまった。
~7月26日~
「・・・・・・くん?羽依里くん」
「ん・・・・・・?」
誰かに呼ばれて、目を覚ますとそこはさっきの女の子ではなく、
「あれ?鏡子さん?」
鏡子さんだった。
「あ、良かった。気がついた?」
「はい。おはようございます」
「うん。おはよう」
俺は、背を伸ばして、ゆっくりと体を起こした。鏡子さんはなにやら俺の顔を窺っていた。
「あの、羽依里くん。さっきなんかうなされていたようだけど、大丈夫?」
「はい。大丈夫ですけど・・・・・・」
「そう?なら良かったけど」
もしかして、さっきの夢で寝言をぶつぶつと言っていたのか?ってかあれ?俺、何の夢見てたんだっけ?
「鏡子さん。俺、どんな寝言を言ってました?」
「え~と、そこまではっきりと聞いてたわけじゃないから、分からないかな」
「そうですか」
でも、なんだったんだろう?あの夢。忘れたけど、妙に気になるんだよな。
「あと、それと・・・・・・」
さっきの夢のことで考えてる俺を見て、鏡子さんが突然言葉を発した。
「なんでしょうか?」
「今、お客さんが来てるわよ」
「えっ?誰の?」
「羽依里くんの」
こんな朝から誰だろう?とりあえず、布団を畳み、服を着替えて、玄関まで向かった。
「やあ、羽依里」
「七夜か」
玄関で待っていたのは、昨日友人として親しくなったばかりの、七夜だった。
「どうして来たんだ?」
「いや、鏡子さんに挨拶がてら、二人の遺品整理の手伝いをね」
「そんな、そこまでしなくても。お前もお前で用事とかはないのか?」
「いや、手続きとかはもう今日の内に済ませたよ?そんで暇になったんで、遺品整理をしに来た羽依里の手伝いでもしよっかなって」
つまり、暇ですることがなくなったってことか。
「暇人なんだなお前」
「まあ、何もないところだからね。この島は」
俺は、七夜を蔵まで案内して、中にいる鏡子さんに声をかけた。即座に気づいた鏡子さんは、手に持っていた書物を置いて、こっちへ向かって歩いてきた。
「あっ、ごめんね。今日はまだ手伝いは大丈夫だから」
来て早々返ってきた言葉は、手伝いはまだいいという言葉だった。
「あれ?良かったんですか?」
「ああ、鈴白くん。いらっしゃい。去年の夏以来ねぇ」
鏡子さんはそう言って、七夜に軽く挨拶した。
「はい、お久しぶりです」
七夜も軽くお辞儀をして、鏡子さんに挨拶する。
「鈴白くん。もしかして、羽依里くんと遊びに来てくれたの?」
「いや、暇だったんでお二方の手伝いをと思って、来たんですが・・・・・・」
「ごめんなさいね。今日はまだいいの。必要なものとそうでないものとまだ分けないといけないから」
鏡子さんが申し訳なさそうに、そう説明する。
「必要なものと、そうでないものとねぇ」
蔵の中は、書類やどこかの国の絵画や焼きもの、あと何に使うのか分からない変な形をしたものまで、たくさんあった。確かにこれを一人では大変だ。
「確かにこれは大変ですね・・・・・・」
「でも、むしろ分けるなら、むしろ我々も手伝ってやったほうが」
「ううん。中には家族にとって大切なものとか、お姉さん・・・・・・ああ、羽依里くんのお母さんのものもあったりするから、こういうのは私一人で慎重にやっていくしかないのよ」
そういうことか。確かにこの中に家族の思い出とかそういうのも幾らかあってもおかしくはない。おふくろのものもあるみたいだし、そこは誰よりも知っている鏡子さんに任せたほうがいいかもしれない。
「中には、私ひとりじゃ運べないものもあるから、そういうときはよろしくね」
「はい」
「俺もよろしければ」
「うん。そのときはよろしくね」
「はい。ありがとうございます」
七夜は嬉しそうに大きく返事をした。
「あっそうだ。せっかく来てくれたんだし、羽依里くん、鈴白くんに島のいろんなところ案内してもらうというのはどう?」
「えっ?」
鏡子さんの突然の提案に、俺たちはお互いの顔を見るように振り向いた。
「って鏡子さんは言っているが?七夜」
俺はしぶしぶ尋ねる。七夜は少し考えたあと、
「まあ、知っている範囲でなら・・・・・・」
「じゃあ、鏡子さんそういうことで・・・・・・」
「うん、いってらっしゃい」
俺と七夜が蔵から出たところで。
「あっ羽依里くん。言い忘れてたけどこれ」
差し出されたのは、鍵だった。
「羽依里くん、バイクに乗る?」
「まあ、免許は持ってますけど」
「実は、昨日修理に出しといて、今朝やっと届いたんだけど」
