ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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油断

こんにちは、真冬の林間合宿とかいう狂ってる学校行事で、山奥の謎施設に監禁されてる俺は浅井虎徹です。

 

最終日に試験とは言われてるんだけど、それまでの数日間も採点されるのか?っていうのがハッキリしてないのがすごい嫌だ。……まぁ、考えてみたら、採点してなかったとしても『ちゃんと見てるからな』っていう脅しで同じこと言うのかもしれないけどさ。

 

ついでに、古臭い木造建築の施設なのに、それにしてはやけに監視カメラが多い気がする。これダミーも混ざってるのかも?いや分からないけど。警戒体制が出来てて良い事だと思うんだけど、やっぱり少しだけ落ち着かない。カメラが俺の方ばっか見てる気がするけど……流石にそれは自意識過剰か。

 

Aクラス、俺を警戒して嫌悪してるからというより、そもそも私語が少ないのかもしれない。真面目というか、あんまりコミュニケーション取らないというか……。合宿に来てるのに、みんな静かに本読んだり勉強したりしてるよ。すごいな。

 

「よう1年、全員いるか?」

 

21時過ぎ、消灯まであと1時間もない時間になって、南雲と他数人がゾロゾロと部屋に入ってきた。おい、狭いぞ。帰れ帰れ。

 

「南雲先輩、どうされましたか」

 

「お、葛城か。ちょっとばかり学年を超えて交流しようと思ってな」

 

「そうですか……」

 

「明日を除いて、朝食の準備は生徒だけでやることになる。ちょっとした早起きしないといけないって事だ」

 

めんどくっさ!

 

「注意事項として伝えに来て頂いたのでしょうか?」

 

「いや、違う。全員揃ってやる必要も無いし、小グループ単位で担当しようぜ。明後日からの全5回、どこが担当するかを、交流をかねて遊びで決めようってな。ババ抜きでどうだ?最後まで残った奴のグループが担当だ。5ゲームなら今日中にやれるだろ」

 

そう言いながら持ってきたトランプを見せてくるけど、ん~……やらん方が良さそうなお誘いですねぇ。

 

「それは……」

 

「気が向かないか?葛城。……お前、堀北先輩には断られたらしいが、今は新しい生徒会だ。俺次第で誰を入れるか決められる。ちょっと実力を見せてくれよ」

 

うわ、露骨に誘いまくってんな。怪しいねぇ。

 

「……はい」

 

こらハゲ~!……まぁ断れないか。一応は同じ大グループの仲間だもんなぁ。

 

「よし。3年からも2人来てもらった、1年からも2人選んでくれ、全6人でやろう。途中で交代してくれてもいいぞ」

 

「では、そうだな……。浅井、頼む」

 

は?

 

「なっ」

 

「えっ?」

 

Aクラスの他の奴らも『なんでそいつ?』って顔してるけど、俺もそう思うよ。巻き込むなよ……。

 

「なんで俺?……普通にヤダよ」

 

「おいおい良いじゃねぇか、浅井って言ったか?楽しもうぜ」

 

あ、初対面のフリしてくれてるな。それはありがたいけど、

 

「いや南雲先輩、嫌ですよ。いきなり提案されたゲームで、カードもそっちが用意したものって。怪しすぎますて」

 

「……俺らがイカサマでもするってか?」

 

軽くガン飛ばされ、他の2年っぽいヤツらも一緒になって前に出て睨みつけて不穏な空気にされてるけど……

 

「そりゃもちろん、するかもしれないでしょう」

 

「俺らを信じられないと?」

 

「おい浅井、失礼だぞ……」

 

「当然ですよ、信じられる訳が無いでしょ。逆に、なんでほぼ初対面の先輩を信じられるんです?……葛城も気を使ってるのか知らないけど、何を言ってんのさ。そんなんだから龍園に騙されるんだぞ」

 

根本的に人を信じすぎだよ。

 

「それが生徒会長だったとしても、か?」

 

「え?……もちろん。関係ないですよ」

 

当たり前じゃん。むしろ警戒した方がいい相手なんじゃないの?

