ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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変わるDクラス

こんにちは、Dクラスの櫛田桔梗です。

 

体育祭が終わってから、生徒会が交代したり、中間試験があったり、また新しく特別試験の『ペーパーシャッフル』の実施を通達されたり忙しい毎日を送っている今日この頃、私達のDクラスには少しずつ変化が起きていた。

 

まず1番大きな変化は、須藤くん。体育祭に出れなかった事へのショックがとても大きくて、自暴自棄になってたし、とてつもなく落ち込んだりもしたけれど、私と堀北さんで何度も『アナタが必要』とか言って励ましたり、停学明けにはクラスのみんなが少し怒りつつも『体育祭に居て欲しかった』と伝えて歓迎してくれたのを見て、改心したみたい。

 

……裏では私達2人だけじゃなく、平田くんも協力して、意見を誘導してクラスの空気を作っておいたからこそだけど。クラス全体の雰囲気を『須藤くんが居れば体育祭で勝てたかもしれない』『勝てるチャンスはあった』という事にしたからこその結果ではある。みんな元々そう思いたいという願望もあったから、それほど難しくはなかったけどね。

 

クラスメイトから優しい声をかけられた須藤くんは、その場ですぐみんなに「すまなかった」って涙目になって謝ってた。その日から、授業中に居眠りもしなくなったし、授業後に堀北さんに分からなかった所を聞きに行ったりするようなった。文字通り『人が変わった』と言えるくらい、驚くほど真面目に勉強してる。

 

その変化を見た堀北さん、また偉そうに命令口調で「龍園くんに関係する人を見たら無言で逃げて」「絶対に無視しなさい」なんて言ってて、せっかく大人しくなった須藤くんが元に戻ったらどうすんの?と腹が立ったけど、意外と須藤くんも素直に聞き入れていた。

 

暴力事件について、100%納得はいってないみたいだけど、それでもちゃんと反省してるみたい。

 

須藤くん……男女問わず距離を取られがちな不良だったから、もしかしたらハッキリ強く言ってくれる女の子に弱いのかも。ちょっとマゾっぽい部分あるかも。

 

 

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変化といえば、堀北さんにもそれなりに大きな変化がある。

 

前までは完全に孤立していたけど、……いや、綾小路くんとだけはなぜか少し話してたっけ。そんな彼女だけど、前までとは格段に他の子達と話す機会が多くなった。

 

男子のバカ組に教えたり注意するだけじゃなく、私を介して女子とも……ほんの少しだけ距離を縮めている。友達と呼ばれるほどじゃないけど『ウザい死んで欲しい女』から『うるさいリーダー』くらいには認識が変わってると思う。

 

理由はやっぱり、私が色々とアドバイスしてるのも半分くらいあると思う。あと半分は、本人が『協力しなきゃどうしようもない』と気付いて動いてるからかな。

 

そうやって堀北さんがリーダーとして率先して動くようになって、今までリーダー的な立場だった平田くんの負担は減ってるみたい。メインで動いて指示するのは堀北さん、そのサポート役として平田くんという役割分担になっている。これもちょっとした変化だ。

 

平田くんとしてはリーダー願望もあまり無いのか、サポートに回ってる今の方がやりやすそうに見える。

 

そうやって平田くんが堀北さんやみんなと今まで以上に仲良くしてるせいか、軽井沢さんと平田くんは少しだけ距離が出来てるかもしれない。夏休みが終わった頃から、仲良いアピールが減ってると思う。

 

……そもそも、2人が付き合ってること自体に少し違和感があるけど。平田くんから軽井沢さんに特別な感情があるようには見えないし、軽井沢さんからも好意じゃなくて『自分の価値を上げる』ための感情、ブランド品を持つような意味に見えてしまう。まぁ、裏で仲良くやってる可能性もゼロでは無いんだけど。

 

もちろん、変わらないものもある。池くん、山内くん達なんかはやっぱり今まで通り勉強をそんなにやってないし、高円寺くんは変わらず一人行動を続けてる。

 

クラス全体としては、『とりあえず退学にならないように』くらいのモチベーションで勉強に追われてる人が大半、という感じかな。Aクラス特権は無理かもしれないけど、まだ2年以上あるし一応頑張ろうくらいの感じの人が多いと思う。

 

AクラスじゃなくてDクラスだったとしても、学費や生活費がかからない恩恵っていうのには変わり無いからね。

 

 

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私に関しては……夏休みが終わってから、それなりに堀北さんと仲良く協力するようにしてる。これも周りから見たら結構大きな変化だと思う。

 

けど私から堀北さんへの感情は、……今でもやっぱり『消えてくれるならマジで消えて欲しい』というのには変わりない。過去を暴露される事への恐怖は常にあるし、消えてもらってスッキリしたい。

 

けど……学力でも運動能力でも、それ以外の思考力でも、クラスの戦力として、消えられたら困る、残念ながら。他クラスに差をつけられて、Aクラスが遠い現状、堀北さんが居なくなったらキツい。ただでさえ低すぎる勝率がさらに低くなってしまう。

