ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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Ready for Poker

こんにちは、NPO法人日本ポーカー協会の浅井虎徹です。嘘です。

 

神崎と電話相談してから数日経ったのだが、意外にもまだ連絡が来ない。やっぱり龍園呼ぶのをやめるしかないな?

 

Dクラスは、櫛田にチャットで連絡したが、なんと意外にも堀北があっさり参加表明したそうだ。なんで?いや来て欲しいけど、ブチ切れ暴言かました俺のことなんとも思ってない?それとも俺が参加することを伏せてある?……ま、ええか。

 

 

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金曜日、ポーカー大会まであと1週間の日。ケヤキモール散策でなんとなく買ってしまった追加カジノチップと新品トランプ、緑のプレイマットを持って登校中だ。

 

先程チャットで一之瀬から「参加させてもらうね!よろしく!」の連絡が来た。似たタイミングで神崎からも「一之瀬と参加させてもらう。よろしく頼む」の報告が来ていた、うーん律儀。そういうの人として好き。

 

そんな訳で、参加予定のメンバー全員の参加が決まったのでグループチャットを作成して、ポーカーのルールを共有したりしておいた。

 

色々考えてて気付いたけど、これディーラー練習しておく必要あるよね……と。別に素人だからその場その場でルール確認しながらやっても良いとは思うけれど、せっかくならプロっぽい手際の良さでディーラーが動いてた方がカッコイイはずだ。参加者も割とタレント揃いだからこそ、ちょっとそこには手を抜きたくない。図書館で借りたルールブックを読んでいて自分でやってみたくなったのもある。

 

なんてことを坂柳に伝えたら「真澄さんには話を通しておきました」と返ってきた。なんか勝手に命令してそう……。

 

 

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「またアンタか……」

 

娯楽室に来たが、不機嫌系女子として伊吹を上回る不機嫌顔の神室が既に居た。

 

「おいっす、久しぶり神室。坂柳にはなんて言われて来たの?」

 

「……ポーカーのディーラーをやれるように練習しとけって」

 

「あれ?乗り気じゃない?」

 

「当然でしょ。なんで私がこんなこと……」

 

あらら、なんか申し訳ないな。言い出しっぺ俺だし。

 

「あー、その、迷惑かけてごめんね。とりあえずやってみよう、意外と楽しいと思うよ」

 

「……。」

 

いやこれは本気で乗り気じゃないっぽいかな?楽しんでもらいたかったけど、うーん……。

 

「えっと、そんなに気が乗らないなら俺がやるからいいよ?」

 

「やるわよ」

 

「ん~、あんまり坂柳のこと好きじゃないの?」

 

「……なんでもかんでも命令してきて、自分の時間を削りまくる相手が居たら誰だって嫌いになるでしょうが」

 

あー、なるほど。そういう感じか。

 

「そうか、坂柳ちょっと体悪いもんな。そりゃ色々頼んじゃうか」

 

「……。」

 

無言の肯定。考えてみると杖つきながら歩いてたら買い物とかも人が多いと危ないし、何か買うのも荷物持つこと自体が危ないかもしれないしなぁ。リュックでも無いと買い物も行けないのかもしれない。そういうの全部任されてたらそりゃ大変そうだ。

 

「うーん、坂柳は言葉にしないだけで、神室に感謝してるんじゃない?」

 

「……だったとしても、ディーラーなんか私じゃなくて良いでしょうが」

 

そりゃまぁそうだ。

 

「確かに。……やっぱ今回は俺がやるからいいよ」

 

「私が嫌がってサボったってなったら、何を言われるか分かったもんじゃない。やるわよ」

 

えぇ……。なんか複雑な主従関係っぽいな。坂柳は弱みでも握ってんのか?

 

「坂柳はさ、他に頼れる女子が居ないんじゃないの?」

 

「……。そうかもしれないけど」

 

「んで、意外と人付き合い経験が無いから、1人に頼りすぎちゃってるとか。裏切られるのが怖いから、徹底して自分に忠実な部下じゃなきゃ怖い……とかじゃない?」

 

「そんな、可愛げのある女じゃないと思うけどね」

 

性格には確かに癖ありそうだけども。

 

「なんか従わなきゃいけなくなった経緯があるのかもしれないけど……」

 

「……。」

 

こいつ無表情なようで割と感情が顔に出るな。

 

「それでも、坂柳からしたら助かる人ってのは事実だと思うよ。何かとね」

 

「……。」

 

「んでもって、俺が言いたいのは……、坂柳に恩を売れるってのは相当大きいと思う。これはマジで」

 

「恩って、なによ」

 

「そりゃ恩は恩だよ。なんか買ってきて~とか、見てきて~とか、頼まれる事すべてが恩として売れるようなものじゃん。坂柳だって自分のためにいつも動いてくれる人間は大事にするだろうし、何か見返りを渡そうとすると思うよ」

 

「別に、他にも鬼頭や橋本が居るわよ」

 

橋本って誰だ?

