トム・ブラウン虎徹「クソ問題を集めて、テストを作りたいんですよ〜」
トム・ブラウン坂上「ダメ〜!」
「虎徹くん!ちょっと待って!」
堀北さんを待たせてるけど、ここで何か情報を得る方を優先させた方が良いと思い、廊下に出て帰ろうとしていた彼に声をかけた私は櫛田桔梗です。
「あれ、櫛田じゃん。おひさ~」
「ごめんね、呼び止めちゃって」
「いや大丈夫。どしたの?」
ここは素直に、それでいて言いやすくなるように聞いた方が良さそう。
「虎徹くんが坂上先生とやり取りしてるのが見えたから。自作テストに関して、だよね?私も自作テストの担当になっちゃって、何か聞けたら良いなって……」
「あ~~~、……ごめん、誰にも話すなって言われてんだよね。言ったら龍園にボコされちゃうよ」
あれ?今までの虎徹くんだったら簡単に教えてくれた気がするけど、龍園くんに釘を刺されてたらしい。苦笑いで断られてしまった。
「そっか……。でも、なんでもいいの。少しでいいから何かアドバイスもらえないかな?私も堀北さんに問題作りやらされちゃって困ってるんだ……」
虎徹くんの中では『櫛田は堀北に対しては嫌悪感がある』という認識のはず。……いやまぁ事実だけど。それを踏まえて、困ってますの顔をしっかり作って再チャレンジしてみる。どうだ!?
「いや、う~~~~ん……」
心が揺れてるね、いけるかも。
「お願い!ねっ?」
虎徹くんの手を取り、両手で握りしめながら上目遣いでおねだりする。他の人に見られたらちょっと誤解を生みそうな状況だけど、これでどうだ!
「……はい、言います。これは言うしかないね。無罪だよ無罪。龍園とか知らん」
「やった!ありがと!」
よしよし。やっぱ私には甘いみたいだね虎徹くん。
「ただ、ちょっと待って。どんな問題を出すかは流石に言えないから……結局ダメだったネタをいくつか言うよ」
「うん。そこは仕方ないよね」
正直に言えば生きてる情報、ボツになってない情報こそ知りたいけど、それは会話の中で少しでも見れればいいか。警戒されないように同意しておく。
「その代わり、俺からも聞きたい事あるんよ。交換みたいな感じでいい?」
「えっ?……うん、いいよ」
私に質問、Dクラスの弱点とか?……そんなのだったら私が言わなくても色々とバレてると思うんだけど。まぁどんな質問だったとしても表情に気をつけておこう。
「よし、ありがと。それじゃあ、却下されたのだと……まず配点かな」
「配点?」
「そう。1科目50問、100点満点って言ってたじゃん?」
「そうだね」
「けど1問2点とは明記されてなかったでしょ?」
「えっと……多分」
そんな事まったく気にしてなかった。当然、1問2点かと……。
「だからさ、50問中、49問は配点を0点にして、1問だけ100点に配点して、どれか1問に必ず正解しなきゃ0点!っていう問題にしようと思ったんだよね。けど……ダメだった」
「それは、……そうなんだ」
当たり前でしょ……。なんて恐ろしいこと考えるんだろか。それだったらもう、ランダム性が高すぎるし、その1問が物凄く難しい問題だったら、誰もが0点になっちゃうっていうことになるはず。クラス全員を退学にしようとしたってこと?ヤバすぎるよ……。先生が却下してくれて本当に良かった。
「じゃあ、って次に聞いてみたのは、1点、2点、3点っていう差を付ける方法。それもダメだってさ……。『簡単だけど面倒くさい問題は実は3点問題でした!』とかいうのもダメで『全問2点』は決定事項だった。……先に言えよって話だよねマジで」
「あ、あはは……。他にもあるの?」
ちょっと引いちゃったけど、興味が湧いてきたフリをして他にも聞いてみる。
「答えを連携させてく形も即却下されちゃった。『【ア】の答えの2乗を素因数分解した時に3番めに低い約数は何?』とかで、解答【ア】から【キ】とかまで数珠つなぎにして、1問でも間違えたらそれ以降が全部違うようになる、っていう問題にしたけど、ダメだった。めちゃくちゃ簡単な問題で試してみたんだけどね……」
「そうなんだ……」
これが許されるなら、1問でも間違えたら0点になるような問題になってしまうかもしれない。……学校側もちゃんとした判断してくれたんだね。
