「それでは、ペーパーシャッフル試験の結果を発表します」
早くね?試験の翌日、今日もう結果が発表されると聞いて驚いてる俺は浅井虎徹です。選択問題だけだったとはいえ採点かなり早くない?先生達が頑張ったのかね。
「1年の全クラス結果は以下の通りです」
そう言って坂上先生が張り出した紙に書かれてたのは、合計点と平均点だった。
~~~~~
【全8科目 合計点数】
Aクラス:27032点
Bクラス:20802点
Cクラス:21928点
Dクラス:22486点
【1科目あたりの平均点】
Aクラス:84.48点
Bクラス:65.01点
Cクラス:68.53点
Dクラス:70.27点
~~~~~
合計点って、すごい数値だなこれ。ゲームのスコアみたいになってる。
俺達は今Bクラスで、最下位か……。Dにも負けるとは思わなかった、まぁ出題問題の差があるだろうけどさ。
ここまでハッキリ負けると、みんな危機感を持つようになって逆に良いかも?
「合計点の提示もされていますが、勝敗は平均点によって決まります」
そりゃそうだろ!……と思ったけど、もしかして退学者が居た時にどうなるかはその時次第だよ、合計点による勝負になるかもしれないよ、ってこと?だから退学者を出すなよってこと?……考え過ぎかな?
「よって、今回の勝負、AとBの対抗戦結果はAクラスの勝利。私達のクラスが負けですね。そしてCとDは、Dクラスの勝利となりました。結果、クラスポイントはこのようになります」
~~~~~
Aクラス:CP904(804+100)
Bクラス:CP632(732-100)
Cクラス:CP547(647-100)
Dクラス:CP286(186+100)
~~~~~
Aクラス相変わらず強いな、やっぱひとつ抜けてるね。ってか、一之瀬たちも負けたのか。Dクラスによる下剋上じゃん。
「そして、赤点による退学者ですが……」
本題はこっちだ。頼むぞ、せっかくあれだけやったんだし、まだ学校辞めたくないよ。頼む頼む頼む頼む……
「今年のペーパーシャッフル試験では、退学者は居ませんでした。……お疲れ様でした」
「よっしゃ!」
「うぉー!良かったー!!」
つい声を上げてしまったの、俺と石崎だけだった。……ちょっと恥ずかしい。
いやでも、クラスを見渡しても安心した様子のヤツもそこそこ多いみたいだ。半分くらいそういう反応かも。
「坂上、他クラスに退学者は出たのか?」
「敬語を使いなさい龍園……。今回の試験、他クラスからも退学者は出てません」
「チッ……」
退学者ゼロ、いや別にいいでしょが……。
---------------------------------------
今回の結果を踏まえて、気になるのは俺達の負けより、一之瀬クラスvs堀北クラスの方かも。
俺達が負けるのなんて正直みんな分かってたし。……いや流石に差がありすぎるだろ!って気もするけど。まぁそれはいい。
一之瀬クラス、俺からしたら坂柳クラスと学力勝負をやっても唯一対抗できるくらいのクラスかと思ってたけど、Dに負けるかね……?
すぐ思いつく理由としては、『みんなで仲良くワイワイ勉強をしてたら雑談ばっかりしてた』とか?ありそうではあるけど、一之瀬も真面目な所はちゃんとしてそうと思うんだけど……。
本人に聞いてみるか。南雲の件もあるし。
ただ、実は一之瀬とはそこまで多く話してないんだよね。チャットするにも話題が無いし、あのクラスについて聞きたい事があったら神崎とやり取りしちゃう。
俺の本音として、一之瀬だけは敵対関係でも『本心を見せずに優しくしてきそう』というのがある。良いことにも見えるけど、だからこそ、定期的に連絡を取るたびにウザがられて好感度が下がってたりすると嫌だな……みたいなのある。本心が見えないからこその怖さ。
その点、神崎だったらハッキリ言ってくれそうな気がするから、あんまり気にせず連絡取れるね。お互いに友人じゃなく情報交換するだけ関係、ただの知人って思ってそうな清々しさもある。
ただ今回は神崎じゃなくて一之瀬も呼びたい。
情報交換ってことで、ある程度こっちからも価値ある情報を出して『たまには会っておいた方がいいかも』くらいに思わせておきたいのもある。『会う価値のある相手』だと思わせたい。
承認欲求というより、情報源としての信頼度を上げておきたいイメージ。
体育祭前に須藤を停学にした件で一之瀬たちにも少し嫌われちゃってるっぽいから、その分のマイナスイメージを回復させておきたいってのもあるね。もう2ヶ月前くらいだ、それなりに時間経ったし可能だと思いたい。
あとせっかくならDクラスも関わってもらおうか。その方が一之瀬も会ってくれそうだし、話も聞けそう。
Dから来てもらうとしたら……櫛田しか思いつかないな。平田でも言えば来てくれそうだけど、なんかね。
---------------------------------------
放課後、食堂。他に誰も居ない、ちょっとした穴場。まだ放課後になってすぐだし、晩飯を食いにくるやつも流石にもうちょっと経ってから来るからね。
先に待っていると男女2人がまず来た。相変わらず見てしっくりくる美男美女だな、早く付き合えばいいのに。
「よっす!一之瀬」
「久しぶりだね!浅井くん、夏休みぶりかな?」
「おひさ~、来てくれてありがとね。神崎も」
「……あぁ」
あれ?なんで?表情硬いな。警戒されてるのかな?
