ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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午前の部

「頑張れー!いいぞ~!!!」

 

こんにちは、女子が頑張って玉入れしてるのを全力で応援してる俺は浅井虎徹です。うーん、めちゃくちゃ良い景色だ……。

 

「虎徹、なんでそんなに応援してんだ?」

 

石崎に不思議そうに声を掛けられた。

 

「……ほらアレ、見てみなって」

 

「んん?あぁ、一之瀬だろ?あのクラスみんな楽しそうにしてるよな」

 

「そうそう。いや違う、問題はそれじゃない」

 

確かに楽しんでる雰囲気めっちゃ良い事だと思うし、羨ましいけどさ。

 

「ん~?……なんだ?分かんねぇ」

 

「ほら、一之瀬の胸だよ。……アレもう、バスケットボール入ってんじゃないの?」

 

玉を拾って、投げて、上下に揺れる巨大な塊。たまらん。

 

「あ~!なるほどな!……確かにでけーな。でもバスケのボールは言い過ぎじゃね?」

 

そうか?そうかも。

 

「ソフトボール、いやハンドボールくらい?」

 

永遠に見てられるよ。たまんねーな。

 

「そうだな。……よっしゃー!頑張れー!!」

 

バカほど声が大きくなるのか、石崎の声かなり響くんだよな。俺も声出しとくか。

 

「いいぞー!勝てそうだよ頑張れー!!」

 

うん、大声出すの気持ちいいかも。割と他クラスも男子がギャーギャー騒いでるのでそこまで目立たない。ちなみに勝てそうっていうのは嘘、見てても全然分からん。

 

なんか、他クラスの女子、見たことないヤツでも巨乳そこそこ居るな。一生懸命に玉を拾って投げてるから視線への警戒心が薄く、めちゃくちゃ見放題。楽しすぎるよ。

 

「おい虎徹、あのDクラスのやつも大きいぞ。……すげぇな、1番デカいんじゃね?」

 

「……確かに」

 

ナイス石崎、良く見つけた。ちょっと大人しそうな、あんまり目立たない子だけど、すさまじい体だ。……録画したくなってきたな。もしかして、これを警戒して競技中の『学生証端末の所持禁止』だったってこと?おのれ運営!鬼!悪魔!

 

内心でブチ切れつつ、視線は必死に、そして口では応援してるフリのための声援をテキトーに出してると、終了の放送が流れてきた。

 

『1年、女子、玉入れ。終了です。結果を確認するので待機して下さい』

 

結果は……パッと見た感じだと全然分からんな。同数すらありえそう。

 

しかし、素晴らしすぎる競技だったな……。今日はもう何があっても満足だよ。1試合で終わりなのが寂しい、あと30分くらいやって欲しかった。

 

あ、ちなみに伊吹はかなり良い動きで個数を稼いでたけど、胸の方はあまり良い動きをしてなかった。……残念!

 

 

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棒倒しでそこそこ疲れ、女子の応援などで疲れ、割ともう体育祭が終わっていい気分の俺です。玉入れは本当に僅差で赤組が勝って、白が負けちゃった。……まぁ、別にいい。心から気にならない。

 

次の競技は『綱引き』みたいだ。安全面への配慮から男女別でやるらしい。2本先取で勝ちが決まる、棒倒しと同じ方式。

 

「あれ?紅白の2チームで別れんの?なんか四方綱引きとか言ってなかったっけ?」

 

なんか4方向でやるの面白そうだと思って覚えてたんだけど、普通の綱引きみたい。どういうことだ?

 

「それは推薦競技の方ですよ、浅井氏」

 

近くに居た金田が答えてくれた。そうだったっけ。

 

「サンキュー金田、なるほどね。……別に全然良いんだけど、俺が1つも推薦競技に選ばれてない理由ってなんか知ってる?」

 

「その……浅井氏は出られない可能性が高そうだったから、ではないでしょうか?」

 

「あ~、そうかも?」

 

水工作、須藤バイバイ作戦の2つあったし、推薦競技に出なくなる可能性も確かにあった、かな?停学になるようなヘマするつもりは無かったけど、メリットが上回ると判断したら俺1人が停学になるくらい普通にしてたかもしれないもんな。もしくは……俺が須藤に殴られて負傷、とか?そっちもありそうだな。

 

「その場合、代役を立てるには、競技者の変更には1競技1人あたり10万ppかかるそうですし」

 

「は!?たっか!」

 

すげぇ値段設定だな。……簡単に交代させないように?情報戦を重視して?いやそれにしたって、ねぇ?高すぎでしょ。

 

「何騒いでやがる。黙れ」

 

「うぃーっす」

 

龍園に怒られちゃった。

 

「綱引きだが、1戦目は普通に勝て」

 

