「お、おい!ふざけるな!あんなヤツの言うこと聞くなよ!?」
こんにちは。滅びゆく人々を眺めて愉悦に浸ってる俺は浅井虎徹です。必死な人間ってなんか面白いよね。
龍園の『Aクラスをハブって退学させよう作戦』を聞いた学年全体の反応としては、当たり前だけど龍園クラスはみんな同調して、一之瀬クラスの神崎達は困惑もありつつ消極的に賛成してるっぽいかな?そしてDクラスは騒がしくしてる。
「各クラス、まず5人組を作って下さい!」
金田が他クラスに指示を出しに行ってるけど、身長が低いせいなのか微妙に聞いてもらえてない。Dクラスなんか完全に無視して平田の周りに集まって相談してる、なんか動き遅いなぁ……って、あっ!危ない1人忘れてた。この作戦を完全無視して動いちゃいそうなヤツが少し離れた所に居た。
「ちょ、待って!」
「なんだね?タイガーボーイ」
この男、高円寺。俺の知る限りコイツだけは自由に動いちゃいそう。
「あのさ、高円寺、できたらAクラスに協力しないでくれると嬉しいんだけど……」
本物の御曹司だからなんか気が引けちゃう。……ビビってるのかも?いやまぁ少しそういう気持ちあっても仕方ないって。超級の金持ちだぞ。不快にさせ過ぎたら命の保証が無いでしょ。
「聞き入れる義理は無いねぇ」
「まぁ……うん。確かに。それはそう」
俺との関係性ほぼゼロだし、動かないでもらうための見返りも特に用意出来ないかも。品定めするようにAクラスの方を向いてる高円寺、普通に行くこと考えてそうなんだよなぁ……。どうしよう。困った。
「あっ!オイ!高円寺お前勝手なことすんじゃねーぞ!……お前も、なんでこっち来てやがる。浅井」
須藤がなんか近付いてきちゃった。お前に興味無いよ。
「騒がしいねぇ、不良くん」
「は!?」
確かに。誰がどう見ても不良くんだ。
「ドラゴンボーイの言う通りにするかって?私は私のしたいようにするだけさ」
「んだよ。あのクソ龍園が言うように、Aクラスの味方するってのかよ!?」
「……。」
つまらなそうに無視する高円寺。……もしかして、自分勝手に見えるけど、一応はクラス内から恨まれるのは嫌なのかな?まだまだクラス間の差がありまくりだし、そういう状況で『Aクラス排除を邪魔された』と判断されたら、かなり憎まれても不思議じゃない。そういうリスク考えてるのかも。
「みなさん!今から5分間に限り、特別枠を用意します!僕らのグループに入ってくれたら、一切のリスクを負わせません。責任者は葛城くんが務め、万が一にも最下位だったとしても道連れ指名はしません!純粋に成績が悪いことは許容します!」
その程度は当然だろ。何を言ってんの。
「それがどうした、お前らが消える事に比べたらどうでもいいだろ」
周りに聞こえるような大きめの声でガヤを入れる龍園。Aクラスの前に立ちはだかって、なんとなく他3クラスの代表者っぽい位置取りしてる。上手いねぇ。
「く、加えて、……今回の試験において僕達のグループが得たプライベートポイント報酬の総額、そのすべてを差し上げます!」
ん?具体的にどれくらいだ?
「42万がどうした!そんなカスみたいな金額より、Aクラスが消えた方が遥かにメリットがある。話になんねぇな!」
龍園ウキウキじゃねーか。……それにしても42万って本当に安い、安すぎる。10倍の420万だったとしても安いでしょ。4200万だったとしても悪くないレベル。
「ふむ」
小声で高円寺がちょっと乗り気な様子を見せてるけど、やめてくれよ……。
「黙れ龍園!……オイ!お前達も良いのか!?仮に俺達が消えたとしても、次はお前ら2クラスのどっちかだぞ!」
「そんなことしねぇよ。A以外の2クラスは普通にやって勝てる。Aクラスだけは、異常にステータスが高い奴らの揃った、優遇されすぎたクラスだ。だから手段を選ばず消すんだよ」
こっち側を振り向いてしっかり話して、またAクラスに向いて挑発しまくるロン毛。それっぽいこと言って説得力の補強してるかな。せっかくならもっと味方アピールすれば良いのに。……いや無理か。想像できない。
「ふざけるな!龍園の言うことなんか信用出来ないだろ!?」
「うるせぇ、お前らには言ってねぇんだよ。早く退学する準備しろよ」
ここで退学の準備は無理じゃね?何をすんのさ。
「お前、こ、こんなの許されてたまるか!実力至上主義の学校で、実力を発揮させないなんてことあったら、何の学校なんだ!こんなのおかしいでしょう!?」
必死な顔で教師達の方にも訴えかけてるけど、普通に無視されてる。ちょっと面白い。
「これも実力に決まってんだろ、カス」
その通りだよ。ん~、やっぱ、なんだかんだ龍園とは価値観が合っちゃうんだよなぁ……。
「なら、分かった!……俺らから金を集めて100万出す!龍園なんかの言うこと聞かないでくれ!誰か来てくれ!」
「おい金田、どうなってる」
オークションみたいに上がった金額を無視して金田に聞いてる。こういうの、わざと無視して怒らせてるのか、素で性格が悪いだけなのか……いまだに分からん。
「はい、なんとなく5人ずつに分かれてもらえました」
お?やったね。周りを見た感じ、俺達は当然すぐ動いてたけど、神崎達も申し訳無さそうな顔をしながらも5人ずつになってくれてるっぽいし、Dクラスも平田がみんなに詰められる形で5人ずつになることになったっぽい。
「良し。オイお前ら!2クラス混合の5人ずつの10人組を作り、自信があるグループは余りのAクラスを加えて人数を増やせ。おら動け!さっさと教師に報告しに行け!」
20人全員じゃなくてあそこの14人だけを狙い撃ちにしたのは、そっちの方が面白いから?それともAクラスを分断させるためかな?少しマシな選択肢を提示して選びやすくしたのかも?