ドンマイ的なこと言って優しいですよアピールしたいけど、もしかしたら反感を買うことにもなりそうだな、かといって関係ない雑談するにも話題難しいな、とか思ってたら櫛田も来た。……えっ?
「な、なんで堀北も居んの?呼んでないよね?」
あまりにも堂々と居るから俺の勘違いかと思いかけた。なんだコイツ。
「その、堀北さんがどうしてもって……」
「クラス同士の話し合いなら、リーダーが立ち会った方が良いでしょう?」
何を言ってんだ?
「いや、ただ個人的な雑談だよ。なんの勘違いしてんの?」
「じゃあ……私も話が聞きたくて。参加させてもらえないかしら?」
「えぇ~?」
なんか思ったより低姿勢でちゃんと礼儀はあるけど、シンプルに居てもらう必要が無いんですけど……。
「ごめんね虎徹くん、私からもお願い!」
「えっ?じゃあ……うん」
櫛田が言うなら、まぁ……。
---------------------------------------
「さて、じゃあ先に龍園の情報から言っておこうか」
先に情報を出さないと『なんで負けたの?』的な話も聞きにくいし。
「その、私達が聞けるのは助かるけど、浅井くんは大丈夫なの?」
心配してくれる一之瀬、やっぱ優しいね。
「最初に言っちゃうと、今回はそこまで龍園と関わってないんよ。勘違いされがちだけど、俺も別に100%龍園を信頼してる訳じゃないし、龍園も俺のこと100%信頼してる訳じゃないよ」
「……それでも、敵同士ではない、味方同士なんでしょう?」
「そりゃそうだよ」
堀北お前よりは龍園の方が味方だわ。当たり前でしょが。
「なら、情報を流したアナタが制裁を受けたりする可能性が高い。そのリスクを負ってこの場に居ると考えるより、龍園くんに指示されて偽りの情報を流そうとしてると思った方が自然だわ」
言ってること分からなくもないけど、面倒だな。
「何が言いたいの?『騙されなさそうで偉いでちゅね~』とか言って欲しいんか?黙っとけよお前。勝手に来ておいて」
「……。」
「あと、もし仮にその予想が正しかったとしても、どっちにしろ俺が何言うか聞いた方がいいに決まってんじゃん。アホか?」
「浅井くん、そのくらいにしてあげて。仲良くしよう?」
一之瀬にちょっと怒った顔されちゃうと困るね。美人強すぎる。
「あー、うん。……俺がこの場で言っちゃうのは、櫛田と一之瀬だったら『どうせ分かりそう』っていう理由が大きいからなんよ。人との繋がりが広いから、Aクラスからの情報も入りそう。だったら早めにその情報を売っちゃって、裏付けのように使ってもらおうと。価値が無くなる前に情報を出しちゃいたい、的な感じ」
「なるほど。うん、納得」
今気付いたけど一之瀬と櫛田が相手だったら何もかも言いそうで怖いなこれ。両手に花じゃん。
「それで、龍園がやってたことだけど、俺が知る限りでは『生徒を買収して問題を変えさせる』ってやろうとしてた」
「やりそうね」
「うん……」
「……。」
誰も驚いてないね。この信用の無さ。
「ターゲットとして選んだ生徒が誰かは聞いてないし分からないけど、実際にやって、その結果が『間に合わなかった』って言ってた。多分、坂柳が先に手を打ってたみたい。そういう悪巧みの対策も当然のようにちゃんと出来てたみたい。意外じゃないけど、やっぱ強敵だなって感じ」
「坂柳さんなら、それくらいは確かに出来そう」
「……強敵、ね」
本当は聞いてる話これだけなんだけど、ここからは俺が適当に作り上げちゃおう。どうせ龍園だったらやりそうだし、俺じゃなくても想像できる事だろうし。
「あとは、教師側に対して交渉してみたって。ppで問題の一部を変えるとか、問題を見れないかとか」
「それはルール違反でしょう。試験が成り立たないわ」
まぁね。堀北やっぱ真面目マンだなこいつ。
