ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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不正不公

臨時休校から数日早く突入した冬休みの昼過ぎ、人気の少ない公園で、1人待たされてる浅井を監視&盗聴してる俺は龍園翔だ。

 

例の完全アリバイ犯行から1週間近くが経ったが、結局アレをやったのが浅井っていう証拠は出てないようだ。……かといって、俺が夜中にレインコート、仮面、軍手、リュック、そして制服まで洗濯させられた恨みが消える訳じゃねぇけどな。

 

今回の件、ハッキリ言って俺には何のメリットも無い。むしろ、必要以上に疑われ、上からの警戒が強くなるデメリットがあるだけだ。

 

支払ったコスト、11万3500pp……いや本人に戻った分を入れたら9万3500か。これに関しては、金銭の流れを誤魔化すため俺が出すには出したが、いずれ浅井が支払うことにはなってる。

 

唯一メリットがあるとしたら、この『貸し』それくらいのもんだ。あのアホが恩義を感じて、少しは俺に気を使って大人しく、……なりそうもねぇな。

 

当初はまったく関与するつもりは無かった。「無駄なことするな」と何度も断ったし、やらせないつもりだった。停学や退学になるリスクとCP減点されるリスクがあるだけで、ひたすら無意味な行為だからな。何一つメリットが無い。

 

だが……、アイツは『そもそもやる予定だった』『南雲に取り入るチャンス』とか言って、中止する気は無く、見たこと無いほど本気の様子で頼み込んできた。

 

俺が協力せず、関与しなかったら……それでも恐らくアイツは1人だろうと実行しただろう。CP減点されようが気にせずにな。

 

異常に危機感があるかと思えば、変な所で危機感が足りないアホだ。1人でやっても『どうせ自分は退学にならない』と思ってそうな……いや、退学くらいどうでもいいと思ってる可能性すらある。

 

だから、仕方なく手を貸した。黙って1人のコマを見殺しにするのも、意味無くCP大量減点されるのも面白くねぇからな。

 

実際に何をしたのかは『迷惑かけるかもしれない』と俺に一切しゃべらなかったが、用意を頼まれた物と「学校に危機感を持たせる」という発言、そして今現在の学校側の反応から、なんとなく想像はつく。

 

ちなみに学校側は騒ぎを大きくしたくないようで、それなりの情報規制している。……事件2日後から、説明も無く校舎全体を大規模工事してる時点で騒ぎにはなってるけどな。

 

そんな事件、実際に何があったのか流石に気になってる。その答え合わせも期待しつつ、2年から呼び出された浅井がどんな会話をするか待ってるという訳だ。

 

 

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「お前が浅井だな?」

 

「遅いっすよ!」

 

キレかけてる浅井の近くに目立たないメガネの生徒が立ち止まった。双眼鏡で覗いてみても……顔に見覚えがねぇな、俺がマークしてないって事は2年のDクラスとかか?

 

「知るかよ。俺はあの人に言われた通りに来ただけだ」

 

「えぇ?意味分かんねぇっすね。南雲先輩って、地味に嫌なヤツなんです?」

 

「オイ、軽々しく名前を出すな」

 

小声だがギリギリなんとか聞き取れる。

 

「あ、はい。それで……なんの用っすか?何も聞いてないんですけど」

 

「俺はただ伝言を頼まれただけだ。いいか?言うぞ。『学校を変える、そのために有効な一撃だった』『お前を使える人間だと認める』」

 

「おっ、やったぜ」

 

「まだ終わりじゃない。続く言葉は『だが、生徒会には入れられない』」

 

「はぁ!?なんでじゃ!!」

 

「うるさい、最後まで聞け」

 

「……っす」

 

「『生徒会に入れたら、関与がバレる』『今回の件に関する礼として優遇してやる』『またこちらからの連絡を待て』とのことだ」

 

「えぇ~……ワンチャン、副会長くらいになれると思ってたんすけどね」

 

なれる訳ねーだろ。バカかコイツ。

 

「お前、それ、本気か……?」

 

「ん?そりゃ本気ですよ。かなりリスクを背負って、学校の安全性を高めるキッカケ作ったんですよ?それなりに評価してくれると思いますって。副会長は無理でも生徒会に入るのは確定だと思ってましたよ。マジでそれ言ってたんすか?」

 

「いやいや、生徒会長の教室で化学テロを起こしたであろうヤツを生徒会にって、それは流石に無理だろ……」

 

「まぁ……そうかも?う~ん」

 

本気だったのかよ。相変わらずイカれてんな。

 

「話は以上だ」

 