「ちょ、待ってくれ!なぁ!オイ!」
さよならAさん。どうかお元気で。
「楽しそうですね龍園くん」
あぁん、来ちゃったよ……。神室を引き連れて現れた、杖を持った白い少女。坂柳。金田も頑張ってたし、かなり急いで結構早く話を終わらせられそうだったんだけどねぇ……。惜しかった。あーあ。
……いや、流石に話もまとまってるから、どうにかなるかな?
「テメェの出る幕はもうねぇよ、消えろ坂柳。Aクラスの男子はもう終わりだ」
「そうでしょうか?……みなさん!私に、2分ほどでいいので時間を下さい!どうかお願いします!」
それほど大きな声じゃないけど、今までの男の怒号と全く違う、女の子の声。そして綺麗に頭を下げた坂柳の姿に、場の空気が完全に止まった。弱々しい女の子の、ちょっと悲痛な声。そらそうなるわな……。
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「坂柳!その、助かった……」
いやまだ助かったか分からんでしょ。
「止まってくれてありがとうございます。皆さん」
「チッ……」
流石の龍園も邪魔しないみたい。まぁ、ここで邪魔しても動いてくれなさそうか。
「まず、謝罪させて下さい。今回の件、誰が悪かったかと言えば、それは私達のクラスメイトが悪かったのだと思います。日頃の高飛車な態度、傲慢な目線、みなさんと大きな差が無いというのに、エリートぶって偉そうにしてたのが原因だと私は考えます。だから他クラスの誰にも助けてもらえなかったと……。本当に申し訳ありませんでした」
「えっ?」
「おぉ~……」
演技だとは思うんだけど、本心から謝ってるようにしか見えない、しっかり頭を下げた謝罪。全員の毒気を抜かれた感じがある。共感を得るための演説だろうけど、Aクラスをそこまでハッキリ低く言うとはね……。
あと、杖を持ちながら、危なっかしい様子で頭を下げる姿。それだけで変に罪悪感が湧いてきて目が離せない。すごいな、完全に主役を食った形だこれ。
「そして、みなさんに『絶対に消したいクラス』と思って頂けたなら嬉しさもありますが、残念ながら現時点で『最強のクラス』は……私達ではないと思っています」
あっ、なんか嫌な予感がする……。
「入学してから9ヶ月間が経過しましたが、特別試験で結果を1番残してきたのは、恐らく龍園くんのクラスでしょう。5月時点で490だったクラスポイントも、一時は812となり、私達はその時854でした。僅かな差で、いつAクラスが陥落してもおかしくない状況でしたが、Dクラスの須藤くんを停学に追い込むための暗躍などによって勝手にCPを減らしていっただけです。1番恐ろしいクラスは、龍園くんのクラスだと私は思いますよ」
「……。」
体育館に200人くらい居るはずなのに、嫌なくらい静かだな……。あっちで色々しゃべってる女子達の声が無かったらホントに無音なんじゃねーのこれ。
「そう、ですので……『龍園クラスを全員退学』にするのはどうでしょうか?」
「ギャー!」
やめてくれよもう、言いそうだなとは思ってたけどマジで言われちゃったよ。
「ふざけんな坂柳、お前らはこの1年近くクラス内で勝手に分裂して遊んでただけだろ。わざと手を抜いてたカスが弱者ぶってんじゃねーぞ」
同感だけど、見るからに弱者の障害持ち少女を相手にそれ言うのすごいな。
「いえいえ、そんなことありませんよ。いつも予想外の動きで、手段を選ばずしっかり結果を残してきた龍園くん達の方が優秀でしょう。他クラス生徒を停学に追い込むなんて、そんなこと、私にはとても無理です……」
嘘だぁ~。坂柳なら普通にやりそうな気がするけど。弱い女の子を演じてるっぽいけど上手すぎてウケる。
「黙れ。須藤のアホが停学になったのは、アイツが勝手に殴りかかってきただけだ。頭の弱い猿が勝手にキレて暴力事件を起こしたのを俺のせいにすんじゃねぇよ。CP減点されたのは……ただ特別棟でヤッてたのがバレただけだ」
「んふっ」
思わず笑っちゃった。いやまぁそういう話にしたんだけど、改めて言われるとなんか面白いな。
「では、どうですか?私達のクラスと、龍園クラス、どちらが消えるべきか、皆さんの意見を聞いてみませんか?」
「チッ……。クソが」
うーむ、龍園がキレるのも分かるほど見事に話を変えられちゃったね。『Aクラスを消そう』だったのが『Aクラスと龍園クラスどっちに消えてほしい?』っていう。これはもう無理だろ……。諦めよう。そもそも、女子側から誰か来る前にさっさと話を進めなきゃダメだった、タイムアタックだったって事だね。でもまぁ、少し何か言っておくか。