 

「フッ……ハハッ、おもしれぇな、お前」

 

「はぁ」

 

何がだよ。別に面白いこと言ってないでしょ。

 

「そうだな、そこまで言うなら、途中イカサマだと思ったら指摘してみろ、見抜かれたら俺の負けでいい。そして、1回ごとに1万ppボーナスやるよ。それでどうだ?」

 

面倒だけど、南雲の怪しい噂を確認するために、ある程度は『出来るヤツ』と思わせて、信頼させて、情報を得られるくらい近付きやすくはしなきゃいけないんだよなぁ……。そもそも絶対に生徒会に入れてもらえない感じになってる今やっても意味あるんか?とかも少し思っちゃうけど。でもまぁ、やるか。

 

「それなら、まぁ……了解です。よろしくお願いします」

 

純粋な頭脳勝負じゃ俺そんな強くないけど、ある程度は思考力あるよって所を頑張って見せよう。そこはアピールしまくればなんとかなるからね。

 

 

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3戦ほどやったけど、3年が1回負け、1年の俺とハゲは1回ずつ負けて2敗になってしまった。この時点でなんか少し変なんだよな……。俺はともかく、ハゲはまったく表情が動いてなかったし、コイツ相手にババ見抜くのは無理じゃね?って。

 

「1年もうちょい頑張れよ~」

 

嘘つけ南雲カスボケ、絶対に思ってもないこと言いやがって。……このまま淡々と負けてもアレだし、ちょっとは動いておこうか。

 

「すみません、えーっと、2年の先輩はみんな南雲先輩の後ろに行って下さい」

 

なぜか今やってる2人の他に3人ほど来てたので注意をする。そんな露骨に見える位置ではないけど、他学年の手札を見れそうではあるんだよね。

 

「ふっ……。言われた通りにしてやれ」

 

「ついでに、1年の全員も南雲先輩側に行ってよ」

 

「ハハッ、1年にも俺側の人間が居るってか?お前ら味方じゃないのか?」

 

「敵ですよ」

 

「面白い。……だが逆に、1年がお前達にサイン出すかもしれないって事でもある。そうなると、悪いが、全員ちょっと部屋から出てくれ。俺が許可を出すまで入ってくるな」

 

おぉ、あっさり主張を通してくれたね。つまりは、イカサマと関係ない、もしくは他の事を利用してるって事かな。

 

「どもでーす」

 

肝心のイカサマ、多分だけど……トランプにさりげなく付いてる傷で見分けてるっぽいんだよなぁ。けど良く見ても、触りまくってみても分からん。カード遊びはそこまで慣れてないし。そして何より、指摘した所で『言いがかりだ』で終わっちゃうからね。どうしたもんか。

 

「さぁ満足か?」

 

ここから正々堂々とやって残り全勝したらカッコイイけど、カードの傷跡だけじゃ俺ちょっと分からん。ジョーカー引いた時に俺も傷を付け足しておけば良かったかもしれないけど、結局は似たのが多すぎて分からん気もする。触り心地だけで判別出来るのは相当慣れた人でしょ。ムリムリ。

 

「うーん、どうしましょうかねぇ……」

 

仕方ない。『勝つ』は無理だけど、これ以上『負けない』でいこう。

 

「もう消灯時刻まで20分切ってるか。浅井、お前が次だぞ」

 

そういえば、連れてきた3年がシャッフルしてた時もジョーカーの行き先を操作してたのかも。2,3年が組んでジョーカーの行き先を決めて、ジョーカー見抜いてたら、そら勝てんわな。

 

「もうちょいで分かりそうなんだけどな~……」

 

相手の手札を凝視したり、自分の手札に目を落としながら時間を潰す。

 

「……おい、浅井。早くしてくれ」

 

黙れハゲ。お前は素直にやり過ぎなんじゃボケ。

 

「なんだ?イカサマに気付いたってか?」

 

「いや、確信は持ててませんね。仮に言った所で証明も出来ないので、そういう意味では1万もらうのは諦めてます」

 

「ほぅ?」

 

「けど、なんか……何かに気付けそうなんだよな~!」

 

元気にアピール。考えるフリ。

 

「……お前、時間切れ狙いか?」

 

あ、バレた。

 

「うーん……難しいなぁ~!」

 

「……。」

 

「……。」

 

「浅井……」

 

「……。」

 

どうなんのこれ?みたいな雰囲気が漂ってるけど、無視して悩むフリを続ける。

 

「ふっ……。俺は今回、9割方は勝てると思って来たが、そうくるか。面白い、認めてやるよ浅井」

 

なんか楽しそうだね。

 

「あー、どうもです?」

 

「最初に持ち時間なんかを設定しなかった俺のミスだ。……だが、俺の負けとは言わねぇ」

 

「ん?」

 

いやまぁ、あえて言うなら『引き分け』だろうけど、まだ諦めないの?

