ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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ようこそ櫛田桔梗の教室へ

こんばんは、なぜか嫌いな女に『人付き合いの方法』を教えることになってる私は櫛田桔梗です。

 

……考えてみたら、なんでこんな場所で?

 

「堀北さん、アドバイスするのは良いんだけど、なんで特別棟に呼んだの?」

 

「そうね……先にそちらを片付けましょうか。須藤くんが事件を起こしたのが、この特別棟らしいの。本人に会う前に、現場を確認しておこうと思って」

 

「なるほど」

 

須藤くん、わざわざ薄暗いこんな所に呼び出されたってことは……やっぱり悪意を持った誰かのせいなんだ。

 

「今回の須藤くんの暴行事件、あまり詳しくは聞けなかったけれど……この場所で、女子生徒が襲われてるのが聞こえて、それを止めに入ったらしいわ。それで手を出してしまったと」

 

ちょっと意外かも。須藤くんだったら普通に挑発するだけでも手を出しちゃってそうだし、前みたいにケンカしたのかな?と思ってた。

 

「そうなんだ……。どのクラス、誰に手を出しちゃったかも分かる?」

 

「須藤くん本人にも聞いたけれど、龍園くんに暴力を振るってしまったらしいわ。CPが変動してる事からも間違いないでしょうね」

 

そう言われ、スマホを確認してみると……確かに龍園クラスのCPも800あったはずだけれどCP782まで落ちていた。ついでに、私達のクラスもCP300あったはずがCP286になってる……。

 

「あ、ホントだ」

 

「櫛田さん、こういう情報は見逃さない方が良いわ。気をつけるべきね」

 

は?うっざ。上から目線で偉そうに。こっちは放課後ずっとクラスメイトを励ましたり、メッセのやり取りで忙しかったんだよ。ボッチの暇人と一緒にして、本当に何様のつもりなの。……せっかくの機会だし、態度も指摘しておこう。

 

「堀北さん……、あんまり人と関わってこなかったから分からないのかもしれないけれど、そういう言い方は本当に良くないよ。上から偉そうに、見下すように、吐き捨てるように命令してきて。正直、誰が聞いても『ウザい』……って思っちゃうかもしれないよ」

 

「……そんなつもりはないわ」

 

つもりで言ってたら、その方が頭おかしいでしょうが。……意識せず言ってるのもヤバいけど。

 

「どう思ってたとしても、そう受け取られちゃうよ。言ってる内容が正しかったとしても、何を言ったかじゃなくて、どう思われるかが全てだよ」

 

「……そう」

 

曲がりなりにもクラスリーダーとして認めて『少しだけサポートしてやろう』と決めた矢先に偉そうに言われてしまったので、思わずキツめの本音が少し出てしまった。

 

「とりあえず、先に中を見よっか!」

 

いつもの癖で、場を良くするための笑顔で明るい声を出して切り替えてしまった。悪いことでもないし、相手が誰だろうとやれた方が良いのだけれど、堀北が相手でも意識せずやってしまう自分が、ちょっと複雑だ。ひたすら他人のために笑顔を作り、気配りして、自我が無いような気がしてしまう……。

 

「えぇ。行きましょう」

 

まぁ仕方ない。もしかしたら入学直後と違って、それなりに仲良くなって信頼される可能性が出てきたのかもしれないし、やれることはやってみよう。何か『秘密』を掴めるかもしれないし、味方として価値を認めさせる事が出来たら、過去を暴露される可能性も下がるかもしれない。

 

……そういえば、虎徹くんも、電話をした後のチャットで『何をするにしても仲良くなっておいた方がいいと思うよ』と言っていた。バカな所もあるけど、人間関係とか社交性に関しては結構優秀な人だと思う。

 

あっ、でも、いきなり堀北さんにブチ切れたりしてたから、やっぱ不良かも……。

 

 

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かなり暗い特別棟を見て回ること15分ほど。分かったのは、電気が無い場所では近くに居る相手の顔もほとんど見えないということ。そして、どこにでもあるはずの監視カメラが、ほとんど無い区画があったということ。

 

「堀北さん、須藤くんからはどんなことを聞いたの?」

 

「……場所は、前に彼が起こした暴行事件と同じような所だったと聞いたわ」

 

「あ、だから迷わず確認できてたんだね」

 

5月くらい、堀北さんが頑張って須藤くんが停学を回避できたという話は聞いてる。

 

「誘い出されてしまった理由は、龍園クラスの、……浅井くんに釣られた、騙されたと言っていたわ。『龍園が堀北と一緒に特別等に入っていくのを見た』と言われたと」

 

「えっ、虎徹くんが?……ちょっと意外かも」

 

龍園くんが絡んでるのは間違いないと思ってたけど、虎徹くんが協力してた?……ちょっと想像してなかった。割と友好的に、みんなで仲良くやろうとするタイプで、それこそ一之瀬さんのクラスに居てもおかしくないような人っていう印象。だからこそ、龍園くんと意見が合わず、ついに制裁を受けたと聞いてた。私も足を怪我してる所は見たし。

 

それなのに、直接的に須藤くんを排除するため協力してたって……。龍園くんに命令されたから、なのかな?

