「それでは、これより本年度体育祭における勝敗の結果を伝える。」
こんにちは、いつの間にか体が冷え切ってる俺は浅井虎徹です。のんびり推薦競技を観戦してたら、もう寒くなってきちゃったよ。10月の秋、夕方、空気も冷えてきてる。冬が近くなってるのを感じられる季節だ。長袖ジャージ持ってくれば良かった。
電光掲示板では赤組と白組それぞれの点数が増えていく演出がされ、種目ごとの点数も次々に表示されていく……けど多いな。学年ごと、クラスごとの数字なら見る価値あるかもしれないけど、3学年の合計点数を表示されたって、どのクラスの何が良くて何が悪かったのか分からないよ。割とどうでもいいなこれ。
そして発表された結果は、
「赤組の勝利!」
あ、そっすか……。2,3年がAの1強状態っていうのを聞いてた時点でそりゃそうなるだろとしか思えなかったんだよな。何度でも思うけど、他学年を混ぜるんじゃねぇよボケが。
……いや、でも、意外とAD連合の赤組と、BC連合の白組の合計点数はそれほど離れてなかった。マジか、チャンスあるっちゃあった?それとも……嘘の数字にしてある?
「続いて、クラス別の得点を発表する」
そして電光掲示板に4位から表示された俺達1年の順位は次のようになっていた。
1位 1年Bクラス
2位 1年Cクラス
3位 1年Aクラス
4位 1年Dクラス
「んん?……俺達ってBか?」
色んな所から困惑の声が上がる。まだBクラスになったのにイマイチ慣れてないので、俺達のクラスも一之瀬達もなんか戸惑ってるみたいだ。……ホントに表記クソだよなこれ。
「石崎、そうだよ。俺達が1位」
「マジか!おっしゃー!!!」
喜びすぎじゃないか?団体競技の『棒倒し』『綱引き』『騎馬戦』の3つ全部勝ったんだし、女子の方は勝ったり負けたりだったから、白組だった俺達と一之瀬達のクラスで1,2位は確定でしょうに。
ただ、驚いたことに、クラスごと合計点で1位と2位の差が100も無かった。計算すると……62かな。
「浅井氏、危なかったですね」
近くに居た金田が話しかけてきたけど、確かにそうかも。推薦競技の配点なんかは、
1位 50点
2位 30点
3位 15点
4位 10点
5位 8点
とか、こういう感じ。だから、これ……すっげぇギリギリじゃん。思った以上に接戦だった。
「マジじゃん。あっぶねぇ……」
もうちょい真面目にやれば良かったかも。……いや、そんなに変わんないかな?とにかくサボったりしないで良かった。
アレだ、綱引きで巻き込み事故みたいなの起こしてこれだから、普通にやってたら負けてた気がする。ナイス龍園。
「赤白の結果は、2,3年のDクラスが共に悲惨な環境だという噂もありますので、それゆえの数値だったのかもしれません」
「へ~、そうだったんだ。知らんかった」
だから赤白そこまで差が無かったのか。先に聞いておけばもうちょい頑張って……いや、変わんないかな……。
「結果として、我々1年のCPの変動、数値はこうなりますね」
金田が見せてくれたメモ、切り取った小さいノートの1ページに書いてあったのは以下の通り。
~~~~~~
赤組、CP変動無し
白組、マイナスCP100
学年1位:CP50プラス
学年2位:CP変動無し
学年3位:CP50マイナス
学年4位:CP100マイナス
以上より、
初期A、坂柳クラス →CP804(854 - 50)
初期B、一之瀬クラス→CP647(747 - 100)
初期C、龍園クラス →CP732(782 - 50)
初期D、堀北クラス →CP186(286 - 100)
~~~~~~
「分かりやすい。金田、これ後でグループチャットにも載せといてよ」
「あ、はい、分かりました。龍園さんに許可を頂いてそうします」
許可って……。律儀なヤツ。
しかし、1位2位が逆だったら、この数値にマイナス50とプラス50だから、えーっと、CP697とCP682かな?……って事は、一之瀬クラスとギリギリ逆転してたのかい。あっぶねぇ!!
