summer pockets reflection blue 前章[Asterlore]   作:八咫鏡光

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お待たせしました。第3話ついに始まりました。前回何かを思い出した拍子に、突然食堂から出て行ってしまった羽依里。羽依里としろはの仲は?七夜も必死に動いているようですが?・・・・・・。



第三話 他人の距離

 モノクロの視界が広がる。目の前に白い髪の女性が布団の上で横たわっていて、俺が必死に何かを叫んでいる。

 

「■■■。産まれたぞ・・・・・・。俺たちの■だ」

 

 俺の腕には、小さな赤ん坊を抱えていた。赤ん坊のほうは、ただひたすら泣いている。これだけ大声で泣いているにも関わらず、横たわっている女性は何一つ動こうとしない。

 

「■■だ。俺たちの■■が産まれたんだ。なあ?見えるか?■■■・・・・・・」

 

 あの時の夢のように、肝心の部分にノイズがかかって、誰を呼んでいるのか分からなかった。しかし、夢の中の俺は気にすることなく呼び続ける。

 

「ほら・・・・・・。■■のほっぺだ。すごく柔らかくて、結構あったかいんだぜ?」

「・・・・・・」

 

 物言わぬ女性の手をとって、赤ん坊の頬に当てた。本当に赤ん坊の頬は温かかった。だが対照的に女性のほうは恐ろしく冷たかった。まるで氷のように。それがどういう意味か気づいたのか、夢の中の俺の目が大きく見開く。そして大粒の涙が溢れる。

 

「・・・・・・。お願いだ・・・・・・。頼むから目を開けてくれ・・・・・・」

「・・・・・・」

「そんな・・・・・・。はっ・・・・・・嫌だ・・・・・・」

 

 

 

「■■■~!!!」

 

 俺は崩れるように大声で泣きはじめた。周りには鏡子さんも、島の見知った人達も皆同じように涙を流していた。白髪の女性は赤ん坊を産んだ後に息を引きとったようだ。知らないはずなのに、この目を背けたくなる悲しい光景はどこか知っているような感じだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()かのような・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

~7月27日~

 窓から差し込む光に反応して、ゆっくりと瞼を開いた。

 

「もう朝か・・・・・・」

 

 食堂を逃げるように出て行ってからの記憶がない。この感じだと、あのまま家に戻って即布団に潜って眠ってしまったみたいだ。皆は俺と七夜のために、せっかく歓迎会を開いてくれたというのに、一連の行動で気まずい感じにさせてしまった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

「はあ・・・・・・。七夜にも迷惑かけたし。この先皆にどの面下げて接すればいいんだ・・・・・」

 

 重たくため息を吐きながら、布団を畳んでリビングへ向かった。リビングには誰もおらず、机にはカップうどんとその上に小さなメモ紙が置いてあった。

 

『朝ごはんこれだけでいいか分からないけど、カップうどんここに置いておくから、よかったら食べてね』

 

 メモ紙にはそう書かれていた。そういえば、昨日鏡子さんに会ったっけ?その辺りの記憶を全く覚えがないからよく分からない。昨日のように蔵の中にいるだろうから、そこでちゃんと挨拶しようか。

 

 

 

 

 

 蔵の中に入ると、やはり鏡子さんは次々と遺品に札のようなものを置いて、整理をしていた。鏡子さんに声をかける。

 

「鏡子さん。おはようございます」

「あっ羽依里くん。おはよう」

 

 鏡子さんは俺に気づくと、手に持ってた物を置いて俺のもとに駆け寄って、何事もなく普通に挨拶を返してきた。

 

「昨日は、夜遅く何か急いで部屋に戻っていく姿を見たけど・・・・・・。何かあった?」

「ええっと・・・・・・」

 

 鏡子さん、やはり俺の様子見てたのか。俺はしばらく考えた後、こう答えた。

 

「昨日、俺と七夜の歓迎会をしてもらってたんです。すごく楽しくて、そんですごい時間も遅くて、すごく眠たかったから、急いで部屋へ戻って布団へ直行したんです・・・・・・」

「そ、そうなの・・・・・・」

 

 我ながら言い訳にもなっていない。鏡子さんも困ったような、なんともいえない表情を浮かべていた。俺はこの気まずな空気を変えるため、話題を切り替えようとあることを尋ねてみた。

