ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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ペーパーシャッフル終了

ペーパーシャッフル試験が終わった。感触としては全科目で60点以上は取れたつもりの俺は浅井虎徹です。退学は無いはず……。

 

「長かった……」

 

この1ヶ月くらい、ひたすらアールと勉強しまくってた。具体的には、徹底して各教科の授業中にやった小テスト系を完璧にするのを目指し、それが終わってからは学校側指定の教科書、問題集を徹底して全部覚えるつもりでやりまくった。

 

マジで授業が終わってから寝るまで、ひたすら勉強してた。「俺って受験生だっけ?」「大学受験あと1週間後だっけ?」と思うくらいにはやってた。

 

アールとはもう戦友だよ。この1ヶ月、馬鹿みたいに一緒に居た。超マジメにずっと付き合ってくれたからこそ、俺も頑張れたみたいな所ある。

 

あいつも、最終的にどの科目でも俺と大差無いくらいまで勉強してくれた。現代文や古典、社会科目の知識問題とかでも恐らく50点は間違いない……はず。それくらい頑張ってくれた。

 

途中、石崎達もちょいちょい一緒に勉強してたね。意外と不良っぽいやつも、仲間が勉強してたら一緒にやれるのかも。生まれ育ちより、環境が大事なのかも?みたいな体験だった。周りがやってたらやる、みたいな。

 

なんにせよ、よく頑張った。みんな。

 

俺としては学校側の用意してくれた25問、つまり50点分はほとんど満点くらいの勢いだったし、交換テスト部分も全部が意味不明ってほどではなかった。もちろん難しかったけど、それなりに学校側の調整してくれてたっぽい。

 

ただ、やっぱり一部は意味不明だったね……。4択でも全然分からん問題もあった。試験中に思わずちょっと笑っちゃうくらい難しかった問題もいくつかある。

 

覚えてるうち、日本史であったのは『足利義満に付与された官位のうち最高位の官位の名称は次のうちどれか?』とかいう問題で、選択肢が『従一位』『権大納言』『太政大臣』『源氏長者』だったはず。ど、どうでもよすぎる……。知らん知らん。

 

あと『鎖国時、出島において貿易していたオランダの会社の名称は次のうちどれか』で『ポルトガル東インド会社』『ポルトガル西インド会社』『オランダ東インド会社』『オランダ西インド会社』ってあった。どれも怪しすぎでしょ。

 

他にも分からなすぎて覚えてないのがいくつかあるけど……。後で見る解答がちょっと楽しみかも。

 

そういえば難しいというより、ただ時間を潰されるような問題もあった。

 

英語であったのは『No pain, no gain.』に1番当てはまる日本語ことわざはどれか?とかね。これもうほぼ日本語能力テストだよ。選択肢を全部見て、考えて、やっと『虎穴に入らずんば虎子を得ず』かな?っていう。すげぇ簡単な英単語でここまで悩ませるのか……って逆に感動しちゃったくらい。アールとかこれ解けたのかな?

 

『There’s no use crying over spilt milk.』なんかは単語が多いから割りと予測しやすかったかも。「ミルク、泣いても、意味ない?」で『覆水盆に返らず』を選べたり。

 

数学とかは基本的に時間との勝負だった。学校側の調整もあって簡単な問題も多かったし、時間としては『満点が不可能じゃない』くらいにはしてくれたっぽいけど……それでも時間が全然足りなかった。とにかく『解ける問題から解く』『キツそうなら飛ばす』を徹底して、それでやっと70点くらい取れたかな……?って感じ。

 

あ、理科でちょっと面白い問題があった。『炭酸飲料を氷の入ったコップに入れる時、泡が1番少なくなる方法はどれか?』っていう問題で、選択肢は『コップと飲料を冷やす』『コップと飲料を温める』『氷を洗う』『氷を砕いて小さくする』ってやつ。どれもありえそう。

 

これの答えは、多分『氷を洗う』ってやつ。理科っていうより家庭科っぽさあるけど、沸騰石を使う理屈が『ザラザラのものを入れて水全体が一気に沸騰するのを防ぐ』みたいな感じで、逆に泡立たせたくない場合は表面ザラザラを無くせば良い……っていう理屈。

 

試験後すぐ金田と話し合って、恐らく間違いない。個人的に1番好きな問題はこれ。他は、解けないのばっかりだったし……。

 

今回の試験、『赤点で退学』っていうルールさえ無ければ楽しかったかもしれない。それだったらもっとヤバい問題も見れただろうし、変な問題を作るためにマイナー知識を探してみたり、とか出来たと思う。

 