 

「橋本って男?」

 

「そうだけど」

 

「ならやっぱり神室が一番信頼出来る相手でしょ。同性なんだから一番近い存在になるじゃん」

 

「……だったら何よ」

 

「だから、神室が一番坂柳に恩を売れる所に居ると思うよ」

 

「恩を売れたからって何だってのよ!」

 

あれ?怒らせた?なんかストレス溜まってんのな。

 

「坂柳だったら社会に出てもめっちゃ成功しそうじゃんか。あれだけ頭良い人間が失敗すると思うか?なんかの社長やるなりして、あっさりと年収数千万クラスいきそうでしょ。体が弱くても。そんな人間に恩を売れるのは良いことだと思うけどね」

 

「……。」

 

「んで、一番側近になりそうなのは誰かな?って考えたら、現状では神室でしょ?」

 

「だからって……」

 

「まぁそりゃ、今は他に信頼出来る相手が少ないからって神室にばっか頼っちゃってるかもだけど、うーん……俺がAクラスの女子だったら自分から坂柳の役に立とうとしたいくらいだけどね。ただの友人なんかより、部下として使われたいくらいだよ」

 

これは本気だ。あれだけの頭脳が何を考えて、何を指示するのかは間近で見てみたいもんね。

 

「そんなの……私は別に望んでない」

 

「もったいない。多分だけど、坂柳も素直に人を信頼出来ないタイプだと思うよ。だからこそ神室の弱み握ったのか知らんけど、相手が裏切らないと確信してる相手にしか頼れない、とかなんじゃないの?」

 

「……。」

 

もしそうなると、この先も坂柳の部下は滅多に増えず、神室ばかりが酷使されてしまうという事になるんだろうけど……。なんか親無しの子供を引き取って育て上げるヤクザの話を思い出してしまった、それくらいの経歴じゃないと信頼できない的な話。

 

「色々大変かもしれないけど、坂柳も神室を頼るしかない、神室しか信じられない……ってのはあると思うよ」

 

「……そういうアンタは何なのよ。Aクラスに来たり坂柳のために動いてたり、あの女が好きなの?」

 

好きか?そりゃ人として好きだし、異性としても好きだよ。

 

「坂柳の事はかなり好きだよ。でも……俺はまったく信頼されてないよ。後から気付いたけど、先週オセロとかやってた時もずっと鬼頭に警戒させてたし……」

 

気付いた時はちょっとヘコんだよ。俺は龍園じゃないのに、そんな簡単に暴力行為をするわけ無いのに……。完璧に警戒されてたと分かって普通に悲しかった……。あんな暴力チンピラ男と一緒にすな!

 

「……だから、喜んで言いなりになっとけって?」

 

「そう言うと語弊があるけど、視点を変えたら誰よりも坂柳に近付けてる唯一の存在だとは考えて良いでしょ。直接本人に『この学校で3年間しっかり言うこと聞くから、卒業後は恩を返して』とか言っておけば?」

 

「それ、意味ある?」

 

「絶対にあるでしょ。坂柳だったらリーダーとしてちゃんと信賞必罰、賞を与える時には与えて、罰を与える時には罰をって徹底するのは絶対にやる人間なんじゃないの?上に立つ指導者が必ず守らないといけない原則を軽んじるとは思わないけど」

 

これ守らないと誰からも信頼されないリーダーになるからね。何しても報酬が無く、何しても罰せられない組織なんて即座に瓦解するもん。坂柳がそういうの知らず、軽んじるタイプとはマジで思えないぞ。

 

「……。」

 

「今度ちゃんと言ってみなよ。意外とそういう話とか交渉を楽しんでやってくれるタイプだと思うよ、坂柳は。不満まみれでイヤイヤ従うより、『いつか見返りもらうため』とか思ってる方が健全でしょ」

 

まぁ高校では役職無いから「若頭補佐にしてやる!」とかいう約束が出来なくて難しいかもしれないけどね。でも何かしら方法あるでしょ。pp配るとか?