これ、地味に須藤停学にしたやつでCP30減らされたのも効いてるな。そのせいで逆転寸前だった。マジで危ない危ない。
いやまぁ、別にCPで優位に立つ必要性はそんなに無いんだけどね……。CPじゃなくppで見たら、無人島の時に結んだ契約があって、他3クラスから月々ppが入ってきてるから学年で1番優位に立ってるとも言えるし。……具体的にどれくらいの契約かは忘れちゃったけど。後で龍園に確認しとこうかな。
それでもクラス順位を上げておきたい理由は俺が『やっぱAクラスになりたい!』とかじゃなくて、他の奴らに『悪いことしたらやっぱダメなんだな』みたいに軽々しく思われたくないからなんだよね。
『ルールを守っておくのが1番』って、そりゃ当然そうなんだけど、でもそれは人を率いる立場の人間が思っていい思考じゃないと俺は思ってる。倫理観を捨てて、どんな手段が残されてるかを考えなきゃダメ。じゃなきゃ、敵に好き放題やられて、ただ我慢するだけ。そんなリーダーはアホでしかない。
仮にも『未来を支える人材』になるっていうなら、ありとあらゆる事を想定する思考力がなきゃダメでしょ。それを鍛える場だし、俺はそのサポートしてるだけみたいなとこある。
だから、今こんな序盤で俺達がCP落としまくって、他クラスの奴らに『悪いことをしたらやっぱりダメなんだ!だからルールを守るのが大事!』とかアホみたいな認識をされたくない。思考停止を助長したくない。
これは『俺達と同じような事をする人間にしたい』という訳じゃなく、『こういう事をされるかもしれない』の思考パターンを増やしたいというだけの話。考えた上で、『実行する』『実行しない』どっちを選んでもいいけど『こういう方法もある』という想定を増やしまくって欲しいだけ。
平和ボケして、何も考えてない間抜け共。文字通り『教育』してやるというだけ。学校側も含めてね。
そのためにも、まだしばらく『手段を選ばずCPを積み上げてる』と思われていたい。そういう意味では体育祭でクラス順位が下がらなかったのは割と嬉しいかも。
……最終的に、高3の卒業する時の順位がどうなるかは、どうでもいいけどね。
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色々と1人で考えてたら、ふとDクラスの奴らが集まってる所に歩いていく龍園とアルベルトが目に入った。なんだなんだ?何する気だろか。俺もついて行ってみよう。
「ようザコ共。頭悪くて運動も出来ないなら、お前ら何が出来るんだ?」
また挑発かい。よく見る光景、いつも通りだった。
「なっ、うるせーよ!……お前らが、須藤に何かしたから負けただけだ!アイツが居たら、1位取れてたからな!」
まぁ、めっちゃ運動出来るヤツらしいし、最下位は無かったかもしれないけど、1位は難しくないか……?
「クク、必死だなザコ。須藤が居た所でバカな猿が1人増えるだけだ。勝敗が変わる訳ねーだろ。同じようにすぐ手を出して消えるだけだ。無意味な妄想してんじゃねーよ」
「てめー!」
「ダメだよ池くん!」
池とかいうヤツがキレて、平田が止めるやつ。なんか前も見たぞこれ。
「平田か。お前達、クラス全体に隠して参加表をズラして書き換えたのはなんだ?誰がやった?……お前か?鈴音か?」
そういえばその話もあったな。なんか勝ちに徹底してなくて奇妙だったやつ。意図がイマイチ読めなかった謎。
「……なぜ君がその事を知ってるのか気になるけど、僕らは何も答えないよ。敵に教えるような事じゃない」
「なるほど。違うヤツか」
「……。」
ん?と思ったけど、龍園としてはカマかけまくって反応を見てるだけで、確信は無いのかもしれない。俺もせっかくだし聞いてみるか。
「ねぇ平田、参加表を書き換えるなら、せっかくなら組み合わせを工夫出来たと思うんだけど。バレてる前提だったとしたら、自分達が自信無いメンバーだった所に強いメンバーを持ってくるとか、普通のメンバーの所に弱めのメンバーもってくるとか。もっと勝率上げられたはずなんだけど。なんで?」
ただズラしてただけっぽいのが不思議なんだよなぁ。それはそれで勝率上がったりするけど、下がる所もある。全部そうやってたら、まぁ優秀なコマの数次第だけど、俺達が1位取れなくなるくらいには得点を削られてたと思う。
「浅井くんか……。君も龍園くんと一緒になって須藤くんに酷い事をしたのは知ってるよ。悪いけど、仲良く話す気には、なれないよ……」
え~、なんだよそれ。悲しいし、なんかムカつくな。
「嫌われたもんだね。……ねぇ、池だっけ?お前は知ってんの?もっと勝てたかもしれないのに、わざと手を抜いた理由」
「は、はぁ!?……知らねーよそんなの」
「変なことを言わないで、浅井くん。……じゃあ言うよ。情報が漏れてるかもしれないから、用心として参加表を1つずつズラしただけ。それだったら提出する前のミスだとも言えるからね。僕が参加表を書き換えたんだよ」
「ふーん……」
まぁ理屈は通るし、平田も頭それなりに良いみたいだし、納得できる、かな?
