ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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「2000万ppでクラス移動した龍園が授業中に歌い出すの想像して草」みたいな感想が来ると思っていたのですが、結構な数のお褒めの言葉を頂き困惑しました。でもありがとうございます、嬉しいです。


ラスト対策期間

テスト前のラスト金曜。今日はAクラスの勉強会に潜り込む日だ。俺、浅井虎徹としてはこの学校でのレアイベント、坂柳との会話はどうしても外したくない。

 

昨日の龍園による腹パン制裁の後も石崎、小宮、近藤のバカ3人組と勉強会をやったが……、いやもうホントにクソだった。「龍園さんやべぇよ」とか「俺ぜってー逆らわねぇ」とか「あの人ならAクラスにしてくれると思う」とか……。勉強しろや!!!なんで過去問も黙って解けないんじゃクソボケカスアホ共。

 

完全に面倒見る気が失せてた俺の表情を見て、慌てて石崎が「勉強するぞ」と自発的に言ってたが、それが無かったら100%放置して帰ってたね。

 

という訳で今日もアホ共と勉強会やらないといけなかったのだが、今日だけはサボった。Aクラス勉強会で静かにみんなで集中してる空間に浸って『俺も頭良い人間かもしれん……』感を味わわないとメンタルが保たない。

 

アホ共には「この調子だと間に合わないから、土日は一日中やるしかない。だから逆に今日の放課後は思いっきり遊んで来て」と言ってある。まぁ事実だし、休憩日としてはギリギリ可能な日だと思う。

 

やりたくない、けど仕方ない。世話見るメリットがほぼ何も無い気もするが、石崎が、男が頭を下げてたんだから、出来る限りは応えよう……。まぁ本気でムカついたら放り投げるけど。

 

それはそれとしてアルベルトも呼ぶか。ここ数日一緒に勉強会をやってないけどアルベルトなら過去問あるなら多分大丈夫だと思う。けれど不良組の制御が面倒だから、土日も頼み込んで来てもらおう。

 

ついでに伊吹にも声を掛けてみよう。まず来てくれないと思うけど。

 

 

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放課後、Aクラスにまたまた来た。3回目だっけ?ちなみにチャットで参加していいかの確認は取ってある。

 

「お邪魔しまーす」

 

「……君か」

 

「おっすメガネ」

 

「こんにちは、浅井くん」

 

「おいっす坂柳、今日も白いね~!」

 

最近気付いたが、白いストッキング?のせいでなおさら白っぽいと気付いた。髪はシルバーブロンドで、歩行杖も白い。そして何より肌が白い。そのせいかいつ見てもなんとなく人間離れした雰囲気の美少女だ。

 

「……それは褒め言葉ですか?」

 

「当たり前じゃん!妖精っぽいよ」

 

「……どうも」

 

反応に困ってる様子の坂柳、なんでやねん、喜ばないのか……。

 

「てか……、あれ?もう1週間前切ってるのに人が少なくない?」

 

部活動は原則禁止じゃなかったっけ?Aクラスの教室には前と同じように10人くらいしか居ない。

 

「えぇ。……ここに居るのは私の陣営だけですからね」

 

「へ~、ん?なにそれ?陣営?」

 

「……言葉が過ぎました。忘れて下さい」

 

えぇ!?

 

「いやいやいや、気になるって。気になりすぎて、テスト勉強出来ずに、赤点取ってしまうかもな~!……ということで教えてよ!」

 

「はぁ……、少し気が抜けていたのでしょうか……」

 

なんか結構マジで悔しそうな顔をする坂柳、なんかちょっと悲しい。

 

「あ~、いや、そんなに言いたくないなら別に言わなくていいよ……」

 

気になるっちゃ気になるけど、せっかくの関係を犠牲にしたいほどではない。

 

「……。いえ、話しておきましょう。いずれ全生徒に知れ渡る事ですからね。現在、このAクラスでは2つの派閥に分かれています。1つは私をリーダーとする坂柳派、そしてもう1つは葛城くんをリーダーとする葛城派です。現状では、私達の方が劣勢ですね。クラスの過半数は葛城くんに付いています」

 

「はぇ~……、面白いことやってんのね」

 

割と優秀な生徒が揃っているAクラスならではの話だな。Bは人間の突然変異種みたいな一之瀬が自然とリーダーになってたし、Cは暴君が統治してる。Dはなんだろうか……、少なくとも堀北じゃねぇだろうな。平田が頑張って、櫛田もなんとなく支えてそう。

 

「面白い、ですか?」

 

「うん。だって同クラス内での競争でしょ?どっちが勝つにしてもクラス対抗戦では手を取る訳じゃん?あれだね、ライバルと手を結ぶ王道少年漫画の展開だな」

 

「……ふふ、そうかもしれませんね」

 

