ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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ステータス『知性』と『判断力』について、個人的な見解を活動報告にちょっとまとめておきました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=249089&uid=310499

創作裏話になるので、「作品だけでいいや」という人は見ないようお願いします。


Cクラスの王

おはよう。授業前の時間、周りがテスト対策勉強をしている中、暇潰しに学内掲示板の巡回している浅井虎徹だ。『無料メシでウマいやつ』シリーズが地味にめっちゃ面白いし、役立つ。悪名高き山菜定食もおかず全てをタッパーで保存して持ち帰り、家で細かく刻み直して、茹で直してマヨネーズを加えたりして調味料にすると美味しいって、なんでそこまでするんだ……、けど地味に滅茶苦茶やってみたい……。そもそも無料メニューは罰ゲーム的にわざと手を抜いた調理をして苦味を残したりしてそうなんだよな。

 

なぜこんな暇潰しをしてしまってるかといえば、テストはもう来週なんだが、なんか勉強に飽きてしまっているからだ……。テスト範囲変更されてからも1週間ほど真面目にやってきたが、まぁなんとかなりそうだし。何より今日まで2週間ほどガッツリ毎日やってたらもう……飽きた……。

 

「オイ、聞け」

 

ん?いつの間にか教壇の前に立っていた龍園が全員に呼びかけた。それほど大きい声じゃないのに、慌ててCクラスの全員が注意しあって黙り込み、静寂が訪れる。……ここは刑務所か?

 

「放課後少し話がある。全員に伝えろ。そして他クラスに絶対に漏れないようにしろ。もし漏れたら殺す。……以上だ」

 

ほんの一瞬、ちらりと俺を見た気がするが……、まぁ気のせいだろう。俺がわざわざ他クラスに情報を漏らす訳が無いじゃん?

 

そうして、Cクラスに登校してきた生徒がすぐさま他の生徒から真剣な形相で何かを言われる、という光景が繰り返されることになった。みんな龍園にビビりすぎじゃないか……?たまに誰か殴ってるだけやん。

 

なにはともあれ、何の話かちょっと楽しみだな。

 

 

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放課後、帰りのHRが終わっても誰1人帰ろうとしない光景に対して何も言わない坂上先生が退室していった。何かあるのを把握してたから何も言わなかったのか、そもそも生徒への興味が薄かったのか分からないな……。あえて邪魔にならないよう何も言わず退室したんだと思うんだけど、表情が乏しいせいで全然分からん。ただ早く帰りたかっただけなのかもしれない。

 

そういえば朝の龍園はなんでチャットで集合かけなかったんだ……?読み忘れる人間が出るかもしれなかったからかな?

 

「クク……、全員居るな。今から伝えることは絶対に他クラスに言うな。もし漏れたのが分かれば……、容赦しねぇ」

 

笑顔で脅してくる龍園、クラス全体を見渡し、全員が真剣に聞いてるのを確認した後、こう続けた。

 

「ここに過去問がある。今回のテスト、高1での初回テストは半分以上がここから出るという情報を手に入れた。これをお前らに渡す。使え」

 

思わず嬉しそうな声を出してしまう不良組。そりゃそうだろう、退学回避の道が見えた気分なんだろうな。俺としても、まぁ普通に嬉しい。

 

「うるせぇ!」

 

ちょっと騒がしくなったクラスを一喝で黙らせた。怖いよ~。

 

「……ただし、これから毎月、俺に収入の20%を回せ。端末で来月から自動で振り込むように登録しろ」

 

すげぇ真剣な顔で恐喝してくる龍園、俺よりヤクザやんけ。

 

「別に、振り込まないからといって制裁を加えるつもりはねぇ。そこは自由だ。……だが、払わなかったヤツは、俺から見た時の優先順位が下がるし、保護することを保証出来ない、とは言っておく」

 

静まりかえるクラス。金を払うのは嫌だけれど、保護下に入れてもらえないのはもっと嫌だ、選択肢が無い……みたいな心境だろう。多分。ついでに言うと、龍園が言った「ボコさないよ」宣言も疑わしく思ってても不思議じゃないな。

 

あと、もしかしたら「振り込まなくてもいい」って言った理由は「脅迫じゃない」の言い訳でもあるのかもね。「払わないとボコす」なんて言ったら一発アウトで停学か退学だろうし。

 

「情報収集、破壊工作、他人を離反させたりするには金が要る……。金は、他クラスを潰してこのクラスを上にするため使う。このCクラスが、Aに上がるため。Aを維持するため。他クラスを潰し、勝つために使う。勝つために金が必要だ」

 

かなり真剣に語る龍園、いつものニヤケ顔はまったく無い。……まさか緊張してる?