蔵のすぐ横に、
「なるほど、カブですね」
「初めて見るね」
蔵のすぐ横には、あまり使われていない感じのカブが置かれていた。ピンク色の可愛らしい色だけど、せっかく出してくれたんだし、ありがたく使わせてもらうか。
2人乗りで、坂道を降りていく。俺が運転席で、七夜がその後ろの荷台に乗っている。
「それにしても、なかなか心地良いものだね」
「そうだな」
荷台の後ろから、七夜が満足そうに言った。確かに、肌にあたる風は、ちょうどいいくらいに涼しかった。相変わらず、蝉たちはけたたましく鳴いている。辺り一面の緑の光景、漂う草木や土の匂い。初めて訪れるはずなのに、どこか懐かしさを感じていた。でも、過去にこの島を訪れた覚えはない。でも、なんだろうこの感じは。悪い感じはしないのだが、でも同時に胸が締め付けられるような、そんな鈍い痛みを感じがあった。あの夢で見た少女が、ふと頭の中で微かに頭をよぎった。本当になんなんだよ。これ・・・・・・。
「へじゃぶだよ。それ」
「へっ?へじゃ・・・・・・」
「あっごめん、デジャブだった」
思わず、右肩がガクッと落ちた。幸いカブが大きくくねるようなことはなかったから、危なくはなかったが。
「おい、変なこと言うな」
「ごめんごめん。つい噛んじゃった」
後ろで七夜が、両手をあわせて謝るポーズをとった。
「ひょっとして、また俺の心を読んだなお前」
「だから、分かりやすいんだよ羽依里は」
「いや、お前俺の後ろだよな?顔なんて見れないはずだが」
鏡子さんから借りたカブには、小さなミラーのような鏡はついていないし。
「いや、君の背中から哀愁が漂ってたんだよ」
「なんだよそれ。哀愁って漂うものなのか?」
「うん漂うよ。今でも君からそんな気が流れてる」
こいつ、人の心だけではなく、気まで読めるのかよ。怖い。俺の友達マジ怖ぇ。そう思いながら坂道を進んでいくと、
キキキキキキィィィィィィ。
「な、なに?いきなり急ブレーキかけて」
「悪い。なんかあの木の下に・・・・・・」
「木の下に?」
俺がそう言って、左側の木のほうに人差し指をさす。さっき俺が思わず急ブレーキをかけたのは、その木の下に何か人のようなものが倒れているように見えたからだ。俺たちは急いでカブから降りて、木のほうへ確認していく。木の下には、
「すぅ・・・すぅ」
「・・・・・・」
俺たちと同年代と思しき少女とその傍らにキツネ?のような青色の生物が、小さな吐息をたてて眠っていた。
「寝てるんだよな?」
「うん・・・・・・。寝てるねぇ」
七夜がその寝ている女の子のほうを見て、『全く相変わらずだな』とでも言いたそうにため息を吐いた。
「ひょっとして、この子とも知り合いなのか」
「あ、ああ。この子は蒼っていう子なんだけど、1年前に初めに会った頃も同じようにここで寝てたよ」
田舎って、こんなにもおおらかなのか?
「しょうがない。また起こしてあげるとしようか」
そういって、七夜が彼女のほうへ駆け寄ると、
「ん?」
「キュゥ・・・?」
一緒に寝ていたキツネ?のような生物がゆっくりと、目を開いた。
「あ」
「ポン?」
「えっ?ポ、ポン?」
キツネのようなものが発した声に、俺は思わず疑問を抱いた。キツネは『ポン』って鳴くものだっけ?頭がこんがらがってくる。そんな謎の生物の目と七夜の目が合った。七夜はそんな生き物に夢中になっている隙に、相手の謎の生物は、呑気なあくびをしたあと、木の幹によじ登って、
「ポポポーン」
さっきの愛嬌のいい表情から一変、殺気に満ちた肉食獣のような表情で、七夜にローリングアタックをかましてきた。
「なぁぁぁんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そんな七夜の叫び声を無視して、殺気に満ちた獣は容赦なく七夜の顔を、鋭い爪で引っ掻きまくっていた。
「うおおおお!?」
「ななななんで!?こらっ!やめろ、やめてください!!!引っ掻かないで!!!引っ掻かないでください!!!引っ掻くなぁぁああああああ!!!」
「ポーンポーンポォォォン!!!」
七夜の必死の抵抗も、獣は気にせず、引っ掻き続ける。やがて、その騒ぎに気づいて、女の子が目を覚ます。
「あっ・・・・・・」
「んもぅ。なに騒いでんのよ・・・・・・ってイナリ!?って七夜!!?あんたたちなにしてんの?」
