ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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愉快犯

「てめぇ、覚えてんだろうな?俺に借りがある状態のはずだぞ」

 

なんだっけ?覚えてないんだけど。これからやる事でCP減点されそうだからと、夜遅くにクソ寒い屋外で龍園にも一応報告してたら、なぜか怒られてる可哀想な俺は浅井虎徹です。

 

「覚えて………ますん」

 

「は?ボケが。誰のせいで校舎の監視体制が強化されたと思ってんだ」

 

「あぁ~!それか!」

 

なんちゃって化学テロやった時に協力してもらったやつか。なるほど、そういやそうだった。

 

「それで『貸し1』だろ。何を当然のように追加要求してきてやがる、調子乗んなよ」

 

「いや別に調子に乗ってる訳じゃないよ。……ってか、それ混合合宿で最大効率の男子1位を取れたんだからチャラでいいんじゃないの?」

 

結局CPを1番稼げたのウチのクラスじゃん。

 

「チッ……」

 

「仮面集会だって、呼び出し食らっただけで別に損害とかは無かったじゃん。学校側から目をつけられたって、今更あんまり変わらん話だし。……あれ?コストゼロに近くない?」

 

コストパフォーマンス最高じゃないか。無から利益を生み出した大成功だった?

 

「ふざけるな。校内クソほど動きにくくなってんだ、お前のせいでな」

 

「あ~……それはそうか。ごめん」

 

もう慣れてきたけど、監視カメラ増えまくりに通行ゲート増えたりで、盗聴とかするにはめちゃ大変になってそうだな。それは単純に申し訳ない。

 

「そもそもだが、お前がやろうとしてる事だって俺らに何の利益もねぇだろが。バレて、罰則食らって、CP減点されるだけだ。意味がねぇ」

 

「なになに?チキってんの龍園?」

 

「黙れ。余計な事をするんじゃねぇ、つってんだよ。このアホ」

 

まぁ特別試験とは全く関係ないし、CPだけ見たら減るだけなのがほぼ確定してるから嫌がるのはリーダーとして正しいかもしれないけど、あんまり龍園に言われても響かんのよね。お前こそCP減点を気にせず色々と妨害活動してたじゃん……と。

 

「龍園、夏休みの終わりにも言ったけどさ、俺は割りと真面目に『平和ボケし過ぎ』だと心配してんのよ。最低限の警戒心、どうでもいい甘い常識を持ちすぎてるみんなの事をね」

 

「……。」

 

「テキトーに監視してるだけで義務を果たしてると勘違いしてるアホの学校運営側なんか信じられないし、放置してガキ同士でやり合って身につく実力なんてゴミみたいなもんでしょ」

 

「フン……。だから、お前が『教育』するってか」

 

「そう。コントロールされた丁度良い悪意に触れてもらうっていうね。嘘が蔓延する環境なんて丁度良いじゃん。今回『やるかやらないか』の相談してる訳じゃないんよ、『やりますね』『許してね』の報告してるだけ。まぁ手伝ってくれるなら嬉しいけど」

 

「……チッ」

 

「言い訳じゃないけど、他クラスへのダメージは特別試験で勝つより大きいかもしれないよ?だからCP減点は少し見逃して欲しい。……むしろ、龍園としては対戦相手が弱くなって、今後つまらなくなる心配をした方がいいかもしれないくらいだよ?」

 

「……何する気だ」

 

「だから、嘘を流すだけだって。色んな嘘をね。……多分、坂柳が1番キレそうかな」

 

ホントは万全のAクラス、最強クラスで君臨し続けて欲しかった気持ちもあるんだけど、まぁ仕方ないか……。純粋な学力ありすぎるし、身体能力面も悪くない強すぎるクラスだから、今回のでパワーバランスがちょっと良い感じになるくらいかも。

 

「詳しく言え。それを聞いて手を貸すか決める」

 

「いやまぁ1人でもやるけどね。……とりあえず、分かりやすいゴールを1つ用意するために長尾に協力してもらおうと思ってる。まず序盤で流す情報は、」

 

……

 

…………

 

 

---------------------------------------

 

 

「お、おい坂柳!これ見たか!?」

 

普段クールぶってる橋本くんが珍しく慌てるのを見て、少しばかり嫌な予感がしている私はAクラスの坂柳有栖です。見たことの無い慌てっぷりですね。

 

「どうしました?橋本くん」

 

「いや俺も今知った、というか見たんだが、たまたま朝に郵便受けを見たらこれが入ってたらしいんだ。知り合いに、これ本当かって聞かれてな……」

 

「なんですかこれは?……『日刊半分嘘新聞』?」

 

大きな文字で『新聞』と言っておきながら、ただのA4用紙に横書き文字で情報を載せてるだけのプリントを渡された。

 

「そこに書いてある情報が、ちょっとばかり厄介かもしれないぞ坂柳」

 

ふむ?