「フン、CPも全然無いのに余裕じゃねーか平田。勝つために徹底出来ないザコがよ」
「……いや、参加表を書き換えた事すら読まれてしまうから、結局何をしても変わらないと思うよ」
「あ~、そうかも?」
参加表がバレてる前提に書き換えたこともバレたら、それはそれで同じ事になるのか。いやでも、うーん?
「じゃあ……僕達はこの辺で帰らせてもらおうかな。みんな疲れてるからね」
「いやまだ話は終わってねぇ。……なぁ平田、だったらなんで須藤が推薦競技のメンバーから消されてた。期限が過ぎてから、須藤が停学になったのが分かってから書き換えたのか?どうやったか言え」
「……僕達は敵同士だよ。何も言えないし、言いたくないな」
そりゃまぁそうだ。龍園がルールの抜け道を知りたがるのも分かるけど、言ってくれないもんは言ってくれないんじゃないのかね。
「そうか。聞け!Dクラスのザコ共!ここに居る平田は、須藤が停学になるのを予想して分かった上で、見捨てたヤツだぞ!」
は?マジで?
「そんな事しない!勝手なことを言うな!」
おぉ……平田がブチ切れてる。珍しい。初めて見た。いつも穏やかなイケメンスマイルなのに。
「なら言ってみろよ。お前らが『期限後に参加表を書き換えた』のが違うって言うなら、期限が来る前に『最初から推薦競技から須藤が外された参加表』を提出してたことになるだろ。それはつまり、須藤が消されるのが分かってたって事だ。……それを『見捨てた』って言うんじゃねぇのか?なぁ、平田。どうなんだよ?」
「違う!僕は……僕達は見捨てたりなんかしない!ただ、それは、違う、そんなことしない!」
なんかパニクってない?大丈夫かよコイツ。周りの奴らもなんか困惑してるっぽいぞ。
「知ってるなら言え。そうじゃなきゃ、お前は仲間を見捨てたクズだ」
「ち、ちがっ……」
真顔の不良にガンつけられて泣きそうになってる平田の肩が、後ろからポンポンと叩かれた。
「平田、茶柱先生が呼んでたぞ。今すぐ来て欲しいそうだ」
「えっ?あ、綾小路くん……。分かった。行ってくるね」
あら、逃げられちゃった。先生からの呼び出し?怪しいな~。
「てめぇ、鈴音の金魚のフンか。邪魔しやがって……。お前か?俺にメール送ってきたのは?」
「……いや、すまない。何の事だ?」
いつも無表情マンが黒幕っていうのは考えにくいでしょ……。龍園とアルベルトを前にしても全然顔が変わらないっていうのは、まぁちょっと怪しくもあるね。
「フン」
龍園もそこまで深追いはしないみたいだ。怪しいけど、聞いてみただけかな。
ってか、そうだった。変なメールの問題もあったんだ。文面は確か、
『お前らのクラスの生徒によって、現Dクラスから生徒が退学させられた場合、お前らのクラスからも2人退学者が出ることになる。これ以上、手を出すな。証拠は既に保持している』
とかいう脅迫メール。
嘘っていう可能性も結構高いけど、それを良いタイミングで送ってきたヤツが居るのは間違いないもんねぇ。ただ、それが綾小路とは考えにくいよ。ロン毛のタチ悪い不良に絡まれてるクラスメイトを助けただけかもしれないし。
「じゃあ、俺達はそろそろ帰らせてもらうぞ」
そう言って綾小路はさっさと校舎に行ってしまい、なんとなく他の奴らもそれに続いて帰ってしまった。
龍園がゴリゴリに威嚇してたあの状態で動けたのは偉いし、ちょっと意外だったけど、だからって裏で動いてたやつとは思いにくいかなぁ……。
いつも無表情で不思議な変なヤツとは思うけどさ。
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帰りのHRとか色々終わらせてから自室に帰ってきたら、クラスのグループチャットに金田からCPのグラフが送られてきていた。
うん、分かりやすい。今までの記録わざわざ取ってなかったからありがたいな。
かなり接戦で面白くなってきてるじゃんか。今年中に、ってのは難しいかもだけど、1年のうちにAクラスも狙える位置だ。
坂柳が前に出てくるみたいだから、そう簡単にはいかないかもだけどね。
俺は俺で、本格的に2年の方に接触していかないとな……。