「……えっ?それだけ?」

 

思わず声が出ちゃった。いやだって、そんなアホみたいな指示があるかよっていう話だし……。

 

「フン……。陸上競技なら勝敗も割れるだろうが、筋力勝負なんだから俺らの方が優位なはずだ。手を抜かずに勝て。まぁ、そうだな……。クラスごとに別れた上で、身長順に並べ。アルベルトが一番後ろだ」

 

「OK, BOSS」

 

指示あるなら催促しなくても言ってくれりゃいいのに。あっちは須藤と高円寺が居ないから、テキトーにやっても勝てるはず?って事だったのかな。『筋力勝負なら勝てる』も割と分かるかも、体デカくて筋肉あるタイプは全クラスでも俺達が一番多そうだし。

 

「聞け。2戦目だが、俺の合図で全員綱から手を離せ。クク、軽く痛い目を見てもらう訳だ」

 

「うわ~……」

 

楽しそう。悪いヤツだね~。でもその方法だと3戦目は確実に勝てそうかも。……加えて言うと、この後の競技でも優位に立てそう。

 

もしかして、こういう悪巧みをしてくれるのは俺が『悪意を体験させてやりたい』って言ったから?それとも、龍園が元々持ってる思考パターン、狡猾に遊びたいから?……うーん、分からん。どっちなのか全然分からない。

 

分かるのは、この上なく良い感じに『邪悪』を演出してくれてる事だな。俺達の方が簡単に停学とかになったら相手が喜んじゃうし、今そうするとデメリットが大きすぎる。それを回避した上で、可能な最大限やってくれてる感じ。俺としては感謝したくなるくらい。

 

……何も知らされてない一之瀬クラスの男子達には、巻き込む形で同じように怪我人が出るかもしれなくて申し訳ないけどさ。

 

『1年、綱引き。男子の部。開始1分前です』

 

あらかじめ合図があった時のことを伝えても良いんだけど、もしかしたら敵にも教えちゃうかもしれないからなぁ……。悪いけど黙っておこう。後遺症が残るような怪我が出ないようには願っておこう。

 

「ククク……」

 

相変わらず不吉な笑い方するねぇ龍園。うーん、やっぱ『悪意の体現を手伝ってくれている』というよりは『ただ楽しめる方』で手段を選んでる気がする。味方としては頼もしいけど、他クラスからしたら本当に迷惑な存在だろうな……。

 

 

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「みんな、頑張ろう!」

 

また平田がクラスを盛り上げようと元気に声を上げてる。……良いヤツなんだけど、見てて少し痛々しいな。いやもう無理なんじゃないの?敵ながら同情しちゃうよ。Dクラスの他の奴らには『さっさと終わって欲しい』っていう雰囲気ちょっとあるし。

 

Aクラスの方は、なんかハゲが他の生徒に色々と言われてるみたいだ。口論?なんで今やってんだか、アホなのかな。ちょっと遠いからどんな話をしてるかは聞こえないや。

 

「1年、位置について。第1試合を始める。しゃがんだままロープを地面から持ち上げ、引っ張らないように」

 

審判は学年主任、Aクラス担任の真嶋がやるみたいだ。競技用のピストル?あの合図するやつも持ってる。目の前でフライングしてないかの判定するためかな。

 

「構えて。それでは綱引き、よーい……」

 

『パァン!』というピストルの破裂音が鳴り響き、一斉にみんな立ち上がりながら綱を引き合う。よっしゃ!さっさと終わらせてやる!!

 

「オリャー!!」

 

「よっしゃ引けー!」

 

「勝つぞー!!!」

 

すぐ後ろから石崎の大声が聞こえたり、他の生徒もちらほら大声を出してる。

 

ん?一之瀬クラスの方では『オーエス!』の掛け声でタイミングよく力を合わせてるみたいだ。敵じゃないし、一緒に引いてるんだし真似しようか。

 

「オーエス、オーエス!」

 

……周りは真似してくれないけど、なんとなく声に合わせて力を入れてくれてる、かな?

 

それにしても、始まってすぐさっさとこっち側に引き込めると思ったのに、ほんの少しずつ動いてるくらいだ。すげぇ意外。俺も本気で引っ張ってるんだけど、わざと誰か手抜いてんじゃね?そいつ龍園に殴られろマジで。

 

2分くらいかな?結構長い時間が経った所で、終了の合図がされた。

 

「そこまで!……第1試合、白組の勝利!」

 

よしよし。途中ちょっとだけ戻されたりしたけど、確実に勝利したのは間違いなかった。時間切れまで粘られるとは思わなかったけど……。

 

「ふぃー、結構強かったな赤も」

 

「だね。……石崎、手抜いてた?」

 

「いやいやめっちゃ全力だったぞ!」

 

まぁそうか。他に怪しいのは……やっぱ最後尾のアルベルトと龍園のコンビかな。

 

「なんだ」

 

ジロジロ見てたら不良が喧嘩売ってきてしまった。治安が悪いね。

 

「龍園、ちょっと手抜いてなかった?」

 

「……フン。次のため調整しただけだ」

 

やっぱコイツやんけ!