 

当然、堀北が消えても勝てるように、今まで通り他クラスの子とも交流して、相談に乗り、『信頼』を集めて、『秘密』も集めている。一応、準備はしてる。けど……それで勝てる自信は、前より薄れてる。

 

龍園クラスは、恐怖政治で統治されて、介入する余地がほとんど無い上に、結果を1番残してる。

 

坂柳クラスは、そもそも社交的な生徒がちょっと少ない。勉強熱心なタイプが多くて、人付き合いの優先度が低めの子ばかり。

 

一之瀬クラスは、社交的な子が多くて、交流してる子が1番多いクラス。だけど一之瀬さんへの、忠誠?信頼?がムカつくほど大きすぎて、ちょっと難しい。何か工夫しないと動かせなさそう。『一之瀬さんのためになるから』みたいな。

 

どのクラスにしても、この学校ではクラス対抗の意識がどうしても強くなるから、今までのように、中学までのように簡単に関係を築くのが難しい。

 

もちろん『信頼』集めを諦めるつもりもないし、既に一部の『秘密』と呼べるような情報も聞き出せてはいるけれど……。まだまだ足りない。

 

やっぱり、何度考え直しても、今はまだ正攻法で勝つルートを捨てきれない。……そのために、堀北も、大事な戦力だと言うしかない。

 

……もし万が一、アイツに私の過去をバラされた時は、『信頼』の高さによる勝負に持ち込む。それも考えて今は動いてる。

 

これは、虎徹くんが言っていた「過去なんか大した価値無いでしょ」という言葉。それを元に色々考えて、動いてみて、事実だと判断した。私も色んなアプローチで入学前のデータを手に入れようとしてみたけど、学校側が厳格に情報規制してるのが分かった。過去について証拠が出てくることは確かにほぼ考えられない。

 

虎徹くんの過去に関しても……、彼から聞いた話が事実だったと証明するのは不可能だった。良くも悪くも『弱み』として握ることは出来なかった。

 

つまり、私の過去に関する証拠も、出てくる事は99%無いはず。

 

そうなると、『真実』と『嘘』のどちらに思われるかは『言った人間』への信頼性によって決まるはず。

 

もし今日、堀北がいきなり「櫛田さんは中学時代にクラスメイトの秘密を暴露して学級崩壊させた!」と言った所で、その証拠は出てこない。私が「そんなの嘘!」と言ったら、『櫛田と堀北のどちらを信じるか?』という土俵に持ち込める……はず。

 

まぁ実際に言われたら、泣きながら『訳が分からない酷い事を言われた!』という演技を全力でするけれど。そう思い込んで、実際に泣くくらいなら普通に出来る。

 

……他にやれることは、私の評価が絶対に下がらないようにしつつ、『堀北は自分がリーダーで居続けるために嘘をつく事がある』みたいな噂を流しておいた方が良いかな。

 

なんにせよ、万が一に備えておくためにも、今まで通り『信頼』を集める。

 

堀北もクラスリーダーとして成果を上げて『信頼』を勝ち取っていくかもしれないけど、私はそれ以上に人から好かれて、信頼される存在になればいい。

 

リーダーとして堀北だけが評価されるのではなく、私もクラスに全面的に協力して、サブリーダーのようなポジションで、堀北と同じくらいの信頼を勝ち取るという視点も持つ。

 

堀北の評価下げは……、正直、やらなくても十分低い。やっぱり対人能力が低すぎるから、何もしなくても勝手に評価が下がってる。私から常識的なことを伝えて教えても、根本的に人を見下した発言をしちゃうのには変わりない。

 

いくらでも思い出せるけど、例えば「あなたが努力すれば全科目60点以上は取れるはず。手を抜かないで。ちゃんとやって頂戴」とか言ってるような人だから。そんなの事実だったとしても、嫌われるに決まってるでしょ……。それすらハッキリ言わないと分からない人だからね。

 

ただ、まぁ……少し一緒に居て分かったのは、普通の人よりずっと『自分にも他人にも厳しい』というだけみたい。今まで他人と関わってないから、自己基準が他人より高い、人と違う事すら把握できてないだけ。

 

そういう部分はよく注意してもらって、言い方を変えてもらったり、『普通はそんなに頑張れない』『嫌いな相手から言われた正論は、正しくても聞き入れてもらえない』『決めつけず期待してるということだけを伝えてみて』とかアドバイスしてる。

 

こういう助言は、堀北に敵対視されて暴露されないように、仲間だと思われるための協力とも言える。私の中にある『憎い』という感情をすべて見せず、普通に『苦手』くらいだと思わせている。だから、現状で私を切り捨てる判断をする確率はとても低い、はず……。もちろん油断はしないけど。

 

堀北から私への感情はそこまで悪くない、はず。

 

だから、現状で気をつけるべきは、もしかしたら他クラスかも。私が『他クラスと繋がって敵対行為をしてるんじゃないか?』なんて思われる可能性はある。そのためのフォロー、ちゃんと『Dクラスの勝利を最優先事項にしてる』というのは定期的にアピールしておこうと思う。