 

「あの・・・・・・。今日は蔵の手伝いは・・・・・・」

「えっ?ああっ今日はまだ大丈夫だよ」

「そうですか・・・・・・。ははっ・・・・・・」

 

 まだ出番はないようだ。結局俺は何のためにこの島に来たのやら。それを鏡子さんが申し訳なさそうに・・・・・・、

 

「ごめんね。また必要な時が来たら、また呼ぶかもしれないから」

「そうですか。もしそのときが来た時は、お任せください」

 

 俺は力なく、そう返答した。とても頼れるような人がする返事ではない。

 

「せっかくだから、あまりいい暇つぶしになるような所はないかもしれないけど、この島を満喫していってよ」

「そうですね。そうさせていただきます」

「うん」

 

 

 

 俺は昨日と同じように、鏡子さんから貰ったバイクに乗って坂道を下っていく。今回はいつもとは違う経路へ下りていく。初めて行くはずなのに、何故かおぼろげに周りの景色に覚えがあった。思えばこの島に来てから、そんな曖昧で奇妙な夢を見続けているような気がする。小さな少女のこととか、それに・・・・・・。

 

「鳴瀬しろは・・・・・・」

 

 不意にそんな名前が頭に浮かぶ。昨日の歓迎会で少し遅れてやってきて、七夜と一緒に伝説のチャーハンセットを作ってくれた少女のことだ。彼女の名前、容姿、そしてあのチャーハンの味はどこか懐かしい感じがした。それも泣きたくなるような。

 

「あれ?また・・・・・・」

 

 気づけばまた、俺は涙を流していた。またこの感じだ。何故こんなに胸が締め付けられるような悲しい気持ちになるんだろう。いつの間にか俺は島の外れでバイクを止めた。この場所は。そして・・・・・・。

 

「あっ」

 

 俺の前。もうちょっと遠い所に見覚えのある姿が見えた。そう、鳴瀬さんが俺に向かうように歩いていた。どうしよう。昨日のこともあって非常に気まずい。でも、あれはどんな理由であろうと紛れもなく俺が悪い。ちゃんと謝らなければ。

 

「あっ・・・・・・。あの・・・・・・」

 

 ぎこちない俺の掛け声に、鳴瀬さんはこっちに反応した。俺の姿を見て、パッと目を見開く。

 

「えっ・・・・・・。あの・・・・・・」

「・・・・・・」

「昨日はどうも・・・・・・」

「こちらこそ・・・・・・」

 

 相手はどう反応すればいいか、手をもじもじさせながらも短く言葉を返してきた。目は海側に逸らしてはいるが、相手にしてくれるみたいだ。良かった・・・・・・。

 

「それで?何か用?」

「えっ?」

 

 急に質問が飛んできて、思わず間抜けな声が出てしまった。ゴホンっと咳払いをして、さっきの質問に答える。

 

「あの、昨日はあんなことして本当にゴメン」

「ああ・・・・・・。ううん気にしてないから・・・・・・」

 

 彼女もぎこちなくそう返す。彼女も彼女で俺に気をつかっているのだろうか。

 

「チャーハン・・・・・・」

「えっ?」

「チャーハン・・・・・・。その・・・・・・貴方の口に合わなかったのかな?って」

「はっ・・・・・・はあ~」

 

 まさかの一言に俺はまた間抜けな声が出てしまった。そんなこと気にしてたのか。

 

「そんなことないよ。さっきも言った通り、すごく美味しかった」

「そ、そう?」

「う、うん。なんていうかすごく懐かしい感じだったんだ」

「懐かしい?」

「うん・・・・・・。初めて食べた味なのに、どこか懐かしくてつい・・・・・・」

 

 俺はありのままの感想を彼女に話す。変に誤魔化さず、正直に思ったことを話せばいいはずだ。途中、また涙腺が緩みそうになるもそこはグッと堪えた。

 

「そうなんだ。なんか・・・・・・不思議だね」

「うん。そう不思議なんだよ。この島へ来てからずっと・・・・・・」

「この島へ来てから?」

「あっ・・・・・・」

 