「みんな~!龍園クラスは勉強あんまり出来ないから、なんだかんだ勝つ機会多いと思うよ!俺達はザコだよ!不良ばっかだし!……けど、坂柳達はガリ勉で、真面目なヤツが多いから、やっぱどうしても差が縮まらないと思うよ!高校生なんだから結局テストの結果が1番大きいだろうし、龍園の嫌がらせも慣れれば対処できると思うよ!だから、Aクラスを消す方に、清き1票を!どうぞよろしくお願いします!」
話し合ってた2人の方に行ってから、しっかり笑顔で聞こえやすい大声で謎の選挙演説してみたけど……なんか反応が悪い。あれ?
「虎徹くん、……楽しそうですね」
坂柳から困ったような目で見られてしまった。え?そういう話じゃないの……?
「ちょっと待って!坂柳さん!龍園くん!浅井くんも!」
ん?天使一之瀬までこっち来ちゃった。女子の方は大丈夫なんですかね。
「こんにちは一之瀬さん。一緒に龍園クラスを全員追放してくれますか?」
「えぇ……」
どんなお誘いやねん。恐ろしすぎること言うな!
「ううん。……私達のクラスは、他クラスを退学にするようなことはしません」
おぉ、ちょっと予想出来た言葉ではあるけど、すごいハッキリ言ってくれたね。
「フン、勝つ気のねぇザコが」
いやお前、ここで一之瀬に恨まれたら俺達が排除される可能性すらあるのに良く言えるな……。度胸があるっていうより、それもう完全に頭のネジ外れすぎだろ。引くわ。
「一之瀬、ありがたいんだけど……なんで?」
「浅井くん、今みんなにも納得してもらった所なんだけどね、やっぱり『誰かを排除して勝とうとする』って事をやっちゃったら、次から仲間も信じられなくなっちゃうと思うんだ……。それが例え、他クラスの子が相手だったとしても」
説得してたから坂柳より遅れたのか。
「どゆこと?『自分も排除されるかも』って思っちゃう的な?」
「うん。そういうこと」
それでクラス内の団結が綻ぶって可能性、確かにありそう。
「なるほどなぁ」
1回でもそういう手段を選んでしまえば、選択肢に『排除する』が浮かんできちゃうと。1回でもやっちゃえば『コイツも殺しちゃおうかな』って思っちゃうらしけど、そういうもんかな?……違うか?
「そして、卒業まであと2年以上はあるんだから、まだまだ分からないと思うんだ。諦めるには早すぎると思うし、ちゃんと自分達も成長して、戦って、勝ちたい。そう思うから、他クラスの子だったとしても、退学にしたくない」
「同盟関係であるDクラスも、一之瀬さんに賛同するわ。……これで龍園くんの作戦は潰されたわね」
「うぉ」
堀北までいつの間にか来てた。……ってか、しっかり協力関係になってたんだね。別に狙ってた訳じゃないけど、2クラス協力してるなら絶対に排除出来ないし、その2クラスの協力が無いと話も進まない。実質的な権力者というか、擬似的な最大野党みたいな感じかも。
「そうですか。ふふ、国際政治における協力関係みたいですね」
坂柳は全然違う捉え方してるっぽいな、気になる。
「どゆこと?教えて、坂柳先生!」
「先生じゃありませんが……。国際政治において、経済制裁によって1つの国の行動を変えさせようとしても、協力する国が1つあるだけで輸出入に対する制限の大部分を無視出来てしまいます。その協力国を経由するだけで何もかも物流が通ってしまいますからね。そういう意味で、パートナーという存在の重要性と危険性が分かります。今回の件、それを思い起こさせてくれる一之瀬さんの存在感でした」
「は~、なるほどなぁ。ありがと」
確かに堀北クラスを潰そうとしても、一之瀬クラスを潰そうとしても、お互い助け合うなら絶対に潰せない、と……。一之瀬の仲良し精神、ちょっとだけ馬鹿にしてたけど、強い時はめたくそ強いな。勉強になった。裏切りばっか前提に考えちゃダメかも俺。国際政治、国連……あっ思いついた。
……しかし、気付いたらクラスリーダー全員が大集結じゃん。俺だけ場違いだ。
「誰とは言わないけれど、今の段階でもう既に『勝てない』と決めつけて、手段を選ばないというのは、その方が『弱気』なんじゃないかしら?」
「んはは!言われとるやんけ龍園!」
「黙れ」
堂々と正面から目を見て煽られてる珍しい姿、良いもの見れた。堀北やるじゃん、日頃の鬱憤晴らしかな?