「それでも、『ppでなんでも買える』っていう文言が一応あるんだから、聞いておいて損は無いって事だよ。万が一もあるし。……今回はやらなかったみたいだし、それが『買えなかった』のか『買わなかった』のかは分からないけどさ」
もっと言うと『ppが既定値以下だったから買えないという事にした』という可能性もあるにはある。けどこれは言わないでおこう。
「ppに関して、龍園くんが1番持ってるみたいだもんね」
「まぁ、多分そうだね。……ん?」
あれ?クラス中から徴収してるって龍園本人が言ったことあったっけ?……やべ、櫛田にカマかけられたかも。ヤダも~。
「プライベートポイントの使い方、やはりまだ分からない部分が多いわ。定期的に聞いてみた方が良さそうね」
「かもね。あとは、何かあったっけなぁ……」
というか、何か可能性ある方法あったっけ?うーん……
「龍園くん達も、流石に今回は勉強頑張ってたみたいだね。虎徹くんも、アルベルトくんと一緒に勉強しまくってたって噂で聞いたよ?」
「え?そう?……ありがと」
櫛田の情報網を褒めるべきか、気分を良くしてもらおうとして言ってるの分かりきってるのに嬉しくなっちゃってる俺が反省するべきか、櫛田の話術を褒めるべきか悩むね。……そんなこと考えてる場合ちゃうわ!
「龍園が警戒すべき相手というのは変わらず、だな」
話の区切りと見た神崎が口を開いた。黙って見てただけなんだけど、真面目な顔して聞いてくれてたから不快じゃないんだよね、そういうとこやっぱ一之瀬クラスという気がする。
「あっ、そうだ。もう1つだけ、実際にやらなかったけどアイデアとしてあったのは『相手クラスの邪魔をする』だ」
「邪魔?」
「Aクラス相手だと効果あんまり無いからやめたって話だけど、一之瀬クラスとか堀北クラスが相手なら、集団勉強の邪魔をしてた的な話があったんよ。……そういうのやり合ったりしてたの?」
そんな話は一切出てない。完全嘘。だけど、CとDの対決がどういうものだったのか聞くためにありそうな話として出してみた。
---------------------------------------
「それは……」
「一之瀬、言いにくいなら俺から言おう。堀北、櫛田、お前達のクラスから数人がこちらのクラスの勉強会に参加してたのはそういう理由か?クラス勉強の邪魔をしようと」
ん?そんな事あったの?知らんかった。追い出せばいいのに。
「……私は聞いてないわ」
「えっと、ごめんね神崎くん。そういう意図はしてないんだけど、Dクラスで馴染めてない子が一之瀬さんのクラスと一緒に……っていう事だったと思うんだ。女子の2人くらい、だよね?もしかして邪魔しちゃってた?」
「櫛田、お前の指示ではないと?」
「もちろん違うよ。でもフォローしきれず行かせちゃったのは私達が悪いよね、ごめんなさい」
「だが、それも敗因の1つとして、」
「いいよ神崎くん!別にうるさくされた訳じゃないし、静かにしてくれてたから大丈夫だよ。みんなで助け合えた方がいいって私が許可したんだもん」
なら邪魔じゃなくて、偵察みたいな意味だったのかな?そして黒幕が居るとしたら、まぁ櫛田っぽいかな。櫛田がクラスに馴染めてない生徒をフォローせず放置するのも違和感あるし、指示して行かせてそう。……一緒に勉強してただけみたいだけどね。
「あ~、ついでに聞いちゃうけど、なんで一之瀬クラスが負けたの?俺マジでビックリしちゃったんだけど。なんで?一之瀬、手抜いたの?」
Aクラスに唯一対抗出来そうなクラスが負けた理由、それもDクラスに敗北。それこそわざと負けたって言われた方がしっくりくるよ。Dクラスの少なすぎるCPに同情して、みたいな。
「そんな、手を抜いたってことは無いけど……」
困り顔でなにか言葉に詰まってる様子の一之瀬。その様子を見てる神崎だけど、遠慮して言わないでいるのかな?
