ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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6の倍数回、傑作になる説


風切り音

テストから1週間ほど経ち、6月に入った。誰もがテスト対策勉強の苦しみを忘れてのんびりと気楽に授業を受けている今日この頃。俺、浅井虎徹は『堀北を退学させよう作戦』をなんとなく考えていた。

 

そもそも、退学になる条件がそんなに分かってないよねと。俺が知る限りでは、

 

1. いじめ問題には厳しく対処するという学校側の宣言

2. 新入生から詐欺で金を巻き上げた生徒が退学になった事あるらしい

3. テストで赤点取ったら退学確定

 

この3つくらいかな……。あと何かと「備品を破壊してはいけません」ってよく言われてるけど、あれはCPやppの減点で済みそうな話だし。監視カメラとか気楽に破壊されたら生徒管理が出来なくなるからやるんじゃねぇぞ!という話でしょ。学校側が正確なジャッジを下せなくなってしまう。犯罪があっても見逃す事になってしまうと。

 

1つ目を利用するとしても、あの堀北がいじめ問題を起こすほど他人と関わるのは違和感があるな。でもまぁクソみたいな見下し発言を受けた生徒が自殺未遂とかすれば、いじめ問題として提起は出来そうか?でも、うーん……退学まで持ち込めるかは難しい気がするなぁ……。「口が悪い!人間失格!」で停学止まりな気がする。

 

2つ目、詐欺の罪を被せるとか、何か犯罪行為をさせたと思わせるのも、まぁ難しそうだな。ppの移動が完全に把握されてるし、ありとあらゆる所に監視カメラがあるんだから犯罪を他人になすりつけるのは流石に難しすぎると思う。集団犯罪の元締めとして誰もが口裏合わせて「指示されました」と言ったとしても、うーん無理がありそう……。

 

3つ目、やっぱテストで赤点取らせるのが一番簡単そうかな。いくら頭が良い成績優秀者だったとしても1科目でも赤点ならアウト。だからテスト直前に睡眠薬でも盛ってテスト中に眠らせて終了!でしょ。怪しまれないように「徹夜でテスト対策勉強をしてたらしいです~」とかいう伏線張る必要はあるだろうけど。そのためにはバカに堀北を頼らせたり、とかかな?……まぁ、睡眠薬が手に入るのか知らないけど。

 

ここまで考えておいてなんだけど、俺は別に堀北に退学して欲しいと思ってない。そこまで憎んでもない。

 

逆にああいうクズが野に放たれてしまえば、学力があるからと良い大学に行ってしまうだろうし、見た目が良いから良い企業にも入ってしまい、下手に仕事が出来てしまえば、ひたすら低学歴を見下しゴミ扱いするゴミ人間が誕生してしまうと思うんだよな。そう考えると、「学力以外も大事だよ」「チームワークも大事だよ」みたいなことも特別試験として出すらしいこの学校にぶち込んでおいて3年間いじめ抜いた方が良いと本気で思う。人格矯正のために。

 

てことで、櫛田には『赤点取らせて退学させよう』案を……気が向いたら伝えよう。あんまり慌てなくてもええでしょ、せめて1年くらいは堀北をこの学校に収容しておくべきだ。

 

ただ、「何をするにしても警戒されないよう仲良くしておいた方が良いと思うよ」くらいはチャットで伝えておくか。敵対関係しっかり作っちゃってたら出来ることも出来なくなっちゃうだろうし。

 

……おっと、ボケっと授業受けてたらもう放課後か。

 

 

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放課後のCクラス、最近は毎日のように柄の悪い奴らが10人ほど龍園の所に集まり指示を受けて去っていくという光景が見られる。なーにやってんだか……。ちょっと漏れ聞こえる声では「気弱そうなザコ」「直接触れずに」「一之瀬には」とかなんとか。どうせ嫌がらせしてんだろうな。あーヤダヤダ、Bクラスも可哀想だ。

 

……という光景を横目に帰ろうとしたが、珍しく伊吹が龍園軍団に加わらずに1人で教室から出て行った。なんだ?今日は軍団活動の休憩日なのかな?