「あっ良かった起きたんだね。って早くこの子なんとかしてえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「どういうこと?またあんた何かやらかしたの?」
「するかぁぁあああああ!!!!早くなんとかしろおおおおおおおお!!!!」
「わっわかったわよ。こらイナリ。そのへんにしときなさい」
「ぎゃあああ!!!爪が、爪が引っかかる~」
慌てて女の子は七夜からイナリ、という獣を引き離した。そんなこんなで騒動は、あお、という子によってなんとか収まった。
「はぁはぁ」
七夜は顔を引っ掻き傷で、辺り血だらけにしながら息切れしていた。対するイナリという生き物は、『フゥーフゥー』と女の子の腕の上で相変わらず威嚇を続けていた。女の子はやっと俺の存在に気づき、声をかけてきた。
「どうしてああなったの?」
「いや、俺もさっぱりわからん」
「てか、あんた誰?」
ようやくその質問来たか。
「俺は鷹原羽依里。ばあさんの遺品整理に来たんだ」
「遺品整理・・・・・・?ああ、加藤のおばあさんの」
やっぱり、この子も知ってたか。
「んで七夜は、なんでまたイナリに襲われてたわけ?」
「えっ?」
また?またって、
「あの?七夜がそのキツネみたいな子に襲われたの、今日が初めてっていうわけじゃないのか」
「ええ。七夜はどういうわけかイナリに嫌われているのよ。ああ、イナリっていうのはこの子のことね」
「ポン!」
そう言って女の子に紹介されたイナリという子は、殺気に満ちた表情とは裏腹に、俺には愛嬌いい小動物のような可愛らしい表情に変わって挨拶してきた。さっきのこともあって、俺は少し後ずさると、イナリはわかりやすいように落ち込んだ。
「ポーン」
「まあ、仲良くしてあげて」
女の子は苦笑いを浮かべていた。その様子をみて七夜は、
「解せぬ」
と恨めしそうにそう口にした。
その後、何があったか一通り説明し、特に何も問題なくイナリ、七夜両者とも落ちつきを取り戻した。
「いたたた。本当にひどい目にあったよ」
「こういう展開、1年前初めて会ったときもあったわよね」
「あったあった。ほんと理不尽にもほどがある」
そういって、七夜はもう一度イナリを睨みつける。相手のイナリはそっぽを向いて見向きもしない。
「まあまあ、あんたも別にやましい理由なんかないのはわかってるから。あたしに免じて許してあげて」
「まあ、分かったよ。さすがにいつまでも引きずるのは大人げないし」
「あっそういえば、あたしちゃんと自己紹介してなかったわね」
そういって、俺のほうへ向き直った。
「そうか・・・・・・。そうだったな。確か・・・・・・」
「空門蒼よ。改めてよろしく」
「ああ、よろしく空門」
「蒼でいいわ」
「そうか。なら俺のことも羽依里でいい」
「分かったわ。羽依里」
その後、早くバイトがあるからっということで、蒼はイナリを連れて去っていった。再び俺たちは二人乗りで坂道を進んでいく。七夜は風が傷に沁みるせいか、片手で顔を覆ってうつむいていた。酷い傷だらけだったもんなぁ。
ゴトンッ!
突然また止まって、その勢いでまた七夜の顔が俺の背中へとぶつけてしまった。
「痛っ!羽依里また何か見つけたの?」
「違う。急にカブが止まったんだ」
「え?」
まさかと思って、燃料タンクの中を覗く。
「すっからかん、だ」
「まさかの燃料切れ!?」
さっきの停止は燃料がなかったせいとみた。
「なあ、ガソリンスタンドとかあるか」
「この先の住宅街にあったはず・・・・・・」
「ってことは・・・・・・」
このまま押していかないといけないというわけだ。しかもこの暑さだ。苦行でしかない。
「仕方ない。交代交代で押していこう」
「そうだな。まずは俺からだな」
そういって俺がカブを押し始めたとき、
「羽依里・・・・・・」
誰か、俺を呼ぶ声が聞こえた。はじめは七夜が呼んだのかと思ったが、彼は首を振って否定した。じゃあ、誰が?
「ななやん」
「ななやん?」
七夜も突然呼ばれて辺りを見回し始めた。
「羽依里が呼んだ?」
「いや、呼んでない。てかななやんなんて変なあだ名で呼ばない」
「だよね」
もう一度、辺りを見回す。
「2人とも、こっちこっち」
声がするほうへ2人が向くと、スーツケースを引いた長い黒髪の女の子が立っていた。
「やっほー」
どうやら二人を呼んだ人物は、彼女とみて間違いない。てか俺はこの子とは初めて会うはずなのに、なぜ俺の名前知っている?