「後は問題文をめちゃくちゃ小さくしたり、余計な言葉……これはまだ分かんないか。色々と試してるけど、なんかもう先生からは『問題文のフォントサイズは一定です』『問題の総文字数も決めます』とか、聞きに行くたびにルール増やされちゃってるよ。後出しはズルいよ本当に。大人は……ズルい!」
ちょっと冷や汗をかいちゃいそう。読めないかもしれない問題文なんか絶対にやめて欲しい。
「問題文、そうなんだね。……試験範囲に関しては何か言われた?」
「えーっと、そこは特に無かったかな。数学は数学I、数学A、それぞれ全範囲っていうだけで。……いやまぁ詳細はあんまりしっかり考えてないけど、ある程度は難しい問題も許してくれるんじゃないかな?」
そこが一番肝心だと思ってたけど、その辺はまだ試してないんだ。悪巧み方向でばっかり頑張ってるの、やっぱり虎徹くんも龍園クラスの立派な一員だよね……。
「うん……そこを考えるのが大事そうだよね」
「あ、そうだ。櫛田は平気そうだけど、IA全部、つまり高校1年の範囲が12月に入ってすぐのテストでやるって、意外と優秀、この学校もちゃんとしてたんだ~、とか思わない?」
「1年間でやるものを、もうほとんど終わらせた。4月からの、えーっと、8ヶ月ちょっとで終わらせたからってこと?」
あまり意識してなかったけど、確かに早めに終わってる事になる。
「そうそう。4ヶ月分の余裕が生まれたのかなって」
「確かにそうだね。みんな赤点にならないよう頑張って勉強してるし、普通の高校よりずっと早く進んでるのかも」
私立の中高一貫校では中3の時点で高校1年のカリキュラムまで終わってる、なんて話を聞いたこともあるけど、それは言わないでおこう……。
「うん。学力育成に関しては、まぁ、優秀、だよね」
なぜか少し不満そうだ。しっかり学力が身につく学校っていう事なんだから、良い事だと思うけど……。
「虎徹くん、この学校あまり好きじゃないの?」
「え?いや、どうだろ……。う~ん、なんか色々と頑張ってるだろうし、システムとか環境は好きなんだけど、なんかやっぱり甘さが目立つというか……。優秀な所を見るほど『じゃあちゃんとしろよ』と思うっていうか」
ちょっと良く分からないけど、
「もっと厳しくして欲しい、っていうこと?」
「どうだろ。ちょっと違うと思う。……学校側が力を見せても、それは当事者じゃないから無駄というか、現実感が無いというか。そしたらやっぱり生徒同士で?でも、あんなクズみたいなのが……。やっぱ俺が?う~ん……」
不機嫌というより、何か考え込んだ様子で何か小声でブツブツ呟き、ちょっと困ったような顔になってしまった虎徹くん。どういうこと?
「大丈夫?虎徹くん」
「ん、……まぁ、うん。学校のことは、ちょっと嫌いかも。でも意外と先生とかは、やれる範囲で頑張ってくれてんのかもね」
「え~っと、そうかもしれないね」
まったく考えてることは分からないけど、とりあえず同意しておく。
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「それじゃ、俺もう戻るね」
「うん。……あれっ?虎徹くん、何か聞きたいことあったんじゃないの?」
質問されるの嬉しくはないし、知らないフリしようかとも一瞬思ったけれど、後で思い出されて恨みに思われちゃうのは避けておきたいから引き止めておく。
「やべ忘れてた。そう、間違いなく櫛田に聞くのが1番良さそうだと思ったことなんだけど……」
「なにかな?」
どんな事を聞かれるのかちょっとだけ怖い。
「その、あんまり好きじゃない相手、憎悪してるような相手……に近付いて、仲良くなるのってどうしたらいい?コツとかある?」
それは、……私が堀北さんと仲良くしてても、本当の気持ちを知ってるぞという脅し?いや、考えすぎかも。素直にアドバイスしてみよう。
「私が気をつけてるのは『良い所だけ見る』って事かな。どんな人にも好きな部分、苦手な部分があると思うけど、『長所』だと思う所をしっかり把握して、それを多めに、可能なら100%それだけを考えるようにして、あとは笑顔かな」
「おぉ~……なるほど!」
……ちょっと言い過ぎちゃったかな?