 

「他にもあるんですか?」

 

「いや分からない。もしかしたら他のポストにも入ってたのかもしれないが」

 

確かに郵便受けの確認を朝にする人は珍しいですからね、情報規制のために新聞という媒体は取れませんし、郵便物が届くとしても夕方帰宅時に見るという人の方が多いでしょう。

 

「確認するよう指示を出して下さい」

 

いや、もしかしたら投函先を少数に絞って、噂の拡散を遅くしたかったという可能性もあるかもしれませんね。印刷料金が足りなかったという可能性は、1枚10ptで出来るということから考えにくいですね。Dクラスですら容易に支払える金額ですから。

 

「いいのか?……先に読んだ方が良いと思うんだが」

 

なんだか奇妙な、普段と違う視線で私を見てますね。怯えてるという訳でもなく、困惑?不安?まさか、品定め?

 

「そうですか?では拝見しましょう」

 

黙って渡されたプリントに目を通すと、次のように書いてあった。

 

---------------------------------------

 

******************************

【日刊半分嘘新聞】 No. 101号 

******************************

 

この新聞は、半分が事実です。

この新聞は、半分が嘘です。

 

本日は5つの情報をお届けします。

 

 

① 長尾はゴムありホ別3万pp。金出しても優しくしなきゃダメだよ

 

② 一之瀬のバストは94!!!!!お尻も大きいよ!!!?!?!?

 

③ 坂柳は心臓が弱く、診断によれば寿命5年~10年。今すぐ療養するべき

 

④ アルベルトは本当は日本語ペラペラ。英語はキャラ付け

 

⑤ 堀北鈴音は堀北学と近親相姦した疑惑がある

 

 

以上です。

 

また明日お会いしましょう。

 

 

情報募集してます

Email:[email protected]

 

誰か分からないようにちゃんと匿名アドレス取って、そこから送信して下さいね。

 

---------------------------------------

 

こうきたか、というのが正直な感想ですね。

 

「その、一応聞くんだが、……嘘だよな?」

 

「えぇ、当然嘘です。そのような事実はありません」

 

厄介なのは、私の心臓が悪く、体が弱いというのは事実という現実。そして、嘘の否定が非常に難しく、そして最も厄介なのが、

 

「坂柳さん!その、体調ホントは悪かったって本当なの……?」

 

今登校してきたクラスメイトからもこの視線だ。

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

こうして私を見る目を変えられた事が非常に厄介で……腹立たしい。『優秀なリーダー』から『弱々しい少女』へと。

 

的確な指示を下し、信頼できる『リーダー』という立場から、ただの『保護対象』に引きずり下ろされた。なんのためにクラス内での紛争に勝ったのかと。

 

葛城くんはもう大人しくしてるとは思いますが、もしかしたらこの情報でまた復活しないとも限りません。

 

リーダーとしての支持は、これからも順当に勝っていけば回復するでしょう。しかし、この疑惑は消そうとして消せるものではないかもしれない。……本当に忌々しい。

 

この噂を消すために何をしたらいいか?

 

ありのまま、本当の身体検査の結果を提示したら?人間としての運動機能の弱さが明るみになり、弱者として見られる同じような結果になるでしょう。

 

改竄した診断結果を表示したら?現状との齟齬が発生しますし、Aクラスの面々なら誰かが見抜くかもしれません。そうなったら必要以上に心配させ、寿命が残り僅かという滑稽無当な説の補強になってしまいかねない。

 

腹立たしい。本当に腹立たしい。こんな形で、やっと手に入れた、私の頭脳を生かして対等に戦える競争環境から弾き出されそうだと?……認められない。絶対に。

 

この非常に嫌らしい妙手を打ってきたのは誰か?

 

複数人心当たりがあるものの、……まさか綾小路くんが?

