ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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なんちゃっテロ

こんにちは、昨日は夜遅くまでめちゃくちゃ忙しく、その反動で昼まで気持ちよく二度寝してた俺は浅井虎徹です。サンキュー臨時休校。

 

「浅井、知っている事をすべて話したまえ」

 

「ういっす」

 

「何かを隠蔽した場合、退学の可能性すら大いにあると理解しなさい」

 

そして今、午後になって学校からの緊急メールで呼び出しを食らってしまった。生徒指導室に来るとAクラス担任の真嶋だけが居て、なぜかタイマンで説教されてるっぽい状態になってる。嫌だわ~。

 

「えーっと、……なんかあったんですか?すごい騒ぎでしたけど」

 

知らないフリ、というか何も知らないという設定、というか知らないって事じゃないと全部が無駄になっちゃう。『何も知りませ~ん』モードに頭を切り替えて受け答えする。

 

「……まず、昨晩はどこに居た?」

 

「ん~、龍園に怒られるかもしれないので言いたくないです」

 

しかしなんでオッサン教師と2人きりになってんだよ、それもムカつく。まぁ坂上先生は担任だから、こういう取り調べ役はダメかもしれないけどさ。巨乳の星之宮か、せめて茶柱にしてくれよと。

 

「とぼけるな。龍園の部屋に行った事はこちらで確認している」

 

え?じゃあ聞くなよ。なんか喧嘩腰だな。

 

「あ、分かってるんですね。その通りです、龍園の部屋にずっと居ましたよ」

 

「時間帯は?」

 

「俺は21時過ぎくらいに行って、帰ったのは24時くらいですかね」

 

「……その間、一歩も部屋から出てないと証明出来るか?」

 

もちろん証明なんて出来ない、居なかったし。そのための仮面集会だったっちゅーの。

 

「えーっと……そもそも誰も外に出なかったと思うんですけど。罰金になりますからね。俺含め4人と龍園1人。みんな『誰も外に出てない』って言ったら、証明になるかも?です」

 

「しかし、あの場に居た者から、22時過ぎに『ドアを開ける音が聞こえた』と証言が出ている。君は気付かなかったのか?」

 

「いや、俺は聞こえなかったですね~」

 

その証言もなんか怪しいな、ホントに誰か言ってたのかな。

 

「君も2万ppに釣られて集められ、やっていたトランプのゲームは、七並べ、ババ抜き、大富豪。間違いないな?」

 

ん?

 

「いや、ババ抜きだけでしたけど……」

 

めちゃくちゃ自然にカマかけて、引っ掛けようとしてきやがって……。こわっ。帰る前に龍園から情報もらってて良かったよ。あっぶね。

 

「では、罰金に関して。『声を出す』という行動で1000ppが減額されたそうだが、君は何度か声を出してしまったかね?」

 

これは龍園のカウントミスもありえるから言っても大丈夫なはず。

 

「はい。多分……3回だったかな」

 

「では、1万と7千ppがもらえた、という事になるはずだな?」

 

「そうなんですけどね、さっき見たら、なんでか分からんけど2万pp全額くれてたんですよ。みんな同じ格好だったし、声出しをカウントしてたけど分からなくなったんじゃないですかね?もしくは、意外と龍園が優しかったのか……。んふっ」

 

あ、やべ笑っちゃった。優しい龍園ってなに?ツチノコの方が会えそう。

 

「……本当は、君だけが部屋に居なかったから、ではないのかね?」

 

「いや居ましたって」

 

まぁ嘘だけど。仮面集会をやってる時、俺はずっと風呂場で電気を点けず隠れてた。レインコートとお面を着けた状態でね。あと軍手とマスクも。

 

他4人がトランプで遊び始めてから、音を立てないようにしながら、勝手に他のヤツの靴を履いて外に出た。レインコートの下にリュックサックを背負って、学生証端末は龍園の部屋に置いたままで。

 

「そうか。……では次に、龍園の部屋に居た、レインコート姿になった5人で、他の相手について何か覚えていることや気付いたことは?声や、仕草、特徴など」

 

「いや、みんな同じ格好してたから分かりませんて」

 

