ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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宣戦布告

こんばんは、家でゴロゴロしながら反省中の俺は浅井虎徹です。

 

櫛田には『数日中にはハッキリ終わるはず。悪気は無かった。迷惑かけてごめん』とだけチャットを送っておいた。これより詳しくは何も言えないけど、多分まぁ分かってくれるでしょ。

 

反省してるのは、新聞2号を出す必要が無かったかもしれない……ということ。

 

本来の計画は、以下の通り。

 

①嘘を蔓延させる

 ↓

②一之瀬に関する嘘を埋もれさせる

 ↓

③長尾が『援交容疑を受けて自殺しようとした』という嘘を流す

 ↓

④嘘を流した事に対して罰則を食らう

 

こんな形で一之瀬への誹謗中傷を相対的に弱めて、止めるつもりだった。ちゃんと俺も責任を取る形で、一之瀬イジメの犯人を道連れにしてね。俺も罰を受けて、最初に一之瀬を潰そうとした人も一緒に罰を受けるように、と。

 

学校側を脅迫して動かすために、長尾の自殺未遂動画を撮って流出させようとも思ってた。けど、もう必要無さそうかな?

 

監視カメラの映像では『間違いなくフェイク』だと分かるようにして、けど生徒側が見る撮影された動画では『本当の自殺』に見える、っていう状況を作れそうなのは面白そうだったけど、今もうやらなくても良さそう。

 

初日の、①と②あたりでもう坂柳と直接やり取りして『もうやらない』って止めてくれたから、目的は達成しちゃってるんだよな……。

 

けど、裏の目的、というか俺としてはこっちが本命の目的だけど、『もっと疑い深く生きろ』というのを実感して欲しいからと、ついつい2号も出しちゃったという感じ。滅多に無い良い機会だと思ったからね。

 

本当は10号くらいまで、50個くらいの嘘を流して『これ流石に半分じゃなくて全部嘘だろ』『いや少しは事実も混じってる?』くらいの空気にしたかったけど、もう十分盛り上がったから終わってもいいのかも。

 

でも、やっぱ明日の3号を出してからにしようかな……?

 

動画っていう形のフェイクも魅力的なんだよなぁ……。学校への信頼をぶっ壊して、もっと警戒心を持ってくれそうだし。

 

けど、学校側がキレまくった場合、監視カメラの映像をあえて使わず、本当に『浅井が嘘を流して長尾を自殺に追い込んだ』っていう形にする可能性もあるかも?

 

そんな情報改竄対策のために、長尾と相談する様子をまた動画に撮って、俺以外の人間に渡しておくとか……?

 

ちょっと面倒くさいなぁ……、いやけど欲しい。う~ん、悩むね。

 

って、あれ?電話だ。知らん番号。

 

「はい、もしもし」

 

『生徒会長の南雲雅だ』

 

「は?あ、どうも」

 

『こんな時間に悪いが、今から制服に着替えて生徒会室に来てくれ。理由は分かるだろ?』

 

おいおい、もう20時なんだけど……。明日にしてくれりゃいいのに。

 

「まぁ……了解です」

 

『よし。では待ってる』

 

意外と対策が早かったかも。まぁ、丁度いいかな。停学1週間くらいかな?

 

 

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「よう、1年の問題児共。よく来たな」

 

めっちゃ静かで暗い校舎内を歩いて来たけど、なぜか龍園も居た。南雲と合わせて3人だけ。

 

龍園、今回はマジで関係ないし、俺だけの単独犯行だと分かるように動いてたんだけど……。プリント投函したのも俺だけだし。なんで居るんだ?

 

「オイ南雲、俺は関係ねぇだろが」

 

「ハハッ、相変わらず生意気な1年だ。元気でいいな。今回呼んだ理由、誹謗中傷を流しまくってた件はオマケだ。本題は違う」

 

は?どゆこと?

 

「じゃあ……何の用っすか?」

 

「その前にボディチェックさせてくれ、内密な話だからな。学生証端末も電源を切って見せてくれ」

 

「はぁ……」

 

「フン」

 

渋々従って確認を受ける俺と龍園。しかし何の話なんだ?