「神崎、なんか言いたそう。どしたの?」
「いや……」
「もう終わったんだし、反省の意味で言っちゃえば?」
ユー!言っちゃいなYo!
「……そうだな。一之瀬、分かってるだろうが、今回は少しばかり勉強会を重視しすぎたと思う。勉強できるヤツを全員教師役にして、クラスの底上げにはなった。間違いなく。だが、」
「自作問題にあまり力を入れられなかった、だよね?」
「……あぁ」
「うん、神崎くんの言う通りだと思う。みんな赤点を取らないように、っていうのばかり重視しちゃってたね」
なるほどね。思ったより普通の理由ではあるけど、まぁ納得。取りこぼしを無くすのを重視して、難問作成にあまり時間をかけてなかったとね。
「だが、それが一之瀬の良い所でもあるからな。今回失敗したとは言い切れない訳だ」
「ふふっ、……ありがとう」
なんだ?早く付き合えよこいつら。
---------------------------------------
そのあとDクラスの状況もなんとなく聞いて、堀北が勝手に話し始めた難問作成の難しさを軽く聞き流してるといい感じの時間になった。
正直そこまでの収穫は無かったし、龍園だったらさっさと集めてそうな情報しか取れなかったけど、まぁ情報交換の場が有意義だったっぽい雰囲気になってるから良いかな。次に繋がりそう。
最後にこれだけ聞いておこうか。
「一之瀬、ちょっとペーパーシャッフルと関係無いんだけど、生徒会についてちょっと聞いても良い?」
「えっ?うん、もちろん!」
「もしかして虎徹くん生徒会に入りたいの?」
「生徒会?アナタが?」
「……本気か?」
なにこの反応?そんな不思議か?泣くぞ?
「いや入りたいかは全然決めてないけど……。一之瀬は2年の南雲先輩?と仲良くなって生徒会に入れたんだよね?どういう感じだったの?」
「うん。生徒会室に行って、入りたいです!って伝えて、その場で3年の堀北会長、あっ、元会長から色んな質問されたりして……。その場ではダメって言われたんだけど、後から南雲先輩が連絡くれて、質問された理由とか、必要とされる能力とかを教えてくれて、色々教わって、かな」
「ふーん……」
前も思ったけど、1年から能力あるやつ見極めて育てるっていうのやらずに南雲に好き放題されてるって……。堀北メガネは無能なんちゃうの?個人で能力あるって言ったって、組織として部下育成なんもしてなかったらゴミじゃん。1人でなんでも出来ちゃう有能すぎるがゆえの無能、みたいな。
「えっと、ちょっと意外に思っちゃったけど、浅井くんも生徒会に入りたいの?」
どう答えよう。南雲の本性を知るためにも近付かなきゃいけないのは間違いないから、そうするしかないかな。
「まぁ、生徒会っていうより南雲……先輩に興味があるんだよね。今度紹介してもらってもいい?」
「もちろん!南雲先輩も『学校を変えるためには仲間が絶対に必要』って常々おっしゃってるし、一緒に頑張れたらいいね!」
心酔してるねこれ。う~ん、なんとも言えない気持ち悪さ。
「あ~、一之瀬さ、もし南雲先輩がすごい悪人だったり、悪いことしてたらどうする?」
「……どうしてそんなこと聞くのか分からないけど、それだったら全力で止めようとすると思うよ」
「ん、そっか」
本当の善人だったら良いんだけどね……。俺の勘では、詐欺師にしか見えんのよ。
俺も本性を見せず、完璧にキャラ被って使えるコマとして認識されるようにしよう。自我を忘れるくらいの仮面を被って、気に入られてみようじゃないの。本格的に諜報活動だな。