そういえば龍園、呼んだヤツの靴サイズまで把握してたっぽさある。やばくね?なんで?男までストーカーしてんのかも……。怖いよ。

 

「では、龍園以外、君を含めた5人がどう座っていたか言ってみたまえ」

 

は?座り方なんて知らねーよ……。

 

「普通に足組んで好きにしてたと思いますけど……。他のやつの足なんて、トランプ見てたからわざわざ見なかったし。ん?あれ?」

 

「どうした?」

 

「5人って言いました?……いや、変な格好になってたのは、俺と、他は3人ですよ。トランプやってたのは4人です」

 

「そうか」

 

今のも誘導尋問?辞めてくれよマジで……。

 

「ってか、そもそもですけど、何があったんですか?」

 

「……昨夜の事だが、仮面にレインコート姿の生徒が校舎内に侵入して破壊活動を行った」

 

露骨な話題逸らしだったけど、なぜか乗って教えてくれた。何か口を滑らせないか、って感じかな?

 

「へ~……ビックリですね。俺達と同じ格好してたヤツが悪さしてたって事ですよね?誰だったんですか?」

 

物的証拠は何も無いはずだからこそ、『やったの俺です!』とか言わないように気をつけなきゃ。

 

「現在、調査中だ」

 

その『調査』が、この俺に対する取り調べってことだろうな。

 

「位置情報がなんたら、とか入学時に言ってませんでしたっけ?」

 

「……システムに関わるため、黙秘させてもらおう」

 

位置情報は学生証端末でしか見れない、龍園の情報通りっぽいな。スマホを持ち歩かないだけで学校側が生徒の居場所を把握できなくなる欠陥システム。

 

不所持によるペナルティとしてCP減点もあるにはあるけど、バレなきゃどうしようもない。スマホ持たずに変装するだけで誰か分からなくなる現状って引くほどザル過ぎるよな。しっかり反省しやがれ、バーカ。

 

「じゃあ、その怪しいヤツ、何をしたんです?」

 

自分で自分について尋ねる謎の恥ずかしさ。ちなみに仮面レインコートマンの時、前と後ろに『罰ゲーム!』ってマジックで書いただけで、すれ違った生徒に警戒されながらもスルーしてもらえて良かった。我ながらナイスアイデアだった。

 

「……学校運営に関わる部分は伏せるが、その犯人は、窓ガラスを割り校舎に侵入した」

 

「へぇ~」

 

職員室から遠い場所の、通路のガラスを焼き破り……ライターで燃やして割って、カギ開けて侵入したんだよね。2分くらいかな。意外とまぁまぁ大きな音がして焦ったけど、叩き割るほど大きな音じゃなかったし、大丈夫だったはず。

 

「その後、屋上に移動し、監視カメラも使用不可状態にして、給水タンクになんらかの細工をした」

 

黒いカラースプレーでカメラのレンズを潰した。ちゃんと洗えば使える、のかな?知らん。

 

「よく分からんですけど、怖いですね~」

 

やべ、笑いそうになるくらい棒読みになっちゃった。少しは驚かなきゃと思っただけなんだけど、変にならないよう気をつけよう。

 

「幸い、屋上では大きな破壊活動は無かった。何か薬品を入れようと試みた形跡はあったが、無事が確認された」

 

すっげぇ暗かったし、監視カメラを潰した後は懐中電灯も使えたけど、給水タンクの仕組みが全然分からなかったんだよね……。伸びてるパイプなら細工出来るかと思って、キリで穴開けてみたけど、水が出てくるだけで全然なんも出来なかった。下調べ不足でしかない、反省。

 

「何か薬品って、なんすか?」

 

知らないフリのため、全部とりあえず聞き返しておこう。

 

「……除草剤だ」

 

まぁ知ってるけどね。どこにも入れられなかったから、適当に水浸しにして屋上に置いといた。

 

「それ、人が飲んだらヤバいっすよね?」

 

「当然だ。悪ふざけでやっていい行為ではない」

 

あら、お怒りの様子。結構しっかり俺のこと睨みつけてきた。だったら最初から生徒が屋上に出れないようにしとけば良くない?バカなん?

