ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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傲慢で不遜なクソ

こんにちは、混合合宿の全8日間、無事達成した優等生の俺は浅井虎徹です。

 

あえて言うなら、やることが無くて自由時間がちょっと暇だったかな。同部屋のAクラスに引っ張られてダラダラ少し勉強しちゃったくらい暇だった。

 

成績としては、要所要所で南雲とか上級生からアドバイスもらったりして、まぁ悪くなかったんじゃないかと思う。

 

試験を振り返ってみると、

 

『禅』

→いつも通り五十音順で呼ばれるかと思ったら、超ランダムに呼ばれる形だった。そのせいで"あ行"の俺がいつもより待たされたけど、試験自体は普通に終わった。

 

『筆記試験』

→80点くらい取れたんじゃないかな。ちゃんともっと勉強してたら100点取れたかもしれないくらいの難易度だった。

 

『駅伝(マラソン)』

→言われるがまま15人中5番で走らされ、それほど手を抜かず普通の感じで走った。石崎とかアールよりずっと遅いだろうけど、金田よりは普通に速い、くらい。

 

『スピーチ』

→言う内容をグループ内で指定されて丸覚えしてたから自分で内容を考えなくて良かったのはありがたかった。試験直前までスピーチ内容を書いた紙を見て確認してたので、特に忘れる事もなく2分前後のスピーチをした。キモいくらい全力の作り笑顔と、無駄に必要以上に大声を出したのはちょっと楽しかった。

 

 

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「ふぃ~、疲れたぜ。なぁ虎徹、俺マジで3人分走ったぞ。俺が1位かも」

 

「いや個人で順位とか無いでしょ」

 

「え?……そうだっけ?」

 

小グループを離れて、クラスメイトである石崎とダラダラしてるここは、初日とは違う方の体育館。試験が終わって全員が集まってきてるけど、結果発表もあるからか男子だけじゃなく女子の姿もある。全生徒をここに入れるみたい。

 

「ってか、あれ?石崎って龍園のグループじゃないの?」

 

石崎とアールはペアで一緒に居るイメージあったけど。……あ、龍園集団の方に目立つ巨漢は居たわ。

 

「違うぜ。なぜかアルベルトはあっちだったんだけど、俺は金田とかと一緒に他グループだったんだよな……。そのせいで変に文句言われる事も多くて、マジでめんどかったぜ」

 

金田が苦労してた理由、コイツっぽいな……。まぁいいか。

 

「自分達の大グループ、6位中で何位くらいだと思う?」

 

「え?……うーん、分かんねぇや」

 

まぁ、そうか。恐らく人数の関係から2,3年とは試験をやる順番が違ったので、まったく見てない。結果の予想も難しい。

 

「1年の中だったらどう?」

 

「マラソンだけなら良かったけど、紙の試験もあったからな~。4位とかじゃねぇかな?」

 

「ふーん」

 

「虎徹はどうだったんだ?」

 

「14人が真面目なAクラスってことで、1年の中では1位2位でもおかしくはないかな」

 

「すげーな!」

 

嬉しそうにしてくれてるけど、

 

「いや勝っても龍園クラスは俺1人だから、どっちかって言ったら順位低い方が良いでしょ。報酬がほとんどAクラスにいっちゃうんだし」

 

「ん?……そう、かも?」

 

なんで疑問形なんだよ。

 

「まぁいいや。そろそろ発表っぽいよ」

 

人も結構集まってきたし。

 

 

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「浅井虎徹、久しぶりだな」

 

ボケーッと体操服の女子達を眺めてる最中、慣れない声に話しかけられ見てみたら、そこに立ってたのは前生徒会長である堀北学だった。兄貴の方の掘北、兄北。

 

「はぁ、どもです」

 

なんだ?心当たりが無いんだけど。悪いことしてないぞ俺……。勝手にビビった石崎はバレないようにコソコソと離れて行った。見えてるからなこの野郎。

 

