ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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南雲が現生徒会長です


守・破・離
STRENGTH


12月中旬、ペーパーシャッフル試験とかいう期末試験にしては大変過ぎるテストが終わり、年末に向けてなんとなく気が緩んでる俺は浅井虎徹です。

 

かなり寒くなってきて気温は10度を下回る日も多くなり、もう完全に冬だ。

 

そして来週から2週間ほど年末年始の冬休みがある。休みはもちろん嬉しいけど、帰省させてもらえないのがね。これもう懲役3年間だよ。……ちょっとホームシックかも?

 

試験まみれの学校に生まれた、隙間の猶予期間。勉強なんかやりまくったばかりでやる気無いし、部活にも入ってない。けど、俺は俺でやることがある。

 

それは『南雲の実態を調べる』というもの。

 

盗聴、盗撮、そういう形で調べるのも良いけど、2年途中で学年統一を成し遂げ、3年にちょっかいかけて遊んでるような人間が相手では難しそう。

 

生徒会長にどれだけの権力があって、どこまで管理して把握してないのか分からないというのも不安要素だね。相手側が盗聴とかしまくってても不思議ではないし。

 

……まぁ龍園はそういう手段で勝手に色々と調べてそうだし、それを頼りにしてる部分はちょっとあるけど。聞いてみるか。

 

「ねぇ龍園、南雲の調査ってどんな感じ?」

 

「……そんなに進んでねぇな」

 

相変わらず横でスマホ触りながらこっちを見ないで答える龍園、1年近く過ごしてたら、こういう態度も慣れちゃったね。ムカつくはムカつくけど。

 

「分かってるのは、2年がもう完全統制されてるって事くらい?」

 

「あぁ」

 

ん?……それだけ?

 

「いや、もうちょい教えてよ。なんかあるでしょ」

 

「フン……。2年全体がもう既に諦めてるフシがある。すべての戦争が終わったような雰囲気の、クソつまんねぇカス共だ」

 

なんだよ戦争って。相変わらず大袈裟な表現好きだねコイツ。

 

「具体的に何があったのかは分からない?」

 

「あぁ」

 

「うーん、やっぱ南雲に近付かなきゃダメそうだね」

 

「……何する気だ」

 

「色々考えたけど、やっぱり部下みたいな立場になるしかないかな?って」

 

「は?」

 

「ちょっと遅い気もするけど、生徒会に入ろうとしてみるよ」

 

「入れる訳ねーだろ」

 

「なんでよ?」

 

それキッカケに接触しようっていうだけの話だから入るつもりは無いけど、なんでそこまで否定されなきゃいけないんだよ?お前よりは入れそうだろがい。

 

「クク、お前が生徒会に入れたら1万やるよ。生徒会長になったら10万だな」

 

なんだと?このクソボケ不良……。俺のこと舐め過ぎでしょ。

 

「この野郎……。言ったな?じゃあ俺が生徒会長になって『ロン毛の不良は退学』っていう校則作ってやるからな。覚悟しとけよ!」

 

「やってみろよカス、無理だろうけどな」

 

そこまで言う!?ムカつくー!!

 

 

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さて、放課後。これから南雲に会いに行く。一之瀬が話を通してくれたからね。

 

龍園にあんな事を言ったものの、生徒会長なんてマジで興味が無い。なんだったら生徒会にも入りたくない。

 

そもそも『体制側』というか『ルールの守護者側』ってのが、普通になんか嫌だし、実家に帰った時にそんなのやってたと思われたくない……。真面目な子だと思われちゃうというか。

 

いや別に言わなきゃバレないだろうし、バレても何も言われないだろうけどさ。なんとなくヤダな~、くらい。必要とあればやるけども。

 

俺が考えなきゃいけない最優先課題は、1つ……いや2つかな。

 

絶対的な1つは『敵意を悟られない』ということ。まだ確定情報が少ないから、ひとまず今まで入ってきた情報を見て見ぬフリして敵意を見せない。ひたすら『すごい先輩に憧れてる』的な態度を取るために、そういう思考を入れておく。

 