「なあ?この子も七夜の知り合い?」
「いや、俺も初めて・・・・・・」
七夜も初めて会う子のようだ。
「アンタ、なんで俺たちの名前知ってんだ?」
「たまたま見かけて、たまたま君たちの名前が聞こえてたからだよ」
「見てたって?」
七夜がおそるおそる訊ねる。
「さっき、あの木の下で別の女の子と騒いでたでしょ?」
「まさか・・・・・・」
あの木の下って、蒼とイナリに初めて会った場所のことだろうか?だとすると、
「じゃあ、俺があのキツネみたいな生き物にやられてたところも見てたってこと?」
「うん、バッチリ」
「うあああああああああああああああああああ」
七夜が叫びながら、頭を抱える。見てたなら助けてくれてもよかったのに。
「・・・で、アンタの名前は?」
「久島鴎だよ。鴎って呼んでいいよ」
「そういうやりとりも、さっき見てたってことだよな?」
「えへへ、そうだよ」
「で、俺たちの名前は、ってもうそっちが知ってるから別にいいか」
「ところで鴎さん」
さっき頭を抱えていた七夜が突然立ち上がり、鴎という子にある質問した。
「その、ななやんって何?」
「ななやんはななやんだよ?」
そのまんまだ。
「ま、いいかそれでその大きなスーツケースを引いて何してんの?」
「うんとね。この島にある宝物を探してるんだ」
これまた、わけのわからんことを言い出した。さっきの声の掛け方のことも相まって、ますます変な子だと思った。
「宝物?どんなものがあるの?」
「うーん、それはねぇ」
「「それは・・・・・・」」
2人揃って、息を呑んだ。
「おしえ・・・・・・」
「おしえてあげないよ?・・・・・・じゃん!でしょ?」
彼女が答える前に先んじて、七夜がそう答えた。
「もう、人のセリフとらないでよ~」
鴎は頬を膨らませて、七夜に抗議した。
「いや~ごめんごめん。つい癖で」
「こいつ、人の心読めるんだよ。だからどんだけ内に秘めてても無駄だ」
「えーそれずるいよー」
また鴎の頬が膨らんだ。さっきよりも大きく。
「だろ?ほんとデリカシーとかねえよな?」
「ほんとだよ。ななやんはデリカシーがないなぁ」
「そこまで言わなくても。てかななやんはやめて」
「それで、俺たちに一体なんのようだよ?」
「ええっとそれはねぇ」
鴎は、さっきのスーツケースを俺たちの前に出して、ポンポンとそれを叩いた。
「実はちょっと疲れちゃって、港までこれごと私を引いてほしいんだけど・・・・・・」
「いや、それならどっか預けるところで置いてもらえればいいじゃないか」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、でも中に大事なものが入ってるから」
なんだろう?大事なものっていうから、それなりに重要な何かが入ってるんだろうけど。
「もしかして、気になる?」
「ま、まあ?」
「俺もちょっと気になるかな?」
「そう?じゃあ、耳を貸して」
それで、鴎の言われるままに俺たち二人は、彼女のもとへ近づく。
「それはねぇ・・・・・・」
「「それは・・・・・・」」
2人揃って、息を呑んだ。
「おしえ・・・・・・」
「おしえてあげないよ?・・・・・・じゃん!でしょ?」
「また先を越された~」
「ごめんごめん」
「むぅ~」
鴎が再び頬を膨らませて、両手をあわせて謝っている七夜に抗議した。
「でも、そうしたいけど俺たちこれからガソリンスタンドに寄らないといけないし・・・・・・」
「いや、羽依里。彼女のことは俺に任せて」
「えっ?いいの?」
「ああ、羽依里はそのバイクを引いてガソリンスタンドへ行って。俺は鴎さんを港まで連れて行くから。そんでもし、先に用が済んだのなら、港で合流しよう」
「じゃあ、そういうことなら」
七夜の提案をのむことにしよう。確かにスタンドまで行くのに、かなり疲労度が増すだけに越したことはないし。
「お手間をかけます」
「いいんだよ。こういう時こそ助け合いだって、島の住民も俺の両親もそう言ってたし」
「それじゃあ、気をつけてな」
「うん」
二人と別れたあと、俺は暑い日差しの中、カブを必死に押した。
「うぅ~それにしても暑い」
いつにも増して、暑さが増してるように感じた。そのせいか全身に滝のような汗が出て、すごく気持ち悪い。
「仕方ない。服を脱ぐとするか」
そういって、服に手にかけた瞬間、あることが頭をよぎった。
『それに奴の半裸は他人に移る。お前も奴に会ったら気をつけろ』
昨日ののみきのあの一言を思い出す。そういえば、そういう奴がいたんだったということを思い出した。今俺、服を脱ごうとしたよな?もしかして、まさかこの近くに!?いや待て。服を脱ごうとしたのは、汗で気持ち悪いからで、別にそいつに移されたわけでは、
「ってそもそも半裸が移るってなんだ?」
ほんと今更な質問だと思った。住宅街は相変わらず人はいない。だから、スタンドまで半裸でいても問題はないはずだし、その間に服は乾くはずだろうし。そう思って、再び服に手をかける。が、ふと向こうに人影がいることに気づいて、すぐさま服にかけるのを止めた。まだ遠い位置にいるからはっきりとは見えないが、俺と七夜と同年代の男子と見て間違いなさそうだ。だが、その相手の姿を見て、思わず足を止めた。
「・・・・・・・」
目の前にいる人物をよく観察する。特に上半身の辺り、そこには何も着ていない。つまり・・・・・・・半裸。
「まさか・・・・・・」
まさかとは思うがこいつが例の・・・・・・。
「半裸男、いや確か三谷良一だっけ?」
のみき達は確かそう言っていたはずだ。奴はいつも半裸でうろついていて、それで・・・・・・相手も半裸にさせるという。まずい、この感じだと間違いなく俺は相手と出くわすことになるだろう。このまま引き返すか?いや、せっかくここまで来たんだ。今更引き返すほうがもっと地獄だ。この暑さでカブを引いて、港にいる七夜と合流なんて、とてもそんな体力はない。そうだ。目をあわせなければいい。せっせと通り過ぎれば、それはそれでなんとかやり過ごせるんじゃないか?俺はなんとかその半裸男を自分の視界から入らないよう急ぎ足で通り過ぎようとした。しかし、
「待ちな」
ふいにその半裸男から声をかけられてしまった。やばい、これは逃げられないパターンだ。どうする鷹原羽依里。どうする?