「お前についてもう少し知っておきたい、交流しておきたいとは思ってたんだがな……。南雲との勝負があるため忙しく、その上お前が南雲と同じグループということで接触機会を持てなかった。もしかしたら今回が最後のチャンスかもしれないと思い、話しかけさせてもらった」

 

「はぁ……、どもです」

 

話したの、夏休みの終盤に1回だけだったと思うけどね。あの死ぬほど暑い炎天下に屋上でちょっと話したやつ。……あ、そういえば軽くキレてるとこ見せちゃったんだっけ。南雲について聞きに行って、学校システムにもなんかムカついちゃって、色々と言ったような覚えがある。確かに興味を持たれちゃってても仕方ないか。

 

「あの時は今すぐ手を出してしまうような危うさを感じたが……今は大丈夫そうだな」

 

「いやまぁ……。裏取れてないのに動いたりはしないですよ」

 

噂だけ聞いて襲撃するような、流石にそこまで無知能のキチガイじゃないよ。自分の目で確かめる必要はある。

 

「そうか。……なんにせよ、南雲を見くびるなよ。アイツは相当に優秀な奴だ。あの時のような高い警戒心を持っておくのは悪いことじゃないし、アイツの作っていく学校システムが実現してしまう場合、お前も接触機会が増えていくだろう」

 

「うっす。でも、なんか他人事っすね」

 

「残念ながら、俺達の在学期間は残り2ヶ月と少しだ。やれる事は少ない。お前達自身で立ち向かっていくしかないだろう」

 

そりゃそうなんだけどさ……、

 

「ん~……卒業する前に聞いておきたいんですけど、堀北先輩はなんで後輩育成しなかったんです?卒業後を心配するなら、同じ思想の人間を増やしておく以外に出来ること無いじゃないですか。もしかして、自分が優秀だからって、他人にやらせないで自分でやっちゃってたとか?だから部下が育たず、人数で負けて、南雲に好き放題されたみたいな?」

 

「それに関しては……返す言葉が無いな。南雲の影響を受けそうな1年を生徒会に入れることに二の足を踏み、避けていたら、もはや巻き返せない状況になっていた。俺は生徒会長として出来る限りの事をしたが『リスクを負ってでも後輩のために動いたか?』と問われた時、肯定は出来ない」

 

あ、認めるんだ。意外と素直というか、謙虚なんだねこの人。

 

「1人くらい居ないんです?堀北派みたいな人」

 

「2年に、……いや、やめておこう。お前自身の実力で立ち向かってくれ」

 

なんじゃそら。ホントに居んのか?

 

「堀北先輩って『完璧超人』って感じの評価を良く聞きますけど、意外と人の上に立つのは適性無いんですかね?……優秀な人だと、人に任せられないからそういう事もあるって聞いたことはありますよ」

 

「……フッ、そうかもしれないな」

 

ん?意外と人間味もあるのか。笑ってるの初めて見たかも。ロボットみたいなメガネマンだと思ってた。

 

「めちゃくちゃ官僚とかで優秀になる人なのかもですね先輩、言われたことを完璧に出来る人なら。……もし上に立って人を育てるようになるなら『自分がサボれるように』って動機が良いらしいですよ。その上でモチベ管理すればいいとかなんとか」

 

優秀すぎると『手を抜く』っていう視点が抜けるのかもしれないらしいからね。

 

「そうか……。覚えておこう」

 

いやまぁ、人聞きの知識だからホントか知らんけど。

 

 

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恐らく全員が集まった体育館で、小グループ単位よりクラス単位で集まる生徒も増えてきた頃、学校側からのアナウンスが始まった。

 

「林間学校での8日間、生徒の皆さんお疲れ様でした。」

 

なぜか見たこともないジジイが発表してる。お前誰だよ。

 

「試験内容は違えど、数年に1度開催される特別試験。前回行われた特別試験よりも全体的に評価の高い年となりました。ひとえに皆さんのチームワークが良かったことが要因でしょう。」