「では、一之瀬さんとしてはどうしたいのですか?」
あ、坂柳がまとめに入った。まぁ仕方ないかこれ……。一之瀬の機嫌次第で俺達か坂柳達が消し飛ばされちゃう訳だし。一之瀬が優しくて良かったよ。俺もちょっと仲良くして恩を売ってるけど、1クラス消せるなら無視して裏切る価値あるだろうし。
「そうだね……。Aクラスには、試験中にしっかり頑張って、誰も退学にならないよう協力するのを約束して欲しい」
「分かりました、約束しましょう。良いですね?的場くん」
「あ、あぁ……」
絶対に断れない話だわな。ただの口約束だけど、まぁ大丈夫そうかな。
「オイ、大グループ結成時の指名順をよこせ。ついでにAクラス主導グループの指名順は最下位にしろ」
あ、それ良いねぇ。空気を読まない龍園の提案、交渉時には頼もしすぎる図々しさだ。
「まだ1年が選ばせてもらえるか分からないよ……?」
「フン、学年が違ったとしても立場は同じなんだよ。1年が全体で拒否すればどうとでもなる。……女子はどうでもいい。男子は1位で選ばせろ」
あ、ちょっと譲歩した。
「それは……うん、分かった」
「仕方ありませんね。私としても異存はありません」
「えぇ、Dクラスもそれで構わないわ」
女子リーダー達の賛同を簡単に得られたけど、男女それぞれ見えるものが違うからってことかな?
「女子の方はもう諦めてんの?」
「……女子の方は勝手にやらせる」
「ふーん」
まぁ、どうしても男女それぞれ異性の方は分かりにくいもんね。……いや、龍園なら何食わぬ顔して女子も盗聴&盗撮しまくってそうな気もするけど。
とりあえず話はまとまった。結果としては『大グループ結成時の指名順を決めただけ』なんだけど……それにしては危なすぎたな。
結局、信頼度の問題だったのかな。Aクラスは今まで孤立気味というか、偉そうにトップに君臨してたけど、だからこそ上手くやれば潰せた気がする。偉そうでウザいヤツ多いし。
けど俺達、というか龍園がヘイトを稼ぎすぎてたから無理だったという話。もし一之瀬が本気で世論形成とか頑張っちゃってたとしたら、殺されてたのは俺らだったのかもしれない。嫌われ者だし。
次に活かす教訓があるとしたら『みんなと仲良くする』方向で利害関係者を作りまくってズブズブの関係になるのが良いのかもね。貸し借りをいっぱい作っておくというか。俺も小さな恩は一之瀬と神崎に売ってたかもしれないけど、あんなのじゃ無視できちゃうレベルだもんなぁ……。
無視できないほどの恩を売っておきたいかも。……いやでも出来るか?そんなの無理じゃね?
そうなると、やっぱ『他人の弱みを握る』の方が良いのかもしれない。脅迫材料を持っておけばいいっていう。……龍園なら今もう既に持ってて、今日はただ危なくなかったから使わなかっただけなのかもしれないか。
俺も保険みたいな感じで2つ3つくらい確保しておきたいな……。
(後書き)
原作ではこの時点で既に男女別だったんですが、都合により1年男女全員をまとめました。
もし女子の介入が無かったら、神崎は合理的に「この方が一之瀬のためになるだろう……」って判断しそうな気がしますし、Dクラスもギャーギャー騒いだ挙げ句に多数決的でAクラス排除に賛成してたような気がします。
葛城くんも変化球対応が苦手っぽさあるので、どうしようも出来なかったんじゃないかなぁ……と。ハゲ(泣)
そういう訳で、坂柳と一之瀬を出したかったのもあって、小グループ分けまで男女で同じ会場にさせてもらいました。