「でしょ?まぁ対抗戦でまで足引っ張り合ってたらちょっとアホだとは思うけど……。それでもAクラス陥落とかなったら絶対に協力するでしょ?なら心配無いんちゃうかな」

 

「えぇ、みんな優秀ですから」

 

「ウチみたいに1人が有無を言わせず率いるタイプだと……、そりゃ即応性とか行動力とかは良いけど、そのリーダー1人が潰れたら組織として瓦解するからねぇ。そう考えると2人くらい居た方が良さそう。まぁ……、3年程度なら1人リーダーでも平気かもしれんけど」

 

しかも相手は高校生だし、ここ学校だからね。良くある下剋上も起きず、王が死ぬこともなく王朝が最後まで続きそうでもあるかな。

 

「3年、そうです。3年だけですから……」

 

一瞬なぜか冷たい目になる坂柳。何考えてんだか……、3年だけだからさっさと内紛ごっこを終わらせたいとか?しかし怖い目だ。けど可愛いからいいや。

 

それにしても「3年しか無い」って圧倒的ポイント差でAクラスに居る人間が言うのは意外だな。普通だったら「今すぐ卒業してAクラス特権が欲しい」とか思いそうなもんだけど。坂柳としてはこの学校のシステムで3年間競い合いたいってことかな?ん~、体が弱くて遊び相手が居なかったからそう思うとかなのかな。いや分からんけど。

 

「……ともあれ、今は勉強しましょうか。そろそろ始めましょう」

 

「おいっす」

 

いやしかし、坂柳との会話はホントに面白い。毎回のように面白い情報あったりして知的好奇心が気持ちよく満たされる感じとか、打てば響く感じとか。何より可愛いし。

 

葛城が誰か知らんけど、葛城派はみんなバカだね。こんな頭脳明晰な美少女に従わないとか何考えて生きてんだ?アホか?ホモか?

 

 

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夜、自室。

 

不良共だけを相手にしてたら殺意が湧いてしまうかもなので、他の生徒も巻き込んでしまおう。アルベルトからはもう「OK」の返信が来ていた。ありがてぇ……。

 

そして他の生徒も誘おうと思ったが……、俺あんまり知り合い居ないな。Cに限ったら連絡先まで知ってるの龍園、アルベルト、伊吹、椎名の4人だけじゃんか。あと不良3人だけ。すっくな!……ちょっと悲しくなるね。

 

ともあれ誘ってみよう。

 

[浅井虎徹>>><<<伊吹 澪]

 

【浅井虎徹】:伊吹ー!

【浅井虎徹】:明日明後日、石崎達と勉強会するんだけど参加しない?

 

20分ほどして返信が来た。

 

【伊吹 澪】:しない

 

そうすか……。ここまで可能性の感じられない返信もあるのか。

 

ちなみに椎名にも送ったが、既読すら付かなかった。

 

 

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土曜日、朝。椎名からの「1人でやります」だけの返信を見て軽くへこんでから、不良共に確認メッセージを送った。「今日の教室集合は昨日言った通り9時、遅れたらアルベルトのドロップキックな」っと……。

 

そして、少しでもやる気を出させるためのプレゼントとして用意しておいた赤ボールペンと、昨日の夜に作成した過去問点数記録表をコピーして持っていこう。

 

どんなアホでも同じ問題を繰り返しやっていれば、当然だけど点数が伸びる。少し時間を置いてからやっても、点数が取れる。それを記録して「あぁ覚えてる」と実感できれば少しはモチベーションになるでしょ。

 

単純に「ただ答えを写してるだけ」だったとしても、それの繰り返しで知識は身につく。その成功体験を少しでも実感してもらわないと、どう考えてもアホ共は高校勉強についていけないと思う。

 

中学で勉強してきてない奴らってのは、過去問があるから大丈夫という訳でも無いだろうよ。学校側としては打開策の1つとして用意したつもりで、実際に初回くらいは過去問からの出題率が高いかもしれないけど……、それでも「過去問あれば大丈夫」なんて勉強習慣が皆無のヤツには通じない理屈だと思うんだよな。学校側が想定してる最低のアホの知能評価が高すぎる。絶望的なアホはどうしようもなくアホだぞ。

 

流石に高校入れてる時点で、世の中に居る最底辺ほどではないみたいだけれども。そう考えると不良組もまぁまだマシか?それくらいの生徒選抜はしてるよな……?そう考えたらまだ希望持てるかな?