 

ホントかぁ?この学校で仲良くやろうとする生徒そんなに居ないだろ。あと、ニコニコ笑顔の初老ジジイ、なんか胡散臭い。

 

「先に結果に触れることにはなりますが、男子生徒の全グループが学校側の用意したボーダーラインすべてを超えており、退学者はゼロというこれ以上ない締めくくりとなりました。」

 

「よしよし」

 

そこまで心配してなかったとはいえ良かった良かった。周囲からも安堵の声が聞こえる。

 

「それでは、これより男子グループの総合1位を発表しますが、ここでは3年生の責任者のみを読み上げます。その大グループに属する1年生、2年生、3年生の生徒には、後日報酬としてポイントが配布されることになります。」

 

ルールの再確認か。はいはい。

 

「ではまず総合1位……3年Cクラス、二宮倉之助くんが責任者を務めるグループが1位です」

 

誰だ?と思って3年の方を見たら、大盛りあがりで掘北学を称えてた。あ、責任者じゃなかったんだ。リスク回避かもしれないけど、全力で協力してもらうため責任者報酬を譲った、とか?

 

「やったな堀北。さすがだ!」

 

ん?なんで3年はあんなに喜んでんだ?

 

「金田、あんなに盛り上がってる理由って分かる?なんか賭けでもしてたのかね?」

 

「浅井氏……。堀北前会長と南雲会長の対決があったからでは?」

 

「あっ、それか」

 

忘れてた。なるほどね。

 

「そして南雲先輩のグループは、……3位のようですね」

 

へぇ~、俺達3位か。まぁクラス的な恩恵は無いからもっと低くても良かったけどね。

 

「1位獲得、おめでとうございます堀北先輩、さすがですね!」

 

なぜか南雲がめちゃくちゃ明るく元気な声で、体育館中に伝わるような大声で話し始めた。負けて頭おかしくなっちゃったのかな?

 

「お前の負けだな、南雲」

 

さっき堀北学の背中を叩いたりしながら褒め称えてた、背が高く体格の良い3年が得意気な顔で出てきた。名前は、藤巻だっけ?

 

「そうですかね。まだ結果発表は始まったばかりじゃないですか」

 

「抜かせ。勝負はついた」

 

「そうですね。『男子』は確かにつきました」

 

あれ?女子でも勝負してたの?

 

「男子は?……女子は関係ない。そういうルールだろ南雲」

 

は?関係ないんかい。キモい負け惜しみかよ。

 

「ええ、関係ありませんよ。俺と堀北先輩との勝負には、一切ね」

 

なんか良く分からん事を言ってる南雲の発言を聞いて、藤巻の顔が険しくなった。ちょっと金剛力士像っぽくなってて面白い。

 

「それでは次に……女子の結果発表をしたいと思います。1位のグループは、3年Cクラス、綾瀬夏さんの所属するグループです。」

 

女子のアナウンスが始まり、女子の一部は大喜びして盛り上がってるけど、男子の南雲周りは静まり返って緊張した雰囲気だ。対比がすごい。

 

「えー……誠に残念なことではございますが、女子グループの中からボーダーを下回る平均点を撮ってしまった小グループが1つ存在します」

 

あらら、大変だ。発表を受けて全校生徒が凍りつき、一瞬で静まり返った。小グループ単位でボーダー割れってことは、退学者1人か、その道連れでもう1人か……。

 

「ふっ……」

 

緊迫した光景の中、南雲だけは笑うのを我慢したような微笑みで、その意図を探ろうとしてる堀北学もまた険しい顔になってきてる。

 

「まずは、最下位になった大グループですが……3年Bクラス、猪狩桃子さんの所属するグループです。」

 

どこか知らないけど、ちょっと悲鳴っぽい声が上がり、そこに所属してる面々の顔が少しだけ分かる。

 