「はぁ、どもでした。……あっ、ちょい待って。犯人探しはどうなってます?」

 

「俺も詳しくは知らないが……、捜査が続いてるという話は聞かない。だが俺が聞いてないだけで、極秘裏に進められてる可能性はあるだろうな」

 

「じゃあ、南雲先輩に伝言をお願いしていいすか?」

 

「あぁ。なんだ?」

 

「えーっと『停学くらいならオーケーです。けどCP大量減点とか、退学措置にされたら、全部南雲先輩の指示でやらされたって言いまくるし、逃げ回って色々やりまくりますからね』と。これでお願いします。……ちょっと長いですかね、もう1回言います?」

 

「いや……大丈夫だ。まぁ、伝えておく。『停学なら受け入れる』『退学なら指示されたと暴露する』『退学になったら暴れる』だろう?」

 

「はい、そんな感じですね。よろです」

 

「あぁ……」

 

2年のパシリも困った様子で去っていった。

 

しかし当然のように脅迫してやがったなアイツ。内容としては無理のあるシナリオだとは思うが、それなりの牽制にはなりそうだ。

 

 

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夕方、俺の自室に呼び出した浅井から、筆談で何をしたかを聞き出したが、まぁ、予想通りではあった。まとめると『犠牲者を出さないテロ』としか言いようがない今回の件、学校側は被害者が無いと喜んでるのか、ただ被害を嘆いてるのか。まぁどうでもいいが。

 

『ちなみに呼んだのって誰だったの?』

 

浅井から紙に書いて質問された。そういえば俺からも情報をほとんど渡してなかったか。……必要最低限だけのやり取りだけ行動出来るコマって意味では、マジで使える人材ではあるんだけどな。他の欠点が多すぎだ。

 

『Aハゲ、B石崎、C神崎、D山内だ』

 

「あ、そういや俺達がBクラスか」

 

「オイ、声出すな」

 

「ごめ……いや、俺もあの場に居た的な感じなんだから大丈夫なんじゃね?」

 

「フン。なら勝手にしろ」

 

口を滑らせて退学になるのテメェだぞアホめ。

 

「しかし良くABCD全クラス呼んだね、すげーじゃん」

 

「……お前が言ったんだろが」

 

浅井本人が5月あたりに提案した『監視カメラを無効化する方法』がそれだろう。候補者をABCD全クラスにすることで、CP減点されたとしても差が生まれない実質的な無効化できると。……自分で言ったこと忘れてんのか?

 

「素直に褒めたんだよ!」

 

何か言ってるのを無視して筆談しようと思ったが……面倒だな。

 

「仮の話だ。浅井、学校で化学テロがあったらしいが、そいつが生徒会役員になれたとしたら、その理由は何だ?」

 

わざとらしく少し声を大きくして言った。そもそも疑われてるらしいし、これで良いだろ。

 

「ん?……あぁ、はいはい。そりゃもう、生徒会長がそういうのを望んでたって事でしょ」

 

「……何か攻撃を受けて、変革をしたかったと?」

 

「攻撃って言うほどか?まぁその、南雲には俺も会ったことあるけど、なんかそういう事言ってたね。権力者になった上で、変革者として実績を残したいみたいな。そのためのキッカケを作りたかったんでしょ」

 

「なるほどな」

 

それなりに優秀で、手段を選ばない黒さも持ち合わせてるのか。そう考えたら、今回の件で浅井を優遇して、生徒会に入れる可能性も無いという訳じゃない、のか?

 

「だから犯人にしっかり報酬を与えると思う。けど、そういうのが無かったらガチでクソだね。報酬を出すべき時に出さないトップが居る国はすぐ滅ぶからね、龍園も覚えておきなよ」

 

「フン……」

 

「好きな言葉だけど『信賞必罰』ってね。罰するべきは罰す、褒めるべきは褒める。これちゃんとしなきゃ組織成り立たないよ」

 

「……。」

 

その理論で言ったら、お前は罰せられるべき人間だろうが。今回に限れば報酬も罰則も無かったってことになる。

 

まぁ、ここまで『やれる人間』……いや、ここまで『やった人間』なんて他に絶対居ないほどレアだろうし、そういう意味では重宝な人材なのは間違いなく、報酬を期待したいのも分からなくはない。だが、流石にテロリスト最有力候補を生徒会に入れる訳がねぇだろ。

 

「それで事件現場ってどこだったの?」

 

ついさっき筆談で自分が説明したことを声に出して聞き直してくる浅井。こういう頭の回転はマジで早いな。『盗聴されてたら』の仮定で、やるべき行動と言動をすぐ理解している。普段は抜けたアホなのにな。