「な、なんでしょう?」
平静を装うはずが、思わず声がうわずってしまった。
「なにビビってんだ?俺はただアンタに声をかけただけなんだが」
「す、すいません」
緊張して、ペコペコと頭を下げてしまった。逆に変な奴だと怪しまれてしまったかもしれない。
「別に金物欲しさに声かけたんじゃねえぜ。アンタこの島では見ない顔だから、気になってさ」
「そ、そうなんだ」
「んで、アンタなんでバイク引いてんだ?」
「いやあ、燃料入れようと思ってガソリンスタンドを探そうと・・・・・・」
「んじゃ、俺が案内するぜ」
うわあ~。馬鹿か俺は。半裸男に目的教えてどうするんだ。ついてくる感じだぞこれ。まずい。
「・・・・・・・される」
「へっ?なんて?」
「半裸が移される~!!!!!」
「はあああああ?」
思わず、そう叫んでしまった。気づけば俺は、その半裸男から猛ダッシュで逃げていた。
「おいおい、待てよ。半裸がなんて?なんて言ったんだ?」
半裸男が何かを叫びながら、俺の後を追う。もうどうしてこうなった?こんなときにのみきか七夜がいてくれれば、
「んぎゃっ!」
「へっ?」
突然、半裸男の悲鳴と思しき声が聞こえ、俺は足を止めて振り返った。男は大の字になって、地面に倒れていた。それになぜか男の頭が濡れていた。これは・・・・・・?そう考えているうちに、男が小さなうめき声をあげて立ち上がった。
「ひぃ・・・・・・」
「あいつ、警告なしに打ってきやがったな・・・・・・」
「警告もなしに?」
誰のことだ?と思った瞬間、半裸男の立っている横に、バシュッと突然水の塊のようなものが爆ぜた。
「もしかして・・・・・・」
俺は、その水塊が飛んできたほうへ目をやる。そこには、
「そこの変態。往来を裸でうろつくなと何回言ったら気が済む」
「のみき!!」
「げぇ!?」
のみきが、水鉄砲『ハイドログラディエーター改』を構えながら、半裸男を睨みつけていた。
「ああ、鷹原。おおむね事情は鈴白から聞いている。心配だからということでお前の後をつけてきたわけだが、やはりついてきて正解だった」
まさかの援軍にホッと胸を撫でおろした。それに七夜の奴、こういうことも予測していたのだろうか。だとしたら後であいつにも礼を言わないと。
「サンキュー!のみき」
「それよりも、ガソリンスタンドへ寄るんだろう?なら、その先を右に曲がったらすぐだ」
「OK。わかったよそれじゃ」
「ああ、それじゃあ後は、この半裸男を始末するだけだ」
「ちょちょちょっと待て。誤解だ。俺はただこいつをガソリンスタンドまで・・・・・・」
半裸男は、必死にのみきに弁明するも、
「問答無用」
あっさりと弁明の機会を打ち消された。
「ハイドログラディエーター改・虐殺モード。生まれ変わる機会があったなら、そのときはちゃんと服を着てから出直してくるんだな」
「!!!!」
「死ね」
パンッ!!パンッ!!