「そして次に、平均点のボーダーを割ってしまった小グループは……」

 

ここが肝心、1年じゃなきゃいい。1年じゃなきゃいい。

 

「同じく3年生……」

 

ふぅ~、セーフ!安堵した生徒、緊迫が強まる生徒にクッキリと分かれた体育館で、続けて言われた名前は、

 

「責任者……猪狩桃子さんの小グループです。以上となります」

 

そう宣言された瞬間、南雲が感情を爆発させたかのように笑った。

 

「ふっ、……はははははは!」

 

多くの生徒が自体を飲み込めてない状況で、例のデカい3年が南雲に詰め寄った。

 

「何をした南雲!」

 

「今は結果発表の最中ですよ藤巻先輩、落ち着いて下さいよ。今のところ藤巻先輩には何の関係もないじゃないですか。Bクラスの生徒が退学になるだけですし、むしろライバルと差がついてよかったじゃないですか」

 

そんな2人の様子を険しい顔で見てる堀北学。なんか気付いたのかね?もしくは女子まで目を配ってられなかった自分に腹が立ってるのかな?

 

「えー、お静かにお願いします。誠に残念ではありますが、グループの試験結果として、責任者であった猪狩桃子さんの退学が決定致しました。また、小グループ内で連帯責任者を命じることも出来ますので、後ほど私の所に来てください。続いて女子1位のグループを発表します……」

 

淡々と女子の結果発表が続けられてるけど、男子2,3年はそんな場合じゃなさそう。誰も聞いてないんじゃね。

 

「なぁ虎徹、あれなんで喧嘩みたいになってんだ?」

 

石崎が話しかけてきた。

 

「ん~、堀北前会長と、南雲が成績対決してたけど、それを囮に女子でハメた……って事だろうから、これから道連れ指名で掘北側の誰かを選ぶんじゃないか、みたいな話」

 

自爆テロみたいなもんかね。道連れさせるために退学を受け入れるって、良くそんなことするね……。

 

「……よく分かんねぇや」

 

「なんでだよ」

 

一瞬考えたのかもしれないけど、さっさと思考を放棄して、体育館から出て行った。たまに少しだけ羨ましくなるな、自分も色々と考えすぎなのかも?とすら思えてくる。……いやアイツが考えてなさすぎなだけっぽいな。騒ぎに気付いてない奴らは体育館から出て行ったけれど、龍園や坂柳をはじめとする多くの面々は騒動を最後まで見るため残ってた。

 

「猪狩先輩!教えて下さいよ。誰を道連れにするのか皆さん気にされてますよ?」

 

そう南雲に呼ばれ出てきた3年女子、退学が決まってるとは思えないほど落ち着いた様子だ。……なんでだ?退学回避する保証があんの?

 

「決まってるでしょ。私達のグループの平穏を乱した、Aクラスの橘茜さんよ!」

 

全員に聞かせるように、そして正当性を主張するかのように怒った様子で宣言した。……少し演技臭いな。

 

「南雲!……堀北との約束は、第三者を巻き込まないことだろ!」

 

「待って下さいよ。俺は無関係ですよ」

 

「白々しい!」

 

ホントだよ。無関係だったら言動おかしいだろ、バカなん?

 

「じゃあ、私は道連れ相手の通達をしてくるから」

 

横にいる女子に支えられながら教師の方に向かって行ったけど、……あれ2人とも仕込み臭すぎるだろ。

 

「橘先輩は猪狩先輩のグループの足を引っ張った。結果平均点のボーダーを下回り、道連れにされることになった。それだけのことじゃないですか」

 

堀北学は南雲を無視して立ち尽くす橘の方に行った。あ、見たことあるなあの女子。生徒会室に行った時に居たお団子ヘアの小さいヤツじゃん。

 

「堀北くん、ごめんなさい……!」

 

「橘、なぜもっと早く相談しなかった。おまえなら異変に気付いていたはずだ」

 

