「それでは、中間試験の結果を発表します」
肌寒くなってきた10月末、意味もなく半袖で耐え抜いてた石崎ですら制服のジャケットを着るようになってきた今日この頃、張り出された試験の結果をそれなりに緊張しながら見てる俺は浅井虎徹です。
例の新しい生徒会の演説にムカついたりしたけど、その後すぐ試験前のテスト勉強期間に入り、試験期間になり、あっという間に今に至る。健全な学生ではあるけど、もうちょっと裏工作に関わってくる動きしておけば良かったかも……。いやでも俺そんなに頭良くない方だし、ちゃんと勉強しておかないと危ないんだよな。しゃーないか。
試験ごとの『赤点で即退学』はずっと変わらず存在するから、やっぱり少し怖い。自己採点で60を下回った科目は無かったけど、世界史なんかは書き間違いもあったかもしれない……。
なんて思いながら見てたけれど、うん、大丈夫だった。最低も65点、平均でも71点。悪くない。クラス内での順位も40人中18位。なかなか良いじゃん。
「よっしゃー!最下位回避したぜ!!」
あら、石崎もちょっと成績上がったらしい。けど……見たら39位じゃねーか、誤差だろそれ。平均点も53点だし。せっかく勉強会やってんだからもうちょい上がって欲しいんだけど……。ちなみに最下位は女子の木下とかいうヤツだった、確か陸上部。
「各教科の先生が説明されているかと思いますが、全科目でまた小テストが行われます。試験範囲は、入学してからの範囲ではなく、中学3年生レベルまでの、100点満点の問題となります。ペナルティも無く、成績にも影響しません」
は?じゃあなんでやんの?授業めんどくさいんか?
「坂上先生、ではなぜそのような試験を実施するのですか?」
おっ、最近クラスでもちょっと目立つようになってきた金田が手を上げて質問した。龍園も入学直後こそ無断でしゃべった奴を全員殴りそうな雰囲気あったけど、最近は割と許容してる事が多い。体育会系不良軍団だけ優遇するより、ああいうガリ勉キャラも重宝してるみたいなアピールは良い事だと思う。
「この小テストですが、もちろん意味が無いという訳ではありません。結果が期末試験に大きく影響してきます」
「期末試験に……?」
「はい。小テストの結果を元に、『クラス内の誰かと2人1組のペア』が作られます」
んん?なんだそれ?
「フン……」
横に座る龍園はもう何かを察したのか不機嫌そうに鼻を鳴らした。いやはえーよ、俺まだ何も分かんねぇ。なんか既に知ってるっぽいな。
「このペアは、期末試験で一蓮托生の関係となります」
「いちれんたく……先生!なんすかそれ?」
石崎、『分からなかったらすぐ聞いて』と日頃から俺が言ってたのが出た。偉い。
「……運命を共にする、という意味です」
「へぇ~。……えっ?どういうことっすか?」
「今から説明します。期末試験は8科目、それぞれ100点満点。問題数は各科目で50問ずつ、合計で400問となります」
合計問題数、言う必要あんのか?……割と多いから、そんなに難しい問題は出ないってことかね?
「そして、ここからが重要です。今期の期末試験では赤点が2種類存在します。1つは、最低点のボーダーが60点に設定されます」
「えええええ!?」
今までの倍近いじゃねーかよ!!嘘でしょ!?思わず叫んじゃった。クラスも騒然となる。
「ただし、この60点というのは、ペア2人の合計点数です。全科目それぞれ、2人の合計点数が60点以上にならなかった場合、赤点となり、2人とも退学が決定します」
いや、それでも……。うーん、道連れにされるかもしれないのか。
「逆に、1人が60点、もう1人が0点だったとしても、赤点にはなりません」
つまり学力優秀な人と組めば退学の可能性がめちゃくちゃ低くなる、と。……弱者救済回でもあるのかな?ペアになる相手がめちゃくちゃ大事そう。
もし『日頃仲良くしてる相手とペア』とかいう組分けだったら、もう石崎と殴り合いの喧嘩しておこう。さらに金田とキスしてもいいかもしれない。……いや、キツいキツいキツい。やっぱ無理無理。
「そして赤点はもう1種類あります。それは、8科目の『総合点のボーダー』です。まだ正確には決まっていませんが、例年の必要総合点は700点前後です」