 つい、そんな言葉が出てしまった。これも正直に話すべきだろうか?彼女はどう反応するだろうか?分からない被害妄想をしている哀れな男と見られるだろうか?それでも、どうしてか彼女には話を聞いてほしいという気持ちがあった。彼女なら不器用ながらも、聞き入れてくれるという自信があって・・・・・・。

 

「あのさ・・・・・・。俺、よく分からないけど女の子の夢を見るんだ」

「女の子?」

「そう。小さな女の子なんだけど・・・・・・知らないはずなのに、どこかで会ったような?何故かその子のこと知っているような感覚があって・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 鳴瀬さんは無言で俺を見つめたまま、話を聞いている。吸い寄せられそうな彼女の青い瞳に、俺は一度目を背けながらも言葉を続ける。

 

「昨日は、君と同じ白い髪の女の子が俺の前で横になってて、夢の俺は生まれたばかりの子供を抱えながら必死にその人に声をかける夢を見て・・・・・・」

「・・・・・・」

「それで、その人・・・・・・もう息してなくてさ、俺や島の皆が泣いてて、それが悲しくてさ・・・・・・」

「どうしたの?」

「えっ・・・・・・?あっ・・・・・・また・・・・・・」

 

 彼女に問われて、俺はまた涙がポロポロ流れていることに気づいた。さっきまで必死に我慢してたのに、今の夢の話をしたせいかどんどん堪えきれなくなってしまった。俺はそれを隠すように両手で顔を覆った。

 

「ごめん。ちょっと・・・・・・なんていうか・・・・・・それが俺には辛くてさ・・・・・・」

「うん」

「君の名前を聞いた時にも、それとおんなじ感じになってしまって・・・・・・」

「えっ?それどういう・・・・・・」

 

 彼女の疑問に答えず、そのまま思ったことを、ありのままに吐き出す。そうまでしないと、自分を保てない。そんな感じがして。

 

「だからあの時、俺は咄嗟に逃げ出してしまって・・・・・・。ごめん・・・・・・。こんなこと話したところで君には分からないはずなのに・・・・・・」

 

 怖かった。突然こんな訳の分からない話をして、彼女がどう反応するのか。どんな言葉を投げかけてくるのか。でももうどうにも止められない。この自分の内にある悲しい感情を、少しでも聞いてほしいなんて、我ながらおかしなことだけど。どうしても、どうしても彼女には聞いてほしいと。すると泣いている俺の方へ、彼女が駆け寄ってきた。

 

「こんなこと・・・・・・」

「えっ?」

「こんなこと。貴方に言っても慰めになるかは分からないけど・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 思わず、息を呑む。彼女はゆっくり目を閉じて、すぐ目を開いてこういった。

 

「それは・・・・・・とても辛いことだよね・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 それは、思いもよらない・・・・・・。彼女の今より優しい一声だった。

 

「確かに、貴方の言っていることはまだ分からない。けど・・・・・・それでも貴方のその顔を見て、辛いんだって・・・・・・痛いほど分かったから・・・・・」

「・・・・・・」

「もう・・・・・・その辛い感情を・・・・・・抱え込むのは・・・・・・やめよう?」

「あ・・・・・・」

 

 なんとも、大した慰めにもならない言葉だけど、彼女は不器用ながらも、俺にそう語りかけてくれた。その彼女なりの優しさがおれにはとても嬉しかった。

 

「うん・・・・・・そうするよ・・・・・・」

 

 俺はそのあとしばらく泣き続けた。彼女は俺に何かするわけでもなく、ただ黙って俺のそばに居続けてくれた。

 

 

 

 俺はなんとか落ち着きを取り戻し、改めて鳴瀬さんに謝った。

 

「本当に昨日はごめん」

「別に気にしてないからいいよ」

「そっか・・・・・・」

 

 さっきの優しい雰囲気とは違って、また少し素っ気ない状態の鳴瀬さんに戻った。たぶんそっちがデフォルトなんだろう。そっちのほうがなんていうか違和感ないっていうか、むしろしっくりくる?って何言ってんだ俺は・・・・・・。

 

「それじゃあ、また」

「あっ、待って」

 

 そのまま立ち去ろうとする鳴瀬さんを、俺は制止した。

 

「今度は何?」

 