怒る訳でも悲しむ訳でもなく、ただ困惑した様子で聞く兄北。

 

「それは……堀北くんの、負担になることが分かってたから……」

 

ボロボロと涙をこぼしながら謝る橘。心が痛くなる姿だな、と思ったのは俺だけじゃないらしく、3年の一部は顔を背けるように去っていった。

 

「麗しき友情、あるいは愛情といったところでしょうか。おめでとうございます堀北先輩。改めて賛辞を送らせてくださいよ。俺の負けでしたね」

 

いやクソ野郎だなコイツ。神妙な顔して悲しそうに言ってるのが逆にめちゃくちゃ煽ってるよなこれ。計算してやってそうなのもマジでクズだろ。

 

「……。」

 

堀北学、ここにきてまだ表情が全然変わらん。むしろさっきより落ち着いた様子に見えるのはすごいな。

 

「奇想天外、いや規格外の戦略とでも言っておきましょうか。俺の手を読める人間なんて一人もいません。堀北先輩、あなたを含めて誰にもね。ははははは!」

 

「は?」

 

なに言ってんだコイツ?き、キモすぎる……。

 

「教えて下さいよ橘先輩!生徒会役員を務め上げ、3年Aクラスの卒業を間近に控え、そして退学していく気分はどうですか?そして堀北先輩、今の気持ちは?きっとこれまでに感じたことのない、苛立ちに包まれてるんじゃないスか?」

 

大喜びで満面の笑みの南雲に対して、堀北学は静かに息を吐き、口を開いた。

 

「何故俺を狙わなかった」

 

「たとえ今回のような手を先輩に向けたとしても、あなたを退学させられるとは思わなかったから、ですからね。思いも寄らない手で防いできそうで怖かったんです。というより、別に堀北先輩を退学にさせたいと思っているわけでもありませんし。むしろあなたが退学してしまったら、顔を合わせることも出来ないじゃないスか」

 

それ負け惜しみじゃねーの?

 

「……。」

 

堀北先輩、何を言われても口を挟まず黙って聞いてる。こうやって見るとオシャベリ野郎と真逆のタイプだね。……ちょっと尊敬する、俺だったら普通に殴ってるかもしれん。

 

「そこで白羽の矢を立てたのが橘先輩です。側近であり一番親しい存在の彼女を消した時、どんな顔をするのか見てみたかったんですよ」

 

勝ち誇った笑顔を見せ続ける南雲に対して、表情を見せない堀北先輩。

 

「方針こそおまえと違ったが、俺はおまえを信用していた。勝負事に関しては、真っ直ぐに向き合うことの出来る男だと。違ったようだな」

 

淡々と『お前には失望した』と突きつけられても、南雲は悪びれなかった。

 

「信頼とは経験値のようなもの。積み重なっていき、どんどん厚くなる。その究極が家族だと思うんスよね。夜道で他人と出くわせば警戒するのに、それが家族だったら完全に油断する。俺はこの2年、堀北先輩に好かれてないと感じつつも、一定の信頼を得てきました。価値観こそ違えど、全て有言実行してきたからです。あなたとの関係においては指示には従い、ルールを守ってきました。とはいえ鋭い先輩のことです、100%俺を信じていた訳ではないでしょう」

 

「……。」

 

「しかし、仮に俺に疑いを持ったとしても、先輩が先に裏切るわけにはいかない」

 

ん?どゆことだ?……よく分からん。

 

「その一度の好奇心のために、大きなものを失ったぞ南雲」

 

「信頼なんて、自分から捨てたんですよ。後輩思いの先輩に理解して頂くためにね」

 

あくまで『計算の上』みたいに言ってるけど、せっかく少しは信頼してもらえたなら、大事にすりゃいいのに……。ヤクザなんか、組でハロウィンの時期にお菓子を配って子供たちを喜ばせてもキレられちゃうからね。もうどうしようもないね。