「もしかして、龍園くんと仲良くなりたい、とか?」
「龍園?いやいや、アイツのこと大好きって事は無いけど、そんなに嫌いでも苦手でもないよ」
「そっか」
苦手じゃない、ってだけでも珍しいと思うけど。
「もっと言うと、龍園ともっと仲良くなりたいとも思ってないよ。んはは!」
じゃあ誰だろう?これ結構大事な情報になりそうだから聞いておきたい。
「えっと、仲良くなりたいけど、苦手っていう人が居るんだよね?」
「うん。もしかしたら殴っちゃうレベル」
「……誰なの?」
「いや、ん~~~、言ってもいいような気はするんだけど、もしかしたら櫛田に迷惑かかるかもしれんのよね。言って良いかもって思えたら言うよ」
「そっか……。分かった、うん」
なんか変な反応かも。何かの偽装?演技?そういう感じではないけど。
「その~、『相手の良い所をなるべく見る』ってのさ、自分の性格っていうか、思考もちょっとだけ変えたりする?」
「どういうことかな?」
「本音だと『高い服を買うのなんてアホだ』って思ってるけど、その人のファッションが長所だと思ったら『高い服も買って似合うのすごいっすね!』みたいな。自分に嘘をつくというか、思ってないこと言ったりもすんの?」
そんなの、
「うん。女子なら普通に、ほぼ全員やってると思うよ?」
堀北さんとかはまだ無理かもしれないけど。
「マジで?……なるほどなぁ。うん、めちゃ参考になった。ありがとね櫛田」
「いえいえ」
素直になんでも言うタイプの虎徹くんが、何かのために気を使ったりするのは難しい気がするけど、恩を売れたみたいなのは良かった。
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「それじゃあ俺はそろそろ、いや……」
「どうしたの?」
なぜか真剣な顔になった虎徹くん。
「……やっぱ、龍園にボコされるかも。ただ色々と言っちゃっただけだし」
あっ、気付かれちゃった。次から話してくれなくなっちゃうのは困るな。何かもうちょっと情報を渡しても良いかも。貴重な難敵クラスの情報源でもあるし。
「えっと、じゃあ、何かDクラスの欲しい情報とか、ある?」
「サンキュー櫛田。え~~~、俺は知りたいと思ってないけど、龍園がなぜか気にしまくってたのは『体育祭の参加表を書き換えた人間』かな。誰か知ってる?」
「あ、なぜかズレた参加表を提出しちゃってたっていうのだよね?……ごめん、分からないや」
「そっか。……櫛田としては誰だと思う?」
「うーん、提出したのは平田くんか、堀北さんのはずだけど……。その後もし変えられてたとしたら、クラス全員が候補だよね?」
「そのはず。やっぱ分かる訳が無いよねぇ?龍園も何を気にしてんだか」
ホントに興味無さそうだ。
「龍園くんは、計画通りにいかなかったから怒ってた、とか?」
日頃から近くで龍園くんを見てる人の意見は聞いておきたい。そういう意味で虎徹くんはやっぱり貴重だ。
「ん~、アイツが不機嫌そうなのはいつもだから気にしなくていいと思うけど、……あっ、なんかDクラスの黒幕っぽいやつから匿名メールが来たんだった。……これ言っちゃダメだったかも。内緒で!」
「えっと、うん……」
内容まで知りたかったけど仕方ないか。
「とにかく、龍園としては『須藤の停学させる計画を分かった上で止めなかったヤツが居るんじゃないか』と『提出期限を過ぎて参加表の変更が出来たかもしれない』っていう2通りかな?で疑ってたはず。どっちにしろ犯人を見つけたかったみたいだね」
「そうなんだ。……平田くんがちょっと、いじめられてた、荒れてたっていう話は聞いてるけど、そういう理由だったんだね」
「いじめって……まぁ、そうかも。平田も上手く隠してただけかもしれないけど、あれは流石にマジの反応だったような気もするし、ただ逆に本人が罪悪感あるから変に混乱してたのかもしれないし……分からん分からん」