 

「こうしたらどうする?オラッ!」

 

「ゔぇっ」

 

いきなり腹パンされ、前かがみになった所を、間髪入れずに背後から腕でガッチリと首を締められた。完全なチョークスリーパー。こ、このクソ、息、つーか頭に血が、止まる……

 

「南雲先輩!?何をされるんです!?」

 

「黙ってろ葛城。そこまでの怪我はさせねぇよ」

 

ほんの少しだけ緩んで視界の色は戻ったけど、相変わらず息は殆ど出来ない。

 

「横暴が過ぎます!認める訳には、」

 

「チッ、……3年、そっち抑えとけ」

 

「なにを!?」

 

「さて浅井、どうする?動けないだろ」

 

言われた通り、まったく外せない強さで首を締められてる。ご丁寧に足で俺の腰を挟み込んだ体勢で密着して、抑えつけられてるからまったく動けない。前後に動いてみたけど意味も無く、後ろに向けて頭突きをしようとしても幅がまったく取れないから効果がない。

 

「……。」

 

手探りで背後に手を伸ばし……これか、背後の南雲の握りこぶしを触り、指を確認して、

 

「誰も見てない握り潰せる状況だ。これ以上される前に負けをみと、いってぇ!」

 

なんとか小指だけを掴み、思い切り外側に、音がするほどの勢いで180度以上へし折った。それで反射的に腕がゆるんだのに合わせて前に逃れて、やっと解放された。握力ちゃんと鍛えてて良かったよ。

 

「ハァ、ゲホッ、ハァ……ハァ……。ふ~……」

 

あんまり油断してたつもりないけど、まさかゲーム中にいきなり暴力とはね。超早くて対応できなかった。……評価を低くし過ぎてたのかも。反省だねこれ。場馴れ感とかもすごかった。俺が話せるように少し緩めたりせず、本気でやられてたら、まず間違いなく絞め落とされてたと思う。

 

「お前、一切躊躇しなかったな……。ハッ、おもしれぇ。悪くないぞ浅井」

 

「……。」

 

ハゲを抑えてるのが3年の2人、そしてこっち見てる南雲ともう1人の2年。1対2っぽい状況。とにかく腕を抑えられないように立ち回らなきゃ。そして、相手の方が実力が上っぽいから、手段は選べない。親指突っ込んで目を潰したり、金玉を握り潰す、噛み付きとかまでやらないとキツいかもしれない。

 

「オイオイ、そんな目で見んなよ。……今日の勝負はこれで終わりだ」

 

加減してられる相手じゃない。こんなことならボールペンだけでも持ち歩いておくべきだった、なんとかして逃げられそうなら迷わず逃げよう、殴りかかるフリして出口の方に……とか考えてたけど、ここで終わり?

 

「あー、……ん?終わり?」

 

「そうだ。悪かったな」

 

はぁ?どういうことだよ。ホントか?当然だけど距離は取っておく。……後輩を暴力で脅して『俺の方が強いぞ』アピールでもしたかったの?

 

「はぁ?……え?じゃあババ抜きは無効で、1,2,3年の順で朝メシ準備っすか?」

 

「ハハッ、そうするか。……そうだ、葛城、悪かったな。ふざけすぎた」

 

「……。」

 

本気だったじゃないですか、みたいな不信な目で南雲を見るハゲ。いいぞ、もっと軽蔑した目で見てやれ!