 今度は何か不機嫌そうな反応だった。さすがに鬱陶しいと思われているのだろうか。

 

「俺の名前、ちゃんと自己紹介してなかった」

「別に貴方の名前はもう、歓迎会で七夜に教えてもらったから・・・・・・」

「鷹原羽依里」

「え?」

「鷹原か羽依里か、呼びやすいほうで呼んでくれ」

 

 こんな形の自己紹介は、これで何回目だろうか。ずいぶん同じ台詞回しで、言っている本人もいい加減飽きてしまうくらいだ。

 

「う、うん。改めてよろしく。は、羽依里」

「ああ、よろしく鳴瀬さん」

「だから貴方も、私のことは別にしろは・・・・・・って呼んでいいから」

 

 そういって、鳴瀬さ・・・・・・もといしろはは少し顔を赤くしながら、その場から走り去った。

 

「ああ、よろしくしろは」

 

 

 

 

 

 再びバイクに乗って、海岸沿いを駆ける。俺は右手の灯台に目をやる。ふと紬さんと昨日、あまり喋る時間がなかったのを思い出した。紬さん、今日も灯台にいるのだろうか。行ってみよう。

 

「あれ?七夜?」

 

 灯台の近くのベンチの前で、紬さんと七夜を見かけた。

 

「あ、おはよう羽依里。ってもう昼前か」

「ハイリさん。どもです」

 

 2人ともベンチの上で何かいっぱい置いているがこれは・・・・・・。

 

「ぬいぐるみ?」

 

 ベンチにはいくつかのぬいぐるみが置いてあった。比較的きれいなのもあるが、中にはほつれたり傷んだりした箇所を縫い直したりしているのもあった。

 

「こんなにたくさん。一体どうしたんだ?それ」

「これ紬さんとごみ拾いしたとき、海岸に打ち上げられているのを拾ったんだよ」

「今回はたくさんお友達を見つけました」

「それで今、洗ってここで干してるんだ」

「なるほど」

 

 それにしてもこんなにたくさん見つかるものなのだろうか。

 

「てか2人ともごみ拾いをやってたんだな」

「まあ、俺は紬さんの手伝いをしているだけだけどね」

「それに2人ではありません」

「え?2人ではない?」

 

 もう1人誰かいるのだろうか?すると後ろから、

 

「紬。新しいお友達直しといたわよ」

「あ、ありがとうございますシズク」

「しずく?」

 

 灯台のほうから、ぬいぐるみ(おともだち)も持った女性がやってきた。俺と七夜より年上って感じだけど。

 

「あら、また初めて見る顔ね。こんにちは」

「こんにちは」

「ハイリさん。こちらはシズクです」

「水織静久です。よろしく()()()くん」

「よろしく・・・・・・ん?」

 

 今なにか聞き捨てならぬ単語が耳に入ってきたような。思わず隣にいる七夜に耳打ちする。

 

「なあ、あの人最後なんて言った?」

「うう~ん。ええっと・・・・・・」

 

 七夜も聞こえてたみたいだが、どう答えるべきか困ってるみたいだ。

 

「いま、パイリさんて聞こえたような気がしますが、ハイリさんではなかったんですが?」

 

 紬さんは容赦なく口に出した。男組とっては口に出すか迷ってたのに・・・・・・。

 

「あれ?違ったかかしら?」

 

 言った張本人から、さらに驚くべき返答が出てきた。正気か?どうしたらそんな聞き間違いをする?

 

「違います。俺はは~い~りです。苗字は鳥の鷹と野原の原と書いて鷹原です」

「そう、鷹原羽依里くんていうのね。よろしくねパイリくん」

「全然言えてない」

 

 ひょっとして嫌われてるのか、からかわれているのだろうか?