 

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日曜、夕方。土日の勉強会がすべてがほぼ終了した。

 

意外にもこの2日だけで過去問を全科目を4回ずつ解く所までやれていた。予想以上に進んだ。どうせ解けない問題の方が多いだろということで、最初は30分くらいで1科目解いてもらったのが理由だけれど、それに加えて正解率もいい感じに上がっている。もう平均70点以上はある。

 

規定より短めの30分ほどで問題を解いて、最初は同じくらいの時間をかけて赤ペンで書いて記憶、そして問題の解説をしていた。2回目からは当然そういう時間も減り、ただ問題を解いて答えを確認してという作業っぽくなった。

 

解説に関しては同じ問題を同じようなレベルのヤツがやってるのもあり、誰か1人が理解してたらそれを教え合うような光景もそこそこ見れたのはなんとなく良かった。

 

それでも、なるべく手を動かす作業にしていたものの、どうしても集中して机に向かうという行為自体に慣れてない不良組はやはり集中力が欠けたりしていた。そういう時は無理をさせず、教室に寝転んで仮眠取って良いよと言っておいた。勝手に寝転がっても、周りで他の生徒も黙って勉強している音が聞こえるとなんとなく勉強に戻りたくなるようだった。

 

特にトラブルも無く、それほど必死に勉強に戻そうとすることもなく、2日連続8時間ずつの勉強会は終わった。

 

「よーっし、お疲れ様。今日は終わろう」

 

「っしゃ疲れた~!」

 

「こんなに勉強したの人生初だぜ……」

 

「死ぬほど疲れた」

 

「……。」

 

2日とも付き合ってくれたアルベルトも含め、全員が疲労困憊だ。でもまぁ、そうなるだけの頑張りは見せてくれたかな。

 

「アルベルトは間違いなく赤点回避は大丈夫そうだ。You are safe! 他は……、あと3日だけど、過去問以外の簡単なまとめ問題もやれば、まぁ多分大丈夫……」

 

うん……多分。多分大丈夫。きっと。……いや不安だけど。

 

「そうか……」

 

希望が見えて嬉しいような、それでいてまだやるのかよという感じの悲しいような複雑な表情を見せる不良組。

 

「……ふと思ったけどさ、お前ら勉強してる奴らを『ガリ勉だ~』みたいにバカにしてた経験あるでしょ?」

 

「まぁ……、ある」

 

「いやそれを非難したいとかじゃなくて、なんていうかさ、やっぱ勉強は大事だって昨日今日で分かったんじゃないの?どうしたって記憶しなきゃいけない事ってのは多いし、そういうのを勉強という形でやるのは大切だって」

 

「……。」

 

3人共黙り込んでしまう。いやいや別に怒ってる訳じゃないんだけどね。

 

「もしかしたら、お前らみたいに勉強なんか一生やらないような奴らにも勉強させるってのは、この学校の大きな意義なのかもしれないね」

 

思い付きで言ったが結構ありそうな話だ。底辺高校でギリギリ留年するかしないか、退学するかしないかラインの中学生、放っておいたら高卒で働くような奴を入れて勉強させる。そういう可能性を見る意味もありそうだ。

 

「あぁ。もう勉強ばっかしてるやつをバカにすることなんて多分無いぜ。こんなに疲れるもんだとは思わなかった……」

 

結構マジな感じで言う石崎。コイツにはちょいちょい感心させられる。素直にこうやって負け?を認められるのは良いことだな。

 

それにしても、なるほどなぁ。明言されてないが「成績がCPに影響する」という前提である以上、ガリ勉タイプの生徒がしっかり勉強してくれるのは、ただただ良いことだもんな。

 

普通の学校だったらそんなことなく、個人の成績がクラス全体に影響することなんてほぼ無いし、勉強好きなタイプは根暗だとバカにされるだけだ。それに比べると、この学校はガリ勉の生徒も『勉強でクラスを支えてくれる助かるやつ』みたいな認識をされるだろう。

 

そしてこれは、いつか運動能力に優れた生徒も評価されて、そう思われるだろう。

 

うん……、思った以上にここは良い学校なのかもしれない。クラスが一丸となって競い合う事で、クラス内のタイプが異なる生徒同士が認め合い、支え合えると。うーん、面白い。

 

こうして、疲れ果てた不良共を見て、この学校の素晴らしい所に気付く事が出来たのだった。

 

 

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試験当日。

 

「それでは、試験を開始して下さい」

 

待ち望んだテスト開始の声が試験官から発せられた。やっとだ、やっと……。もう二度とやりたくない対策期間だった。

 

土日の勉強会が終わった後、残り少ない平日の直前期間は当然のように放課後勉強会が開かれ、毎日21時くらいまで勉強会だった……。

 

俺がなんとなく「龍園を信じたいのはあるけど、過去問から全然出ない可能性もあるよね」と言ってしまい、言ったからにはそれ前提でも赤点回避ラインまで勉強しなくちゃいけなくなり、そのために過去問と同じくらいの問題数を、過去問と問題が被らないように作ったりもしてた……。もうやだ、死ぬほど面倒だった。やっと終われる……。あかん涙が出そう。

 

もう点数とか本気でどうでもいい。さっさとこのテスト終わらせよう。

 


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