 

「おまえのやり方は十分に理解できた」

 

「それは良かったです。これはあくまでも前哨戦に過ぎませんからね。……必要ならば何人でも退学者を出せばいいんですよ。それがこの学校の本来のやり方です」

 

「おまえは、橘が退学する前提で話を進めてるようだな」

 

「ま、待って堀北くん!」

 

周囲が慌てザワつき、橘が叫んで止めるが、堀北先輩は決意した様子だ。

 

「へえ。五分五分かと思ってたんですが、まさか吐き出すんですか?卒業間際のこのタイミングで大量の金とクラスポイントを」

 

え?退学回避って2000万だよね?そんなに持ってんのか。

 

「お願いやめて。私がダメだったのは自己責任だから、だから……」

 

藤巻も掘北に同意なのかAクラス生徒に言葉を投げかける。

 

「これまでAクラスがAクラスとして機能できた理由を、クラスの人間は誰より理解している。そうだな?」

 

「その通りだ藤巻。堀北、遠慮することはない。使え使え!」

 

おぉ、良いクラスじゃん。3年一緒に戦ってきただけあって戦友って感じなのかもね。

 

「本当にいいんですか堀北先輩。3年のこのタイミングで退学者を『救済』するということは、Aクラスの席を明け渡すお膳立てをすることになるんですよ?」

 

「仮に一度明け渡しても、また取り戻すだけだ。おまえの言う学校のやり方でな」

 

「そうですか……。まぁそれもいいんじゃないスかね」

 

ちょっと面白くなさそうにする南雲を無視して、堀北学は教師の方に去って行った。

 

いやしかし、すごい色々あったな……。間近で熱にあてられて、まだちょっと冷静に考えられてない部分もあるかも。

 

俺が気になったのは、リーダーとしての素質の部分かな。

 

『手段を選ぶな』『手を抜くな』『驕るな』

 

人の上に立つなら、この3つを厳守しろと教えられてきた。いやまぁ、俺は人の上に立つか分かんないし、今も立ってないけど……。

 

簡単に言えば『卑怯』『狡猾』『臆病』の三要素を持てと。

 

堀北先輩は……『卑怯』『狡猾』が足りなかったのかもね。人の上に立つ模範として『人を信じて尊重する』みたいな結果なのかもしれないけど、結果としては信頼してるフリをして探らせるくらいのことはしておくべきだったね。真面目に全力で勝負してたから手が回らなかったのかもしれないけど。

 

そして南雲は、……認めたくないけど『卑怯』で『狡猾』だった。手段を選ばず、策をめぐらして、手を抜かず。

 

けど、『謙虚』さが皆無で、致命的なまでに『傲慢』だった。なんだよ『誰も俺の手を読めない』って、キモすぎにも程があるだろ……。下手したら龍園の方がまだ『謙虚』だよ、アイツは正しく敵を評価して警戒する知能があるもん。

 

正直3つの中で『臆病』が1番大事かもしれないと思うんだけどね。無駄にリスク背負って、敵を増やして良い事なんか無いだろ。頭おかしい鉄砲玉とか使われて刺されたりしたらどうすんだよ?アホ過ぎるでしょ。

 

そして他にも『信頼』の話でもあるか。まぁ、他クラスからの信頼をゴリゴリに削ってマイナス値になってる俺が言うのもおかしいけど、……もったいないよなぁ。

 

あんまりにも信頼を損なう事すると、こんな学校生活だけじゃなく、卒業してからの悪評にもなるんじゃねーの?……あーあ、もったいない。『一泡吹かせたぜ!』の代償は結構大きいと思うよ。堀北先輩が言ってた『大きなものを失ったぞ』は正しい指摘だと思う。

 

俺も、ちょっとは謙虚に生きるべきかな?ああはなりたくない。

 

……いやならねぇわ!あんなクソキモ勘違い野郎とはちげーよ!!

 


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