 

「なんだよも~。ちゃんとやれよ~」

 

「そんなことよりお前ら、俺が合図出したら、分かってんだろな?忘れるなよ」

 

あ、そっか。手を離そう作戦もあったね。気をつけよう。

 

どうなるかの好奇心を10としたら、他クラスへの心配が6、申し訳無さ3くらいかな。龍園は変態だからイジメたい精神30くらいだと思うけど。

 

 

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「1年、位置について。第2試合を始める。しゃがんだままロープを地面から持ち上げ、引っ張らないように」

 

さっきと同じことを言う真嶋。面白みの無いヤツ。

 

「構えて。それでは綱引き、よーい……」

 

『パァン!』

 

「よっしゃー!」

 

バレないように最初は割と本気で引っ張る、……けど、なんか少しだけ負けてるなこれ。どういうこと?最初だけ全力でやろうみたいな作戦なのかもしれない。どうすんのこれ。

 

「今だ!」

 

っ、あっぶね!少し遅れたせいで、ちょっとだけ前につんのめりつつも慌ててロープを手から離す。物凄い勢いでロープが飛んでいき、手のひらが擦れて、削られたみたいに白くなっちゃった。

 

「いってぇー!」

 

「おいなんだよ!!」

 

うわぁ、結構酷い光景だ。相手の赤組より、こっち側に居た一之瀬クラスの男子達の方が被害大きいかもしれない。後ろに引っ張ってたのに、いきなり前に吹っ飛んで、手とか肩を痛そうにしてる。

 

「……第2試合、赤組の勝利」

 

苦い顔の真嶋が淡々と宣言した。そりゃ審判やってて目の前で軽い怪我人だらけになったら困るだろうね。反省文とか書くのかな?

 

「ふざけんな龍園!お前のせいだろ!」

 

ブチ切れまくりの、柴田?ちょっと小柄で童顔イケメンのやつが龍園に詰め寄ってた。まぁ当然だよね、他に怪しいヤツ居ないし。殺人事件が起きたとしても龍園が真っ先に龍園が疑われると思う。

 

「ククク、手が滑ったんだろ」

 

いきなり摩擦がゼロになる手ってどんな手だよ、マジなら病院行け。言い訳ヘタクソか。

 

「てめぇ……。次はちゃんとやれよ!?」

 

「フン、仕方ねぇな」

 

最初からそういう予定だったのに、譲歩したみたいな態度、不機嫌そうな顔してる……。精神的に優位に立とうとする交渉力みたいなのを褒めれば良いのか、勝つために頑張るの当然なのに偉そうに言ってるアホさを怖がればいいのか分かんね。

 

「1年、位置について。第3試合を始める」

 

切り替え早いな。みんな不満顔だけど、大きな怪我人は居ないみたいで、さっさと終わらせようというので一致団結してるかもしれない。

 

 

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綱引きの第3試合は、他クラスは全力でやるのが怖いみたいな雰囲気になり、俺達のクラスだけが気にせず力を入れまくってあっさり勝利した。まぁ、そりゃそうなるわな。

 

女子だけの綱引きもあって、そっちは龍園が居ないからか何事も無く淡々と進み、僅差で白組が勝ってた。……女子の方は接戦が多くて健全だね、本来の体育祭という感じがある。

 

そして先程、障害物競走が終わった。ネットの下をくぐったり、平均台の上を走ったり、タイヤを引きずって走れとか。割と遊んでるみたいで楽しかったけど、やっぱ競技としてはとにかくスピード速いヤツが有利って感じするかな。最強は陸上短距離種目やってるタイプだと思う。障害物以外は普通に走るんだし。

 

ちなみに俺は8人のうち5位だった。うーん、手を抜いた訳じゃないんだけど、対戦相手の運もまぁまぁ影響するからね。しゃーない。団体競技ほぼ勝ってるんだし大丈夫でしょ。

 

という訳で、午前中の種目が終わり、待ち望んだ昼メシの時間になった。それぞれの教室に戻り、体育祭として特別に用意された弁当を受け取って自由に食べる事になってる。

 

汚れた服で学校設備を使って欲しくないがゆえの方法、かな?教室だけならまぁ、大丈夫だし。

 

午前中どんな感じだったか誰か女子に、……伊吹に聞きたいな。一緒にメシ食うの誘ってみよう、それくらいの信頼関係はあるはず。多分。


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