 

「それで水織さんは、紬さんと七夜の知り合いなんですか?」

「う~ん。鈴白くんはこの夏初めて会ったけど、紬とはそれより前からずっと仲良しなのよ」

「それに水織先輩は、これから俺が二学期に転校する学校の先輩で、生徒会長やってたんだよ」

「そうなのか。てかそういえば七夜、二学期から蒼たちの通う学校に転入するって言ってたな」

 

 そうなると短い間になるけど、七夜の先輩になるってことだな。

 

「うふふ。かわいい後輩が増えて、私も嬉しいわ」

「あはは・・・・・・」

 

 七夜が照れながら、ぬいぐるみの整理を続ける。あ、そうだ。

 

「七夜」

「ん?」

「昨日は悪かった」

「ああ・・・・・・、俺は大丈夫だよ?それより鳴瀬さんとは仲直りできたの」

「あ、まあ一応は・・・・・・」

 

 たぶん、あの反応から見て問題はなさそうだとは・・・・・・思う。うん。

 

「そうか・・・・・・。実はさ昨日あんな感じでお開きになっちゃったから、島の皆と話し合ってもう一回話し合って歓迎会のやり直しをしようと考えてたんだよ」

「そんな、お前らに悪いよ。そんなこと」

「ううん。これを言い出したの蒼たちだから、それに君たち2人の仲直り作戦として考えてたことだったし」

「そうか」

 

 七夜としても、歓迎会を楽しむはずだったのに、申し訳ないことしてしまった。

 

「俺はさ、もっと島の皆と仲良く一緒に時間を過ごしたいだけだしさ。俺、この島に来る前は全然友達いなかったし」

「・・・・・・」

 

 意外だ。こんなに初対面にも気軽に話せる七夜なのに、友達がいなかったのは驚きだ。

 

「だから、こうして羽依里や蒼、のみきや良一、天善、鳴瀬さんに紬さん。そして今年の夏は久島さんに水織先輩と、いつまでもこの夏休みを楽しく過ごしたいんだ。まあ、我ながらすごいワガママなのは承知の上だけど・・・・・・」

「七夜・・・・・・」

 

 そう話す七夜は、いつもより寂しげな表情を浮かべてた。

 

「そうだ。これから紬さんと水織先輩と一緒に駄菓子屋へ行くけど一緒にどうかな?」

「ああ、構わないけど」

 

 さっき暗い顔をしてたくせに、すぐさま明るい顔に表情を変えて、別の話題を持ってきた。びっくりするわ。

 

「それでは、お友達が乾くまでの間に出掛けましょう」

「うん」

 

 

 

 

 お友達を灯台のベンチの上で乾かしてる間に、4人は駄菓子屋へ向かった。

 

「いらっしゃい。ってアンタたちか」

 

 店の中から、蒼が出てきた。

 

「よう、んでなんで蒼がここに?」

「なんでここに?ってあたしここでバイトしてるのよ」

「へぇー」

 

 そして、俺の後ろにいるメンバーの姿を見るなり、驚くような顔を見せてきた。

 

「なんか意外な組み合わせね」

「そうなのか?」

「紬に関しては、滅多に会う機会が少ないからね」

「む、むぎゅ~」

 

 紬さんが申し訳なさそうに唸っている。

 

「確かに俺と紬さんに会ったの、去年の夏に灯台で一回きりだったしね。それ以降全然姿が見えなかったな~」

「そうだったのね」

「むぎゅ。あの時は私もいろいろじじょーがあったので、なかなか会うことが出来なかったんです」

「そうか、それはすまなかった」

 

 七夜が両手をあわせて、紬さんに謝った。

 

「それでなにを買いに来たの?」

「今日は歓迎会に向けて、ろうそくを何本か買いたいんだけど」

「え?歓迎会用にろうそく?一体どうするの?」

「ふふーん。それは来てからのお楽しみに」

 

 一体、歓迎会で何するんだろうか?

 

「それで羽依里。アンタしろはとは仲直りしたの?」

「ああ、一応は。昨日は俺のせいでホントに悪かった」

「はぁ・・・・・・。まあ、あたしは別に気にしてないけど、しろはは誰よりも繊細な心の持ち主だから、あんまり傷つけるようなことしちゃダメよ?」

「あ、ああ」

 

 蒼にちょっと説教じみたかたちで、言われてしまった。

 

「ろうそく12本で」

 

 店の中から、中くらいの太さのろうそくを手に七夜が出てきた。結構大きいがどうするんだろう一体。

 

「178万8千円ね」

「えっ?1788万8千?」

 

 天文学的な数字が出てきたんだが。七夜はそんな大金を持ってなさそうだが?