 

いや、彼には動機が無いはず。神室さんを使って裏から一之瀬さんを助けるチャンスを与えるつもりでしたが、まだ実行させていません。この、たった2日、いや3日でここまでの行動を起こせる、思考力のある敵対者と言えば……龍園くん?それとも、もしや虎徹くん?一之瀬さんのクラスも大いにありえますが、この短時間での行動力は少しばかり違うように思えます。

 

思考は動かしながら、Aクラスのグループチャットにて即座にハッキリと断言した。『私の心臓が弱いのは事実ですが、寿命を診断されたなどという事実はありません。これはAクラスへの攻撃です』と。

 

「お邪魔しまーす!」

 

無駄に明るい声で教室に入ってきたのは、そうでしたか……、

 

「もしやと思っていましたが、虎徹くんが犯人でしたか。見事な一手です。正直、ここまで的確に反撃されるとは思っていませんでした」

 

「おはよう坂柳、なんのこと?俺は今日心配で来たんだよ!心臓は大丈夫なの!?」

 

白々しい。

 

「三文芝居は結構です。……1つ聞きたいのは、なぜこのような事を?」

 

「そんな怖い顔しないでよ!怒っちゃダメだよ、心臓に悪いよ!死んじゃうんだよ!?」

 

「黙りなさい、浅井虎徹。どういう心境の変化があったか分かりませんが、そういうつもりなら、私達も全力で貴方達を潰しましょう」

 

「なぁ!オイ!お前ら!周りも黙ってないで、坂柳を落ち着かせろよ!興奮して心臓爆発して死んだらどうすんだよ!?!?なぁ!オイ!分かってんのか!!人の命が懸かってんだぞ!!!」

 

この……、大声で私の声をかき消す、低俗な芝居を見せてきて、ひたすら私の体の弱さを馬鹿にして。許さない。

 

「"浅井くん"、出て行って下さい。そして二度と来ないで下さい」

 

下の名前を呼ばれるだけで喜んでたから、それに合わせてやっていたけれど、今日までだ。

 

「え?虎徹くん呼びは終わり?」

 

「はい。二度と言いません」

 

「うぇーん!坂柳のいじわる~!ガリガリ!栄養失調!貧乳!心臓爆発しちゃえ~!!」

 

「出て行きなさい」

 

「陰湿ドSの貧弱少女~!いじめっ子~!!……あっ、そうだ」

 

酷すぎる泣き真似を突如として止めて、何か思いついた様子の浅井。

 

「なんですか?早く出て行って下さい。暴力的に強制しても良いんですよ?」

 

そう言いながらクラスの男子に視線を送ったが、

 

「ねぇ坂柳、俺を嫌うのは、まぁ寂しいけど、それは仕方ないから良いんだけど……実はもっとヤバい嘘もあるんだよ」

 

「は?」

 

「……あっ、新聞も俺が作ったんじゃないけどね!?」

 

酷い演技を止めて、いつもの姿に戻ったみたいだ。そして何を今更……というのは置いといて、もっとヤバい嘘?

 

「軽々しく言いますね。私が築き上げた信頼を蹴り飛ばし、破壊しようとした口で、さらに酷い嘘があると?……それもまた嘘でしょう」

 

「ちゃうちゃう、マジマジ。いやまぁ、俺もそこまで頭良くないから、考え過ぎの……なんて言ったっけ?心配しすぎ、みたいな意味の言葉。えーっと、キーウ?」

 

「……杞憂、ですか?」

 

「それ!キユーじゃないかとも思ったけど、もしかしたらヤバいからって使わなかった嘘もあるんよ」

 

これは虚勢じゃなく、本気の?

 

「……どういう嘘でしょうか」

 

「えっと……流石にAクラスとはいえ全員に聞かれたら困るから、ちょっと耳貸してくれる?」

 

近付いて来ようとしたけれど、それは認められない。

 

「いえ、近付かないで下さい。……そうですね、何か紙に書いて見せて下さい。誰か、用紙とペンを」

 

「え?そう?……はいどうも。ちょっと待ってね」

 

メモ用紙とシャーペンを受け取った虎徹くん、いや浅井くんは、体を丸めて周りから見えないようにしながら紙切れに書いて、折りたたみ、

 

「はいこれ」

 

こちらに投げてきた。近付くなと言われたことに対する憤りなどは無いらしい。当然の警戒と思ってる?

