ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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駄々っ子、真面目っ子

「そうだ龍園、今もう2000万ppあんの?」

 

「……ねぇな」

 

あ、無いんだ。意外、ギリギリありそうだと思ってたけど。……いや、あるのに使いたくないから無いって言ってる可能性もあるか。思いついた作戦のために、こうやって情報集めをしてる俺は浅井虎徹です。

 

「じゃあ……退学になってもいいと思ってるヤツは?居る?」

 

「フン。いねーよ」

 

これまた少し意外。部下を使い潰さないの偉いじゃん。

 

「うーん、そっか……」

 

じゃあやっぱハッタリ勝負でいくしかないね。

 

「……。」

 

「あ、一応許可もらうけど、Aの的場グループ入っても良いでしょ?」

 

「好きにしろ。……調子乗ってミスんじゃねぇぞ」

 

お前に『調子に乗るな』は、あんま言われたくないけどな。

 

「りょーかい」

 

何するか、なんとなく予想されちゃってるかな?

 

 

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「的場!いーれて!ここなら責任者にならなくていいんでしょ?」

 

責任者になれ的な事をメールで言われてるけど、やる訳がない。試験内容なにも分からない状態だから退学リスクが大きすぎる。みんな良い子だから『頑張ればクリア出来るはず』とか思ってんのか知らんけど、俺はそんなに学校も信じてないからね。

 

「は?お前が来るのか……?」

 

Aクラス、意気消沈してる的場とかいうヤツ。ギリギリ退学しなくて済んだの良かったね。まだ分からんけど。

 

「仲良くしようぜ!」

 

「お前、龍園クラスだろ。信じられるかよ」

 

「クラスはそうだけど、別に100%味方でもないよ」

 

「怪しいな……。さっき変な演説してた敵だろ」

 

変な演説じゃねーわ!

 

「別に良いじゃんか。それとも5分だっけ?経ってるから『成績悪くてもいい』って話も無くなってる?」

 

「いや、構わない。責任者は俺が引き受ける」

 

「葛城さん……」

 

「おっすハゲ。おひさ」

 

ハゲ、さっきの騒動中に動揺を見せなかったのは偉いかもしれないけど、あの場はちゃんと動かないとダメだったんじゃないかな……。

 

「では、教員に報告しに行くぞ」

 

「ちょい待って。……龍園をそこそこ知ってる人間として、Aクラスが他みんなグループ入れたかの確認はしておいた方が良いと思うよ」

 

「なに?……あの流れで、まだ俺達を陥れようとしてると?」

 

「その可能性もあるし、単純に全体の人数を考えないで人が余っちゃうかもしれないじゃん。その調整はマジでした方が良いと思うよ」

 

「……なるほどな。15人組が4つと、残り10人ずつになると考えていたが、その保証も無い。もしかしたら人数が過不足しかねないということか」

 

「そうそう。どっかでミスしててもおかしくないでしょ」

 

ちゃんと数えなかったら、最後に16人以上になったり、9人以下になったりするかもしれない。そうなるとグループ入れない生徒が出てきちゃう。

 

「ふむ、いざという時は俺達から調整する必要があるか……。的場、人数を確認してきてくれないか?不足してるかだけではなく、グループに入れてない生徒が居るかも見て欲しい」

 

「分かりました。行ってきます」

 

 

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ハゲも他クラスとの調整のため行っちゃったし、顔見知りが誰も居ない所で『教師達もあそこまで無視するのムカつくよね~』なんて言ってAクラスに媚びてみたけど、ほぼほぼシカトされて少し悲しい。お前ら、マジで容赦しないからな……。

 

「俺達14人を除く6人が他グループに配置され、教員に承認をもらったのまで確認した。あとは俺達だけだ。報告しに行こう」

 

おっ、ハゲと的場が帰ってきた。確かに他グループみんなもう移動を始めてる。他にAクラス以外の生徒は……居ないっぽいな。残りは俺達だけだ。やったぜ。

 

「誰が責任者になるんだっけ?」

 

「俺だ。……文句があるのか?」

 

「そりゃもちろん、ある!」

 

「は?」

 

「いやどういう事だ」

 

「お前、まさか……」

 

早い、もう勘付いた人も居るっぽいな。

 

「そう、俺は責任者を……認めたくなーい!」

 

「は?……どういうことだよ」

 

それはつまり、

 

「あんたらここで俺と死ぬのよ」

 

「なっ、ふざけんな!!!」

 

