混合合宿が始まって4日目、ちょうど半分。初日こそ色々あったけど、まぁまぁ順調に合宿生活を送れてる俺は浅井虎徹です。
いや、坂柳にキレられた件だけは結局よく分からないけどね……。Aクラスの奴らに聞いても「お前には関係ない」「クラス情報を言うかよ」とかで何も教えてくれないし。クソドケチ共が~。いや、クラスメイトだけど分からんってだけかも。
昼メシ時、伊吹にも聞いてみたけど「女子だからって舐めてんだろ」みたいに怒った様子で言われちゃった。いや全く舐めてないと思うけど……。そもそも『女、子供は守るもの』じゃんか。違うの?そういう価値観を教えられてきたから、どうにも困った。それが嫌なら、そう思われるのが嫌なら申し訳ないかもだけどさ。
女が仕事しまくっても、社会進出しても全然良いけど、俺が女だったら主婦として守ってもらう側になりたいとか思う気がするけどなぁ……。最近の流れというか、時代?が正直よく分からんわ。俺の考えが古臭いのかもしんない。
話が逸れた。合宿生活自体は、ただただ順調に進んでる。
俺の居る小グループは、15人中14人がAクラス。だから、何をするにも特に揉めたりしてないのが良いのかもしれない。ある意味で1番『社交性』を必要としない小グループだと思う。
自分で言うのもなんだけど、問題があるとしたら唯一の他クラス生徒の俺だろうけど、俺も別に妨害活動とかするつもり無いからね。龍園の居るグループが1位になってくれたら嬉しいけど、それ以外はホントにどうでもいい。俺の居るとこが最下位にならなきゃいいだけ。
毎朝の掃除にちょっと無視された感じでやることが無くなりそうになったりはするけど、ハゲに「何すりゃいい?」とか聞けば普通に役割くれたりはするから、問題は特に無い。サボっても他にやることないから素直にやってたりする。
そんな日々を送っていて、分かってきた試験内容は以下の通り。
『禅』
→座禅を開始するまでの作法から、座禅中の体勢などを採点するらしい。警策(きょうさく、肩を叩くために使う平べったいバットみたいなやつ)で叩かれたら減点っぽい。要するに、言われた通りやって長時間ずっと同じ体勢になれと。
『駅伝』
→小グループ単位で全18kmを走る。合計タイムがそのまま順位かスコアになって計算される、はず。
『スピーチ』
→授業内で言われてた採点基準は『声量』『姿勢』『内容』『伝え方』とのこと。
ただ、スピーチは大グループごとにやるらしいので、最大45人がやることになる。1人2分だったとしても1時間半にもなっちゃうし、1人5分とかだと225分、4時間近くにもなる。だからそこまで長いスピーチやれないはず。ってことで、ほぼ発声テストみたいになるんじゃね?とか思ってる。『内容』も『良いことを言ってるか?』じゃなくて『他の人と同じこと言ってないか?』な採点するような気がしてる。
『筆記試験』
→3学年合同で受けてる授業から出題されるらしい。道徳問題を中心としつつ、ちょっとした法律知識、社会マナーとかも出るはず。7日間、じゃなくて試験日と初日を抜いたら5日間でやったことだけ覚えればいいから満点も目指せそうかも。
以上、4つの試験をやるらしい。
日常的な『清掃』と、あと『食事準備』もあるにはあるけど、採点されてんのかな?……されてない気がする。採点基準が難しすぎるし。ただ脅すために『試験の一部』とか言ってるだけじゃねぇかな。
そんなことが分かってきて思うのは、意外と『多人数グループ』と『少人数グループ』どっちが良かったのかが分からない、って事かな。
『総合点』じゃなくて『平均点』だから、意外と少人数の方が高得点も狙えるのかも。少数精鋭。
駅伝、マラソンだって15人だったら同じ距離を担当しなきゃいけないけど、少人数だったら複数人分を足が速いヤツが担当すればめちゃタイム良くなるだろうし。……いや、いくらなんでも何キロも走りまくれる人は少ないかもだけど。
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「おハゲ~、マラソンの試験って全員参加しなきゃいけないんだっけ?」
気になってきたので午後の長距離走の待機時間にハゲに聞いてみた。
「……どういう意味だ?」
「いやさ、走るの苦手な生徒はパスして、その分は運動得意な生徒が走るってやった方がタイム良くなるんじゃないの?」
「なるほどな。しかし『1人あたり1.2km以上』というのが必須ノルマとして与えられている。つまり、15人グループの我々は必ず1人1.2km走るという訳だ」
「あ、そうなんだ。了解」
「サボらないでくれよ、浅井」
「うぃうぃ」
残念だな。ただ本当の駅伝とかに出るような長距離ランナーだったら、18kmを1人で走るのも不可能じゃないよね?そうなるとめちゃ運動できる少人数グループとかだと良いタイム出そうだな。もしかして、そこまで考えて堀北学と南雲のグループちょっと少人数だったりしたのかね……?