 

「心配で浅井くんと一緒に行ってみると、暗闇の中で……龍園くんが私の名前を呼びながら、女性を痛めつけてる声が聞こえた。だから、殴りかかって止めに入った……と言っていたわ」

 

「龍園くんが堀北さんを襲ってたように思えた、っていうこと?」

 

「そのようね」

 

「へぇ~……」

 

完全に、計画的に、須藤くんを潰すための状況作りと策略だったんだ……。

 

「この暗さ、声だけで判別しにくい環境。……そして、須藤くんの性格を把握した上で計画された犯行。色々と後悔してしまうわね」

 

「止めたかったってこと?」

 

気持ちは分かるけど、ちょっと無理だと思うけどなぁ……。

 

「この1ヶ月、浅井くんが須藤くんに接触してるのも確認していたけれど、本人に聞いても『なんでもない』と言うだけだった。もしかしたら、その時から何か情報を吹き込まれていたのかもしれない。……私も、『何を言われても、黙って去るように』とは忠告していたのだけれど、残念ながら無駄になったわね」

 

あ、そういえばネットの掲示板でもあった『龍園が堀北を狙ってる』っていうのも、そういう先入観を植え付けてたのかも。須藤くんが見てたのかは分からないけど、きっと誰も疑問に思わなかっただろうし……。本当に厄介なクラスだ。

 

 

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ひと通り特別棟を確認したので、寮へと戻ることになった。ただ、今のうちに、人が少ないこの辺でアドバイスは終わらせておこう。

 

「堀北さん、これから須藤くんの所に行く前に、いくつか私と約束して欲しいんだ。……堀北さんも、須藤くんを怒らせるのは本意じゃないでしょ?」

 

「……えぇ。今日来てもらった一番の目的はそれだもの。言って頂戴、覚悟は出来てるわ」

 

あーもう、態度だけじゃなく聞き方すらも偉そうでウザいな。

 

「なんていうか、もう……。きっと気付いてないんだと思うから言うけど、今の『言って頂戴』も偉そうだよ。悪いけど、イラッとするよ。挑発してるつもりは無いんだよね?」

 

「当然よ。……敬語を使えとでもいうの?」

 

なんだよその『心外だ』『本気で言ってるの?』みたいな顔は……。わざわざ人から教えてもらおうっていう態度じゃないだろ。

 

「堀北さん……人間関係すべての基本だけど、ちゃんと相手に敬意を持たなきゃダメだよ?」

 

言うまでもない事なんだけどね。性格が悪すぎて知らないんだろうから言うけどさ。

 

「櫛田さん、アナタに対しては持ってるつもりだし、そう言うアナタはどんな相手にも敬意を持てるの?……それが、明らかに自分より劣ってると思う相手にも?」

 

うわ酷いなこれは。人との関わりが無かった果ての傲慢さ。中学生以下、いや下手したら小学生以下の価値観かもしれない。

 

「まず、自分よりも劣ってる相手だから見下しても良い、っていう認識がとんでもなくダメだよ。例え『自分の方が色々と出来るだろうな』と思っても、それを態度に出して偉そうにするって、その……ちょっと、ありえないよ」

 

「それは、……気をつけるわ」

 

「そもそもさ、人としての優秀さって何を見るの?学力?運動神経?……その2つだけで人としての価値が決まると思ってるの?」

 

「いえ、……少し前までは、正直そう思ってたかもしれない。けれど、この学校に入って、それ以外にも大事な要素があると、少しは分かってきたつもりだわ。無人島でのチームワーク、船上試験での信頼度。そういう、人としての色々な能力もあるんだと」

 

ちょっとは分かってきてるのかな。

 

「それが分かってるなら、どんな時でも『この人は自分にはない長所があるかもしれない』って思えばいいんだよ。その人から学べるものがあるかもしれない、もしかしたら自分より優秀かも?って。……思えそう?」

 

「やってみるわ。けど、その……明らかに何も無い人だって居るんじゃないの?名前を出してしまうと、山内くんみたいな人とか」

 

はぁ……。

 

