容疑者A
こんにちは、学年末試験が難易度高めに設定されてると脅されてるので、それに向けて試験勉強をボチボチ始めてる俺は浅井虎徹です。寮の自室より集中できるから早めに登校して自習してるんだけど、この学校に来てからテスト対策勉強ばっかりしてる気がするな……。
変なイベントである特別試験ばっかり記憶に残るけど、地味に普通の勉強をさせまくってる、世間一般の学校よりは勉強させてる学校だ。かなり学力は上がって、最低でもそれなりの大学に受かるようなカリキュラムだと思う。……そうでも思わないと、やってらんないよ。
真冬の林間合宿が終わってから1週間ほど経ち、寒さも厳しい2月に入った。クソ寒いけど、あの冬山でジャージ姿でやらされた外掃除とかと違って、防寒着をちゃんと着て外を歩けるから全然マシ。
改めて、結構ヤバイ環境だったな……。二度と行きたくねぇ。もし次があったら、少なくとも長袖の下着とかちゃんと多めに隠し持って行こう。
そして、あの試験で2年3年と初めて交流したけど、学校に帰ってきてからは試験前と同じように、ほとんど学年を超えての交流は無い。いや人によっては仲良くなったりしたかもだけど、結局は学年ごとのグループで動くことが多かったからね。
堀北兄と南雲の例のやつは、結局誰も退学にならなかったらしい。あらかじめ2000万ppを振り込んでおいて、全員に命令出して1人退学するのは確定だったから?とかいう噂は聞いた。
疑わしい部分も多い。けど、それを実際にやり遂げてる以上、意味不明なレベルの人心掌握してるのかも……って感じ。
下手したら坂柳なんかよりよっぽど脅威だから詳しく知っておかなきゃいけない。けど、正直に言って面倒だから関わりたくない気持ちもある……。
生徒会に入れなかったのもあるし、これからどうしたもんかと少し困ってるのもある。
特別試験で悩まされるなら仕方ないって受け入れられるけど、自意識過剰で実力もあるキチガイのせいで悩まされるのマジで面倒過ぎるな……。
「オイ虎徹!聞いたか!?」
うるせぇ!なんだよ。参考書を見ながらボケーっと最近のことを考えてたら、やかましい石崎が来た。
「声デカいよ石崎、どしたん」
「俺もさっき知ったんだけどよ、一之瀬って……実はめっちゃ悪い奴だったんだってよ!」
はぁ?
「んな訳無いじゃん。なんだそれ?ありえないでしょ。なら龍園は実は良い奴だったって?」
「えっ、いや、それは……」
「聞こえてんぞボケ」
あ、いつの間にか龍園も来てた。遅刻寸前で来たり、こうやって早く来たり謎すぎるんだよなコイツ。
「どういうこと石崎、なんて聞いたの?」
「えーっと、『暴力事件を起こした過去がある』ってのと」
「龍園のこと言ってんの?」
「『窃盗、強盗をしたことがある』とか」
「龍園でしょそれ」
「あと……『薬物の使用歴がある』だったかな」
「絶対に龍園じゃん」
「黙れ」
いや、マジでお前なんじゃないの?……まぁ俺もマリファナちょっと味見したことあるけど、それはノーカンかな。2,3回だけだし。
「他には、その……『エロい事して金もらってた』ってのも聞いた」
「あ~……、それはちょっと悪質だね」
めちゃくちゃ人当たりの良い美少女に対して『援交してた』なんて噂よく流せるよなぁ……。人気に嫉妬した女が嘘ついたとかだろうけど、性格悪いね。
「あ、やっぱ嘘か?」
「そりゃそうでしょ。なに?ちょっと信じてたの?」
「え!?……いや、信じてねぇよ。うん」
男女問わず平等に人当たりの良い子に対してやっていい攻撃とは思えないね。あんな、存在が奇跡みたいな善人の笑顔が消えたら、普通に嫌じゃないか……?
どこのバカだよ。なんか、3歳くらいの子供に『サンタクロースは居ないよ。親だよ』ってバラすような不快感がある。意味不明でキモいよ、なんで優しくしないんだ。常識が無いんか?
