ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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真冬の林間学校

こんにちは、揺れまくるバス内でスマホ操作してたら車酔いが酷くなった可哀想な俺は浅井虎徹です。

 

なぜか車内で特別試験の説明を受けて、残り30分くらいで他クラスとのやり取りしなきゃいけなかったから結構忙しかったんだよな……。

 

いやまぁ、神崎と平田に『1人ずつクラスのやつを交換して欲しい感じになるかも』『龍園がなにか良い作戦あるらしいから、小グループ決めるのを少し待って欲しい』っておねだりメッセージ送ったくらいだけど。

 

スマホや軽食などをすべて没収され、最低限の衣類とタオルだけを持って、バスから降りると、

 

「さっぶ!!!」

 

頭おかしいほど寒い山の中だった。息をするだけで鼻と肺がちょっと痛くなるような、凍りつくような寒さ。……アホか!

 

バスから降りた生徒はみんな少し急ぐように施設の方に向かっていく。防寒着の指定が無かったのはなんで?寒さで精神鍛錬みたいな意味なの?だから体操着にジャージなの?マジでバカなの?

 

ってか、そもそも、なんで1月なんだよ!?

 

クソほど寒い。頭おかしいだろマジで、体感で10度以下だぞこれ。遠くに見える山の頂上なんか少し白くて、雪が残ってるのが分かる。時期的にはこれから雪が降りまくってもおかしくないだろ。もしかして雪山を登山とか、まさか遭難体験でもさせんの?絶対に嫌だぞ。もしそうだったら教師ぶん殴ってでも拒否するわ。

 

夏は無人島で死ぬほどクソ暑い環境でサバイバルさせて、今度は冬に極寒山籠り?マジで頭おかしいんかコイツら。極端すぎるだろ。

 

「不機嫌そうですね、浅井氏。いかがされました?」

 

おっ、俺らのクラスの頭脳担当、金田だ。

 

「金田氏~。いやさ、林間学校って普通こんな時期にやるかね?なんか変じゃね?」

 

林間学校って春とか秋じゃないの?どういう時期だよこれ。マジで雪降りそうな場所と気温じゃん。絶対普通じゃないでしょ。いや中学じゃなく高校だとそういうもんなのかもしれないし、単純にこの学校がどこよりも変な学校なだけかもしれないけどさぁ……。

 

「そうですね……。通常ですと冬休み明けの1月下旬というのは、高校3年生が修学旅行をするような時期だったと自分は記憶しています」

 

「は?」

 

修学旅行って、学校によっては京都とか、ディズニーとか、沖縄とか行くやつでしょ?……俺ら、その代わりにこのクソ寒い林間学校に連れてこられたの?なんかの犯罪でしょそれ。

 

いやもうダメだ寒すぎる。俺も急いで屋内に入ろう。

 

 

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建物内に入ると、流石に暖房が効いてて落ち着けた。実は校舎は似たようなのが2つあって、ちょっと大きい方が本棟で男子生徒が使うことになり、もう片方が別棟で女子生徒が使うらしい。そして2つの行き来は禁止されてて、共同で使う食堂でのみ交流可能とのこと。ちくしょうめ。

 

けど、その前に小グループを決めるということで、1年だけが男女揃って別棟の体育館に入り、他の2,3年は本棟の体育館に集まることになった。人数の関係っぽいかな。

 

建物は木造で、中は山小屋っぽい古い木の匂いがしてる。乾燥した空気と窓から見える木々の光景から、ちょっとした異世界に放り込まれたような心境にもなる。ここまで自然が多くて、リラックス出来るような場所に来たの初めてかも。

 

まぁ……所々に設置してある監視カメラが、ちょっと台無しにしてるけど。

 

ちなみに、さっき坂上先生に『何ppで女子扱いにしてもらえますか?』って一応聞いてみたけど、無言で首を横に振られた。なんだよあの反応……半分冗談だったのに。『ppで買えないものはない』って二度と言うなよメガネ!

 

「実は、自分が小グループ分けの構成を考えることになったのですが、浅井氏から見てご意見を頂けませんか」

 

クラスメイトの方のメガネがそう言って出してきたのは、綺麗に切り取って色々書いてあるノート1ページだった。なるほど筆記用具は没収されなかったのか。あっ、やべぇ、筆記用具とか忘れてきたかも……。

 

書いてあるのは10人組を2つのパターンだけじゃなく、12人のグループと、残り8人をペアやトリオにする組み合わせ案など。ということは、アイツ、既に交渉の落とし所も作ってるっぽいな。ちょっと意外だ。例のメール情報は伝えたから、保険を打った……とはまたちょっと違うかな?ゴールを複数用意したみたいな感じかな。

 

「ん、良いんじゃない?ちなみに人数比は龍園の指示?」

 

「はい。その中でも、12人組を作った場合の、他8人の選抜を悩みました。『責任者適性が低い』『ある程度の成績が見込める』というオーダーを受けたのですが、自信が持てず……」

 

「いや、俺から見ても、別に不満とか無いけど……。ん?俺も?」

 

そもそも選出に絶対の正解なんか無いだろ、とか思いながら見てたら、『浅井』がハッキリ少数派の方に書かれてた。なんで?