 

なんとなく追いかけるとケヤキモールの方に向かっていた、後ろから声をかける。

 

「よ~伊吹、今日はどしたの?」

 

「……何だよ」

 

軽くこちらを見ただけで止まりもせず歩き出してしまった。いつも通りなぜか不機嫌な顔をしている。

 

「珍しく龍園の命令って訳じゃ無さそうじゃん」

 

「別に……アイツの部下って訳じゃない」

 

「……。」

 

いやそれは無理があるだろ、というのが俺の顔から伝わったのか、本人も流石に無理があると思ったのか言い訳してきた。

 

「アイツの命令に従うこともあるけど、今回のはただの嫌がらせだったから。ムカつくから出てきたんだよ」

 

「嫌がらせ?なんか最近Bクラスにやってるやつ?」

 

「そう。……いや、なんでもない」

 

ん?……あぁ、同じクラスといえど秘密を漏らせないってやつか。こういう微妙な律儀さと、ちょっとした抜けっぷりが部下として使いたくなるんだろうなぁ。分かるぜ龍園。

 

「いや同じCクラスじゃんか。龍園に近付きたくないけど、流石にちょっとは何やってるのか知りたいんだよね。少しでいいから教えてよ」

 

実際には龍園とのチャットも電話もめんどくさいからだけど。

 

「チッ……。なんか、他クラスに色々やってCPが減点されるラインを見るとかなんとか言ってたんだよ。それで色んな嫌がらせを試してるってワケ。……それだって、気弱そうな女子にまでやる必要ないだろ」

 

「ふーん……」

 

まぁ何してるのか知らないけど、Cクラスをまとめ上げたから暇になって、他クラスにちょっかい出してるのかね。……はた迷惑な奴だ。

 

「それにしても伊吹は結構正義感あるよね」

 

「……そういうんじゃない」

 

「ん?そう?」

 

「正義感があったら、あんなヤツに従ったりなんかしない……」

 

なんとなく恥じるように顔を下に向ける伊吹。うーん、そういう罪悪感がある時点でちゃんとしてると思うんだけどね。日頃から割と龍園に逆らってるし、そういう人間はクラスで他に居ないから結構目立つ。

 

「ま、なんにせよ自分の意見がしっかりあるのは良いと思うし、龍園の全部が正しい訳がないって思ってるのも良いことだと思うよ」

 

『戦場で上官の言うことに納得出来ず従えない』なんていう話だったらダメだろうけど、ここ普通の学校だからね。大いに意見をぶつけ合って喧嘩した方が良いでしょうよ。そういう意味でも独裁者龍園に意見が出来る伊吹は貴重だ。

 

「……アンタは何か思うこと無いの?」

 

「他クラスへの嫌がらせに対して?」

 

「ていうか……、アイツの暴力とか」

 

俺は龍園本人に言った通り、カタギの人間に対して後遺症になるようなことが無い範囲でなら『世の中には暴力がある』という事実を見せつける舞台装置として好きに動けば?みたいに思ってるんだよね。学校側もそういうの期待して入れたんだろうし。

 

だからって、これを伊吹に言っても理解されんやろうしな……。

 

「うーん……、俺はそこまでAクラス興味無いし。とりあえず伊吹か龍園か選ぶなら、伊吹の方が好きだよ」

 

「はぁ……?意味分かんないんだけど。……てか、アンタどこまでついて来る気」

 

「今日どこ行く予定なの?デートしようぜ!」

 

「……バカ?」

 

「龍園嫌い同盟で仲良くなろうぜ!どこ行くの?」

 

めげずに繰り返す。

 

「……映画だよ」

 

「よっしゃ行こう!」

 

やったぜ、同級生との人生初デートだ。

 

 

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映画館、というかシアタールーム。当然ながら外の本物と比べたら遥かに小さいものだったけれど、座席のフワフワ感とか音響などはまったく遜色なかった。良い所だった。

 

ちなみに映画は『西の魔女が死んだ』というもの、中学生の女の子が学校を嫌になってしまい、山小屋のようなおばあちゃんの家に行って触れ合って新しい価値観を知る、という感じのストーリーだった。自然の風景とか、映像や音楽のテンポのせいか、妙に心が落ち着く映画だった。俺1人ではまず見ない映画だったな……。