殴られるくらいの勢いで服の襟首を掴まれちゃった。やめてよ、服が伸びちゃうでしょうが。

 

「助けて~。なにこれ?暴力事件なの?停学したいの?」

 

「浅井、お前……そういうつもりだったのか」

 

これぞまさに『苦虫を噛み潰したような顔』って感じの、憎しみに満ちた表情をしてるハゲ。苦虫を噛み潰したようなハゲだ。

 

「おっ、流石だね。もう分かってるっぽいけど、一応言っておくと小グループ結成条件が『全員満場一致』で責任者を決めなきゃいけないって明記されてたから、俺がただひたすら責任者を認めなければ小グループが結成されないはずだよ。みんなで仲良く退学しようね!」

 

「……っざけんな!」

 

「おい!やめろ!」

 

俺を殴っても何にもならんでしょうに。ハゲが俺のこと守ってくれた。サンキューハゲ。

 

「そもそも悪いのはルールでしょ。憲法改正ですら3分の2でいいのに、全員一致なんて無茶苦茶だよね。国連システムと同じでアホだよ」

 

最初に決めたヤツの頭が悪すぎる。

 

「利用しといて人のせいにすんな!!」

 

もう泣きそうじゃんコイツ。泣いてるかな?

 

 

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「おい、落ち着け!……浅井、何が目的だ?」

 

あら?冷静になるの早すぎないか?ハゲお前ホントに高1かよ?落ち着き方が40歳のオッサンくらいだろマジで。髪型もだし体格も悪くないから若々しいオッサンにしか見えない。

 

「目的って、そりゃもう……ここにいるAクラス14人の退学だよ」

 

「そのために、お前も一緒に退学になると?」

 

「そうだよ~」

 

「……嘘だな」

 

「えっ?」

 

なんでバレた?……いやブラフ?カマかけられてるだけ?

 

「まず、龍園がお前を捨て駒にするとは考えにくい。2人で対立してる時もあるようだが……龍園クラスにおいて、唯一に近い社交的な生徒であり、貴重だ。アイツも馬鹿じゃない、そんな存在を軽々しく捨てるとは考えにくい」

 

「あ、ありがとう……?」

 

めっちゃ褒めてくれるじゃん。照れちゃう。

 

「加えて、お前にアドバイスを求める様子も目撃され、須藤を停学させた時の実行犯であり共犯だったと。下手したら龍園が1番信頼してる相手だという噂もあるくらいだ」

 

「いや、それは無いかな」

 

そんな噂すぐ消してくれ。困るよ。

 

「そして『退学する』というのが嘘で、浅井1人を退学から救済するために2000万ppを使う可能性は……。流石にそれも考えにくい。我々から毎月100万、他2クラスからも毎月20万ずつもらっていたとしても、な」

 

あぁ~、夏の無人島で契約したのそれくらいの額だったっけ。俺がもらってる訳じゃないから実感ほぼ無いんだよな。

 

「でもそれ、ギリギリ2000万いくんじゃないの?他クラスから140万ずつ、9,10,11,12……あっ4ヶ月だけか。合わせて560万、遠いね」

 

クラス内から毎月少しずつ徴収してるっていうのも外部にはバレてないはず。……いや、そろそろ漏れてたとしてもおかしくないか。俺は払ってないけど。

 

「干支試験における指名成功報酬もある。だが龍園クラスの人間がppをすべて徴収されてる様子は無いからな……。絶対に持ってるはずがない、とまで断言はできないが、2000万ppを貯めてる可能性は低い」

 

「そうかもね」

 

みんな普通に喫茶店とか映画館に行ったりしてるもんね。全徴収されてるクラスの行動じゃない。そりゃ分かるか。

 

「だから何より『退学意思があるか』が問題になるが……。浅井、お前がクラスの勝利のために自分を犠牲にするとは、とてもじゃないが思えないぞ。Aクラスに興味がないと公言していたしな」

 

「ん~……」

 

何も否定できないな。龍園に心酔して崇拝してるようなタイプだったらやりそうだけど、なんで俺がそんな行動に出るの?って考えたら、確かに意味不明だ。怪しすぎる。嘘にしか見えん。

 

「つまり、これは『道連れ退学』を脅迫材料にした、プライベートポイントを稼ごうという魂胆なんじゃないのか?」

 

めちゃくちゃ見抜かれちゃったじゃねーか!こらハゲ!

