ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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午後の部

二人三脚が終わり、次の種目である騎馬戦に向けて龍園から話を聞いてる、真面目で偉い俺は浅井虎徹です。

 

騎馬戦、サボったら龍園に死ぬほど怒られそうな集団戦だ。棒倒しと綱引きは、ぶっちゃけ1人や2人手を抜いててもバレないだろうけど、騎馬戦は4人1組だから1人居ないと4人まとめて消えてしまう。欠員の影響がめちゃくちゃデカい種目でもある。流石にサボれない。

 

そして結構ぶつかり合う競技、コンタクトスポーツみたいなもんだろうから、めっちゃ疲れそう……。

 

「メンバー分けは覚えたな?……お前らはタイマンにならないようにまとまって俺らの後ろをカバーして、時間を稼いどけ」

 

ありがてぇ。龍園がアルベルト、小宮、近藤と組んで、めっちゃパワーある高身長の最強騎馬を作り、各個撃破していく作戦らしい。助かる~。アルベルトだけでもめちゃデカいし、それに乗ってる龍園もそこそこ高身長だから、マジでどのクラスの誰も手が届かないんじゃないの?……加えて、下を支える3人もゴリゴリに鍛えてる3人だから崩せないだろうし。ほぼチートでしょ、これ競技やる必要あんの?

 

そして他の騎馬は、石崎とか体格の良いヤツを均等に分けて、前を担当させる構成みたい。俺も前面にされちゃった。

 

集めればもう1つくらい大きめの騎馬を作れそうだけど、それよりはバランス良くメンバーを割り振ったみたい。弱すぎる騎馬が居て、そこがすぐ負けたら全体として数的不利になっちゃうからね。良い判断だと思う。

 

「お前らは無理して攻撃に回らなくていい。……ただし、俺を狙ってザコが群れて来た時は、死んでも止めろ。場合によっては騎馬が崩れたフリをして相手を巻き込んで倒せ。1対1で減らせるなら上出来だ」

 

酷い指示だな……。効率的ではあるけど。

 

「石崎、浅井。お前ら2人、場合によっては頭突きをしてでも押し込んでいけ」

 

「了解っす!」

 

「……了解」

 

俺そこまで、石崎ほどパワフルじゃないけどね。まぁクラスの中で体格良い方には入るだろうから、やるにはやるけど。

 

「噛み付きなんかは傷跡が残って証拠になる。やめとけよ」

 

「了解です!」

 

「……やらないよ」

 

俺を何だと思ってんだ?そう気持ちを込めた視線を向けたけれど、龍園は完全無視して、髪の毛を触りまくっていた。ハチマキに何かを塗り込むような動作をして……なにやってんだ?

 

 

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騎馬戦は片方の組が全員ハチマキを奪われる、もしくはタイムアップで得点の多い方が勝利になる。

 

『1年、男子、騎馬戦。開始10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート』

 

「行くぞ!」

 

「龍園を潰せー!!」

 

開始と同時に、AD連合の赤組ほぼ全員が龍園に向かって突撃して来た。えぇ……意味分からん。恨みを買いすぎたせいかもしれない。『あのロン毛を何が何でも潰してやる』という気迫がすごい。

 

流石にあの数の暴力で来られたら、龍園達の騎馬でもやられちゃいそうなので、慌てて龍園達のサポートに回る。壁というか盾になろうとしたけど、抜かり無く龍園は後退してきていた。予定では突っ込むはずだったけど、流石に囲まれると瞬時に判断して下がってきたらしい。賢い。

 

「集まれ!」

 

シンプルに分かりやすい指示を出してくれる龍園。その声に従って、俺達のクラス騎馬、龍園以外の4つが集まり、囲むように待ち構える。そんな俺達が固まってるのを見て、一之瀬クラスの男子達もなんとなくこっちに加勢しに来てくれてる?

 

「うおー!!」

 

「やり返すぞ!!」

 

「全部負けてらんねーぞ!」

 

そこに到着した赤組、いってぇ!かなりの勢いでぶつかってきた。この野郎……。両手が使えないので、頭で相手の胸のあたりを潰すように押し返そうとするけど、勢いがすごすぎて少しずつ下がってしまう。……マジで噛み付いてやろうかな。

 

「ククク、おもしれぇじゃねぇか」

 

どこからか龍園の声が聞こえたけど、何がやねん!?めっちゃ押されてるし、めちゃ大変なんですけど!?面白くねーわい!