 

「怖いですね~。他にはなんかあったんですか?」

 

「……2年Aクラスの教室が、密閉された状態で、毒ガスの充満する空間にされていた。薬品を混ぜてな」

 

「えぇー!?犠牲者は出なかったんですか!?」

 

「……幸い、居なかった」

 

そりゃ良かった。しっかり教室のドアをダクトテープで密閉して、しっかり『入ったらダメ!』まで書いておいたからね。それを見ても飛び込んで入って深呼吸するようなヤツ流石に居ないだろうとは思ってたけど、まぁ安心した。

 

「それは良かったです、ね」

 

「毒ガスと言われて、気にはならないのか?」

 

「いや気になります。こんな管理された学校で……そんなもの用意できるんですか!?」

 

目を見開いて大声で驚いた感じで言ってみたけど、思わず皮肉っぽくなっちゃったかも。

 

「……日常的に使われる掃除用の薬品を混ぜて作られていた」

 

「えぇー?」

 

まぁ、ただ『混ぜたら危険』を混ぜて、塩素ガスを発生させただけなんだけどね。サリンとかほど酷くはないけど、液体が目に直接入ったりしたら普通に失明するくらいには強い刺激物ではある。

 

手順としては、1Lの塩素系漂白剤を校内のトイレから2本回収して、あと普通に買っておいた酸素系漂白剤を2本。バケツに入れてから一気に床に撒き散らして混ぜて、すぐ教室から出て、ダクトテープで教室ドアの隙間を埋めて、マジックで落書きしたという感じ。

 

「現在、校内の監視カメラの確認、そして施設内での購入者を確認している」

 

「そっすか」

 

龍園が誰かに指示して持ってこさせた物だから、まぁバレないんじゃないかなぁ……。いや、俺達のクラスの生徒だけだったら危ないかな?

 

本当は灯油でも撒き散らしておきたかったんだけど、12月で乾燥してるし、なんか静電気で発火したりしたらマジ放火になってやべぇので辞めておいた。あとやっぱ原状回復というか、元に戻すのも大変そうだからね。うん、偉い俺。

 

 

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「ハッキリ聞こう、浅井虎徹。なぜこんな事件を起こした?」

 

「俺じゃないって。……俺は無実です!信じて下さい!」

 

これ一生に一度は言ってみたかった。ちょっと気持ち良い。

 

「ふざけるな。なぜこんな危険な事をしたッ!」

 

うわっ、いきなり怒鳴ってくんなよ、うるせぇな。

 

「なんすかマジで……。俺じゃないですぅ~!」

 

「……。」

 

すんごい睨んでくるじゃん。ウザいな。

 

「犯人、俺じゃないのは前提として、学年主任の真嶋先生にちょっと質問してもいいですか?」

 

「……なんだ」

 

「もし、家の鍵をかけずに外出しちゃって、空き巣に入られて色々と盗まれまくったとしたら、それ誰が悪いですか?」

 

「は?……まぁいい。被害者も悪いと言いたいのだろうが、犯人が悪いだろう」

 

さすが話が早い。

 

「じゃあ次、子供たちを預かってる保育園で、鍵をかけず、銃撃事件で全員殺されたら、誰が悪いですか?」

 

「……犯人が誰よりも悪いが、防犯が不足してた場合、施設の管理者にも責任があるだろう」

 

なんだ、分かってんじゃん。

 

「まぁ俺は犯人じゃないんですけどぉ、……それでも犯人が何を考えてたか、なんとなく分かりますよ。聞きます?」

 

「言ってみろ」

 

まぁほとんど俺だとバレてるっぽいし、ただ意見として言うだけ言っちゃおう。

 

「それはもう、ただただ『平和ボケしてんじゃねぇよカス』って話です。……だと思いますよ」

 

「……。」

 

うわ、キレてそうな顔。何も言ってこないけど。……続けちゃおう。

 

「無人島でもそうだし、この学校でもそう。監視カメラいっぱいあるけど、まぁ常に全部監視するなんて人員とかで無理なの分かってますけど、それにしたって『防犯能力』はチンカスみたいなもんでしょこれ。事件後に調べるくらいにしか使えねーですやん」