 

「……先に言っておくが、個人で2000万ppを使えば強引なクラス替えが出来ると言われている」

 

「えっ!?」

 

なに!?初耳やぞ!?2000万ppってマジかよ……。いや、でもまぁCP1000だったとしたら1人あたり月々10万pp、40人で400万pp。20%徴収するとしたら……、1ヶ月80万pp、1年で960万ppか。2年位で……いやでも遠いなぁ、出費ゼロなのに金を徴収し続けるなんて無理だろうし。

 

「だが、そんなクソみたいなものに使うつもりはねぇ。……確認のために俺の所持残高を見に来たいやつは、いつでも見に来い」

 

まぁ、それくらいの誠意は見せないとだよな。貯め込んでる様子があったらすぐ分かるだろうけど、1人逃げに使われないかの確認が出来るか出来ないかは大きな差があるだろう。

 

クソみたいな方法かは知らんけど、確かに龍園が1人勝ち逃げのために自分のために2000万pp使うとは思えない。なんとなくだけど、Aクラスに上がるのが目的なんじゃなくて、他者を蹴り落として勝つこと自体が目的っぽい雰囲気あるし。そもそも龍園はAクラス行きたいっていう欲望あるのか?

 

「以上だ。……まずはこの過去問を印刷してこい。伊吹、金田、アルベルト、鈴木、園田の5人で行け。周りから怪しまれても良いが、何を印刷してるか絶対に見られるな。場合によってはアルベルトの暴力行使まで認める。原本まで1枚足りとも残すな。……かかった経費は俺が出すから後で言え」

 

うん、あまり目立つ所で指示は出してなかった龍園だけど、クラス全員の前でここまでハッキリ宣言して、指示して、行動させる姿は……、きっと誰よりもリーダーに相応しい。認めるしかない説得力がある。もしかしたら、ここは最高のクラスなのかもしれない……。

 

そう思わせてくれる、王の姿があった。

 

 

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掲示板を見て暇を潰していたら……、30分ほどしてコピー作業隊が帰ってきた。おぉ、結構な量だ。配布されたものを見たら、ありがたいことに解答もあり、1人20枚くらいだ。白黒コピーって確か1枚10ppだから……、1人200pp、40人分で8000ppかよ。結構するねぇ……。

 

「龍園……さん。印刷代は自分が立て替えておきました。出さないでもらって大丈夫です」

 

そう言ったのは……金田だっけ?ちょっと小さい眼鏡のオカッパ男だ。こいつ今……、媚びたな!

 

「……あぁ。覚えといてやるよ」

 

いつも通り偉そうだ。まぁそういう偉そう感?も上に立つ人間として必要なんですかねぇ……。そんな偉そうマンがまた偉そうに命令してきた。

 

「いいか、お前ら。少なくともこの過去問分は絶対にすべて覚えろ。すべて解けるようにしろ。その上で60点以下は殺されるつもりであと1週間やれ」

 

ふーん、まぁ目標としてはちょうどいいんじゃないかな。頭悪いのも結構居るだろうし。

 

「成績に自信が無いやつは残れ。後は……、椎名、小田、鈴木、園田、金田、浅井も残れ。他のやつはもう解散していい」

 

田ばっかりだな……と思ってたら、俺もかよ!?なんで!?俺以外は確か成績良いやつだけど、俺は要らないだろマジで。

 

「このメンバーで勉強会でもやれ。……組分けは好きにしろ」

 

えぇ……。人数的には1:2くらいの数だけれども、うーんめんどくさ!そもそも俺はそれほど勉強できる方じゃないっつうのに。

 