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ」
俺の後ろからは、そんな半裸男の断末魔を聞いた。
復活したカブに乗って俺は、急いで七夜のほうへ向かった。港のほうへ合流しようとは言ったが、七夜のほうはちゃんと鴎を無事に送り届けることが出来たのだろうか。まあ、見た感じしっかりしてるし、俺が心配するほどでもないか。それに、さっきのお礼もしておきたいし。しばらくすると、右側のほうには海が広がっていた。沖のほうはいくつかの小さな漁船と大きな観光船が見えていた。しばらくすると、大きな灯台が見えてきた。
「?なんかこの灯台」
灯台からは、なんともいえない寂しい感じが伝わってきた。よく分からないが、今は使われていないのだろうか灯台の上からは、活気が感じられない。俺は灯台に惹かれるまま、すぐさまカブから降りて様子を見に行った。
「あれ?羽依里?」
「えっ?」
声がしたほうへ振り向くと、そこには七夜がこっちへ向かっていた。
「お前、もう鴎を無事に送り届けたのか?」
「うん。羽依里も何も問題なかった?」
「ああ、途中昨日言ってた半裸男に捕まったけど、のみきが助けてくれたんだ」
「そ、そうか。良かった」
七夜は苦笑いを浮かべながら、
「さっきの半裸男くん、その良一のことだけど」
「何だ?」
「服を脱ぐ以外、基本はいい奴だから、あまり怖がらないでやってほしい」
七夜からは、そんなことを言ってきた。
「努力するよ」
俺がそう答えると、
「あの~もしかしてナナヤさんのお友達でしょうか?」
七夜の背後から、さっきまで出会った女の子とは違う声が聞こえた。
「あ、こんにちは」
「こんにちは」
俺はすかさず挨拶すると、相手も返してくれた。その相手の子は、金髪でツインテールの髪型をしていた。たぶんこの島の出身ではないだろう。
「この人は紬さん。彼女も1年前にこの灯台であったんだ」
「はい。紬・ヴェンダースです。たしかにナナヤさんと初めて出会ったのもここでしたね」
思うのだが、七夜は親しげな女の子多すぎ。
「どうしたの?羽依里。もしかして女の子の知り合いが多いことに羨ましいとかかい?」
挑発気味に、俺にそう問いかける。
「だから、俺の心を読むのはやめろ」
「ごめんごめん」
「ナナヤさんは、おんなのこのお知り合いが多いんですか?」
今のやり取りを聞いて、紬さんは七夜にそんな質問を投げかける。
「いや、言うほど大したほどではないよ?」
「そですか」
・・・・・・。なんだろうな。こういう返しをしてくるほどムカついてくるのは。
「それで、ハイリさんは何しにここへ?」
さっきの答えで興味をなくしたのか、紬さんは俺へ質問を投げかけた。
「ああ、うちのばあさんの遺品整理に来たんだよ」
「あ~カトーさんのお孫さんだったんですね」
「知ってるの?俺のばあさんのこと」
「はい。カトーさんにはいつもお世話になっていました」
うちのばあさん。どういう交友関係もってるんだ。しばらくすると、
ピンポーンパンポーン・・・・・・。
「島内放送。島内放送」
放送塔からのみきの声が、島内へ響き渡る。
「昨日からこの島へお越しの鷹原羽依里君。そして、昨日からこの島へ移住することになった、鈴白七夜君。ただちに役所へ来てください」
放送の内容では、俺たちを呼んでいるみたいだが、
「一体何なんだろう?」
「とりあえず、お二方は行ったほうがいいと思います」
「そうだね。羽依里行こう」
「お、おう」
俺たちは、紬さんと別れて急いで役所へ向かった。思えば、すでに陽が傾きはじめていた。時間てこんなにあっという間に過ぎるもんなのだろうか。
役所の前には、水鉄砲を構えたのみきが立っていた。
「遅いぞ二人とも」
「ごめんごめん。ちょっと用事があったんだ」
「ひぃ。なんでお前がいる」
のみきの隣には、さっき倒されたばかりの半裸男がいた。
「だから、なんでそんな怖いものを見る目で俺を見てんだよ」
「だって、半裸を移されたくないから」
「さっきから、その半裸が移るってなんなんだよ?」
そういって、のみきや俺に訊ねてくる、えぇ・・・・・・たしか良一だっけ?
「ああ、お前のようなやつが増えないために、私と鈴白が彼にそう伝えたんだ」
「やっぱ元凶はお前らかよ」
「あははは」
「うるさい。お前の日頃の行いがこのようなことになったんだろうが。少しは反省しろ」
「ひでぇ」
落ち込む良一に目もくれず、のみきは話を始めた。
「実は、お前たち二人の歓迎会をしようということになってな」
「それで場所は、島の食堂でやることになっている」
「うわ、びっくりした」
突然現れた見知らぬ眼鏡男に、俺は思わず飛び退いた。
「彼は加納天善。この島屈指の卓球プレイヤーだよ」
「加納天善だ。よろしく鷹原」
七夜に紹介された天善から手を差し伸べられ、そのまま握手を交わした。
「ほう、お前。一体どんなスポーツをやっているんだ?」
「え?なに?」
「彼の目は、他人の身体能力、肺活量、握力など様々なことが細かく把握できるんだよ」
突然、そんな質問をされ戸惑った俺を、七夜は説明してくれた。何気に天善のことがちょっと怖い。
「今はやってないかな」
「彼は、傷ついた翼を癒しに来たんだよ」
「な、今更それ蒸し返すなよ」
七夜の不意打ちの一言に、俺は顔を真っ赤にして抗議した。
「ほう、なるほど」
「いろいろあったんだな」
「ま、とりあえず俺たちはただ歓迎する。それだけのことさ」
のみき達3人の優しい視線が、今はとても辛かった。
のみき達に連れられて、食堂へ案内される。のみき曰く、長く滞在する島外の人のことを『渡りの人』と呼ぶらしく、歓迎するのが習わしだそうだ。食堂へ入ると、いくつものクラッカーか響き渡った。
「「「「ようこそ!!!!鳥白島へ!!!!」」」」
「ありがとう」
「ありがとう。みんな」
俺たちはみんなにお礼を言うと、案内された席へ座った。
「それで七夜は、二学期から俺たちと同じ学校へ転入するんだろう?」
「まあね。これから学校の関係者の人といろいろ話をしないといけないけどね」
「そうかそうか」
それから、七夜に関する話で持ちきりだった。その中には、根も葉もない迷信話や、誇張されたものもあってそのたび、七夜は必死に弁明していた。当然、イナリに嫌われているという話も出てきて、今日顔面につけられた傷で皆からいじられていた。
「それにしても、二人が来たからこの島はこれからどんどん盛り上がっていくだろうな」
良一が、ジョッキに注がれた飲み物を飲みながら、そんなことをつぶやいていた。
「それは大げさだろう。たかが同年代の人間が増えただけだし」
「ううん。いまこの島はアンタたち2人の話題で持ちきりよ」
「聞けば、お前たち2人の仲は長年築き上げたダブルス選手のようだとな」
「ごめん、何を言っているのかよく分からない」
「この島は娯楽施設のようなものはないからな。大なり小なり何か面白いことがあるととことん食いついてくるんだ」
「そ、そうなんだ」
?七夜?食堂の周りを見渡して、どうしたんだ?