「……池くんの名前を出さなかったのは、無人島のキャンプで色々と知ってて、助けてくれたからでしょ?そして、今日こうやって動いてるのも、須藤くんの能力を評価してるから。前まで堀北さんが、自分以下の価値の無い人間だと決めつけてた2人にも長所があったじゃない。だったら山内くんだって、『自分が気付けてない長所があるかもしれない』って思ったって良いんじゃないの?」

 

「そうね。……その通りだわ」

 

なんだか保育園児くらいの子に教えてる気分になってきた。……これ、かなり色々アドバイスしても、一般人レベルまでなれるかどうかっていうレベルかもしれない。一瞬でも『私より信頼を得られるリーダーになられたら困る』なんて心配してたのが恥ずかしくなっちゃうよ。

 

「堀北さん、山内くんだって、ああやって嘘ばかり言っちゃうのは欠点かもしれないけれど、もしその度胸が『相手を楽しませるため』っていう目的で発揮されたら、もしかしたら『お笑い芸人』とかになれるかもしれないでしょ?面白い嘘でみんなを楽しませてくれる人とかに。クラスがつらい時に、明るくしてくれる人になれるかもしれないよ?」

 

まぁ、詐欺師になる確率の方が高い気がするけど。

 

「そんなのありえない、とは言えないわね」

 

「うん。私達まだ未成年なんだし、誰が将来がどうなるかなんて分からないでしょ?……だから、勝手に決めつけて、勝手に見下すのはまず辞めようよ。もしかしたら将来は助け合う関係になれるかもしれないとか、そう思って、人付き合いをしてみようよ」

 

「そう、ね……。分かったわ」

 

 

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「じゃあ、須藤くんへの励ましだけど……。今回、『なんで手を出したの』とか言うのは辞めておこうね」

 

「でも、……それだと、また同じ過ちを繰り返すんじゃないかしら?」

 

その考えも分かるけど、人付き合いでは無価値だ。

 

「まず一番大事になってくるのは、きっと『自分は必要とされている』っていう自覚だと思うんだ」

 

「承認欲求ということ?」

 

「そうだね。須藤くん、勉強は出来ないけど、運動は出来る。だから頑張って、みんなに認めてもらいたい。そう思ってたんだと思うんだ。もちろんCPを増やしたいっていうのもあるだろうけど、誰よりも運動が出来ると証明したい、認められたいって」

 

「……その機会を奪われた訳ね」

 

「だから、めちゃくちゃ落ち込んでると思うし、そんな時に『お前が悪い』なんて怒られたら、どうなっちゃうか分からないよ。……そうだ、龍園くん達がまた挑発しに来たりしたら、本当に退学になるような事件を起こしちゃうかもしれないね」

 

もしかして、それも狙い?ありえるかも……。

 

「気をつけておきましょう。誰か一緒に居ないとダメかもしれないわね」

 

「うん。……話を戻すと、言ってあげるべき言葉の1つ目は『須藤くんが頼りだった』という事。居なくなって、本当に厳しい、困ってる、居てほしかったって。素直に伝えよう」

 

「それは良いけれど……、それ、彼を責めてる事にならない?」

 

「言い方に気を付けて、そう思われないようにしつつ、言うべき言葉の2つ目は『須藤くんは悪くない』って伝えよう」

 

「……彼が悪いじゃないの」

 

まぁそうだけど。

 

「例えそうだったとしても、絶対言っちゃダメだよ?……今回の件、須藤くん以外に悪い人が居たとしたら誰?」

 

「もちろん、龍園くん達でしょう」

 

「その通り。だから『龍園達は最悪だ』って伝えたり、『アイツら許せない』とか『めちゃくちゃ卑怯で悪い奴らだからヤバい』っていうのを言って、だからこそ『須藤くんも居てくれないと勝てない』って伝えようよ」

 

「なるほど。見直したわ櫛田さん」

 

「えっと、……これ細かい事になっちゃうけど、『見直した』って『今より評価が低かった』って事だよね?正直に言って、偉そうでムカつくから、それも辞めた方がいいよ堀北さん」

 

普通に褒めろよ。どんだけ人付き合いの経験が無いの。

 

「別にそんなつもり、……分かったわ」

 

性格も少しはマシになってる?いや、ちょっと分からないや。

 

「流れは今の感じで、あと付け加えると良さそうなのは、『自分がどれだけ勝ちたいか』の気持ちとか、素直な想いを伝えて、本心から言ってると分かってもらえたら説得力が増すと思うよ」

 

「……えぇ、分かった」

 

これだけ言えば大失敗するって事は無いと思うけど……。こんな機会もう無いかもしれないし、最後にもう1つだけ言っておこうかな。

 