女遊びしまくり部分だけを見たら、まぁ、憧れるというのも嘘の感情じゃない。その辺を意識しまくって、他の感情を無視する。

 

そして2つ目は、目的とも言える『懐に入る』ってこと。定期的に接触出来る関係になるため、近付くため、生徒会に入るのは絶対条件ではない。どんな形であれ『使える手駒』くらいに思われる必要がある。『ある程度は情報を見せられる相手』だと信用を勝ち取る、その第一歩のために。

 

……難しいかもしれないけど。

 

とにかく、敵意がバレないのが最低目標だね。

 

なんて考えながら歩いてたら目的の場所に着いた。場所はもちろん、ここ生徒会室。夏に1回だけ来てからぶりだ。

 

ちょっと緊張しながらも、ノックをして、

 

「こんにちは~。1年の浅井です。南雲先輩に用があって来ました」

 

「……入りな」

 

「失礼します」

 

分かる範囲で、なるべく敬意を払った礼儀正しさは見せよう。

 

「よく来た。一之瀬から『生徒会に興味があるらしい』とは聞いてる。そして、それが『意外だった』ともな」

 

こちらを見定めるような目で、なんとなく楽しそうな笑顔を見せる南雲。人が惹かれるのが分からんでもない顔だな。そして意外にも1人しか居なかった、部下いっぱい引き連れてるイメージあったけど。

 

「はい、自分が生徒会に合ってない自覚はあります。ちょっと遅くなっちゃいましたけど、南雲先輩について少し聞いて、すごい人だなと。だから近くで見て学びたいです」

 

「おぅ、ありがとな。だが、本当の目的はなんだ?」

 

えぇ……?確かに分かりやすく媚びを売ったけど、え?なんでもう疑われてんの?

 

「いや、その、近くで見てみたい、っていうのはマジですよ……?」

 

「そうか。だったら、俺の何を知ったか言ってみな」

 

なにそれ?褒められたいの?じゃあ期待に応えようじゃないの。

 

「やっぱ1番は女がめっちゃ居るっぽい所ですね、相手が1人だけじゃないと。羨ましいですし、めちゃ尊敬してます。ノウハウ学びたいです」

 

これは7割本当。真っ当な方法だったら正直知りたい。

 

「そこかよ。他は?」

 

「えーっと……今もう2年を完全支配してる?って所ですかね。俺なりに調べてみても内情が何も分からなかったので、確認は取れなかったんですけど、それでも『そもそも情報が取れない』っていう事が完全支配の証明なのかも?とも思ってます。……実際の所、ホントなんですか?」

 

「まぁな」

 

「おぉ~!すごいっすね!」

 

すごいと思ってないけど、すごいと思えなくもないからすごいと思っておこう、みたいな事を考えながらリアクション。ちょっと石崎に似てたかも。

 

「どうやって実現したか、少しでも分かるか?」

 

「え?……いやもう、全然分からんかったですよ」

 

流石にここで『女を落として脅して使って、っすか?』なんて聞くほど馬鹿じゃない。事実だったとしても認める訳ないわな。

 

「予想でいいから言ってみな。……思考力のテストだと思え」

 

テスト?やだ~。でもしっかりアピールしておかないと相手する価値無いカスだと思われちゃうね。頑張るか。

 

「まず最初に思ったのは、情報収集能力が異常に高いのかなと。根拠としては『初期Bクラス』が社交性重視っぽいので、そこからの予想です。人間関係の構築、あとやっぱり彼女というか、それぞれのクラスに使い勝手のいい女が居て、色々と聞けたからかな?と」

 

「……続けな。事実確認が出来てなくても、想定したもの全部言ってみろ」

 

かなり真面目に聞いてくれてる。こういう所すごいちゃんとしてるね、どっかの不良とは大違いだ。人付き合いの上手さを感じる。

 

「了解です。情報があったとしても、これだけだと『Aクラスになった理由』としては理解できますけど、競争が消滅しかけてるほど『全クラスを支配』まではちょっと難しいんじゃないかな?と」

 

「悪くない。それで?」

 