 

映画を見終わった後、日も落ちて人が少なくなってきてる喫茶店で2人で感想を話し合った。俺には正直そこまで魅力が分からん映画だったけど、伊吹にしては結構な”アタリ映画”だったらしい。やっぱ性別による感性の差ってのはあるんだな。

 

「……なるほどなぁ、俺にゃママさんの気持ち分からんかったわ」

 

普段あまり話さないタイプの伊吹でも、感想となると普通に色々しゃべってくれた。良い交流になったな。

 

「てかアンタ、そういえばなんで最初の方で笑ったの。声出すなよ」

 

「いや、ごめんごめん。でもキム兄出るとは思わんて……。お笑い芸能人がいきなり出てきて、死ぬほどハマり役だったから、つい。ごめん」

 

「ふん……」

 

「それにしても、学校側があの映画を上映してた理由って、やっぱ友達出来てなくても気にしないで元気出して、みたいなメッセージなのかね?」

 

「……そうかもね」

 

うん。あまり学校に馴染めなかったり、いきなりクラス競争に巻き込まれて泣きそうな子も多分居るだろうな……。そういう生徒への励ましの映画なのかもしれない。

 

「伊吹も友達居ない人間として励まされた?」

 

「うっさい。……アンタも別に多くないでしょうが」

 

「まあね」

 

龍園は友人とは言えない謎枠だから……、友人と言えそうなのはアルベルト、石崎、あとまぁ櫛田かな……。3人だけじゃん。他クラスなら、Bの一之瀬と神崎、Aの坂柳と神室が居るけど、もうちょい仲良くならないと友人と言うの難しそうかな。

 

「でもまぁ伊吹とは今日めっちゃ仲良くなったからもう友人でしょ?」

 

「……。」

 

「これから虎徹って呼んでくれん?」

 

「……なんでよ」

 

そう呼ばれたいからだよ!名前呼びされたいんじゃ!

 

「もう仲良しだからね」

 

「なんか……キモいからヤダ」

 

は?

 

「じゃあ俺は逆に、伊吹のこと澪って呼ぶね。……ミ、オ。可愛いよ、ミオ」

 

「死ね!」

 

「んぎゃ!いってぇ!」

 

机の下でスネに全力のトーキック?を入れられた。痛すぎるぞこのアホ!

 

「アンタ、バカなの!?」

 

「I know……。虎徹って言わないと俺も引かんで。ミオ呼び続けるぞ」

 

「チッ……」

 

「バカだから譲らんでぇ~!」

 

あえてアホ全開な表情を作って言い放つ。

 

「このっ……。分かったよ……、虎徹」

 

「ありがとう……。ミオ」

 

「死ねッ!」

 

立ち上がった伊吹がとんでもない速さで俺の顔面を蹴りつけてきた。ギリギリで体を後ろに反らし、椅子ごと倒れる形でなんとか避けれた。あっぶねぇ!警戒してなかったらまず間違いなく避けられなかったぞおい。なんだよその脚、バットでスイングしたみたいな乾いた音がしたぞ。

 

「おい伊吹危な……」

 

起き上がって言い返してやろうと思ったが、キレた伊吹はそのまま店から出て行ってしまっていた。

 

……ま、ええか。首刈りキックも避けれたし。

 

こうして伊吹とかなり仲良くなれた日となった。……それにしてもスネ痛いな、絶対に青アザ出来てるぞ。

 

 

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Side:伊吹澪

 

 

なんなのよアイツ、ムカつく、ムカつく……!

 

せっかく龍園に従うだけの無思考な奴隷じゃない、まともなやつと知り合えたと思ったのに。普通の友人が出来たと思ったのに。もしかしたら映画仲間が出来たかもしれないとも思ったのに……。バカにしてきて!ムカつく!

 

「あ?なんだ、伊吹か?何してんだよ。クク、おもしれー顔してるじゃねぇか」

 

それに加えて、帰り道でコイツの顔まで見るなんて最悪だ!なんでこんな時間にベンチに座ってるんだよ、勝手に帰った私のことを待ち伏せでもしてたのか?