 

「よし。では先に言っておこう。俺としてはもう少し放置しておきたかったんだが……内容の過激さから、学校側から止めるよう指示された。そのため、浅井虎徹、お前に対して停学2日だ」

 

「あ、そっすか」

 

意外と少ない。解釈によっては普通に『いじめ』だし、さらに言うと『自殺教唆罪未遂』とかで最大でCP50くらい減らされたり、退学の可能性も僅かにあるかな?と思ってたけど。軽いね。

 

「これで終わりにしろ。良いな?もしこれ以降、例の情報流布を続けた場合、CP減点まで確実に検討される」

 

「うぃ。了解っす」

 

まったく文句無い。少し惜しいけど、これ以上やる意味も薄いし。

 

「良し。では明日から2日ほど寮の自室で待機しておけ。……俺としてはもう数日続けて欲しかったくらいなんだがな。学校側の要請もあったから、仕方なく動いたって訳だ。悪いな」

 

ん?なんか妙に優しくて気持ち悪いな……。どういうことだ?

 

「そっすか」

 

「あぁ。それで本題だが……。龍園、浅井、俺はお前達を非常に高く評価している」

 

「はい?」

 

「チッ……」

 

え?いきなり何?訳が分からん。横で舌打ちしてる龍園はもっと分からん。

 

「浅井、お前が俺に接触しに来た時は、正直言って何の才能も無いザコだと思ってた。勉強でも身体能力でも、注目すべき優れた生徒のリストには入ってなかったし、生徒会を希望する人間としては遅すぎたからな」

 

「はぁ」

 

うるせーな。そうだろうけど。

 

「しかし話してみて、それなりに面白い思考をすると分かった。そして入学してからの行動も調べてみたが、かなり優秀だと認めよう。お前と龍園どちらの案か分からないが、無人島試験での圧勝、船上試験で全クラス協力を提案しておきながらクラス単独での圧勝。さらには体育祭寸前に他クラスの生徒を停学にしたり。さらには混合合宿にて1クラス全員を退学させようとしたりとかな。そして何より、例の疑似テロ行為だ。見事な動きだった」

 

「あー、どもです?」

 

なんだ?今更だけど生徒会に入れてくれんの?

 

「まぁ、俺は1年時から容赦なく他クラスのヤツを退学に追い込んで圧勝していったから、お前らより遥かに優秀だけどな」

 

「……そっすか」

 

知るかよ。キモいな。

 

「前にも言ったが、この学校に優秀なヤツだけではなく有象無象の一般人も入ってる理由だが、俺は『優れた統治者』を生み出すためだと思ってる。例えゴミみたいな無能ばかりが居たとしても、選ばれた人間はそいつらの上に立って、導いてやる必要があるからな」

 

「擬似的な現実社会、でしたっけ?」

 

「そうだ。逆に聞くが、そうでもなかったら、なぜ最低限の勉強や努力を出来ないような落第生が入学させられてるってんだ?」

 

まぁ、その考えもありえないとは言い切れないけど……。

 

「俺は……個人的に、成績が悪いヤツでも『勉強しなくちゃいけない』と思わせるための良い環境だと思うんですけどね。本来なら一生ほぼ勉強しないようなヤツでも、クラスのために、仲間のためにって頑張れるっていう」

 

勉強が嫌いな不良でも頑張って勉強する、そして勉強以外で貢献できるように頑張ったり協力する。そういう生徒のモチベーションを維持して規律性を持たせるには本当に優れた学校だと思うんだよな。石崎とかに勉強を教えたりするからこそ頻繁に思う。

 

「ほぉ……。クラス競争という共同体があるからこその違いってか」

 

「はい。どう考えたって1学年160人くらい、その中から優秀な生徒を作り上げるなんて、それだけだと考えるにはコスパ悪すぎますもん。全国の教育で使えるシステムのテスト、実験場っていう意味が強いんだと思ってましたけどね」

 

この規模で真似するのはダメでも、全国の公立学校で似たようなシステムにして、トップのクラスを優先するとか、そういうの前提だと思ってる。知らないけどさ。

 

「なるほどな……。やっぱ面白いなお前、少しばかり夢見がちかもしれないが」

 

「あ~、どうも?」

 

なんかギラギラした目でキモいな……。俺ホモじゃねぇぞ、狙わないでくれよマジで。

 

「では龍園、お前はどう思う?」

 

「フン、どうでもいい」

 

「なんだ?……偉そうなこと言いまくる不良の癖に、実はただ言われた通りに生きてるだけってか?オイオイ、つまんねぇヤツだな」

 

お~、煽るねぇ。

 

「……テメェのような、自分が無敵だと勘違いしたボケを叩きのめすために居るようなもんだ。お望みならここで殴り倒してやろうか?」

 

「良いねぇ。反骨心があって結構、期待できるぜ」

 

なんで喜んでるんだ?意味分からん。マゾなの?