 

騎手だっけ?上に乗ってるやつがハチマキ争奪の攻防を繰り広げてるっぽいのは背中に伝わってくるけど、俺は全然何も見えない。手を使わずに目の前のやつと押し合いしてるだけだ。……どうせやるなら女子相手にやりたかったな。

 

騎馬をやってるせいで手は使えないから殴れないし、バランス崩れるから蹴る訳にもいかないし、慣れない体勢で力は入れにくいし、相手は鼻息の荒い男だしで嫌になってきたけど、一応押し込まれてたのは止めつつある。敵は後ろから押されてたからか、やけに力強かったけど、こっちもなぜか後ろから力が伝わってくるようになった。

 

「押し返せ!」

 

んん?突然の合図に慌てて気合を入れ直し、前進しようとすると、おぉ、意外と進む。アルベルト達が後ろから押してくれてるっぽいかな。

 

「えっ!?なんで!?」

 

相手の方かな?妙に焦った声が上の方から聞こえたりもしたけど、全然分からん。誰かもうハチマキ取ってくれよ。

 

「次だ!全員右前に進め!鈴木はそのまま持ちこたえろ!」

 

目の前のやつのハチマキを取ったのかな?状況が全然分からんけど、なんか逆転してきた雰囲気あるかも。

 

 

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『1年、男子、騎馬戦。白組の勝利です。』

 

もみくちゃにされながら、やけに楽しそうな龍園の指示に従い続けていたら、気付けば勝ってた。まぁ、嬉しいんだけど……良く分からん。ぶっちゃけ達成感は薄い、

 

2回くらい前に居る騎馬がハチマキ取られたっぽくて、騎馬を崩して全体的に1ヶ所に集中しすぎて、ゴチャゴチャに混戦になってたから全然分かんねぇ。

 

「ククク、余裕だな」

 

「は?ボケ!めっちゃ頑張ったんですけど!?」

 

あっ、思わずみんなの前なのに言い返しちゃった。しかしなんでコイツ水かぶってんだ?そこまで暑くないけど……。見てたらなんか俺もやりたくなってきちゃった。

 

「フン。……まぁ、お前たちも良くやった」

 

周りの反応的に、俺はもう『つい素直に言い過ぎちゃうヤツ』みたいな認識されてるのかな。あんまり驚かれないで済んだっぽい。ついでに色々聞いちゃおうか。

 

「龍園、どんな感じだったの?騎馬やってたら全然分かんなかったんだけど」

 

「……最初に集まってきたザコ共をお前らが抑え、すぐにアルベルトの力で押し返した。その流れで俺がハチマキを取り、取られた奴らが俺らの壁になり、そのスキを逃さず他のヤツも潰していった」

 

「あ~、なるほど。取られて失格になった人たちが押し合いに居たらダメだからって事か」

 

「そういうことだ。……すぐ潰された奴らも、騎馬を崩して退場するのを迷ったフリして邪魔してたな、退場組も褒めてやる」

 

みんなで協力して1つずつ潰す、っていうのは悪い作戦じゃなさそうだったけど、すぐにお互いに固まったから協力プレイの精度が勝敗を分けた……みたいな感じかな?

 

「でも、まぁ、……アルベルトがすごいだけかもね」

 

改めて見るとデカいもんなぁ……。見慣れてるはずだけど、やっぱ冷静に考えてやべぇよでデカさ。2メートルくらいあるでしょこれ。いや流石に無いかな?

 

「……。」

 

なんにせよ超デカいから龍園も上から手を伸ばせただろうし、加えてムッキムキだもんね。負ける要素ねーわ。

 

「おい龍園!テメーふざけんなよ!」

 

「池くん待って!」

 

んん?なんか赤組の奴らがこっち来た。負けたからキレてんのかな?ダサすぎません?今回はかなり正々堂々とした試合だった気がするんだけど。

 

「なんだ?ザコ」

 

良く見る龍園のニタニタ顔、こんなにムカつく顔できるのも才能だよね。生まれてから一度たりとも『申し訳ない』と思ったこと無さそうな顔。

 

「お前、ハチマキになんか塗ってたろ!平田が取ろうとした時に滑ったって言ってたぞ!」

 

あ~、騎馬戦が始まる前に龍園がやってたのそういうことか。ワックスかなんかをベタベタにしてたと。つまり、ハチマキ掴まれるくらい結構危ないシーンあったってことなのか。