 

そして、机の上に届いたメモの中身を確認してみると、そこに書いてあったのは、……なるほど。これは、

 

「……確かに、1つの秩序が崩壊するかもしれません」

 

「あ、やっぱそう?なんていうか、根本的なモチベーションみたいなのを壊しそうで、俺もそこまでやらんでもいいと思ったからね。やめといて良かったよ」

 

「学校システムの崩壊は望まない、と?」

 

「まぁね。特別試験、ウザかったりもするけど、まぁ無意味になったら楽しくないもん。どうせやるんだし」

 

「そうですか……。では、その情報を使わない代わりに、私達に何をしろと?」

 

「え?……んん?」

 

「無駄な演技はしなくていいですよ」

 

「……あっ、もしかして、脅迫のつもりじゃ無かったけど、そんな感じになるってこと?」

 

本気でそのつもりは無かったと?……過剰評価だったかもしれない。いや、そうだったとしても、状況に変わりはない。

 

「さっさと要求を言ってください」

 

「じゃあ、そうだなぁ……。とりあえず、一之瀬イジメは終了って事でお願いしたいね。Aクラス生徒全員がこれ以上、この件に関して話題にしないと。……後は、せっかくだし『浅井虎徹に止められたから終わりにします』って一之瀬にメッセージ送っといてよ。そうなれば俺も1つ恩が作れてラッキーだし」

 

「分かりました。そちら側も、アナタ以外が情報を広めるような事は許しませんよ。自分個人は関与してないという抜け道は認めません」

 

「うん、了解。多分大丈夫だと思うよ。現時点では知ってるの俺と龍園だけだろうし。もちろん龍園に言っておくけど、……そもそも、アイツも最初から言わないつもりだったと思うけどね。クラス統治に支障が出る可能性が結構高そうだし」

 

確かに、全てが崩壊しかねないという意味では龍園くんとも利害が一致してるのかもしれませんね。競争の無意味化は望まないと。

 

……仕方ありません、一之瀬さんの過去を暴き、信頼性を破壊し、クラスリーダーから引きずり下ろすという計画は諦めるしかなさそうですね。

 

「受け入れましょう。取引成立です」

 

「はいどうも~。これからも仲良くしようね!」

 

「……。」

 

「あっ、ダメ?……残念。んじゃ、またね坂柳」

 

教室から出て行った彼を見送りながら無意識に握り潰していた紙切れには、こう書いてあった。

 

『坂柳は理事長の娘だから成績を操作されている』と。

 

事実として、私は入学後から一度として父とは会ってはいない。自分の実力で競い合いたいという思いがあるので、誰よりも会いたくない相手とも言える。卒業後まで会うつもりは無い。

 

そして、当然ながら成績の操作など皆無だ。身体能力のハンデも、払うべきコストを正しく払ってる。クラスには迷惑をかけてしまっていますが……。

 

しかし、これを証明することはまず不可能でしょう。『学校側とグルになって勝っている』という疑惑を持たれてしまえば、どうしても証明は出来ない。私が否定しようが、学校側が否定しようが、『それこそ事実の証明』なんていう言論で潰されてしまいかねない。

 

悪魔の証明。この世に存在しない事を証明することは不可能。そのため、嘘だという立証が非常に難しい。

 

そして、私の立場を『学校運営側の手先』と認識されてしまえば……私達の学年全員が『どうせ坂柳には勝てない』と試験放棄をしてもおかしくないほどの、劇毒とも言える情報。

 

もしかしたら『どうせAクラスには勝てない』『最初から学校側の介入で結果が決まっている出来レース』『坂柳の居るクラスを勝たせることが決まってる』とまで思われかねない。

 

学年中がそう思い、競争意識を削がれ、クラスごとの統治が崩れ、ただただAクラスに個人昇格することだけを目指し、特別試験においてもクラス内での結束が崩壊した環境。そんな状況でAクラスを維持した所で、そんなものに価値は無いでしょう。

 

競い合って、成長する。私が何より求めて、学校側も1番求めてる価値が消えてしまう世界になりかねない。

 

「やってくれましたね……」

 

思わず小声で呟いた言葉が、静まり返ったクラスで思った以上に響いてしまった。

 

黙っていても仕方ない。当然ながら敵が情報を使わないという保証なんて無く、もし情報を流された時のことを考えなければいけない。

 

ありとあらゆる方法で、手段を選ばず、情報を打ち消せるように準備しなくては。私への不満をあえて流させておくというのも良いかもしれません。贔屓されていない、厳格にルールを適用されているという事実をどういう形であれ広めなければ。

 

もしくは、今回受けた反撃のように、もっと大きな嘘、もしくは事実をぶつけて打ち消せるようにしておく事も考えておきましょう。

 

……浅井虎徹、彼は最悪の敵かもしれません。ちょっと面白い人物というくらいに思っており、そこまで高い評価をしていなかったのであまり言いたくありませんが。

 

ここまで厄介な状況にされるとは思いませんでした。




9時と21時を間違えて投稿してました。
来週また21時かも。

坂柳は流石にDクラスじゃないんじゃないかなコラムはこちら↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=287258&uid=310499
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