 

「早く本題を言え。雑談しに呼んだのか?帰るぞ」

 

「待て待て。そんな優秀なお前達2人、そしてお前達のクラスを……パブリック・エネミーとして認定しよう」

 

「はい?」

 

なにそれ?

 

「公共の敵だ。人類の敵と言ってもいい。他クラスへの攻撃をためらわず行い、手段を選ばず勝とうとする存在。お前らは……敵としての価値がある」

 

「はぁ?」

 

なんでやねん。

 

「そのため、俺はコイツを通してお前らを潰す。……オイ!入ってこい!」

 

隣の資料室っぽい所から入ってきた女子は、うつむいてるから髪の毛で顔が見えないけど、誰だ?

 

「……あれ?一之瀬?」

 

普段と様子がまったく違うし、暗い所から来たからすぐ気付けなかった。どうしたんだ?

 

「本来なら、学年内でやりあって3年間での成果が分かるはずだったが、俺はあまりにも早く終わらせちまった……。1年の時に学年制覇は終わったし、2年では1つ上の学年への影響力を作り上げ、しっかり掘北先輩に勝利した。あと1年、やる事が無かったんだよ。これ以上、何をやれば良いんだ?と」

 

いやマジで知るかよ。それで俺達の学年に介入するって?

 

「フン。それで俺達ってか」

 

「そうだ龍園。お前達……というか主に浅井の方だがな。あの化学テロを実行する頭のネジの外れっぷり、それに俺が関与してる事にすると脅迫してくる胆力。そして直接対峙した時も、当然のように俺の指をへし折る暴力性。最高だぜマジで。それに加えて、他クラスからもある程度の信頼を勝ち取る社交性もある。……かなり、俺に似てるな」

 

「はぁ?似てねーですよ」

 

どこがだよ。お前みたいなキモい虚栄心ねーよ。

 

「いや、間違いなく似ている。何を考えていたとしても、本心を隠し、社交的に振る舞って、敵を油断させる能力。それこそ人間社会で1番必要な能力だ。そして、それに関して、浅井……お前はトップクラスだ」

 

「いやいやいや……」

 

お前に褒められても全然嬉しくねぇ。あと、そんなつもりで仲良くなろうとかしてないし。ただ人間として気に入った相手と仲良くなろうとしてるだけだっつーの。一緒にすんなよ。

 

「そんな浅井と、恐怖によるクラス統治をする分かりやすい悪の龍園。素晴らしく優れた、厄介なコンビだ。……だからこそ、潰す。正義の『悪者退治』って訳だ。ハハッ!」

 

「お前には関係ねぇだろ」

 

ホントだよ。

 

「いや関係あるんだよ龍園。同学年から敵が消え、1つ上の学年の最優秀生徒を倒し、後はもう後輩しか居ない。あと俺にやれるのは、後輩を支配下に置き、指示して勝たせる。そうして『上に立つ人間』としての実力を証明する事だけだ。……そうすることで、俺は『手段を選ばず全てに勝った』という最高評価を得て、国を導く資格のある人間として卒業後の人生を歩んでいくのさ」

 

「……クソが」

 

ホントにクソ過ぎる。龍園に完全同意。

 

「嘘新聞も、俺からしたら最高だったぜ。お前らが、他クラスからのヘイトを稼ぎまくってくれてな。ただ俺が望むように場が整っていくのを見てるかのようだった。あまり言う事じゃないが、俺にはやはり運という才能もあるって事だな。……無くても勝てるってのにな、ハハハハ!」

 

うわぁ……キツいなぁ。こんなのが俺達を潰しに来るの?マジで嫌だなそれ。相手にするのもなんかキモくて嫌だし、そもそも勝負動機がキモすぎるし。

 

「でも学年が違うから、何やったって関係無いでしょ」

 

学年ごちゃ混ぜ試験だって、1回しか無かったじゃん。

 

「そのために、帆波をここ数日で俺のモノにした。1年の女、帆波のクラスメイトとセックスする映像を見せて、これを公開されたくなかったら俺の女になれって言ってな。それだけで簡単に股を開いたぜコイツ」

 

「……は?」

 

ちょ、えっ?は?