「その件の事だが、浅井」
「なに?」
「お前が流した噂じゃねぇよな?」
「なんっ、でやねん!!!」
すげぇ大声が出ちゃった、教室中の視線がこっち向いてる。
「無意味でアホな事する人間と言えば、お前が最有力候補だ」
「するかぁ!」
違うに決まってんだろロン毛のクソボケが!
「フン」
「死ね!」
「……。」
「あっ」
口が滑った。……まぁいいか。失礼過ぎる相手には言い過ぎじゃないでしょ。
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昼休み、昼食時間。
「とか言われたんだよ?酷くない?伊吹どう思う?」
「……知るか」
「えぇ~!?」
勝手に伊吹の前に座って、買ってきた昼飯を一緒に食べてる。伊吹、女子でそこまで大きくないのに毎回おにぎり2,3個とか食べてるんだよね。ちゃんと食べてて偉い。健康的。
「その件、……今回はウチらのクラス関係ない、って事?」
「ん?多分そうだと思うけど」
「……。」
あれ?まさか俺のこと疑ってんの?
「いやいやいや、マジで俺じゃないって……」
「違う。そうじゃない」
「ん?」
伊吹はなぜか周りを見渡して、誰かが居ないのを確認してから、
「……龍園なんじゃないの?」
なるほど。それは……、
「う~ん、どうだろう……。無いと思う。けど、可能性ゼロでもない、かも?」
朝あんな感じで俺を疑ってきたのも演技で、自分への疑いを誤魔化すためだった?わざわざ自分たちのクラスで?……わざわざそんなことするかな?
「結構前に、B……だった一之瀬クラスに嫌がらせ色々して、ルールの抜け穴探しみたいな事もしてたでしょ。正直に言って、1番怪しいのはダントツで龍園」
「それは確かに。そうかも」
そういえばルールの境界線を探るためにとかで嫌がらせとかしてたっけ。すっげぇ昔の話に感じる。
「……アンタはどう思うの。誰が、何のためにやったと思う?」
「ん~~~、龍園っていう可能性は低いと思う。動機が全く分からないんだよね。ある意味で特別試験と何も関係ない、場外試合みたいなので潰そうとはしない気がするかな……。ルールがある場所で、それを破ったり、その範囲内で相手に勝つのが楽しい的なこと考えてる気がする。ゲーム自体を破壊するような事するかなぁ?って。対戦相手が居なくなっちゃうからね」
「……。」
「いや、でもまぁ、する気もする」
「は?どっちなの」
「分かんないや。俺がまったく思いついてない何かアイデアがあるから、って事かもしれないし。そのために情報規制として全く教えてくれてないのかもしれない。……なんか最近ちょっと勘違いされるんだけど、俺と龍園って『何でも相談し合う仲』とかじゃないからね。そんなに仲良くないからね全然」
「あっそ」
「朝の感じだと、本気で俺を疑ってたように見えたから、演技じゃないと思うしなぁ……。それはそれでムカつくけど」
「じゃあ、龍園じゃなかったら誰なの」
「俺は単純に『一之瀬に嫉妬してる女子』だと思ったよ。性格だけじゃなく、容姿まで一級品の美少女。いくら良い子だって言っても、そりゃ嫉妬するヤツも出てくるのかな?とは思った」
「ふーん……」
あれ?やきもち?