「1番考えられるのは、生徒会長になったら『生徒のクラスを自由に変えられる』みたいな権限もあるのかな?と思いました。数人限定とかだったりはするでしょうけど。ゆえに、学年全体が媚を売って従う環境が出来上がってる、みたいな」

 

「はっ、流石にそこまでの権限は無いな。……俺に限れば、似た事は出来るが」

 

そう言って楽しそうに笑う南雲。イケメンだからムカつくんだが。

 

「そうなると、生徒会長とか関係なく南雲先輩の実力って事ですか」

 

「あぁ、そうだ」

 

「その場合……思いつく方法は1つだけっすね」

 

「言ってみろ」

 

「何らかの形で、全クラスから毎月プライベートポイントを徴収してるんじゃないですか?そうなると2000万くらいすぐ貯まりそうですし、Aクラス以外は全力で従う環境になりそうです。それでAクラスを打倒しちゃえば、もうあとは他3クラスがひたすら奴隷のようになりそうかなと」

 

「……いいぞ、悪くない思考力だ」

 

合ってるかどうか、YesかNoかは言わんのね。

 

「もうちょい言うと、クラス変更させるのに2000万ppっていうのは少し怪しいんですよね……。例えば『Aクラス2人と他クラス1人のトレード』っていう形だったら1000万ppで済む、みたいな裏ルールもありそうかな?と」

 

「条件によって値段が変わるってか」

 

「はい。あとは、クラスごとの人数調整のため、人が少ないクラスに移すなら安くなりそうかな?とか。そう思ったんですけど……まぁ、無いっすかね。あったとしても、みんなはAクラスに居たいだろうし。脅迫にしか使えないかもっていう」

 

「ん?お前はAクラスへの願望が無いのか?」

 

「えっ、その……はい」

 

まだ言うつもりなかったけど、なんか漏れちゃったな。

 

「なぜだ?」

 

「えーっと、Aクラス特権が信じ切れないというのが1つ。あと、実家を継ぐかもしれないっていうのがあるので、別に無くても困らなさそうだなと。これ、もしかしたら他の奴らと違う俺の『強み』かもしれません」

 

だからといって龍園達を軽々しく裏切るつもりは無いけど、Aクラスに固執しないっていう人間は使いやすいはず。大きなアピールポイントかも。

 

「面白い」

 

「……それより、もしそういう『2000万をエサに従わせてる』っていう方法だった場合、ppをどうやって集めたのか気になります。……教えてはもらえませんよね?」

 

「流石に無理だな」

 

そりゃそうか。残念。

 

「想像としては、南雲先輩が部活動とか課外活動での報酬で稼いだという案ですが、やっぱ難しいかなと。いくらサッカー部でエースだったとしても、試合勝利ボーナスが何百万なんていうのは考えにくいですし」

 

いや国体優勝とかオリンピックにアンダーカテゴリで選抜されて優勝とかしたらあるのかもしれない?けど、そういう実績は流石に無かった。

 

「他には?」

 

「うーん、……やっぱ、女性を言いなりにしまくって、その辺から巻き上げていったのかなぁ?くらいですね。分かりません」

 

考えるほど女を使った悪い方法を思い浮かんじゃって嫌になるよ。

 

「なるほどな。浅井、正直に言うとお前にそこまで興味は無かった。身体能力も並、学力も並、特段優秀でもない生徒だろ?」

 

「そっすね」

 

ハッキリ言うねぇ。でも確かにめちゃ普通の生徒ですよ。

 

「あえて言うなら、龍園とかいうヤツと築いてる関係性、特別試験で結果を出してる事くらいだが……優秀な生徒とは言い難い」

 

「はい」

 

何回『お前は凡人だ』を言うの?分かってるっちゅーの。

 

「俺が生徒会長になった時の演説から時間が経ちすぎてるのもマイナスポイントだ、行動が遅すぎる。……だが、見込みはある。良い推察力と、そのために俺の所まで来て情報を得ようとする姿勢とかな。有象無象のバカ共よりは遥かに見込みがある」

 

「その、どもです」

 

露骨な『けなして褒める』だな。心理学にある基本的なやつ。

 