 

「浅井氏は責任者にされそうになっても嫌だと断れそうですし、もし責任者になったとしても、実力的に退学にならないよう成績を残せるように思えましたので。ほぼ最初に選ばせて頂きました」

 

「なんっでやねん!」

 

我ながら気持ちの良いツッコミが出た。

 

「えっと、あの、では……やはり龍園氏の12人グループの方にしておきますか?」

 

それはそれでなんか嫌かもだけど……。

 

「今回の試験って、俺達のメンツ次第っていうより、小グループで他クラス生徒がどうなるかっていうのがめちゃくちゃ大きいと思うんだよ。だから、めっちゃ危険じゃね?」

 

「はい、確かに。その通りです」

 

「だから『俺は責任者でも大丈夫!』なんて、とてもじゃないけど言えないよ金田。そんな傲慢さ無い。いや、まぁ、高い評価してくれたのは嬉しいかもしれないけどさ……」

 

誰かをそういうリスクある立場にも置かなきゃいけないのは分かるけど……。単純に嫌だよ。ヤダヤダ~。責任の所在が自分じゃなくて他者にある、っていう状況がとてつもなく嫌だよ。

 

「では、そうですね……」

 

金田、めちゃくちゃ困った様子で考え込んじゃった。……まぁ、そうだな。

 

「なんだかんだ言ったけど、俺は龍園と同グループになる必要ないから、やっぱ外してくれていいよ」

 

他クラスのヤツにまで龍園と仲良しにしてる所を見られるのなんか嫌だし、せっかくなら他クラス生徒がいっぱい居る所で協力してた方が楽しそう。責任者は絶対にやらないけど。

 

「えっ?……良いのですか?」

 

「いいよ」

 

「その……ありがとうございます、浅井氏」

 

じゃあなんで文句言ったんだろう?みたいな困惑がちょっと漏れて見えるぞ金田。……うるせぇ!

 

 

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建物の中を歩いて体育館に着いた。それぞれのクラスで分かれて、その中でも男女別でまた分かれて相談してるっぽい。

 

……と思ったけど、なんかもうザワザワしてる所あるね。まだ全員が集まってないっぽいのに。誰だ?

 

「もう1度言う。Aクラスと組むのを全員に禁止させろ。全員を排除して退学させる」

 

「なっ!?」

 

龍園かよ。アルベルトと一緒に一之瀬クラス男子集団の方に行って、神崎と背がちょっと低いイケメンとかに話しかけてる。近付いてみよう。

 

「考えろ。今年俺達が伸ばしたのは事実だが、基礎学力が低い俺達の方が、今のAクラスより遥かに勝ちやすいだろ」

 

それ偉そうに言うことか?事実だけどさ。

 

「……少し、考えさせてくれ」

 

「フン。考えるのはいいが、先にクラスの誰も勝手に動かないようにはしておけよ。先走ったアホに計画を潰されるのは御免だ。……こんなチャンス滅多にないって事は理解しろよ」

 

「あぁ……」

 

神崎もめちゃ悩んでる顔だな、Aクラス排除の話だろうけど。……けど、なんで悩むんだ?やっぱ優しいのかな?

 

俺はAクラスどうでもいいけど、本当にAクラスになりたいなら、大喜びで賛成しそうなもんだけど……。退学させるのは申し訳ないみたいな?実力で勝ちたいとか?うーん、謎だ。

 

……あっ、一之瀬に相談しに行っちゃった。ん~、なんか断られちゃいそうだなこれ。

 

 

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龍園がDクラスの方にも行こうとした所で、舞台の壇上で知らん教師がマイクを使って話し始めた。

 

「バス内の事前説明で、各自、試験の内容は理解できていると判断させてもらう。よって、この場で改めての説明は行わない。」

 

だったらバス内で急いで説明しないで、ここで説明すりゃ良かっただろ……。

 

「ではこれより、小グループを作るための場、時間を設けさせてもらう。男女それぞれ、話し合って6つの小グループを作るように。また、大グループを作成する場は、本日20時から設けてある。以上だ。」

 

まだ午前中だぞ。流石に9時間とかいらんでしょ。初日だけは余った時間のんびりしろ的な意味かな?