「みんなも聞いて欲しい。今日、明日、そして明後日で訓練日があるが、絶対に無理をせず、走りきれるペースを自分で覚えて欲しい。最終日の試験で怪我をしたり、バテてしまわないように。それぞれが可能なペースで走り切る事を目標にしよう」
ハゲの激励に『はい!』とか『おぅ!』なんて返事をするAクラスの面々。まぁハゲってちょっと先生っぽいもんね。サングラスとかしてたら40代にも見えるかも。
「……浅井、お前、負けるために手を抜いたりしたら許さないからな」
はぁ?誰だよ。知らんAクラスに話しかけられた。
「しない、っちゅーの」
「どうだか……。信じられねぇけどな」
俺を信用しないのは別に良いけど、俺が何言ってもそうなるなら聞くなよ。無駄手間だな。
「ねぇ、本当にグループ負けさせようとするなら……そうだなぁ、夜中騒いで睡眠妨害したり、朝食で毒盛ったりするでしょ。なんで普通に協力してんのに文句言ってくんの?普通にムカつくんだけど。妨害工作でもして欲しいの?俺のこと煽ってんの?」
「……。」
すっごい嫌そうな目でこっちを見て、無言で離れていった。なんだそれ?めちゃくちゃ善良で協力的な生徒やってるのに……。酷くない?ホントにやってやろうか?クソボケが~。
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午後の長距離走、最終日の試験では全員で合わせて18kmを走るはずなのに、全員が1人で18kmも走るとかいう訳の分からん授業内容をやらされてる。体力作りだろうけど、限度あるだろ……。頭おかしい学校だよマジで。
山道でそれなりに上下の傾きもあるのがクソなんだよなぁ……。途中で誤魔化して折り返そうにも、ちゃんと折り返し地点に教師が居て申告しなきゃ走ったと認められないと。めんどくさすぎる。
……走ったと認められなかったらどうなるんだ?退学?ただの減点とかだったら別に良いかもしれないな。
「浅井氏、その、このペースで良いのですか?もっと早く行けますよね?」
「ええのええの」
クソマラソンだけど、個々人の運動能力に差があるから、自然とランニングコースは色んなグループ、色んな学年が入り混じることになり、そのお陰でクラスメイトと一緒に歩いたり出来るのは良いね。金田なんぞの顔でもちょっと嬉しくなる。
「ならば良かったです。……浅井氏の方は順調ですか?南雲会長も居るグループですよね?」
「そうだよ。順調かと聞かれると、まぁ……特に問題は無いかな」
自由時間を勝手に強制で使わされて、スピーチの内容添削を2,3年にやられてウザかったりするけど、勝つためには仕方ないのかと諦めてる。
「聞きにくいのですが、イジメのようなものがあったりはしないと?」
「え?……無いけど」
「そうですか……」
ん?
「なになに、金田イジメられてんの!?」
チビメガネだもんなぁ、すごいイジメやすそうではある。ちょっと変態っぽい顔だし。
「いえ、そういうのではなく、……少しばかり、他クラスの生徒と上手くいかず、どうしたものかと」
「なんだ……。いや、どういうこと?」
ガッカリしたら失礼か。
「我々のクラスが、ちょっと目をつけられてると言いますか……。ハッキリ言って嫌悪されていて、最低限のやり取りも難しい時があります」
「金田が責任者?」
「いえ、龍園さんの厳命があったので、ウチのクラスから責任者は出てません」
だったらどうでもいいじゃん、とか思うけど、
「詳しく聞かせてよ」
暇だし。
「あまり大きな声では言えないのですが……、龍園氏の部下達ということで、ハッキリ敵視されています。会話をするだけでも苦労すると言いますか……。我々のクラスに社交性のある生徒がそこまで多くないというのも災いして、ただ会話するのも難しいです」
「ふーん……。金田って龍園の居るグループだったっけ?」
「いえ、違います。そのためか、龍園氏に直接は言えないような文句や恨みを、自分達の方に伝えて、それで喧嘩になりそうになったりも……」
「はぇ~、苦労人してるねぇ」
そんなに恨まれてんのかね?