「どうした?」
「え?ああ。実はもう1人島の同年代の子がいるはずなんだけど」
「え?まだいたのか?」
「うん、鳴瀬さんて人なんだけど・・・・・・」
鳴瀬・・・・・・。その言葉を聞いてなぜか胸がズキッと痛み出した。
「ああ、そういえばしろはは」
「しろはなら、もうじき来るはずだけど・・・・・」
良一と蒼のやりとりに、さらに胸が痛みだした。くそっ。初めて聞くはずなのに、なんで。
「っっっ!」
「羽依里?大丈夫?」
そんな俺が心配している七夜の声を遮るように、食堂の扉が開いた。
「あっ・・・・・・」
現れたのは、白い長髪に青い瞳、七夜とは違う不思議な雰囲気を纏った少女だった。俺は必死に胸の痛みをほかの人に悟られないように平静を装う。
「遅いしろは」
「ごっごめん・・・・・・。ちょっと用事があったから・・・・・・あっ・・・・・・」
「・・・・・・」
しろはと呼ばれる少女と俺の視線があう。今の俺としては非常に気まずい。お互い何も話さないまま、視線を見つめあう。何か挨拶しないといけないのはわかってはいるけど、頭が真っ白で何も思いつかない。それを見かねた七夜は、
「ひ、久しぶりだね鳴瀬さん。去年の夏は大変お世話になったよ」
七夜の突然の発言に、その鳴瀬さんはハッとした顔で、
「え、何のこと?」
「ほら、1年前俺が海岸で落とし物をしちゃって、それを鳴瀬さんが探すの手伝ってくれたじゃないか」
「えっ?そうだっけ?よく思い出せない」
「・・・・・・」
何とも言い難い空気に、一同は困り果てていた。七夜と鳴瀬さんはこの状況をどうしようかと、天善と良一、のみきに至っては張り詰めたこの空気に戸惑うばかり。だがそれを打ち払ってくれたのは、蒼の一言だった。
「ねえ、七夜としろは。2人がそろったんならさ、ぜひ二人にあの伝説のチャーハンセットを作ってもらいましょうよ」
それを聞いて、のみき、良一と天善の順番で口々に答えが返ってくる。
「そ、そうだな。1年ぶりにまた食べられるんだな」
「そ、そうだなぁ~。作ってもらおうぜ、伝説のチャーハンセット」
「ああ、それは楽しみだな~。あはは」
それを聞いて七夜と鳴瀬さんは、
「そうだな、やろう鳴瀬さん」
「う、うん」
「おじさん。ちょっと厨房借りますよ」
「ああ、そうだろうと思って、実は麺はもう作ってあるからな」
「え?もう?」
「おう、お前さんが教えてもらった通りにな」
「ありがとうございます」
厨房でそんなやりとりを聞いて、俺はこんな歓迎会にそぐわない空気を作り出してしまった自分を呪った。
「ごめん。みんな。俺が変な空気にしてしまって」
4人はそんな俺を責めもせず、
「大丈夫だ。それに」
「伝説のチャーハンセットを食べたいのは、本当のことだぞ」
「ま、アンタがどういう事情を抱えてるのか分からないけど・・・・・・」
「俺たちは、そんなお前を歓迎する。当然のことだ」
「ありがとう」
そんな、4人の何気ない一言のおかげで、少し痛みが和らいだ。
「それにしても、七夜ってラーメンも作れたんだな」
昨日はチャーハンをふるまってくれた。あれぐらい高い料理スキルを持ってるんだ。ラーメンもきっとうまいに決まっている。
「あはは、俺の唯一このラーメンが取り柄なだけさ。それに鳴瀬さんの作るチャーハンはレベルが違う」
「そうなのか?」
そんな俺の疑問にのみきと蒼が答えてくれた。
「私たちもチャーハンは作るけど、中でもしろはは別格よ」
「私もいろんな人のチャーハンを食べたことがあるが、その中でも一番美味しかったのは、しろはのチャーハンだ」
そんな2人のべた褒めっぷりを気にせず、鳴瀬さんは黙々と中華鍋を振っていた。ふいに昨日見たあの小さな少女の光景が頭に浮かんだ。しかも、昨日より鮮明に・・・・・・。
「くっ・・・・・・また」
俺の異変に気付いた良一、天善が慌てて俺に声をかける。
「おい、また来たのか?」
「大丈夫か鷹原。顔色が悪いぞ。少し休んだほうが・・・・・・」
「いや、いい・・・・・・。大丈夫だ」
心配する2人を制止して、コップに注がれている水を全部飲み干した。大丈夫。大丈夫だ。
「「できた」」