 

「バレちゃ仕方ねぇ!100万くれないとみんなで退学な!!」

 

「なんだコイツ……」

 

「開き直りやがって」

 

「すげぇ迷惑すぎるバカだ」

 

うるせーぞAのザコ共が。バレた所で状況は変わらねーからな。そんなこと言うなら、

 

「なんかムカつくからやっぱ200万ね」

 

「は!?」

 

「うぉい!?」

 

「考えてみなよ。200万だけでAクラスの14人が助かるんだよ?お買得セールでしょ。救済措置なら1人2000万で、14人で2億8000万。それが200万でいいんだよ?140分の1じゃん、99%オフより安いじゃん。さぁ、買った買った!」

 

「そんな話が聞けるか!!」

 

あんな目に合ったのに、いつまでも上から目線だな。普通、頭を下げて、泣きながら『安くして下さい』って言うべきなんちゃうんか。現実ちゃんと理解しろよ。

 

「20時まであと数時間もあるとはいえ、最終判断は19時までね。200万ちゃんと払います、って教師の前で契約してもらうから」

 

「ふざけんなよ!オイ!」

 

「これ払うしかないのか……?」

 

「さすがに200万って」

 

あ、冷静な奴らもちらほら居るな。……そしてハゲはなぜか考え込んでイマイチ聞いてないっぽい、どしたんだ?現実逃避?

 

「そんな金額は流石に無理だ」

 

「ヤダヤダぁ!200万くれなきゃヤダぁ!」

 

「うわっ」

 

「えぇ……?」

 

おい、引くな。

 

「お前、恥ずかしくないのか?」

 

そんなの、めちゃ恥ずかしいに決まってんじゃん。

 

「……ムカつくから、値段を210万に上げます」

 

「なんでだよ」

 

「うるさい。早く決めてくれよ。まだまだ上げても良いんだぞ」

 

「そもそもだが、……浅井、お前は1つ見逃してるぞ」

 

「えっ?……何を?」

 

ハゲが困惑した感じで言ってきたけど、え、何?

 

「小グループの結成期限は本日20時、それは間違いない。……だが、その時間までにグループを組み直すことは、ppを払うことで可能だ」

 

「……。」

 

ちょちょちょっと待ってちょっと待って、なにそれ?マジで?……そうなると話が最初から違ってくるじゃん。いや顔に出すなよ俺。

 

「やはり知らなかったようだな」

 

資料に書いてあった細々したルール、あんなの全部読める訳ねーだろが!時間も足りなかっただろ!しかもバス内で回収されてるし……マジか?いやもうダメだ。これはもう失敗だな。逆に俺がハブられてグループ入れず退学になる負け筋まで出来ちゃった。

 

「はい。……ごめんなさい。ちょっと調子に乗りすぎました。10万でいいです」

 

「え?」

 

「なんだコイツ」

 

「変わり身はっや……」

 

うるさいぞ。俺は負けをすぐ認められるだけだ。

 

「譲歩してくれてありがとう浅井。だが、龍園に毎月100万取られてる立場としては、それも少しばかり厳しい。お前も1位になる努力をするという協力を約束した上で、……そうだな、2万で納得してくれ」

 

「え~!?……もうちょい欲しいよ」

 

「仕方ないな……。では、5万でどうだ。順位が確定してない現時点ではこれ以上は難しい」

 

しょぼいけど、まぁ小遣いとしては仕方ないか。

 

「ん、了解。取引成立で」

 

あーあ。本気で100万くらいなら狙えると思ったんだけどな……。

 

『1人の犠牲で14人潰せる』っていう、とんでもなくコスパが良い現実的な案だったし、リアリティはかなりあったと思うんだけど……すっごい冷静に見抜かれちゃったのが惜しい。

 

敗因は『真面目さ』かな。資料を読み込んで準備する気なんてさらさら無かった俺の不真面目っぷりで負けたと言える。……金田も他作業してたから把握してないだろうし、そういう意味では俺のクラスちゃんとした真面目タイプがもう1人くらい居ないとダメかも。

 

 

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小グループを教師に報告しに行って、人が少なくなった食堂にAクラスの奴らと一緒に入り、メシを食い、本棟の方に移って来たけど……。

 

「……。」

 

Aクラス14人に俺1人だけっていうのもあるけど、さっきの脅迫のせいでバカみたいに空気が悪い。これで共同生活ずっとすんの?