 

「言いがかりは止めろ、お前らザコ相手にそんな準備する必要ねぇだろうが」

 

いや、してたじゃねーか……。堂々と嘘言いながらキレまくりで感心しちゃうよ。

 

「なんだとー!?それ見せてみろよ!!」

 

「フン、ほらよ」

 

龍園がビチョビチョに濡れまくったハチマキを池とかいうヤツの顔面に投げつけた。顔狙うなよ……。

 

「うわっ、……なんでこんなに濡れてんだよ!?そうだ、証拠隠そうとしたんだろ!」

 

「知らねーよバカ。じゃあな」

 

勝手な事を言いまくって龍園は去っていってしまった。

 

「あっ、オイ!!」

 

「もういいよ池くん、戻ろう。怒ってくれてありがとね」

 

「……あぁ」

 

平田達もお疲れ様だ。負けまくってんのにキレるだけの元気があるのはすごいな。……負けまくってるからキレるくらいしかやること無いのかもしれないか。

 

一緒に『龍園マジ困るよね~』とか言おうか迷ったけど、流石にもっと嫌われそうな気がするから今日はやめておこう。

 

平田とまた仲良くなれる日、来んのかな?……無理かも?

 

 

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騎馬戦が終わり、次の200メートル走は無理しない範囲で走って8人中4位で、俺の今日の出番は終わった。まぁこんなもんでしょ。

 

残るのは推薦競技だけ。具体的には以下4種目。

 

⑩借り物競争

⑪四方綱引き

⑫男女混合二人三脚

⑬3学年合同1200メートルリレー

 

出場する選手は8割くらい運動部っぽいけど、たまにやる気あるヤツが追加ポイントを欲しがって参加してる感じ。そういうのは今ちょうどやってる『借り物競争』に出るっぽいけど……俺らのクラスは運動部だけかも。なんだかんだ走るスピードが必要だもんね。

 

お題を見てすぐクラスメイトに相談したら早そうな気がするけど、それだとルール違反なのかな?やったこと無いから分からん。みんなで急いで目的地を相談したらチームワークとか生まれそうな気もする。あらかじめ必要そうなの用意しておくとか。

 

しかし内容マジで知らんから考えようがないね。誰か知らないかな?

 

「ねぇ金田、借り物競走やったことある?」

 

「はい、ありますよ浅井氏」

 

「おぉー。どういうお題が出んの?」

 

「そうですね、自分が覚えてる限りでは『体温計』や『バスケットボール』など場所が特定しやすいものから、『なわとびを跳んで帰ってくる』という行動も含まれた指示などを覚えていますね」

 

「へ~」

 

運要素が絡みつつ、って感じなのか。俺もやったら良かったかも。

 

「他には、ただの噂かもしれませんが、『誰かのカツラ』や『1kg以上ある時計』だったり、物じゃなく『親友』や『好きな人』などもある、というのも聞きました。難しいものも混じってるかもしれませんね」

 

「いやそれは無理だろ……」

 

参加させられてなくて良かった。マジで。どこで告白させられてんのそれ。

 

 

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今更ながら『男女混合二人三脚』に俺と伊吹で出たら良いじゃん、誰かと代わってもらうのに10万ppって頭おかしいコストだけど、払ってもいいかな……と悩みながら、龍園も参加してる四方綱引きが終わるのを待っていると、ふと運営のテント下で、1人寂しく座ってるだけの白い少女が目に入った。

 

そういえば1人ぼっちで居たって伊吹も言ってたな。話しかけるか。暇だし。

 

「よっす坂柳~。おつかれ~」

 

「こんにちは虎徹くん。お疲れ様です。騎馬戦では良い動きをされてましたね」

 

1人で居たことが寂しそうでもなく、話しかけられて嬉しそうでもないかな。いつも通りの坂柳っぽい。

 

「坂柳、暇なのにずっと見学してて偉いね。帰っちゃえばいいのに」

 

「……いえ、せめて何かアドバイスを求められたら答えようというだけです。座ってるだけですから、疲れませんし」

 

やっぱちょっと寂しそうかな?