「堀北さん、私は、人の感情や思考って、どんな時も2パターン以上あると思うんだ。今回の件に関しては『須藤ふざけんな』っていう気持ちと『須藤くん可哀想』っていう気持ちで2種類は確実にあるし、もっと言うと『龍園ふざけんな』『龍園くん達が怖い』『学校側ふざけんな』『高円寺も動けよ』とか、色々と思う事はあるでしょ?」

 

「当然あるわね」

 

「人付き合いで大事なのは『内面の全部を見せるのは諦める』って事だと思うんだ。その場その場で、その相手が必要としてる感情だけを取り出す。自分の中に色々な気持ちがあって、1番強い本音が合わなかったとしても、相手が望んでるものだけを取り出す」

 

「相手が望むものだけ……」

 

まぁ、人それぞれの違いもあるし、そこを理解して記憶して次に生かせるようにしていく、っていうのがコミュニケーションの難しい所だけど。

 

「そもそも『自分をすべて理解して欲しい』なんて、不可能だよ。100%考えが合う人間なんて居ない。そうやって諦めるのが最初だと思う。『自分の思ってる事を思ったまま伝える』っていうのは、言ってしまえば、自己満足でしかないんだと思う。ついつい思ったまま言いたいことを言っちゃうっていうのは、それはもう……ちょっと『精神が幼い』って私は思うかな」

 

「……勉強になるわ」

 

あっ、これ……言い過ぎちゃったかも。ほぼ直接『お前はガキだ』って言っちゃったようなものだし、偉そうに言っておきながら私も本音を言い過ぎたかもしれない。あんまり人のこと言えないや。

 

「えっと、それじゃ、そろそろ須藤くんの所に行こっか!」

 

誤魔化すように、失敗したような恥ずかしさを隠すように、先に歩き出した。

 

 

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寮、須藤くんの部屋まで来た。当然だけど、1年生の部屋番号は全部知ってて覚えてるし、2,3年の先輩も有名な人は大体覚えてる。

 

「えっと……」

 

「まず私が話すわ。もし……途中、流れによっては止めてくれても構わな、止めてくれると助かるわ」

 

「うん、分かったよ」

 

そう言って堀北さんがインターホンを押したけれど、……反応が無い。居ないの?

 

「まさか、謹慎中なのに遊びに行ったりしてないでしょうね……」

 

ちょっとありそう。思わず堀北さんの呟きに内心で同意していると、ゆっくりとドアが開いた。

 

「……なんの用だ。2人揃ってバカにしに来たのか?」

 

うわ、すっごい暗い顔……。それにしても、わざわざバカにするために来る訳が無いでしょ。悪口言う時は本人が居ない所でやるに決まってるよ。

 

「そんな無意味な事をしに来たんじゃないわ」

 

「こんばんはっ、須藤くん。大変な時にごめんね」

 

「廊下で話せないから、部屋に入れてくれないかしら?」

 

「……帰ってくれ。人と話す余裕なんてねぇんだよ」

 

そう言いながらドアを閉められかけたけど、堀北さんが足を挟んで強引に止めた。

 

「待って、須藤くん。……今回アナタを責めることはしない、約束する」

 

あ、私の言った通りそこはしっかり守ってくれるんだね。少しは手助けするか。

 

「須藤くん、今回の件で分かった通り、龍園くん達があまりにも卑怯な敵だから、私達も困ってるんだ。これからのためにも、話を聞かせて欲しい。助けて欲しいな。お願い!」

 

必死な顔を作って、手を合わせてお願いする。どうだ!?

 

「チッ……」

 

あと一歩かな?

 

「須藤くん、私からもお願いするわ。アナタの持つ情報だけじゃなく、これから他クラスと戦い、特別試験に勝っていくには、間違いなく須藤くんも必要よ。……ここだと誰に聞かれるか分からないし、中で話をさせてくれない?」

 

「……すぐ帰れよ」

 

照れてる、というより諦めたような様子で、ドアを開けてくれた。堀北さんの説得が効いたような感じはちょっとムカつくけど、ここで拒否されるよりはまぁマシか。

 

「ありがとう、須藤くん」

 

「ありがとねっ!」

 

ある意味でもう用件は済んだ。『私達はアナタの味方』というのは認識してくれたし、あとはもう『居なくなったら困るから我慢して欲しい』とか『なるべく私達と一緒に居て』みたいな事を頼む形で強制すれば大丈夫でしょ。

 

……まぁ、堀北さんも心境に変化があるみたいだし、他人と仲良くなる余地があるなら、そのポジションに入って仲良くなっておけば、過去暴露の確率は下がるかもしれない。

 

様子を見つつ、もうちょっとだけ協力関係は続けようかな。

 

 




100話?
な、なんで……?

いつも読んで頂きありがとうございます。
もうちっとだけ続くんじゃ(50話くらいから毎話思ってる)

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