 

「だろ?帆波。お前は俺の何か言ってみろ」

 

「そ、その……、うっ、うぅ………」

 

「オイ、泣いてんじゃねぇよ。あれだけ分からせてやっただろうが!言え!」

 

一之瀬の首を片手で締めて脅す南雲。

 

「ひっ!わ、私は、南雲先輩の………奴隷、です」

 

「ふん、もっと早く言え。後で覚えとけよ。……さて、どうだ?これでお前達の学年とも十分戦えると思わないか?一之瀬クラス、全員が一之瀬帆波の信者だからな。1年の1クラス全員が俺の支配下に入ったって事だ」

 

顔をうつむかせて、ボロボロと泣いてる一之瀬。ニタニタ笑ってる南雲に胸を掴まれ、痛そうに、逃げるのを我慢してる。

 

「そのためだけに……、一之瀬をこうしたと?」

 

「だけ?まぁそうだな。坂柳有栖では既にAクラスだから意味が無く、堀北鈴音は影響力が低すぎ、櫛田桔梗も候補だったが俺と同類の匂いがする……。まぁ、クラスの動かしやすさ的にも、能力的にも、何を見ても帆波だな。俺に1番相応しい女でもある」

 

ハッキリと頭に血が上ってるというのが分かる。視界が少しボヤけ、心臓がバクバク鳴ってるのが耳元で聞こえてクソうるさいほどの怒り。憤怒。

 

「ただ『自分はスゴイ』を言うためだけに、一之瀬を脅して、レイプして、言いなりにしたのか?」

 

そんなゴミ以下の承認欲求のために、カタギに手を出して、その得意気な顔してんのか?俺達が敵として潰し甲斐があるからと?

 

「あぁ、そういう事だ。どうだ?やる気になったか?」

 

は?やる気になったかだと?

 

「お前、……殺してやるよ」

 

「……ハッ、いいじゃねぇか浅井!お前の方がやる気になるか!」

 

「黙れ」

 

そのニヤけた顔面、原型が分からなくなるまで潰してやる。

 

「少しばかり意外だぜ、龍園の方が血気盛んだと思ってたけどな……。お前の方が目の色変えるとは。なぜだ?お前、意外と一之瀬のことが好きだったのか?」

 

「……。」

 

好きな人間ってのは否定しない。けど、そういう問題じゃねぇから……。善良な一般人に、何をしてくれてんだ。

 

「そういう事なら、俺が1年使いまくった後の中古品で良ければお前にやるよ。ちょっと穴は緩くなってるかもしれないが、しっかり調教して従順にしといてやる。無事に俺を楽しませて、最後まで退学せず生き延びてたら褒美としてやるよ!どうだ?嬉しいか?」

 

コイツ、殺す。

 

「やめろ浅井」

 

無意識に近付こうとしてたのを、龍園に腕を掴まれて止められた。

 

「何?なんで止めんの?」

 

「……フン。ここで暴れて、何も出来ずに退学になるのが目的か?」

 

「は?」

 

いや俺は今殺したいんだが。これは……正直、俺も平和ボケしてたって事なんだろう。いくらなんでも、公立高校の中でそんなこと流石にありえないだろと、聞いた噂を無意識に否定してた。その結果がこれなら、俺がケジメを付けるべき事でもある。

 

「帰るぞ。今はやめろ、ここで殴り合って……もし逃げられたらどうすんだ。計画立ててからやれ」

 

なんで……。まぁ、この場で撲殺したり首絞めで窒息死させる程度じゃ許せねぇ。拷問だな。簡単に死なせてやるかよ。

 

「せいぜい楽しませてくれよ?俺の輝かしい未来のためにな。ハハッ!」

 

「死ね!」

 

絶対に、ぶっ殺してやる。

 


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