ただ……、嫌いなルールだけど、それでも『赤点で退学』っていうのがあると、流石に勉強しなきゃいけなくなるから、それはやっぱ評価すべき所かも。そこそこキツいペースの教育課程?でも、めちゃくちゃケツを叩かれるから消化出来るというか。やらなきゃいけないから、やるしかないから、やれるというか。

 

学力の底上げとしてめちゃくちゃ有効なのは間違いない。

 

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帰りのHRも終わって、今日は何やろうか、ご褒美っぽいメシでも食おうかな?ピザかな?とか考えてたら龍園が声をかけてきた。

 

「浅井、お前なんで今回は手を抜いた」

 

「は?……喧嘩売ってんの?」

 

何を言ってんだコイツ、俺めちゃくちゃ頑張ったんですけど。ペア相手が優等生で『十中八九、大丈夫』みたいな状況の不良が何を言ってんだ?マジでムカつくんだが。

 

「勉強じゃねぇ、試験に関してだ」

 

「いや意味が分からん。めちゃくちゃ頑張ってたんだけど」

 

なんかズレてる気がするけど、何の話だ?

 

「……お前はそれなりに頭が回るだろが。何も考えず言われるがまま動く奴らと違って、正攻法じゃない手段だろうが選べるはずだ」

 

「んん?……ありがとう?」

 

褒められてんだよねこれ?

 

「だから、今回アホみたいに勉強してただけなのが気に食わねぇ」

 

は~?

 

「勉強してアホってなんだよ。お前の方がアホやろがい」

 

やっぱ、めちゃくちゃ喧嘩売られてる気がする。

 

「試験に勝つ気が無かったってか?何考えてたか言え」

 

「いや勝つ気……まぁ、言われてみると、勝ちたいっていう気持ちは最初から無かったかもしれないけどさ」

 

「なぜだ?」

 

「だって、相手が坂柳のクラスでしょ?それで学力勝負、そりゃ無理だと思うよ。そこはもう諦めて、とにかく赤点回避する方向で考えてたかも」

 

「……フン。諦めてた、かよ」

 

なんだよ、ふてくされてんの?

 

「まぁ、なんか『裏の方法』みたいなのあったとしたら龍園が勝手にやるでしょ、みたいに思って考えなかったのはあるかもね。どうせ俺が何言ったってやるだろうし、それに協力が必要だったら、別に遠慮もしないで俺に命令とかしたでしょ?」

 

「……。」

 

なんで黙り込んでるんだよ。1人でやるのが寂しかった?そりゃ無いか。

 

「もうちょい余裕ある状況だったら俺も何か考えてたかもしれないけど、坂柳が相手だし『何してもどうせ対処されちゃうんじゃね?』とは思ってたかもしれない。それはまぁ、申し訳ないかも」

 

「フン……」

 

なんやねん。

 

「んで龍園はなんかしてたの?たまーに勉強してるのは見たけど」

 

「……何してたか、お前が思いつく限り言ってみろ」

 

「なんじゃそら」

 

「いいから言え」

 

だから考えてなかったって言ってんじゃんかよ。

 

「えー?……う~ん、とりあえず提出問題を簡単なやつにしてもらう、かな。Aクラス誰かを操作して。交換条件は、まぁppを渡すなり、こっちが提出する問題の解答を出すとか。デメリットを完全無視してしまうなら、隠れてリンチして脅迫するなり、女子だったら、まぁ、うん、言えないようなことする、みたいな」

 

「他には」

 

いや今ので十分じゃね?欲しがりロン毛め。

 

「あー……教師と裏で繋がるとかかな。入学前からの繋がりとか、裏金とか、なんだったら脅迫するとか。あとは学校側に提出された問題をどうにかするとか?……こういうこと不可能に近いけど、もし仮に出来たとしたら『敵クラスに解答を教えて金もらう』とか先にやってもいいのかもね。まぁ、現実味の無い話だけど」

 

なんで退学しないために勉強してたってのに、どう考えても退学になるようなアイデアを言わなきゃいけないんだよ。

 

「参考にはなった」

 

「あ、そうすか……。実際に龍園なんかやってたの?」

 

そう聞くと、分かりやすくイラついた表情になった。

 

「……提出問題の入れ替えをさせようとしたが、先に対処された。説得と交渉をかなり急いでやったんだがな」

 

なるほど失敗してたのね。

 

「ふーん……。ま、仕方ないでしょ」

 

「フン」

 

不機嫌そうっすねぇ。勉強も嫌々やってた感じするし。

 

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……せっかくだからハッキリ文句言っておくか。

 

「龍園さぁ、勉強軽視するのそろそろ辞めなよ。これマジで」

 

「あぁ?」

 

「俺は別に『真面目に勉強しよう!』ってありきたりな事を言ってんじゃないんだよ。結局この学校のルールは学校が決める訳で、それ考えたら学力だけはちゃんと伸ばしておかないと勝負にならないだろって」