ペアで700点、1人350点、8科目だから1科目あたり44点くらい。普段より少しだけ高い赤点ラインかな?これならまぁ……。成績ヤバイやつ同士で組んじゃったら危ないだろうけど、それ以外なら基本的に大丈夫そうかも。
「総合点のボーダーが正確に決まっていない、というのはどういうことでしょうか?」
便利な金田がしっかり詳細を聞いてくれる。俺らのクラスリーダーは若干コミュ障みたいな存在だからめっちゃ助かるね。
「それは、現時点では説明出来ませんが、後日しっかり説明します」
なんでぇ?……なんかまた面倒くさいルール入ってくんのかね。
「……では、残る説明事項について話します。日程は期末試験は1日4科目で2日に分けて行われます。科目の順番もまた後日発表となります。万が一、体調不良で欠席する場合は、学校側が欠席の正当性を問い、やむを得ない事情が確認できた場合には、過去の試験から概算された見込み点が与えられますが、休むに該当しない理由であった場合、欠席した試験はすべて0点扱いとなるので注意して下さい。なので、体調管理に気をつけて下さい」
淡々と説明しまくる人間感の薄い先生だけど、なんだかんだクラスのこと考えてくれてるっぽいんだよな。露骨な贔屓は学校側から禁止されてるはずだし、そういうのは出来ないんだろうけど。
「……余談になりますが、例年この試験、通称『ペーパーシャッフル』では、統計的に退学者が出る事の方が多いです。脅しではなく、事実です。」
「えぇ~……」
クラスからも溜息が漏れる。『退学になる』というのは頻繁に脅されるけど、『過去に退学者が出てる』と言われるのはまた違う危機感を覚えるね。
「最後に、本番中のペナルティについです。当然ですが、テスト中のカンニングは禁止です。カンニングした者は即失格となり、パートナー共々退学となります。」
「……。」
教室の温度がちょっと下がったと錯覚するような沈黙、静寂。……もしかして龍園と組んだ時のこと考えてんのかな?
「今回肝心となるペアの決定方法は、来週の小テスト後に伝えられます」
あぁ、そういえば小テストやる話もあったね。道連れシステムのニュースが大きすぎて忘れかけてた。
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「それからもう1つ、期末試験では別側面からも課題に挑んでもらいます」
まぁまぁ長い説明が終わったと思ったけど、まだあるんかい。
「12月上旬に行われる期末試験ですが、……生徒自身で考えて作成してもらいます。そして、その問題は他3クラスのうち1クラスへと割り当てられます。他のクラスに対して『攻撃』を仕掛けるという事になります」
んんん?……なんか話が変わってきたぞ。
「迎え撃つクラスは『防衛』という形になり、『攻撃』『防衛』それぞれのクラスの総合点を比較し、勝ったクラスが負けたクラスからCP50を奪い取るという結果になります」
CP50、うーん……ちょっと少なめかな?いやでも150もありえんのかな?質問しておこう。
「先生、他3クラスが攻撃してきて、最大でCP150を失うなんていうこともありえますか?」
「いえ。2クラスずつの直接対決となります。それぞれのクラスが対戦相手として1クラスを指名して、それを担任教師が学校側に提出。希望が被っていた場合は、代表者によるクジ引きとなります」
「あ、はい。了解です」
じゃあわざわざ『攻撃』『防衛』なんていう役割分担しなくて良くないかね。ちょっとカッコ良くするために言ったのかな?
「坂上、試験内容はどうなる?教師は確認すんのか?」
「敬語を使いなさい龍園。……各科目50問、8科目で合計400問ですが、生徒が作成した問題を私達教師陣が厳正かつ公平にチェックします。指導領域を超えていたり、出題内容から解答できない問題がある場合には、その都度修正してもらいます。そのチェックを繰り返し、問題文とその回答を作成し完成させてもらいます。……早めに行動した方が良いでしょう」
お互いに教師の目が入って、同じ試験範囲からなら、そこまで難しすぎる問題になったりはしないのかな?