「あはは……」
「櫛田は誰か知ってる?書き換えた人」
「ううん。私も当日知ってビックリしたよ」
「普通に考えて堀北っぽいけど、どう思う?」
「そうだね。可能性が一番高いのはやっぱり堀北さんだと思うけど……」
もし『停学を分かった上で見逃した』っていうパターンだったら、一緒に須藤くんの所に行った日の反応から見て、ちょっと考えにくいかも。『ルール外で参加表の変更をした』っていうのにも、ちょっと疑問が残ったりはする。
「なんか、もしかしたらDクラスに隠れて動いてる、結構優秀なヤツが居るのかもね」
「そう、かな?」
もしそうだったら私が確認してない人が居るのかもしれない。ちょっとそれは気になる。
「高円寺ではないっぽいよね。興味無さそうだし」
「ふふっ、それは同感かも」
確かに、体育祭も全部サボってるような人がクラスのために動いてるとは思えないな。
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虎徹くんと別れた後、先生の問題チェックをしてもらってから、暗くなってきた教室に戻ってくると堀北さんだけが残っていた。
「遅いわよ櫛田さん」
「ごめんね堀北さん。自作テストはしっかりOKもらえた。ただ、その前に会った虎徹くんから色々と聞いてたんだ」
「……どんなことを?」
やっぱり苦手意識があるのか、顔が強張ってる。
「試験問題で先生から許可をもらえなかった、ボツ案?っていうのをいくつか。……それは共有するけど、本当にペーパーシャッフルでの対戦相手が龍園クラスでいいのか、っていうのも考えて欲しいんだ」
「分かったわ。聞かせて頂戴」
「えっと、まず言ってたのは……」
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聞いた話、そして龍園くんが謎の存在を気にしてたという話を堀北さんに伝えると、難しそうな顔をして考え始めた。
先に私の意見を出しておこうかな。
「私としては、ペーパーシャッフルの攻撃対象を龍園クラスにするのは危険だと思うな。もちろん、1番避けたい相手は、1番学力があるっぽい今のAクラスだけど」
「一之瀬クラスと龍園クラスの平均学力にはそれなりに差がある、としても?」
「うん。ボツになった問題だけでもまだありそうだったし、もしかしたら採用された問題でも解けないものとか混じってきそうだし……」
あと他にも、私が言ったら疑われそうだから言いたくはないけど『スパイ活動』でのリスクも考えると、龍園クラスが圧倒的に危険性が高い。これに関しては全クラスで迷いなく1番やってそうだと言える。……というか、体育祭の件からして、100%やってると考えてもいいはず。
「……今すぐ結論は出せないし、私が決断したとしても、クラス全体で納得してもらえないといけないわね。明日まで考えさせて。確実に勝ちたいからこそ」
「うん。分かった」
「チェックしてもらった問題、見せてもらえる?」
「はい、どうぞ」
……どうせ文句言われるだろうし、ムカつくけど、問題を難しくした方が良いのには変わりない。我慢して聞いておこう。
「……。」
あ、そうだ。Dクラスの……黒幕?隠れて行動してそうな人っていうの、堀北さんなら知ってるんだろうか。聞いちゃおう。
「堀北さん、体育祭の参加表を変えたのって、堀北さんなの?」
「…………そうね、ノーコメントということにさせて。櫛田さんを信用してないとかじゃなく、誰か分からない状況の方がクラスのためになるはずだから」
「えっと、うん……」
誰か知ってたんだ。やっぱり堀北さん?それとも仲間?……いや、予想がついてるだけ?それとも、知らないけど知ってるフリをした?
う~ん、ちょっとモヤっとするけど、まぁ仕方ないかな……。