 

「ねー、もうちょい仲良くしようよ~」

 

「は?どの口が言ってんだよ」

 

まぁ……確かに。ただ、負け惜しみっぽくなるけど、正直コイツらとそんなに仲良くする必要も無いんだよね。

 

責任者をやってない現状、俺が退学になる条件は、

 

・所属してる大グループが最下位(6位)

・小グループの平均点が学校側の設定した平均点を下回る

・責任者が退学時に道連れ指名される(学校側の承認も必要)

 

これがすべて成立した場合のみ。まぁ無いでしょ。

 

大グループは2,3年次第だし、なんだかんだAグループ構成だったら最下位はないとして、……いや、ちょっと待って、もしかして大グループ結成時の指名順が最下位なのってここなの?『Aクラス主導のグループは最下位』って決まってたし。

 

えっ?……やばくないか?龍園が指名順を奪い取ったせいで、もしかして2年3年の最底辺グループと組むことになる?マジ?嘘でしょ?最悪すぎるよ。こんな所に来るんじゃなかった……。このリスク、5万じゃ釣り合わないぞ。マジでやらかした。

 

2つ目の条件『小グループの平均点が学校側の設定を下回る』っていうのも、Aクラスが14人なんだから俺が全部0点でも下回らないと思いたいけど……過信は出来ない。めちゃくちゃ嫌われてスタートしちゃったし。

 

的場が『成績が悪くても問わない』ってさっき堂々と言ってたけど、それを100%信じるほどアホじゃない。しっかり契約した訳でもないし。もし仮にハゲが退学になったら、間違いなく道連れ指名は俺でしょ。指名しない事も出来るけど、他クラス1人消せるのに使わない訳がない。

 

流石に俺を犠牲にするためにハゲも犠牲にするとは思えないけど……分からんからね。もしかしたら嫌われてたり、男子でも坂柳派は居るはずだし、今もう坂柳派が優勢だろうし。

 

なんだよこれ。めちゃくちゃサボれると思ってたのに、ちゃんと平均点が低くなりすぎない程度には頑張らなきゃダメじゃんか。教師とかカメラのある所でアピールしまくって『こいつが敗因!』の認定が通らないくらいにはやっておかなきゃ……。

 

こんなことなら変な欲を出さずに龍園のグループ入って適度にサボっておけば良かった……。ちょっと泣きそう。

 

 

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「浅井、ちょっといいか」

 

あら?何もすること無いからウトウト昼寝しようとしてたらハゲに呼び出されちゃった。

 

「どしたの」

 

「少し話しておきたい。貴重な機会だからな、ちょっと来てくれるか」

 

「まぁ、ええけど……」

 

なんだろう。Aクラスだらけの部屋では嫌って、俺に配慮してくれてんのかね?

 

ハゲの後ろを追って部屋から出て、古い木で出来た建物を数分歩いて、誰も居ない教室が見える廊下のあたりに来てやっと止まった。

 

「この辺で良いだろう」

 

俺はどこでも良いけど。こんなに部屋から離れる必要あんのかね。

 

「うん。で、どしたの?」

 

「そうだな……。まず話しておくべきは、『資料にあったルール』という事だが、あれは俺の嘘だ」

 

「はい!?えぇー!?!?」

 

やべぇ、無意識でハゲは嘘つかないと思い込んでたよ。ある種、しっかり信頼しすぎちゃってたなこれ。マジかよ。

 

「いや、あの資料に記載されておらず、裏ルールとして存在されてる可能性は依然としてある。現時点では、それは教師陣に確認を取っていないから分からない。……プライベートポイントによる自由度の高さから、俺個人的にはそれほど低い可能性だとは思ってないが」

 

「まぁ、俺も完全に本当だと思ってたし……」

 

全然ありえる話だと思っちゃってたよ。

 

「俺は……正直、こんな手段を取りたくなかった」

 

「なんで?」

 

めちゃ有効じゃん。現に気持ち良く騙されちゃったし。

 

「間違った手段で得た成果に価値は無い、そういう思いがあるからな……」

 

「ふーん……。いやまぁ、それも良いんじゃないの?俺が言えた事じゃないけど、何かと裏ワザ探しをして生きてる人より、しっかりサボらず真っ直ぐ生きてる人の方が強いと思うし」

 

真面目も別に悪いことじゃないけどね。

 

「褒めてるのか?……それとも、煽ってるのか?」

 

「煽ってねーわ!」

 

そんなに性格悪くねーよ!