 

「浅井がどんな反応をするか見たくなってな。悪かった、すまん!」

 

いやはや、ほぼ事件みたいなこと起こしておいて、その直後にこの笑顔かよ。龍園が一生持てそうにない技能でしょこれ。『警戒させないようにする』っていう。完璧な詐欺師タイプ。絶対に本心からじゃない満面の笑み、こぇ~。

 

「……二度とやめて頂きたい。仮にも同じグループでしょう」

 

「あぁ、約束する。悪かったな。迷惑かけたから、食事当番は1年は1回だけでいい。そして試験終了後、端末が手元に戻ったら、お前ら2人に詫びとして……そうだな、5万ずつ送っておく」

 

マジ?それはちょっと嬉しい。

 

「あざーす」

 

「……フッ」

 

なぜか楽しそうに笑って帰っていったけど……ホントにくれるかな?まぁ楽しみにしておくか。ちょっとした口止め料として理解できる金額。

 

しかし、これ……俺としては成功なのか?失敗なのか?

 

『関心が高まった』とは思うけど、『味方にしたい』とはあんまり思われてない気がする……。ん~?どうなんだろか。

 

とりあえず、南雲も『手段を選ばない』という強さがめちゃくちゃあるタイプだと確信できたのは良かった。この寝室部屋には監視カメラが無く、他者の目も少なければ揉み消せると判断し、そうなったら暴力という手段でも選ぶと。

 

そうなると、やっぱ噂の信憑性は上がったけど……。尻尾掴めるかねぇ?これ。

 

手段を選ばない精神を持っておきながら、警戒心を下げる見た目の良さと立ち回る社交性の高さがある。ついでに学力も運動能力も悪くないらしいから、単純に強化版龍園って感じかもしれん。やべーな。簡単な相手じゃないぞこれ。あのロン毛と違って、そうそう他者に警戒させない分、もっとタチが悪い。

 

一方的にやられて超ムカつくけど、それが分かっただけ、実感出来ただけ収穫だと思おうか……。そうでも思わなきゃやってらんねぇや。

 

 

---------------------------------------

 

 

「ねむーい……」

 

翌日、朝6時に室内にあるスピーカーで謎の軽快なBGMで叩き起こされ、淡々と準備して、指定された教室に来た。体操着にジャージだから微妙に寒い。

 

昨晩のアレ、ちょっとした謎の運動のお陰で疲労感があったものの、流石にアドレナリンが出すぎたせいで寝るのが遅くなっちゃったから、今そこそこ寝不足だ。

 

ちなみに1年Aクラスの面々は流石に真面目タイプというべきか、特に寝坊もせず、俺みたいに文句も言わずに着替えて移動してた。嫌そうな顔もそれほどしてない。こういう所は素直に偉いな。

 

1,2,3年それぞれの小グループが集まり、ちょうど1クラス40人と同じくらいの人数が集まったけど、ただでさえ1番目立つ南雲は、右手だけに黒革っぽい手袋を着けてた。

 

部屋の中なんだからそこまで寒くないだろカッコつけやがって、と思ったけど、あれ?もしかして俺のせい?……いや自業自得だろ!

 

なんとなく学年を超えて会話をする訳でもない、妙な空気のまま数分経った頃、見慣れた教師が入ってきた。

 

「おはよう。1年Aクラス担任、1年の学年主任をしている真嶋だ」

 

お前かーい。真嶋、仮面祭りの後に怒られた印象が強いのであんまり好きじゃない。ってか、1年Aクラスが1番多いであろうグループに来るって、ちょっと贔屓じゃないか?ズルくね?

 

「これより点呼を行い、その後は外に出て指定区画の清掃を行う。そして次に、校舎の清掃も行ってもらう。これは毎朝の日課だ。雨や雪が降った場合には外清掃は免除となり、その分の時間を校内清掃に使ってもらう。」

 

雪が降るような時期に、雪が降るような場所に連れてくるなよ。

 

「それから今日からの授業には学校の先生だけではなく、様々な課題を担当する方々も学校外から来ている。しっかりと挨拶し、丁寧な接し方を心がけるように」

 

へぇ~、3学年合同の授業だから学力と関係ない授業になるからってことかな。少しだけ楽しみ。

 

掃除は面倒だけど、やってるフリも出来そうだからまぁいいかな。小グループで孤立してるから、割りと無視され気味なのが良い感じに作業しなくて済みそう。

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