ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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テスト組み合わせ

「それでは、ペーパーシャッフル試験における、ペアの発表をしていきます」

 

帰りのHR。担任の坂上がなんか言ってるが、それを無視して学生証端末を触ってる俺は龍園翔だ。

 

クラスの一部の奴ら、成績下位の4人だけには点数調整をさせたから、ペアは既にほぼ分かってる。

 

浅井は文句を言うかもしんねーが、小テストは中3レベルの問題だったから、今現在の学力と結果が離れすぎる可能性もある。成績のバランスとして脱落者を出さないために、組み合わせを若干操作するのは必須だった。

 

しかし、ウザい試験だ。

 

クラスごとにテストを自作して、その点数で競い合う。これは別に良い。単純な学力以外でも戦う余地があるだろうからな。そして諜報戦としても面白い。

 

2人1組ペアで、科目ごとに2人合計60点以上じゃなきゃ赤点。総合点でも赤点ラインがある。……これが気に食わねぇ。

 

『期末試験として実施される』という仕様上、自作テストと言っておきながら『一定以上の学力があれば退学にならない試験』という難易度を強要される。

 

過去の試験結果、例年の傾向として『1年で1,2組の退学ペアが出る』なんて話があったから予想できた事ではあるが、やはり学校側のチェックは厳しいみたいだ。考えた問題が、ほぼ通らないと。

 

そもそも、ペーパーシャッフル試験が期末試験と別に実施されるなら、問題の自由度も上がったんだろうけどな。煽るために『かつてない試験』みたいに言ってたが、試験内容としては少し難しくなる程度だろう。

 

なら何故こんな試験をするか?

 

それは、情報戦として競わせる意味もあるからだろう。

 

『敵の情報を集める』

 

『自分達の情報を漏らさない』

 

この2つだけじゃなく、

 

『敵の情報を細工する』

 

『敵に偽りの情報を漏らす』

 

こういう視点も持てる。そこから考えていけば、取れる手段はそれなりにあるし、当然やる。それだけ見れば面白い試験と言えなくもない。

 

だが、工作活動すべて対策されたら……結局は普通の学力テストでしかねぇ。それも難しめのな。だから、めんどくせぇ。ウザい試験だ。

 

言われるがまま勉強させられる、ってのが気に食わねぇ。学力なんぞ世界で生き抜く強さとまるで関係ねぇだろ、そんなもんに影響されない強さを見せつけてやる……みたいな感情が正直ある。ただ勉強しか出来ない、間抜け共を見下しながらな。

 

浅井のアホに日頃から『勉強しろよ』と言われてるが、……今回だけは、マジでそれなりに勉強しておく必要もありそうだ。クソ腹立たしい。

 

……本当にウザい試験だ。

 

 

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「小テストの結果と、ペア表はこの通りです。メモを取ったり写真で記録しても構いません。何か質問はありますか?」

 

1位から40位の発表と、ペアの組み合わせが1位&40位、2位&39位となってる分かりやすい法則を見て、わずかに驚きの声が聞こえる。この法則、大半のやつは知らなかったか。

 

それでも数名、2,3人くらいは言い訳出来る範囲で手を抜いたっぽいな。考察力か情報収集能力があるのは悪くねぇが、俺が指示した通りに実力でやらなかったかもしれないってのは記録しとくからな。もしも俺の言うことを聞かねぇ奴隷だったとしたら、使い潰してやる。

 

ちなみに俺は0点で椎名ひよりとペアだ。他にも0点だったヤツは、俺の指示した通りの4人。女子は長尾と木下、須藤排除での貢献と、実際にはやらなかったが体育祭での堀北潰しのために貢献しようとした事を考えてだ。普通に成績が悪い2人ってのもあるが。

 

男子では石崎と、山脇を救済組にした。まぁこっちも純粋に成績が悪い2人なんだが、無人島を含めて貢献してたのも間違いない。

 

『クラスの勝利に貢献すれば、ちゃんと恩恵がある』そう思わせる意味でも選んだ。

 

他に悩んだのは、バスケ部の小宮と近藤。ただ日頃の貢献は大きいが、まだ須藤停学を潰された失敗を帳消しにするほどでもねぇ。2人ともそんなに成績が良い方じゃないが、まぁなんとかなるはずだ。

 

成績表を見るに、他に目につくのは……上位に予想通り椎名、金田、鈴木とかが居る。

 

伊吹は17位、普段の成績を考えても、手を抜かずやったようだな。こういう所は評価できる。

 

浅井が15位、そしてアルベルトが25位だった。こいつらでペアか。成績的にもそれほど心配は無いか?

 

「えっ……、古典とか死ぬんちゃう……?」

 

隣に居る浅井が、少し青ざめた様子で考え込んでる。……確かに科目ごとの赤点ラインが危ない、か?