 

「うるさい龍園。黙れ」

 

「ククク。何にキレてんだ?言ってみろよオイ。他クラスと勝手に喧嘩したなら制裁対象だぜ?」

 

「チッ……。ウチのクラスの浅井虎徹とちょっと喧嘩しただけ」

 

「…………アイツかよ」

 

「…?」

 

さっさと帰ろうと思っていたが、今まで見たことない反応をする龍園に思わず足が止まる。

 

「なに、アンタ。アイツのこと何か知ってんの?」

 

「アイツは……、ただのバカだ」

 

「まぁ、それには同意するけど……」

 

それだけにしては反応がおかしくない?

 

「……正直、測れない所がある。多分Cクラスの害にはならないとは思うが、断言出来ねぇ」

 

……ホントに驚いた。コイツが困ったような顔をするなんて。

 

「アンタ、何があったの?」

 

「……なんもねぇよ。お前こそ何があったのか言え」

 

絶対に何かあったんだろうけど、コイツが自分のことを何か言うとも思えない。それでいてこっちが自分のことを話さないと容赦なく暴力を振るう嫌なやつだ。

 

「自分は言わない癖に……。今日なんとなく一緒に映画見て、喫茶店で話してて、そしたら『虎徹って呼んでくれ』とか言うから仕方なく言ったら、……それでも、アイツは私を名前呼びしてバカにしてきたんだよ。それで顔面蹴ろうとして避けられて、……終わり」

 

「ハァ?」

 

「うっさい。それだけ」

 

「まぁ待て伊吹。……アイツの様子はどうだったんだ?」

 

「別に。見ないで帰ってきたから」

 

「なんだよ。……でもまぁ、十中八九アイツに悪意は無かったと思うぜ。気に食わない相手には容赦しないみたいだが、お前をバカにしてるってことは考えにくい」

 

「……なんでアイツの肩を持つのよ」

 

「そういうのじゃない。……アイツは俺の味方なのか、敵なのかも分からない、厄介な存在なんだよ。分かるか?」

 

「意味分かんないんだけど……。いつも通り、アンタお得意の暴力で従わせれば良いじゃない」

 

「チッ、バカが。俺のやり方はAクラスに行くのが目的のやつにしか通用しねぇんだよ」

 

「そんなの全員が……」

 

いや……、確かにアイツはAクラスに興味ないって言ってた。

 

「そうだ。俺がアイツを従わせようとしても、アイツはCクラスから減点されるのをなんとも思わないタイプだ。それに加え、妙に頭が切れる部分もあるからクソ厄介なんだよ」

 

「なんだっての、アンタがそこまで警戒する相手だっての?」

 

とてもそうは思えないけど。

 

「……。」

 

会話の途中なのにいきなり勝手に考え込んでこっちを無視する龍園、こういう所も本当にムカつく。Aクラスになるために役に立ちそうなリーダーじゃなかったら絶対に関わらないのに。

 

「伊吹、聞け。まず当然だが、今言ったことは絶対に誰にも言うな」

 

「いつも通りでしょ。ハイハイ」

 

「そして、浅井に近付け。アイツが絡んでくる範囲で良いし、無理して会話しようともしなくていい。自然な会話の中で分かるだけでいい。見張るというか、アイツが何を考えてるのか探れ。いいか?」

 

「分かったよ。……ただのバカだと思うけどね」

 

「変に危害を加えたり、俺に従うよう誘ったりする必要もねぇ。ただある程度の関係、なんとなく話す程度の関係を作っておくだけでいい。定期的な報告もいらねえ。ただ何かあったら、何か企んでるようなら俺に報告しろ」

 

「……分かった」

 

いつもヘラヘラと偉そうに命令を出す龍園がここまで真剣になるっていうなら、まぁ少しはやってやろうじゃない。

 

なんて思ってたら、アイツからチャットが届いてた。「めんご。これからも伊吹って呼ぶね」だとさ……。蹴られたこと気にしてないのか?いや、ホントにただのバカなんじゃないの?

 

なぜか少し軽くなった心に気付かないフリをしながら、龍園に背を向けて寮へと戻っていった。

 

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