 

「今回のように、か」

 

誰も被害にならないように深夜にやったけど、これ別に昼にやれなくもないからね。

 

「なんとなく『ルールを守るだけじゃダメ』みたいな、ある程度ルールを破ることを許容してるのかもしれませんけど、相手が『日本で育った人畜無害なザコ』っていう前提が強すぎますよ。曲がりなりにも日本のエリートを育てるとか言ってんなら、他国から妨害あったりするんじゃないの?そうは考えないんです?なんでお前らまでバカなん?バカがバカを育ててエリートになる訳ねーじゃん」

 

「口が過ぎるぞ」

 

うるせぇバカ。

 

「何もかも、想定が甘すぎるんですよ。龍園ですら『なるべくバレないように』ってやってる良い子なのに、それでも『要警戒の危険人物』みたいに言っちゃってさ。本当にやろうとしたら、大多数を殺害できちゃう環境で、なんで偉そうに『しっかり管理されている』とか言えちゃうの?恥ずかしくないんですか?マジのマジで」

 

「お前……」

 

「誰もが『Aクラスに行きたいはず』『CP減点されたくないはず』『退学したくないはず』と思ってるはず、だと思って運営してる、甘々のクソ学校。脳みそ花畑。そのくせ競争しろ競争しろって煽りまくってさ、それを真に受けた純粋で理性が弱い生徒が、突発的に本気で勝とうとして生徒を多数殺傷したりしたら、その時どうすんすか?どう思うんすか?……生徒がめちゃくちゃ死んでも『犯人が悪い!』とか言うの?言ってる場合か?お前らが死ねよマジで。なぁ!?オイ!」

 

「……。」

 

………あっ、これは、やらかした。

 

うん、言い過ぎたね。ヤバい。ついカッとなっちゃった。

 

俺が怒鳴っても真嶋はなぜか何も言わず、険しい表情でこっちを睨みつけてきてる。

 

「その、なんにせよ……もうちょい施設を強化していいと思いますよ。物理的にもっと犯罪が起きにくいように、ってね。えっと、それじゃ!」

 

何か言いたそうに口が開いてたけど、無視して逃げ出しちゃった。呼び止められなかったから、まぁいいでしょ。

 

ん~、何か物的証拠が出てきちゃったら退学かもしれない。

 

その時は、まぁ……仕方ない。

 

龍園に頼み込んで協力してもらったのに、それで退学になったら流石に申し訳ないや。謝る心構えだけはしておくか。

 

 

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最大の目的でもある『学校に危機感を持たせる』には成功したっぽいけど、我ながら我慢できない性格してるよなぁ……と軽くヘコみながら寮への道を歩いてたら声をかけられた。

 

「あっ、虎徹!」

 

「ん?どしたの石崎」

 

なんとなく慌ただしい様子の石崎。なんでだ?

 

「いや、なんか学校から呼び出し食らってさ」

 

昨日の集会に居たからだろうとは思うけど、なんとなく知らないフリしてみよう。

 

「ほーん……。悪いことでもしたの?」

 

「いやいや、してねーって。それより、虎徹は、その……」

 

なぜかモジモジしてる、ちょっとキモいぞ。

 

「なにさ?」

 

石崎は周りをキョロキョロ見て警戒しながら、なぜか小声で、

 

「虎徹、お前……誰か殺しちゃったのか?」

 

は!?

 

「なんでだよ!?んははは!!」

 

殺す訳ねぇだろが!思わず笑っちゃったよ。

 

「いや、ついに虎徹が誰かに手を出しちゃってて、それで大騒ぎになってたのかなって……」

 

「アホか!」

 

ついにって何だよ!?こんなとこで誰かを殺すほどのメリットねーだろが!

 

「そっか……。良かったぜ」

 

良かったじゃねぇだろ。何の心配してんだコイツ。

 

「やんねぇわ!」

 

「ふぅ~、安心したぜ」

 

「えぇ……?」

 

いや、ちょっと待ってくれよ……。俺ってそんなに信用無いの?


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