 

「補足だが、大小問わずグループ決めに関して学校側は一切関知しない。仲裁役として入ることも一切しない」

 

マジで?……なら、本当に龍園案も不可能じゃないかも?一番邪魔になりそうな介入が無いよ宣言じゃん。すげーな。

 

教師のアナウンスが終わって、体育館の中でハッキリと男女が分かれた所で、Aクラスの男子がみんなに伝わるように声を出した。

 

「みなさん!……僕たちAクラスは、見ての通りこのメンバーで1つのグループを構成するつもりです。この通り現在のグループ人数は14名で、あと1名が参加していただければ必要な人数が揃います。それでは参加してくださる方を募集します」

 

「誰だよ」

 

Aクラスの知らんやつが笑顔で出てきた。

 

「的場氏、ですね」

 

「うぉっ」

 

気付かなかった。近くに居た金田が教えてくれたけど、お前なんで特徴あるキャラの癖に気配が薄いんだよ……。さっきどっか行ってただろ。

 

「おいおい、何勝手ぬかしてんだよ。おまえらだけずるいだろうが!」

 

「あ、須藤だ」

 

コイツは流石に覚えてた。謎の赤猿、停学にまでなったのに今もチンピラ感ちゃんと残ってるじゃん。元気だな。

 

「勝手と言うほど勝手でしょうか?こちらの提案では1グループを構成する人間が、最大で2クラスまでにしかなりません。1位を取った時の倍率も低い。Aクラスにだけメリットのある強欲な提案だとは思いません」

 

まぁね。勝つためというより、負けを少なくするための守りっぽいかな。最大限守るなら2クラス構成で最少人数の10人かつ責任者を他クラスに任せる形だろうけど。少しは勝ちを狙える形にしたのか、はたまた14人を確実に脱落させないための方法なのか。

 

「い、いやでも、14人ってのはずるいだろ?」

 

須藤は戸惑った様子だけど、やっぱ『グループに入れない』みたいなのが怖いのかな。嫌われてそうだもんなアイツ。

 

「そんなことはありませんよ。むしろ、平等です。残り3クラスで15人の枠を3つ使えるんですから、僕たちと同じように各クラスで似たようなグループを作ればいいじゃないですか」

 

「そう、なのか?」

 

平田に確認する須藤。俺としても、平等って言葉は引っかかるけど、確かに人数的に4クラスそれぞれメインの15人グループを作っても60人、残り20人を10人ずつに分けて成立するから、まぁそれはそうだろうな。

 

「そういうことになるね」

 

「分かって頂けたなら話は早そうですね。ちなみにAクラスで残った6人は、あなたがたのどのグループに、どんな配置でも喜んで参加する方針です」

 

おいおいマジかよ。残り5グループで全員を責任者にして退学にできちゃうじゃん。ドヤ顔してるけどバカなんか?

 

「なら俺達のクラスに1人寄越せ。それなりに使えるヤツをな」

 

黙って見てた龍園が即座に声をかけた。……例の作戦をまだ伝えないで人を動かすってか。いやはや、流石だね。

 

「……分かりました。早い者勝ちということで、お好きな生徒を選んで下さい」

 

「なら、橋本。来い」

 

決めるのはっや。

 

「よろしく頼む」

 

まぁまぁイケメン、金髪にしてるし結構モテそうなヤツ。

 

「……。」

 

呼んでおいて無視すんなよ……。相変わらずだな。

 

そんな動きを見てた他クラスもAクラスから生徒を呼び込もうと動き出した所で、それを止めるように龍園が大声を張り上げた。

 

「聞け!お前ら!……Aクラスを消すチャンスだ!誰も的場のグループに参加するんじゃねぇぞ!!」

 

「は!?」

 

おぉ、写真で撮りたいくらいの見事な驚き顔だ。

 

「Aのグループに参加したやつは、Aのスパイだと思え。Aクラスに上がる気が無く、自分たちのクラスが上がるのを阻止する造反者だ!……クク、Aクラスを消す最大のチャンスだぞ」

 

そしてこっちも写真に撮りたいほど見事な悪役顔だ。ニヤニヤして悪い笑顔だねぇ。

 

「ふっ、ふざけるなよ龍園!」

 

我らが龍園クラスはあらかじめ聞いてたから反応が薄いけど、他クラスの大半が驚きまくってるな。Aクラスは特に驚いて、不安そうな生徒も居たり、何より多いのは怒った顔で見てくるヤツかな。

 

「ククク……じゃあな、イキリカス共」

 

お前だろ。誰が言ってんだ。

 

さて、成功するかは時間との勝負かな……。

 

いやまぁ、俺はAクラスが消えても消えなくても、どっちでも、どうでもいいんだけどね。

 


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