 

……実際、今はちゃんと事実だし。

 

 

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「それじゃあ、今日はここまでにしましょうか。各自、それぞれ作業を進めて、進捗をチャットで報告して。途中経過でも担当教師に確認してもらって構わないわ。何か注意点など分かったら共有するようにしましょう」

 

放課後、最近毎日やっている自作テストの問題作成時間が終わった。

 

明日から小テストが行われるけれど、その結果から『総合点数が上位と下位から順にペアになる』というのは先輩達にも確認が取れて、ほぼ間違いないということになっている。

 

小テストの対策はあえて取らず、実力通りに取り組んでもらう事になった。バカ組にはあえて仕組みを説明してないけれど……わざと点数を低くしても、しなくても変わらないから大した違いは無いはず。

 

懸念点と言えば、高円寺くんがわざと0点を取るという可能性が怖いけれど……それはもう、諦めるしか無いんだろうな……。実力があっても迷惑すぎる。

 

「堀北さん、僕の担当はホントにこれだけで大丈夫?」

 

平田くんが何度目かになる確認を取ってる。自作テストの担当が、堀北さんが数学と理系科目すべて、平田くんが社会系科目、そして私が英語と国語を担当することになってる。もちろん、他にも勉強が得意な幸村くんとかにも問題を見て確認はしてもらうけれど。

 

「何度も言ってるけれど大丈夫よ。最終的にすべての科目の問題に目を通す予定だし、なるべく早めに完成させてくれたらそれで良いわ。……みんなで協力して改善していきましょう」

 

「そっか……。分かった、ありがとう堀北さん。まずは完成させるよ」

 

「よろしく。櫛田さんも、2科目で大丈夫かしら?」

 

なにその言い方、2人より劣ってるから科目が少なくても心配ってこと?

 

「大丈夫だよ。私じゃ心配かな?」

 

「いえ。英語の試験問題を作るのも、国語の試験問題を作るのも難しいと思ったから。数学なんて数値を変えるだけで成り立つ問題ばかりだけれど、その2科目は問題文から作らなきゃいけないもの。社会科目のような知識問題という訳にもいかないから、とても大変でしょう」

 

……心配してくれてるなら、もっと分かりやすく言って欲しいよ。

 

「教科書や問題集から抜粋してとりあえず作ってみたテスト、50問ずつは出来たよ」

 

「もう出来たの?」

 

「うん。まずは許可もらって、そこから自作問題とかを入れて難しくしていこうと思ってる」

 

「なるほど。許可済みの問題のレベルを上げていく形にして、期限切れで学校側が用意した試験問題になるというリスクを無くすということね、賛成よ。見せてもらえるかしら?」

 

「えっと……、その前に、先生から何を言われるか確認してきてもいいかな?」

 

修正箇所があったら先生に言われるだろうし、それをここで堀北さんから言われたら普通にムカついちゃいそうでなんか嫌だ。

 

「そうね、構わないわ。今日中に可能?」

 

「今から職員室に行ってこようと思ってるけど、その後なら大丈夫だよ」

 

「じゃあここで待ってるわ。……お願いね」

 

まだぎこちないけど、少しは人間らしい言葉を入れられるようになってきてるのかもしれない。

 

「うん。それじゃ」

 

 

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人気が少なくなった放課後の校舎を歩いて職員室に来てみると、中で1人の男子生徒がちょっと騒いでた。教師と生徒の間になんとなく距離があるこの学校では珍しい光景かも。

 

「も~!……先生のいじわる~!!」

 

「いじわる、ではありませんよ」

 

誰かと思ったら虎徹くんだった。何してるんだろう……。

 

「ほとんどの問題がダメじゃないっすか!めっちゃ考えたのに~!ひどい!鬼!メガネ!」

 

「言い過ぎです。メガネは事実ですが。……浅井くんの提出問題では『学力』ではなく『謎解き能力』が問われるような形になりすぎています。期末試験をかねてるのですから、学力を問うものにして下さい。少なくとも、問題文は正しく読みやすい日本語だけにして下さい。数学試験で英語や漢字の知識を試すのは認められません」

 

なるほど、自作テストの確認をしてもらってたんだ。それにしても問題文に英語って……。

 

「はぁ~……分かりました……」

 

「普通の問題に関しては、試験範囲として問題ありません。……ただし、単純計算問題に関しては、上の確認を取らせて下さい。ペーパーシャッフルのルールとしてどうするかの議論になりそうです」

 

「まぁ、はい……。よろしくお願いしゃす。じゃあ、失礼します」

 

「はい。またいつでも来て下さい」

 

坂上先生も自分のクラスには優しいのかも。淡々と無表情で数学授業をするだけの、ロボットみたいな先生だと思ってた。

 

それにしても、どんな問題を作ってたのか気になる……。堀北さんを待たせる時間が長くなっちゃうけど、それはいいか。ちょっと聞いてみよう。

 


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