二人のそんな大きな掛け声とともに、醤油ラーメンとチャーハンが全員の前に並んだ。辺りに漂う匂いにみんな満足そうだ。
「うん。やはりしろはのチャーハンは世界一だ」
「そ、それは大げさだよ」
「そんなことはないよ。やはり鳴瀬さんのチャーハンにはかなわないなぁ」
「も、もう」
のみきと七夜のべた褒め地獄に、鳴瀬さんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「~~~~~~。やっぱこの出汁だぜ、この出汁。七夜の作ったラーメンしかもう食べられなくなっちまうぜ」
「それは流石に」
「良一の言うとおりだ。濃い味であるはずなのに、それでいて全然飽きない。それどころかますます食欲が進む。もし、俺がラーメン職人を目指していたなら、ぜひお前に弟子にさせてもらいたいくらいだ」
「あ、ありがとう」
今度は男組二人のべた褒め地獄に、七夜も顔を真っ赤にしてうつむいていた。そんな賑やかな光景をみていると、
「あ、あの・・・・・・」
「うわっ!!!!」
「!!!!」
俺の隣に突然現れた鳴瀬さんに、思わず大きな声が出てしまった。
「あの、貴方もよかったら、ぜひ食べてほしい」
「あ・・・・・・」
そういえば、皆は食べ始めているのに、俺だけ何も手付かずだった。見かねた七夜は、
「まだ調子が悪いの?ならもう無理は」
「いや、大丈夫だ。食べるよ」
そういって、俺は席を座り直す。
「いただきます」
俺はまず、鳴瀬さんが作ったチャーハンをレンゲで掬い取って、ゆっくりと口に入れた。
「もぐもぐ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
作った張本人たち二人に、緊張感が走る。
「うまい」
「え?」
俺の言葉に、鳴瀬さんがビクッとなった。
「もしかして口に・・・・・・」
「うまい。すごくうまいよ」
「そ、そう?良かった・・・・・・」
俺の感想を聞いて鳴瀬さんはホッと胸を撫でおろした。
「なんていうか、初めて食べるはずなのに、懐かしいていうか・・・・・・」
懐かしい・・・・・・。そう、初めて食べるのに懐かしい。初めて・・・・・・なのに。
「・・・・・・」
「どうしたの?」
鳴瀬さんにそう聞かれて、俺は頬に温かい何かがつたうのに気付いた。他の皆も、俺の反応に何やら困っているように見えた。
「あ・・・・・・あれ?なんでだろう?・・・・・・なんか・・・・・はっ・・・・・・初めて食べるのに・・・・・・なんか懐かしくて・・・・・・はっ・・・・・・」
分からない。なんで俺は泣いているのか。何が懐かしいのか。何が俺をそうさせているのか。ただ、俺はチャーハンを食べているだけなのに・・・・・・どうして?分からない。分からない。分からな・・・・・・。
「っっっ」
気がつけば俺は食堂から出て、走っていた。もう夜中になった道を、このこみあがってくる悲しい感情に振り回されながら。
~七夜side~
「羽依里!!!」
突然、食堂から出て行った羽依里を呼び止めるも、彼は構わず走っていった。食堂の中は、突然のことでみんなは、戸惑いを隠せないでいた。とりわけ鳴瀬さんは、今にも泣きそうな表情で、
「私・・・・・・何か嫌がることでもしたのかな?」
「そ、そんなことはないわよ。しろはは悪くないから」
そんな鳴瀬さんを、蒼は必死になだめていた。
「・・・・・・」
まさか、ここで彼の記憶に
「もう少し、慎重に行動すべきだったかな?」
俺が一人で呟くと、くぎゅるるるるるるるるるるるる。
「!?」
後ろから聞こえる謎の音と、自分の捕まれた右足に驚き、慌てて振り向くと、
「・・・・・・」
「・・・・・・そ、そこの人。恥を忍んでお願いするよ」
「・・・・・・」
「その、た、食べ物を・・・・・・持ってきてくれないかい・・・・・・ばたり」
「・・・・・・はぁ」
そこには、空腹で目を回している、(ワケあって)知り合いの神山識がいた。
第3話 他人の距離へ続く・・・。
以上、第二話 デジャブでした。まさかの1万5千字を超えるとは思ってもみなかった。
最後の羽依里の反応の意味は?第3話もお楽しみください。