 

「フン。まだ時間はある、勉強しとけよ」

 

「は?わざと0点にした男が言うなよ。お前こそ勉強しろ、不良。バカ。ロン毛」

 

「チッ……」

 

少し励ましてやったらこれだ。ムカつくヤツだぜ。

 

「ずる賢いんだから頭そんな悪くないはずでしょうが。今回くらい勉強しなよマジで」

 

「うるせーよカス」

 

「高校3年間行って、学力に成長無かったら、マジで何してたの?ってなるでしょ。本来なら他にやること無いんだから。それくらいやれよバカ」

 

コイツ、マジで……。

 

 

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「では最後に、ペーパーシャッフルでの『攻撃対象』をどのクラスにするか聞いておきましょう。指定が通るかどうかは、他に重複したクラスが居ないかで決まります。重複したクラスが居た場合、他のクラスの単独指名が優先され、組分けが決まります。……では、どこにしますか?」

 

前にも言ってた説明を繰り返した坂上に、決めてた事を伝える。

 

「Dクラスだ」

 

「……分かりました。それでは結果が決まったら伝えましょう。本日は以上です。引き続きクラス内で話があれば、教室を使っても構いません。では」

 

そう言ってさっさと坂上は出ていった。話、そうだな……。

 

「おい、聞け。……今回の試験、色々と考えてあるが、普通に学力勝負になる確率もある。気を抜かず勉強しとけ」

 

「今回ばかりは龍園に頼っても無駄って事だね。甘えても意味無いよ」

 

隣の席の浅井が余計な事を言いやがったが、まぁ正しい。

 

「……自分の苦手科目とかの克服に助けが必要だってなら、金田に聞け。勉強会を開くにしても金田が決めて、俺に報告しろ。以上だ。解散」

 

俺の号令で動き出すクラスの奴ら。その中でも一部のメンバーは俺の近くに集まってきた。

 

「龍園、別に文句は無いけどDクラスを選んだ理由を聞いてもいい?」

 

コイツも色々と聞きたがるのだけは若干ウザいな。気にしても仕方ねぇだろが。

 

「勝つ確率の問題だ。現時点でAクラス狙った所で大した意味は無いしな」

 

「ふーん……」

 

「あの、龍園さん。俺もやっぱ勉強した方がいいっすよね?」

 

「やれ、って言ったろが石崎」

 

「は、はい……。えっと、じゃあ虎徹、また教えてくれよ!いつもみたいな感じで、テスト前の勉強会やってくれよ」

 

「浅井氏、他のクラスメイトも一緒にやって頂いてもいいですか?」

 

まぁ浅井と石崎達、いつも赤点回避のための勉強はしてるからな。そう考えると……

 

「うん、まぁ、いいよ。けど龍園、俺ちょっとテスト作りに参加するのは無理、辞めさせてもらうよ。……実際もう俺が考えたの却下されまくりで他に無いし、これ以上は普通に勉強できる人が難しい問題を入れてった方がいいと思うし。飽きたし」

 

余計な一言を入れんなよアホが。ただ、今の段階だと問題作りに力を入れる必要も無いってのは事実だ。

 

「フン、構わねぇ。その代わり、他クラスの調査してこい」

 

「いやちょっ待って、それも無理」

 

「は?」

 

なんだと?……どういうことだ?

 

「アルベルトとのテスト対策を全力でやらせてよ。アール、英語は当然パーフェクトだけど、だからこそ他科目の問題とかも、見慣れない変な日本語の問題文とかにされたら全滅しかねないよ。マジでやべぇよ。国語系、社会系の科目とか、俺もそこまで得意ってほどでもないし」

 

「……。」

 

そう言われると、確かに危険かもしれねぇ。こんな1年でやった試験1つでアルベルトと浅井を失うのはアホらしすぎる。総合成績は把握してたが、苦手科目が被って共倒れ……の可能性もあるのか。

 

「マジのマジで、マジやべぇって……。俺も俺でやりたいことあったけど、勉強しとかないとホントに赤点なりかねないよ」

 

「まぁ、……そうだな。そっちに集中していい」

 

「よっしゃ。やるぞアール!死ぬほど勉強するぞ!You die or study!」

 

「……OK」

 

「おい虎徹、俺も入れてくれよ」

 

「良いって言ってんじゃん。じゃあ石崎が泣くまで勉強しよう」

 

「えっ!?」

 

……こいつらに影響されたつもりは無いが、俺も今回は勉強しておくか。

 

大人しくマジメに必死にやってるという姿を見せることで、本来の計画のカモフラージュになるってのも考えられる。試してみるか。

 

 

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翌日、朝のHR。

 

「では、ペーパーシャッフルにおける、対戦相手の発表をします」

 

「……。」

 

それなりに緊張感の高まるクラス。この決定が勝率を大きく変えるからな。

 

「私達Bクラスは、Aクラスとの対戦となりました」

 

「チッ……」

 

よりにもよって、ガリ勉集団のAかよ。クソが。

 

「自動的にCクラスはDクラスとの対戦となります。……ちなみにですが、今回の組分けではA,B,C,Dがそれぞれ循環するように指名をすることで、攻撃対象と守備対象が異なるイレギュラーなパターンも存在しました。その場合は、4クラスの点数を比較して、上位2クラスと下位2クラスに分かれ結果が判定されることになりました。気付いた人は居たでしょうか?」

 

ほぼ誰も意味が分かってないようだったが、ひよりだけ手を上げてアピール。そして金田が紙に書いて何かを考えてる。……どうでもいいな。

 

「他にも、2クラス重複が2クラス生まれるパターンもあり、その場合は相互に指定が重なってるものが優先されることになっていましたが、……話はこれくらいにしておきましょうか。それでは、朝のHRは以上です。お疲れ様でした」

 

ほぼ誰も分かってない、興味が無さそうなのに気付いた坂上は、少し焦った様子で教室を出て行った。アイツにも人間っぽい所あったのか。

 

「坂柳が相手かよ……。これ、本当にヤバいんじゃないの……?」

 

妙な雰囲気が漂う教室で、浅井の声がやけに大きく響き渡った。

 




クラス分けパターンの説明

【循環型】
A→B→C→D→A

【重複2クラスが2クラス型】
A→B→←C←D

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