あと教える相手が居るとしたら不良っぽいやつでしょ?無駄に俺を舐めてくるやつ相手にすんのめんどくさいんだよなぁ……。かといって喧嘩するのもアホらしいし、そこまで目立ちたくもないし……。

 

「てか、あれ?龍園も、」

 

バカじゃん、教えてもらわなくていいの?……と続けそうになったが、周りの目に気付いてギリギリ我慢できた。

 

「……俺はやることがある。お前らでやっとけ」

 

試験7日前の日に勉強会より優先してやることってなんだよ?絶対に嘘だ。どうせプライドが邪魔して教えてもらうの恥ずかしいだけだろ。

 

そんなことをのんびり考えながら去っていく龍園を見ていたら……、あらかたグループ分けが決まってしまっていた。そして、余り物には福が無かった。石崎、小宮、近藤。まさに不良メンバーという感じだ……。女子が女子同士で組むのは全然分かる、仕方ない。それにしてもメンツが酷くないか?しかもなんで俺だけ3人担当なんだよ、ちくしょうめ。

 

 

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「浅井って言ったか?お前勉強できんのか?」

 

「ん、まぁまぁかな」

 

「そんなんで大丈夫なのかよ……」

 

石崎達、通称『龍園舎弟軍団』に舐めたこと言われてしまう。……お前らよりは遥かにマシだろうし、お前らなんぞに心配されるいわれはねぇよ!

 

「あー……、とりあえず始めよう。まずは普通に過去問から解いていこうか。……問題の紙に書き込んじゃダメだよ」

 

「かったるいぜ……」

 

「分ぁったよ」

 

「めんどくせぇな~」

 

「……じゃあ、英語からよろしく」

 

あ~~~……、めんどくっさ。

 

考えてみると、俺がやる義理無くないか……?さっきは龍園の宣言でついついちょっとだけ「俺もCクラスとして一緒に上に行けるように協力しよう!」みたいなことを一瞬思ってしまったが、そんな義理無いな。過去問あるなら自分で勉強しろよ。なんで俺が世話見なきゃいけないんだ。

 

しかも、何よりも、相手は別に仲良くなりたくもない不良共だぞ……?いじめか?罰ゲームか?不良なんて実家に比率99%で居るし、もう一生分見てるよ。底辺女子校でヤンキー娘達に罵倒されながら頑張って教えるとかならともかく、ただの不良の男になんで俺が先生やらなくちゃいけないんだ?ふざけるな龍園……、絶対許さん!

 

……なんてアホなことを考えていても仕方ないか。俺もやるか……。

 

 

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「よし、時間前だけど3人とも手が止まってるみたいだから終わろう」

 

まるで手が進んでないっぽい。まぁ、しゃーないか。

 

「んで、自分で赤ペンで丸付けして。そんで、答えも丸写しでいいから赤ペンで自分で書く。……それの繰り返しで覚えていけばいいよ」

 

「赤ばっかだぞ……」

 

知るか!

 

「そりゃそうでしょ、最初は誰だって何も知らんよ。別に落ち込むことじゃない。ただ手を動かして覚えりゃいいんだよ」

 

「……こんなんで覚えられんのかよ?」

 

「アホの癖に口答えしやがって……。まずやってみて、それ繰り返せばええんじゃ。2回目以降も別に同じとこ間違えたって良いし、ただ『赤で書き直すの嫌だなぁ』って思って覚えりゃ良いんだよ。本番で正解すれば良いんだから、それまでにいくら間違えたって良いっての。黙ってやれよ」

 

「お、おぅ……」

 

なんか思わず語ってしまった。ちょっと変なやつを見る感じで見られてる。少し恥ずかしい。

 

「んー……、赤で書き直すのが嫌だからって、選択肢のア、イ、ウのどれか覚えるとかは流石にダメだよ。……今日は赤で書き直して、同じ問題をもう1回同じようにやって終わりにしよう。1つの教科を2回ずつやるだけでも結構覚えられるはずだよ」

 

「あぁ……、分かった」

 

「りょーかい」

 

「……。」

 

こうして、龍園の統治下に置かれたCクラスで、不良組との勉強会1日目は普通に終わった。

 

 

 

 


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