 

「黙れ。学力なんざ役に立たねぇよ」

 

「その気持ちも分からんでもないけどさぁ……。結局、何をどうしたってここは学校であって、特別試験を出すのも学校なんだから、それはどうしようもないルールなんだよ。俺だって『学力』が人生、っていうか世界で1番必要なステータスなんて思ってないよ」

 

「だったらなんだってんだ」

 

「けど、現にここの世界は学校が決めてるんだよ。学校側から見てみれば、勉強しないでコソコソ悪巧みしてるだけのクラスを、最終的なAクラスにしたい訳がないでしょ。いくら『実力』として学力以外を伸ばそうとしてたってさ、結局ここは学校なんだから、学力を付けなきゃ評価されないんよ」

 

「くだらねぇ」

 

「全く勉強してない奴らに『君たちが1番実力のある優秀な生徒達だ!』なんて言って、優遇する訳が無いでしょ。まぁAクラス特権が個人的には疑わしいけど……それでも、それなりに優遇するのはマジかもしれない。金めっちゃ使ってるのは間違いないし。そうなったとき、対外的に説明が付かないでしょが。お前みたいな不良ばっかりクラスだったら。『勉強してないカス共ですけど、頑張ってAクラスになった子達です!よろしくお願いします!』なんて学校運営側が言いたい訳が無い」

 

「……勉強してなかったら、Aになっても引きずり下ろされるってか?」

 

「そういうこと。『実力至上主義』なんて言ってたって、それ言ってんの学校側だからね。試験内容を決めるのも、報酬決めてんのも学校側じゃん。気に食わないと思ったら、ただ単純な学力勝負でCP700くらいの差がつくような試験やると思うよ。高校3年の最後の試験とかでね」

 

「チッ……」

 

「別に、『勉強だけしまくれ』とか『学校側に媚びろ』とか言ってんじゃないよ。『学力だけはちゃんと伸ばしておかないとダメでしょ』って事。何をどうしたって、結局は学校の手のひらの上で遊んでるだけなんだから、それなりに配慮しなよって。言い訳が通じるレベルには勉強しておいた方がいいでしょって」

 

「フン……」

 

「なんか、前提が甘えてる気がするんだよね」

 

「甘えてるだと?」

 

「だって『勉強しなくても勝てるはず』なんて、逆に言えば『勉強以外を重視してくれるはず』っていう甘えじゃん。勝手な期待、勝手な思い込み」

 

「勉強最優先でやれと?ふざけんじゃねぇ」

 

「そこまで言ってないよ。ただ、『勉強しないのがカッコイイ』みたいなクソダサ不良ぶってないで『最低限ちゃんとやれ』『それなりの大学に受かるくらいには勉強しろ』とかメッセージ出すくらいやれよ。リーダーなんだから」

 

「チッ……」

 

「とにかく『勉強も頑張ってるな』って結果を出すくらいのクラス運営はしなよっていう話。学力だけはハッキリと数値で出るし、ある意味で唯一どこからでも必要とされる成果なのは間違いないんだから。勉強してないアピールして、クラスの勉強モチベ下げてるの、割りと……ゴミでしょ。変にクラスメイトの足引っ張ってんじゃねーよバカ。ロン毛!不良!」

 

「……うるせぇよボケ」

 

まぁまぁ分かってくれたっぽいかな?

 

「クラスのモチベーションを下げるのだけは絶対にやめなよ。……今回、俺とかが頑張ってる姿を見せたのプラスになってるかもしれないけどさ」

 

なんとなく思いつきだけど、割りと俺達がやりまくってるのを見て勉強頑張ってる人もホントに居るかもしれないな。

 

「……別に勉強するなとは言ってねぇよ」

 

そりゃそうか。言ってたらアホすぎるけどな。

 

「俺個人としては、色んな試験をやって、色んな実力を測ってるの面白いと思う。けど、卒業したあとに見られる目線は『こいつらは勉強したのか?』だけだと思うよ。マジで。だからそれに対して言い訳というか『勉強しましたよ』って言えるくらいの実力じゃなきゃ、Aクラスになっても叩き落されると思う。そう考えた方が自然でしょ」

 

「フン……」

 

「相変わらずAクラスになれるかは結構どうでもいいけど、せっかく勝ってもお前の傲慢で脱落したらみんなも可哀想だよ。考えときなよ、リーダー。リードする人、導く人なんだから」

 

「……。」

 

考えてみたら『流石に勉強もそれなりにしよう』ってならなきゃダメでしょ。まだ結果は出てないけど、どうせ負けてるし、敗北が必須くらいのもんだよ。負け惜しみとかじゃなくマジで。

 

とりあえず退学ペアは出てないと良いな……。


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