 

「2000円出すよ」

「178万6千円足りないわよ」

「おいおいおい」

「?」

 

 思わず七夜の手をグイって引っ張って、さっきのやり取りついて尋ねた。

 

「何だよあれ?とんだぼったくりじゃねえか」

「あはは、羽依里。あれはあの店の鉄板ネタだよ」

「そうなのか?」

「そうだよ。そんな詐欺まがいなことを本当にするわけないじゃないか」

 

 まあ、この島民の優しさには少なからず俺も感じているから、そんな卑劣な真似はしないだろうけど。

 

「もう、驚きすぎよ」

「だって、知らないんだからしょうがないだろう」

 

 そんなことをやり取りしていると、近くの木の端でこちらを見つめる気配を感じた。

 

「・・・・・・」

 

 正体はしろはだ。本人はうまく隠れているように思っているみたいだが、白くて長い髪がはみ出ているし、顔も半分見えてるし、こちらからすればバレバレだ。店の中から大量のわたあめを持ってきた紬さんが彼女に気づいて、

 

「スイカバーさん。そんなところで隠れて、何をしているんですか?」

「げっ!」

 

 バレたことに驚いたのか、おずおずとしろはが出てきた。

 

「あれ?鳴瀬さんも来てたのね」

「しろは、何もコソコソしなくても良かったじゃない?」

「って鳴瀬さんさっきまで何をしていたの?」

 

 各々からの質問攻めにしろはが段々小さく見えた。

 

「それより紬さん。さっきしろはのことスイカバーさんて」

「はい、いつも駄菓子屋でスイカバーを買っているのを見かけるので」

「そっか、スイカバーが狙いだったのか」

「・・・・・・こい・・・・・・」

「え?」

 

 

「どすこい!!!!」

 

 しろはの大声で放った一言で、俺以外の皆の表情が固まった。

 

「えっ?どすこいって?」

 

 どすこいって相撲用語のどすこいだよな?。あれ?なんで皆、すごい顔してるの?しろははあの一言を放った後、そのまま走っていった。固まったままの七夜にさっきのことを聞いてみた。

 

「なあ、しろはのやつ今、どすこいって」

「やめて・・・・・・。その言葉は俺に効くからやめて」

 

 え?なんで泣きそうな顔になってんの?

 

「人生初めて聞いたわ・・・・・・」

「生どすこい。私も今まできたことがないわ・・・・・・」

「そんなに!?」

「ええ・・・・・・。生まれて初めて聞くわ」

 

 そこまですごいのか?どすこい・・・・・・。

 

「ハイリさん。どすこいはこの島のほーげんなんです」

「ああ、なるほど」

「意味はすごく鬱陶しいってことだけど、どすこいを使ったことに念を感じるわ」

「蒼。そんなにヤバいのかよ。どすこい・・・・・・」

「ええ・・・・・・。親の仇になら使えそうなほどよ」

 

 そんなにきつい方言なのか。七夜の落ち込みっぷりや他3人の様子をみる限り、うかつには使っちゃいけなさそうだ。

 

「うう・・・・・・。そこまで言わなくていいのに・・・・・・ぐすっ」

 

 かなり落ち込んでるな七夜。

 

 

 

 

 

 俺たちは、日が暮れるまで七夜を慰めながら、駄菓子屋でいろんな話をしたりして時間をつぶした。紬さんはパリングルスを集めて何やら工作を考えていることや、静久は海の家の再建計画を立てている事を知った。ただ途中おっぱい?を交えた会話が飛び込んできたのだが、何故か蒼だけ聞こえていない様子だった。七夜は招待したい人物がまだ他にいるってことで別れて、他のメンバーと一緒に第2の歓迎会の集合場所である加藤家へ向かった。

 

「ふふっ。鏡子さんの家に行くの、何年ぶりかしらね」

「静久さん。鏡子さんとあったことあるんですか?」

「ええ、小さい頃からお世話になってたからね」

 

 意外と鏡子さんと繋がりのある人が多いんだな。

 

「紬さんも、たしかうちのばあさんのこと知ってたしな」

「そですね。さっきも言ったとおりカトーさんには仲良くさせていただきました」

「あたしもよく加藤さんちの横、通ることがあるけど流石にあまりうちの中にってことはなかったから、すごく新鮮ね」

 