 

「なるほど?……そういえばクラスの代表争いだっけ?派閥で対立してたの、おハゲ倒したんじゃなかったっけ?」

 

「ふふふ、残念ながら内緒です。さりげなくても、スパイ行為を簡単に容認することは出来ませんよ」

 

あ、ちょっと楽しそう。そういうつもりで言ったんじゃなく、ただ興味で聞いたんだけど、楽しそうならいいか。

 

「え~、教えてよ~。……夏の終わり、どっかでハゲは『もう坂柳クラスになるだろう』って言ってた気がするんだけど、まだ終わってないの?」

 

「……そうですね。少しばかり邪魔が入りまして」

 

「ん?なにそれ?」

 

坂柳とハゲの争いに何か介入、第三者?それだったらクソ面倒なことになってるクラスだな。

 

「インターネットの掲示板にて、私の評価を下げる情報が流されてました」

 

「へ~……。ん?」

 

知らない事かと思ったけど、誰かが書き込んでくれた『坂柳は心臓が弱い』とか『無理させたら可哀想』とかいうやつのこと?それなら俺も見たか。例の2年生からに見せかけた書き込みしたやつのスレッドで。

 

「虎徹くんも目にしました?」

 

「うん、1ヶ月くらい前に1回見た気がする。『坂柳に無理させるの可哀想じゃね?』みたいな」

 

「そうですか。実は、あのことなんですが……」

 

「えっ?……なになに」

 

妙に小声になる坂柳。あと、いつの間にかめっちゃ目を合わせられてる。なんだなんだ。ちょっとドキドキするぞ。

 

「あれを書き込んだの……虎徹くんじゃないんですか?」

 

「お、俺!?………いや違うよ!」

 

クラスの信頼出来る奴、あと櫛田に『Aクラスを下げるためにタイミングあったら書き込んで』と伝えた情報だけど、俺が書き込んだんじゃないからね。俺じゃないで~!

 

「そうですか。……では、書き込むように指示したのですか?」

 

「んなっ、……違うよ?」

 

「ふむ……。そうですか」

 

なんか見抜かれてないこれ?怖いよ~……。

 

「それより、坂柳は2年からの書き込みっぽいやつ見た?『南雲に注意しろ』ってやつ」

 

「……えぇ、拝見しました」

 

「どう思った?」

 

「……虎徹くんもあのスレッドには居ましたよね。先に意見を聞かせてもらえますか?」

 

「い、居なかったよ。後から噂を聞いて見たよ」

 

「いえいえ。明らかに虎徹くんと龍園くんのやり取りが混じってましたよ?」

 

あ~、『俺は石崎です』とか書き込んだんだっけ。そういえばそうだった……。大丈夫かなこれ、坂柳には軽い気持ちで話しかけないで、もうちょい覚悟して色々考えてから話しかければ良かったかも。

 

「まぁ、うん。居たね。えーっと……、ん~~~、南雲を警戒しろっていうのは本当だったんじゃないかな。え~、かなり信じられない情報ではあったけど、でもまぁ龍園も南雲がやけに影響力を持ちすぎてるとか言ってたし、全部じゃないかもしれないけど本当なんじゃないかな、って」

 

「……もし、あれが嘘だとしたら、何が目的だと思いますか?」

 

嘘って、まぁ嘘っちゃ嘘なんだけど……。なんでそんなこと聞くんだ?

 

「そりゃもう、書いてあった通り、『南雲に警戒しろ』って事じゃないの?……南雲が1年にまで手を伸ばすのに嫌悪感を持ってたから書き込んだんだろうし」

 

「……はい、分かりました。ちなみに私も同じ意見です」

 

ホントか~?……なんか意見を言いたくないから適当に誤魔化してる気がする。

 

なんか、ただ俺だけが情報を出しちゃったような、変な敗北感あるな。もうちょい何か聞いておこうか。

 

「それで結局、坂柳はクラスリーダーとして決まりそうなの?」

 

「……そうですね、思ったより少しだけ時間はかかるかもしれませんが、特に問題は無いので認めてもらえると思いますよ。……その時は、最初の敵が虎徹くん達になるかもしれませんね」

 

「えぇ~~、……ヤダヤダ~!」

 

「ふふふ、良い勝負をしましょう」

 

おふざけを楽しそうに笑ってくれる坂柳、魅力的だけど怖いね。

 

まぁ、結局クラス対抗戦になったら俺がやることほぼ無い。龍園が苦労して、負けても龍園がヘイト稼ぐだけだから、実際の所あんまり関係ない。任せきりになりそう。

 

それより2年の方をどうにかしないと……。調べるなり、潰すなり。特別試験だけじゃ関わりが薄すぎるから、独自に動いていこう。

 




よいお年を!

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