 

「2年のAクラス、生徒会長の南雲が居るとこだ」

 

「おっ、じゃあやっぱり南雲の指示だったんじゃない?疑われないように自分を狙ったように見せたとか。……いや、逆に怪しすぎるかもね。俺だったら全然違うクラスにするかも」

 

テキトーなこと言いまくってんなコイツ。自分で決めたんだろが。

 

「クラス競争の可能性は無さそうだな」

 

「そりゃそうでしょうとも。人が居ない時を狙ってる時点で、マジで意味無いと思うよ」

 

まぁ事実だ。生徒からしたら誰も被害を受けてない。

 

「だが、ザコ共からしたら、脅迫や、それこそ宣戦布告のように受け取られるかもしれないがな」

 

「えぇ~?……宣戦布告?どゆこと?」

 

「……敵対することの決意表明みたいな形になるだろうよ」

 

なんで俺が常識的なこと説明しなきゃいけねぇんだよ。

 

「う~ん、意味分からん。なにそれ?カッコつけなの?傲慢?もしホントに勝ちたかったら、最初の一手で勝たなきゃダメでしょ。んなことするヤツ居たら、馬鹿だね」

 

「知るか」

 

一理あるが、どうでもいい。

 

「は!?」

 

結局、今回の件で俺になんのメリットも無かったとしか言いようがねぇな……。

 

「おい浅井、今回の件、しっかり『貸し1』だからな。覚えとけよ」

 

「ん……まぁ、それはそうだね。うん、感謝してるよ」

 

「……。」

 

チッ、盗聴のこと忘れてた。物的証拠は出ないはずだが、ちょっと気を抜いたかもしれねぇ。

 

「まぁ1人なら1人で、夜中にベランダから飛び降りて」

 

「オイ黙れ。今日はもう終わりだ、声を出さずに帰れ」

 

「えぇ……?なんだその情緒不安、って、あ、なるほど。んじゃね龍園、クリスマス近いんだし良い子にしてなよ」

 

「黙れ」

 

警告じゃなく本心からの声が出た。テメェが1番言う権利無いだろが。

 

 

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冬休みに入って1週間以上が経ち、12月31日の大晦日。ついに校舎の工事が終わったらしい。

 

早速入って確認してみると、玄関がそもそも作りが変わって空港の搭乗ゲートのようになっていた。学生証端末による認証じゃないと開けて入れない、と。

 

周囲も明らかに監視カメラが増設されまくってる。……ダミーが混じってる可能性もあるにはあるが、警戒態勢が強化されたのは間違いないだろうな。

 

下駄箱で靴を履き替え、教室に向かう途中も、廊下に新しい壁が出来ていた。……いや、ドアか。それぞれの階を区分けして、そこを通るのに毎回必ず学生証端末を使って認証させる形になってる。……もはや、別の施設じゃねぇか。極秘研究機関みたいになってやがる。

 

試しに3年の方に行こうとしたら、俺の端末でも通れた。そうだな……『通行するのに端末を必須にした』『時間外で通れなくする』『誰が通ったかの記録をする』ってところか?

 

結局、生徒同士の殺傷事件を警戒したというより、施設外や、生徒以外の介入を防犯したという意味が強いかもしれない。

 

校舎を歩いて見回りながら確認していくと、窓ガラスの一部には鉄格子が付けられているのも確認した。見ただけでは分からないが、強化ガラスに変えられてる所もあるかもしれない。あと、あれは開閉センサーか?見慣れない灰色の装置も付けられていた。

 

この調子だと、特別棟や、体育館、図書館、他施設の方も変わっていきそうだな。

 

「チッ……」

 

そりゃそうなるだろうという結果だが、とにかく動きにくくなった。俺の仕掛けた盗聴器は……確認するのは後にしよう。使用したせいでバレる可能性すらある。

 

1ヶ月もかからずここまでの工事をするとはな……。数億円は普通にかかってる改修だとは思うが、それほど事態を重く見たのか。想像以上に対応が早い。

 

なんにせよ、俺には結局のところ、損しかないクソ過ぎる事件だった。

 

浅井のヤツ、夏の無人島では役に立ったり、須藤を停学に追い込めた功績とかはあるが、今回の件で合計収支は……若干マイナスってとこだな。手伝わされたのはどうでもいいが、死ぬほど動きずらくなったのが普通に腹立たしい。

 

『貸し』をどう使うかだな。覚悟しとけよ、あのアホめ。簡単なことでは終わらせねぇぞ。

 

借りを返さず逃げようとしたら、マジで殺してやる。

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