 ようやく加藤家が見えてきた。

 

「さあ、俺の家ってわけじゃないけどどうぞ」

「「「お邪魔します」」」

 

 玄関前には鏡子さんが自分達を待っているかのように立っていた。事前に歓迎会をやるって分かってたのかな。

 

「羽依里くん。おかえり。もう皆も来ているわよ」

「皆?」

「美希ちゃんと三谷くん、加納くんの3人が来ているわ。あら、他にもお客さんが来ているのね」

「こんにちは」

「どもです」

「お久しぶりです。鏡子さん」

「蒼ちゃんに紬ちゃん。こんにちは。静久ちゃんもお久しぶりね。さあ、あがって」

「「「はい」」」

 

 リビングには、のみきや良一、天善が座って何やら話をして盛り上がっていた。

 

「おっ主役のご登場だ」

「遅いぞ鷹原」

「すまない。先にお邪魔させてもらったぞ」

「ああ、他の奴らも来ているからな」

 

 そして、あとから静久さん、紬さん、蒼の順番でリビングに入ってきた。

 

「アンタたちもうこんなに早く来てたなんて。聞いてないわよ」

「うむ、鈴白に先に言って待っててくれと言われたからな」

「お、紬も来てたのか」

「む、むぎゅ!?」

 

 良一が紬さんに声をかけると、紬さんは怯えるように俺の後ろに隠れた。

 

「なんか。怖がってるぞ」

「良一。お前何をしたんだ?」

 

 のみきが、水鉄砲を良一に向ける。

 

「ちょっと待て。俺はなんもしてねえよ」

「だったら何で怖がってんだよ?」

「は、男の人の裸が恥ずかしいので・・・・・・つい・・・・・・」

「今、服着てるし」

 

 良一が服の襟を持ちながら、抗議した。

 

「諦めなさい紬。こいつはそういう生き物なのよ。慣れるしかないわ」

「む、むぎゅ・・・・・・。・・・・・・。う~ん・・・・・・はい!慣れました」

「早いな!」

 

 一方、天善は、

 

「はっ!あ、み、み、水織先輩。どどどどうしてここに?」

「あら加納くん。こんにちは」

「は、はい!!!!本日はご機嫌麗しゅうございます!!!!」

 

 天善の言葉遣いがいつもと違うような気がするが・・・・・・。

 

「あ、水織先輩もいたんですね。ちっ~す」

 

 隣にいた良一も、静久さんに気づいて軽く挨拶をかわす。

 

「あ、三谷くんも。ちっ~す」

「貴様!!!!水織先輩になんて挨拶をさせている~!!!!」

「ぐわぁ!!」

 

 突然天善がキレて、良一の頭を卓球のラケットで思いっきりぶっ叩いた。

 

「天善お前どうした?」

「いて~。天善は水織先輩が絡むといつもああなんだ」

 

 良一がぶたれた頭を抱えながらそう説明した。

 

「駄目よ加納くん。皆で仲良くやらなきゃ・・・・・・」

「す、すみません!!!!大それたことをしてしまいました」

「それに、あくまで主役はパイリくんと鈴白くんなんだから・・・・・・」

 

 静久さんの一言で、俺と天善の表情が固まった。

 

「な、なななどういうことだ?!み、水織先輩が・・・・・・水織先輩がファーストネームで」

「い、いやそれより静久さん。さっきのは皆の前で言うのはやめてほしい」

「そっちもファーストネームだと?」

「あら?お気に召さなかったかしら?パーイーリくん?」

「だからパイリはやめて」

「あ、ああ・・・・・・あああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 俺と静久の会話劇をよそに、天善がすさまじい発狂を放っていた。

 

「いや、落ち着け天善。お前はクールな男だろう」

 

 そして、何やら呪文のように独り言をぶつぶつ言い始めた。

 

「たかがファーストネームがなんだ!!これぐらいで揺れる俺ではないぞ天善」

「落ち着け天善!!冷静になれ天善!!クールな男だ天善!!」

「天善天善天善天善!!!!!!」

「うるさい!!!!」

 

 痺れを切らしたのみきが、天善に水鉄砲を放つ。

 

 パンッ!!パパン!!!