「安心して伊吹。俺は伊吹くらい……ちょっと性格悪い方が好きだよ」
「黙れ」
「いってぇ!」
ひそひそ小声で顔を近付けたら、普通にアゴにグーパンチされた。鈍い音したぞ。この可愛いゴリラめ。
「……なに」
「なに、て……。まぁいいや。ともかく、一之瀬に嫉妬した誰か女子のせいなんじゃない?」
「もしそうだったら、かなり性格悪いヤツ」
「うん。……うん?同じ女子から見ても、ちょっと言い過ぎに見える?」
「当然でしょ。犯罪やりまくってた、なんて言う必要は無いはず。悪意をかなり強く持ってるヤツって事でしょ」
「あ~……そうかも。軽く評判落としたいくらいだったら『一之瀬は本当は誰々のこと嫌いらしいよ』とか、そういう系の軽い嘘でも良いはずだもんね」
「そう。誰か適当に名前を出して『付き合ってる』とか。……嘘だとハッキリ分かるほどの嘘を言うなんて、強い悪意を持って攻撃してると思った」
「ふ~む……」
変な嫉妬が動機なのかと思ったけど、ちょっと違うのかもしれないなこれ。
「なに?」
「伊吹から見て、一之瀬が消えて1番嬉しい人って誰だと思う?」
「なにそれ。……龍園か、Aクラスなんじゃない?Dクラスとは仲良くしてるみたいだし」
「やっぱそっか。じゃあ、坂柳かもしれんね、今回の件。黒幕。暇潰しに他クラス潰しておこう、みたいな」
「それ、……そんな事するヤツなの?」
「分かんないけど、参加出来る特別試験も少なかっただろうから、そういうので発散しそうな気もする。個人的に、敵として1番怖い相手だし」
超ドSっぽいもん坂柳、笑顔で他人を破滅させて楽しんでそうな印象ある。
「あっそ」
「冬山でマラソンもどうせやれなかっただろうし、そういうので挽回したいとかいうのもありそう、かも?」
「ふーん……」
「でも分からんからね。んー、聞きに行ってみようかな」
「……は?」
「坂柳に直接ね。明言はしないけど、関わってるのか関わってないか、なんとなく教えてくれる気がする。……あっ、浮気とかじゃないから、心配しないでね」
「してない。全く。……本気でどうでもいい」
この、進展する見込みが全くない、氷のように冷たい視線……。もう少し仲良くなれないんか?と思いつつも、ちょっと癖になってきてるかもしれない。ヤバイ。
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放課後、Aクラスに行こうとしたら、なぜかDクラスの方で騒ぎになってる。なんだ?
「おい急げ!あっちだ!」
気になるから騒いでるやつの方に行ってみるか。完全なヤジウマ。追いかけてみると、ちょっとした人だかりが出来てて、その中心に居たのは、
「……。」
坂柳じゃねーかよ!壁に背を預けて、片手はいつも通り杖を持ち、そしてもう片方の手で髪の毛をクルクル回して、ちょっと緊張した様子を見せてる。まさに『恋する少女』みたいな姿だけど……何アレ?どういうこと?マジで?今までのイメージと全く違うんだけど、中身入れ替わってる?
「もしかして、マジで坂柳は春樹に気があるのか?」
ハルキ?珍しい名前だな。ハルカなら男でも居るって聞くけど。
「いやいやバカすぎ、超あざとっ。絶対山内くんのこと好きじゃないよね」
後ろの方から聞こえる女子のボソボソ声、俺も同意かな。めちゃ何か企んでそう。
「う、うん。私もそう思う」
「男って単純って言うか、あんなのに騙されるわけ?絶対演技じゃん」
「むぅ。……本当に演技なのか?」
「絶対演技」
チラッと後ろを見たけど、あんまり覚えのない面々だな。けど結構仲良さそうな男女グループで良いね。
「えぇと、坂柳ちゃん。それで話って何かな……」
そこにやって来た男子。めちゃくちゃ緊張してる様子だけど、……あれ?アイツ、合宿の時に坂柳のこと転ばせてたヤツ?
「実は以前から、山内くんとは少しお話をしたいと思っていたんです」
「ままま、マジで?マジのマジで?」
「こんなことで嘘をつくほど、私は暇ではありませんよ?」
絶対に嘘だろ!……と思ったけど、『話をしたい』ってだけなら本当かもしれない。あえて誤解させてるだけで。
「そっか、そうだよな!」
「ここでは落ち着きませんし、移動しませんか?」
「そ、そうだなあ。うん、そうしようそうしよう」
「では、少々お付き合い下さい」
2人が並んで歩き出した。意外にも、山内とかいうヤツは、坂柳に配慮してゆっくりした足取りに合わせて歩いてた。
「う~ん……」
不思議なものを見た気分。周りからも似たような反応がちらほら。
恋愛なんて良く分からないけど、流石になんか裏がありそうに思っちゃうのは、これ俺が嫉妬してるとかなのか……?
なんにせよ、噂について聞くのは今日もう無理だな。……帰るか。