「その、必要以上に、常に警戒されるような態度を取られてしまうと、どうしても『何も企んでないのに』『言いがかりだ』という風に、こちら側も友好的な態度を取れなくなってしまい、またそれで更に険悪な雰囲気になってしまってます……。正直、我々が知らされてない事で文句を言われたりするのもストレスでして」
「へぇ……。お疲れ様だね」
なんか思ったより大変そう。それに比べて、俺のグループ、文句も言わず1人だけ別クラスから来て大人しくしてるって、ハゲ達はめちゃくちゃ恵まれてんじゃないの?俺をもっと敬えよアイツら。
「そこで、浅井氏……なにかアドバイスなどあれば教えて頂けませんか?」
アドバイスぅ?
「えぇ?……うーん、無い!」
どうでもいい!
「そ、そうですか……」
……ダラダラと一緒に走ってるというか歩いてるような状況でへこまれると、なんか空気めっちゃ悪くなるな。うーん、なんか言っておくか。
「えーっと、じゃあ、あえて言うなら……」
「はい。なんでしょうか?」
「俺としては、『今が1番嫌われてる』んじゃないの?みたいな気がするかな」
「今が?……これから良くなっていくという事ですか?」
「そんな感じ。今が最低で、好感度がプラスになることは無さそうだけど、マイナス値が減っていく……みたいな気はしてるよ」
なんとなく、マイナス100のMAXからマイナス30くらいかな。
「それは、……どうして?」
「多分だけど、今って『ずるい』『セコい』とか思われて、それで嫌われてるんでしょ?」
「はい。そういう言葉をよく言われます」
「けど、俺達ってか龍園が今までやってきた事って、別にそこまで悪いことしてないと思うんだけどね」
「はい。……はい?」
「ルールの上でやってた事だけだし、やろうと思えば他クラスだってやれた訳じゃん。契約違反っぽいこともあったけど、あれは違反時のことを考えられない方が悪いし。商談みたいなもんだよ。結局は『こういう考えもあるよね』ってだけの話だったじゃんか」
そういう意味では嫌われ者になってるのは、順調に進んでるとも言える。
「いや、まぁ、そうかもしれませんが……」
あえて言うなら、『ルールを破った』とハッキリ言えるのは疑似テロだけだ。他はみんな平和的な事しかしてない。……だからこそ、見せることの出来る『邪悪』の幅があまり取れなくて、惜しいというか、難しいんだけどね。ぶっちゃけ初級編でしかない。
「そのうち気付くんじゃないの?『龍園達は勝つために合理的に動いてただけだ』とか、『俺達の持ってる常識がザコなだけだった』みたいな。少なくとも警戒心は上がって、今までが『軽々しく他人を信用しすぎだった』ってさ。少しはなるでしょ」
そうするのが目的でもあるし。これくらいさっさと慣れてくれよという話でもある。平和ボケしたガキンチョ達に『ちゃんと考えて生きましょうね』って教育してるだけ。
「うーむ……」
何を悩んでんだ?このメガネ。
「現時点では、確かに少しだけ他クラスより発想とか良いかもしれないよ。それで勝つこと多かったかもしれない。けど、無人島の話なんか後から坂柳に聞いたら、もし居たら普通に対処されてそうだと思ったし、差は無いかもしれんのよ。肝心なのはこれからだよ」
「それは、他クラスも同じような発想が出来るようになっていくから、ですか?」
「そうそう。龍園も、そうなってから真価が問われるだろうね。思考力競争が激化するというか。……だから、今まだ俺達を見下して、『あいつらクズだ』みたいなレッテル貼りしてるだけのやつ、いつまでも同じように騙されるだろうね。そんなザコ放っておけばいいんだよ」
逆に言えば思考が進化しないただのバカ、いいカモだし。
「……結局、気にするなという事ですか?」
「そうそう」
「な、なるほど……」
なんか困った顔してるな。……まぁ、『困ってる』って相談に対して『気にすんな!』だけだとそうなるのか。
「じゃあ、ブツブツ文句言ってる奴の名前を記録しておくなり、覚えておいたら?『あんまり警戒しなくて良さそうなザコ』みたいなリストとして。そうしたら龍園がなんか大喜びで使ってくれるんちゃうの?」
「あ、はい……。一応そうしておきますね」
まったく相談内容を解決できた感が無いな。俺に気を使って答えてただけで、何も悩みが減ってなさそうな気がする。
……まぁいいか。金田だし。