「よって、『生徒会の見習い』くらいにしてやる。俺の指示で動いて結果を出せたら正式に生徒会に入れよう」

 

「おっ、ありがとうございます。……嬉しいです!」

 

一応は認められたっぽいかな。肩書なんも無い、ただの捨て駒っぽいけど。

 

 

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「こちらから連絡する。何か聞きたい事はあるか?」

 

南雲と連絡先を交換をしながらそう言われたけど、聞きたいことはめっちゃあるよ。でも気をつけなきゃね。

 

「じゃあ、なんでその、卒業まで権限拡大させたり、生徒会を自由に入れ替え出来るようにしたいんですか?……やっぱ権力使いまくるのが楽しい、みたいな理由ですか?」

 

「フッ、言うじゃねぇか……。楽しいのは否定しないが、そもそも、この学校の存在理由に関わる話だな」

 

「存在理由っすか?」

 

思い当たる節が無い。南雲から見た学校ってこと?気になる。

 

「お前がそう思う側か微妙だが、俺からすると『優秀な生徒を育て上げるにしては普通の人間が多すぎる』という疑問が拭えない。もっと優秀な生徒ばかり集める事も可能なはずなのに、なぜだ?と」

 

「まぁ、確かにそうかもです」

 

俺は色んなヤツが居て面白いと思うし、俺も別に優秀な人間じゃないから気にならないけど。でも不思議っちゃ不思議かも。

 

「つまり、この学校は『現実世界に寄せた多様な人間を入れた上で、リーダーシップを発揮する人間を選抜して育成する』というシステムだと俺は見てる。国家として指導者たるエリートを生み出したいとな」

 

「……なるほど」

 

それは確かにありえなくもない、かも。『国家の指導者を作りたい』という動機だったら、国の金をジャブジャブ使ってる理由に一定の納得感が生まれる。

 

「だから俺はさっさと学年統一して、卒業して逃げられる前に3年とも対決して勝利する。そうして『俺こそが最も優秀な人間』だと証明するのさ」

 

「……。」

 

「さらに来年は、お前ら現1年、そして来年の新1年もさっさと支配して、誰よりも統率力ある人間だと証明する。すべてはそのためだ。結果的に権力を集中させて行使してるのは、それ自体が目的って事だよ」

 

「なるほどです……」

 

「世界を支配してるのは、上に立つべくして育てられた人間だ。俺も事実そう育てられてきたし、支配者になるべく研鑽を積んでいる。そして行動するのに早すぎるということも無いだろう」

 

「早すぎない、うーん確かにそうかもです」

 

ちょっと感心しちゃったよ。手段は別として、そこまで考えた上で高校2年でほぼ実現してるのはすごいな。

 

「別に隠してるって程の事じゃないし、生徒会の奴らには当然伝えてある。だが勝手にお前が言い触らしたりするなよ?」

 

「了解です。そうなると……もしかして『歴代で最も学校を変革した』みたいな功績が欲しかったりします?」

 

「お前……、いや、そうだな。可能なら欲しい称号だ」

 

一瞬ちょっと警戒された?ドンピシャ過ぎたんだろか。でも普通に思いつくでしょ。歴史上、権力者の動機なんて『名前を残したい』が大半なんだし。

 

「そうすると、ん~~、もしかしたら何か出来るかもしれないです。いや保証は出来ませんけど」

 

「……期待せずに待っててやる。アイデア程度でも何かあったら連絡しな。良い案が出せたなら、生徒会の役職まで用意してやる。約束だ」

 

「了解っす」

 

なかなか良い初対面になったと思う。これからも価値を示さないと有象無象の情報源の1つにされちゃいそう、っていうのは大変だけど。

 

裏の顔に関しては何も見えなかったけど、そりゃまぁ初対面じゃ仕方ないでしょう。もうちょい信頼度を勝ち取らないとね。

 

けど思想を垣間見れたのは大きな収穫だな。少しは行動予測が出来るかもしれない。

 

さてさて、学校を変えるアイデアねぇ……。

 

あると言えばあるんよな。一石二鳥のやつが。


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