 

「……だが、人の上に立つ人間として、他者からの悪意を防ぐべき指導者として、それを想定しなきゃいけないはずだ。……俺にはそれが難しかった。お前達を警戒すべきだと考えていたにも関わらず、……何も出来なかった」

 

すげー打ちのめされてんな。そりゃクラスメイトに見られたくないか。

 

「Aクラスが排除されそうだった時は何考えてたの?」

 

「先程言ったように、制限時間内であれば小グループの再編成が不可能ではないはずだという希望。……あと、ここまで簡単に退学を認めるだろうか?という疑問が拭えず、学校運営側に交渉出来ないだろうか、などと考えてしまっていた」

 

「あ~……」

 

「……俺はリーダー失格だ」

 

「んはは!……あっ」

 

笑う場面じゃなかったか。過剰に落ち込み過ぎてる姿が面白くてつい笑っちゃった。

 

「幸い、俺達には坂柳が居る。俺はもうサポートに回り、責任を取るべき所は取る。……今考えれば、保守的にリスクを抑えるためだと14人をAクラスにしたが、他にもう1クラスを入れるだけでもリスクは大きく減らせた。『1位になるつもり』と言いながら最大倍率の4クラス構成すらしてない、そういった弱気な姿勢もあった」

 

「まぁね」

 

勝つ気なのか負ける気なのか良く分からんバランス感覚ではあった。

 

「そう、俺はきっと、人を率いる立場には相応しくないのだろうな……」

 

「ふーん。ちょっと落ち込みすぎじゃね?」

 

「……浅井、せめて今回の試験中、それなりに協力して欲しい。頼む」

 

「ん、了解。俺だって道連れ退学にされたくないし、葛城のこと退学にしたいとも別に思ってないからね」

 

「だが、『退学にしたくない』とも思ってないだろう?」

 

「それはそうだけど。……いや、本音ではどっち?って言ったら、ホントに退学しない方がいいと思ってるよ?」

 

「本気か?……じゃあなぜ龍園の計画に乗って、一緒に俺達を退学に追い込もうとしたんだ?」

 

「えっ、なんか、……楽しくなっちゃって」

 

「……。」

 

き、気まずい。

 

「えーっと、マジな話、まだ高1の知らない事だらけのガキなんだから、そりゃなんでもかんでも上手くいく訳ないでしょ。龍園に怯える必要も別に無いし、『こういう悪いやつも居るんだなぁ』くらいに思っておけばええんちゃうの?失敗から学べばいいじゃん」

 

「……励ましてるのか?」

 

そうだけど、そうハッキリ言われると照れくさい。

 

「今回はたまたま龍園の圧勝っぽくなっちゃったけど、葛城も葛城で、愚直に勉強しまくれるタイプなんだろうし、『コイツは嘘つかないだろう』って信頼を勝ち取れるのも立派な事だよ。一之瀬と同じで人から信頼してもらえるって」

 

「お前が言うのか……」

 

「俺だから言うんだよ。すぐ嘘ついちゃう、ついつい自分達の利益のために嘘をつくような人間なんて、いざという時助けてもらえるか分からんでしょ。『ロン毛とハゲ、どっちを助ける?』って聞かれたら、みんな葛城を選ぶと思うよ」

 

「……だが、そんな『嘘をつかない人間』だと思われた所で、何の役にも立ちはしない」

 

「そりゃ、う~ん」

 

確かに、と思っちゃった。

 

「お前は今回少し協力してくれるだけでいい。……それだけを言いたかった。じゃあな」

 

「ちょい待って。……まぁ、うん、そうだね。葛城はリーダーには向いてないかもしれない。正確に言えば『この場所ではリーダーに向いてない』かもしれないとは思う。『悪知恵比べ』の側面が強すぎるからね」

 

「……。」

 

「けど、めちゃくちゃしっかりルールを守る、そうだなぁ……。『検察官』とか、それこそ『警察』とかにはめちゃ向いてると思うし、人の上に立って背中で語るみたいなのも想像出来るよ。えーっと、会社の部長とか?やることが決まってる中で、部下に指示を出してるとか簡単に想像できるよ。中間管理職っていうか」

 

アレ?これあんまり褒めてないかも?100%褒めてるつもりだったんだけど……。

 

「そうか。……ありがとう、将来の指針として覚えておく」

 

「ん、まぁ、そんな落ち込むなって」

 

なんか、思ったよりハゲのこと人間として好きになってきちゃったね……。無人島でタダで水くれた時からそこそこ好きだったけど。

 




全然試験が始まりませんねぇ!w

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