「万が一、期間内に試験を作成出来なかった場合、救済措置もあります。期限終了後、あらかじめ学校側が作っておいた問題に全て差し替えとなります。難易度は低めとなりますので、やはり自分達での問題作成は諦めない方が良いでしょう」
やっぱ、自分達でしっかり問題を作って、それを期限内に提出したほうが勝率は上がりそうなのね。まぁそういう試験だし仕方ないか。……俺もちょっとだけ問題作りたいかも。
「それでは『ペーパーシャッフル』の説明は以上になります」
ふむ、自作したテストを交換するから、ペーパーをシャッフルか。『自作テスト交換試験』とかいう名前でも良い気がするし、シャッフルっていうよりトレードな気がするけど……まぁいいか。
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「龍園、どうすんの?」
なんか色々と知ってそうな隣のロン毛に早速聞いてみる。
「フン。……組み合わせに関しては、成績上位から2人ずつ組んでいくなら、退学者が例年1,2組なんていう数で収まる訳がねぇ」
「あ、確かに。……つまり、バランス良く、上と下から1人ずつ選んでいくはずってこと?」
「そうだ」
「なるほどね。そのための小テスト?」
「……。」
なんで黙るんだよ!……色々と改善されてた気がしたけど、やっぱコミュ障だよコイツ。ウザい所はやっぱりウザい。
「なんかアレだよね、『特別試験』として夏休みから色々とやりまくってたから、秋くらいは普通の試験をちょっと工夫して特別試験にしたとかいう話なのかね?」
「知るか」
「……。」
このクソ不良……。
まぁいいや。ちょっと振り返ってみると、
入学
↓
1ヶ月の校則違反でCP減らします
↓
赤点で即退学の試験だよ
↓
(夏休み開始)
↓
無人島試験
↓
干支試験
↓
(夏休み終了)
↓
体育祭
↓
ペーパーシャッフル(期末試験)
特別試験っぽいのに限ると、こんな感じ。他にも中間&期末試験もあったけど。
これ夏休みに大きなやつ実施しただけで、それ以外は普通の学校でやってることのアレンジなのかもしれない。……いやまぁ、入学してまだ半年ちょっとだから断言できないか。
「浅井、全員にも言うが、小テストで意味もなく手を抜くなよ。実力通りにやれ」
「ん?なんで?」
「ハァ……。他の成績が悪い奴らが退学になる確率が上がるだろ」
「あ~?えーっと、成績上下で組んでいくと……はいはい、なるほどね。俺が変に下の方の枠を取って、ペアになる上のやつを奪い取っちゃう形になるのか。了解了解、変に細工しないで、実力通りにペア組んだ方がバランスがいいってことね」
「……。」
いやなんか言えよ……。
「それはいいけど、龍園こそ小テストで全科目0点取って成績1番いいヤツと組んだりすんなよ?」
「は?しねぇよ」
「いや怪しいでしょが。成績そんなに良くないんだし、真面目にテスト対策勉強をするくらいなら、みたいに考えてても何も不思議じゃないぞ」
他にやりそうなやつほぼ居ないだろ。
「……。」
そんな睨み付けてこられても……。
「まぁ、龍園が退学するよりはマシかもしんないけど……。ちょっとは真面目に勉強しなよ、頭悪くないんだろうから。どうせサボりまくってるだけだろ」
「うるせぇ」
まぁ勉強以外の強みがありすぎるから、勉強ガリガリやる必要も無さそうではあるけどね。……でもそれはそれとして、現状では俺の方が学力が上なのはハッキリ間違いないので、上から目線で言うのは辞めない。だって、楽しいから。
「試験問題の作成は誰にやらせんの?俺もちょっとやりたいんだけど。……お前より勉強できるし!」
「……金田、椎名、後は鈴木あたりだろうな。他は科目ごとに俺が選ぶ」
「あ、得意科目それぞれあるか。なるほど」
俺は、うーん……数学がちょっとだけ良いくらいかな。基本的に全部そんなに好きじゃないから、良くも悪くも点数に差は無い。
「お前も別に、言うほど頭良くねぇだろが。参加しなくていい」
「え~!……せっかく全員に赤点取らせて、全員退学させたろ!とか思ってやる気あったのにな~。もう無くなっちゃったな~」
「……何か案があるなら言ってみろ」
「えっ?」
いや、嘘だけど……。そんなもん考えてねーわ。
「……無いじゃねぇかよ」
「いやいやいや、えーっと……。あぁそうだ、『指導要領を超えてないことを確認する』とは言ってたけど、だったらめっちゃ昔の問題でも良いのかなって」
「フン。……なるほどな」
「後は、問題の文字めっちゃ小さくしたら、誰も読めなかったり、見間違えが続出して点数酷いことになったりしないかなって思ったけど……これは流石に教師チェックで弾かれるかなぁと」
「クク、悪くねぇ」
いや悪いだろ。オーケー出ないだろうから。
「後は、単純な計算式をめちゃくちゃ長くして、計算ミスをめっちゃ出しやすい問題にするのは良いかもしれないと思った。10桁かける10桁かける10桁の問題とか。当然みんな解けるに決まってるはずだけど、めちゃくちゃ間違えそうだよね」
俺も絶対に解きたくないし。
「お前……こういうアイデア、絶対に俺以外には言うな」
「え?まぁ、了解」
なんか妙に真剣な顔だ。そんなに良かった?
まぁまぁ面倒くさい試験だけど、問題作ってみるのは初めてだし、楽しんでやってみようかな。
それにしても、普通に問題作るより生徒が作った問題を確認して調整する方が絶対に面倒くさいよな……。先生は大変だろこれ、お疲れ様だ。