 

「ぐはっ!!」

 

 そのまま畳の上で大の字のまま、天善は事切れた。

 

「なんか盛り上がってるねぇ」

「お前は・・・・・・」

 

 後ろから鴎と・・・・・・。

 

「ふん、よそ者の歓迎会を盛り上げろという下らぬ任を請け負ったと思えば、なんだこの体たらくは」

 

「どちら様?」

 

 その鴎の後ろに見知らぬ男が出てきた。

 

「誰とは失礼だな」

「鴎。お前の知り合いか?」

「ううん。ついさっきいたことに気づいた」

「な、この徳田の存在感に気づけないとは正気か?」

 

 当たり前だ。てか誰だよこいつ。

 

「彼は徳田君。蒼たちと同じ学校の同級生で『徳田スポーツ』の社長の息子さんだ」

 

 廊下から現れた七夜がそう説明する。

 

「徳田って言われてもなあ」

「そうだよね。私たち知らなかったし」

「なっ!?徳田・・・・・・なのに」

 

 そういって、徳田という男はそのまま膝に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 机の上には、食堂の時よりも豪華な料理が並んでいた。

 

「せっかくのリベンジだし・・・・・・。それくらいは腕をふるったほうがいいかなって」

「てかしろは、いつの間に居たんだ?」

「のみき達に捕まって、せっかくだから全員揃う前に、台所借りて早くから料理の準備してた」

 

 つまりのみき達と同じタイミングで来て、早い段階で料理の用意をしていたわけか・・・・・・。

 

「ありがとな」

「別に、七夜達に無理やり頼まれてやったことだし」

 

 しろはは少し照れながら、自身が作った料理をつまむ。

 

「う~ん。やっぱり覚えてないな~」

「な、そんな馬鹿な~」

「ぜんぜん知りませんね」

「ガクッ」

 

 一方、徳田は相変わらず鴎や紬に、(おそらく)自身のスポーツ店についてあれこれ語っているが、2人にはあまり記憶に入られていないようだった。しばらくするとのみきが立ち上がり、軽く咳払いをした。同時に皆の視線がのみきに集まる。

 

「皆、本日は鷹原と鈴白の歓迎会のリベンジに参加していただき、誠に感謝している。前回の歓迎会にはいなかったメンバーもいるようだが、ますますこの歓迎会が盛り上がるよう、皆に楽しんでいただきたい。そこでだ。今回はどうやら鈴白がなにやらこの歓迎会のために、あることをするらしいのだが・・・・・・」

 

 その瞬間、リビングの電灯が落ちて、辺りが真っ暗になった。途端、周囲が何事かと騒ぎ始める。

 

「なんだ?停電か?」

「みんな落ち着け!鷹原。鏡子さんを呼んでブレーカーのある所まで・・・・・・」

 

 

「その必要はないよ」

 

 皆が一斉に声がした方向へ振り向く、すると下からライトを照らした七夜の顔が襖から出てきた。

 

「むぎゅ~!!!!!」

 

 紬さんが悲鳴を上げながら、静久さんに抱き着く。

 

「一体なんのつもりだ?これは」

 

 俺が七夜に説明を求めると、

 

 パチンッ!

 

「うおっ!?」

「ふぇ!?」

「なんとぉ!?」

 

 皆の前に、それぞれ火が灯った一本のろうそくが出てきた。

 

「なあ、いつの間に?」

「ねえ?ななやん。今のどうやったの?」

 

 さっきのろうそくの出現の仕方に、全員が興奮気味だ。

 

「まあ、静粛に。君たち。このシチュエーションで夏といえば?という質問がきたら?」

 

 突然の質問に皆が悩んでいると、蒼が、

 

「まさか・・・・・・。このためにろうそくを用意したの?」

 

 蒼の問いかけに、七夜が不気味に笑う。

 

「そうさ、夏といえば怪談だろう?そして皆の前にろうそくが出たら、あとは分かるだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳥白島百物語の・・・・・・始まりだ」

 

 

 

第4話 鳥白島百物語へ続く・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません。この3話で怪談話回を取り入れるつもりだったのですが、その前座が思いのほか長くなってしまって、泣く泣く次回に回すことになってしまいた。次回こそ怪談話回なので、次回もお楽しみください!!
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