 

「まぁ……、参考にはなった」

 

「そりゃ良かった。……んじゃ、ディーラーの練習付き合ってよ」

 

「……えぇ」

 

少しやる気になってくれたかな?

 

 

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そうして2時間ほどディーラーの練習をしてみたが……、神室は器用っすねこいつ。もうディーラー業に何の違和感も無いな。

 

トランプのシャッフル、かっこよく配る練習、チップ回収、チップ両替する練習などなど。ついでに一緒にプレイヤーやれるかの練習もしたけど、一緒にプレイするのはちょっと無理そうだった、場のベット額がいくつになってるのか把握して、常に何枚ずつ出してるか確認しないといけないから自分の分の手札とか考えてる余裕無さそう。少なくとも俺は絶対に無理。

 

俺も割と慣れて一応出来るようになったけど、うーん……神室がやった方が良さそうだな。いやこれは俺がやりたくないとかじゃなく普通に技量で負けてる感じがする。しかもなんか、クールビューティーがやった方が良いだろってのもある。顔色ひとつ変えず、淡々とカード配る感じとか似合ってんなぁ……。タキシードって施設内でレンタル出来んのかな?めっちゃ着せたい。1万ppくらいなら奮発して出してもいいな。

 

何はともあれ、神室も手順とか慣れてくれたし、俺も一応は出来る感じになれたから安心した。これで本番はしっかり大会っぽく出来そうだ。

 

 

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夜、自室。延々とトランプを触っていたら絵柄の意味がちょっと気になったので調べている。やっぱり、シンボルに意味があった。雑学として覚えておこうかな。

 

クラブ ♣:春、知識、棍棒、農民、火

ダイヤ ♦:夏、お金、貨幣、商人、地

ハート ♥:秋、親愛、聖杯、僧侶、水

スペード♠:冬、死去、刀剣、騎士、風

 

せっかくだからポーカーの参加者で例えてみようか。人間なのはKing,Queen,Jackだけになるけど。

 

坂柳はクラブのQかな。知識豊富な女王。

神室は、坂柳の従者としてクラブのJ?でもクールだから水っぽいし風っぽくもあるな。分からん。

 

一之瀬は親愛のある女王、ハートのQだろうな。櫛田もまぁそうでしょ。

神崎は親愛のある従者?戦士?でハートのJ。

 

龍園はスペードのKやろな。暴力マンだし。

俺は……金好きだからダイヤかな。JでもKでもどっちでもいいや。

 

堀北、知らん……。なんとなくクラブのJかな?

 

4種類の柄と3種類の役、12種類での人物分類はちょっと無理があるか……。そういえばJOKERもあるけど、JOKERっぽい人間は思いつかないな。

 

詳しく人物像を分類するならタロットカード使った方が面白そうかな……。それは、もうちょい知り合い増えたら調べてみよう。

 

 

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ポーカー大会当日。

 

1週間前に神室とディーラーの練習をしてからのこの7日間、ルールの補足などをしてたけど……意外と楽しみな1週間を過ごせた。ワクワク感があった、誰が強いのかな~、勝てるかな~とか。

 

そんなウキウキ気分で放課後の娯楽室に居たのだが、今はなぜか部屋に緊張感が漂っていた……。時間ギリギリに来た龍園が原因だ。このトラブルメーカーめ。せっかく伊吹の紹介とかで良い雰囲気になってたのに。

 

「龍園くん、Bクラスへの嫌がらせを辞めてくれないかな」

 

一之瀬が珍しく怒った様子で龍園に詰め寄っている。そりゃその話になるよね、ってか龍園もまだやってたのかよ。6月入ってからもう3週間くらいだぞ……、1ヶ月近くも嫌がらせやってんのかよ。

 

「ククク。なんのことか分からねぇな……。ウチのクラスのやつが勝手に何かしてるみたいだが」

 

「嘘言わないでよ。龍園くんの指示でしょう?」

 

「クク、知らねぇなぁ」

 

「このっ……!」

 

龍園による嘘丸出しの戯言に憤慨する一之瀬。うーん、申し訳無いが怒ってる一之瀬も可愛いな。

 

「まぁ俺の知ったことじゃないが、ウチのクラスが迷惑かけてんなら俺が辞めさせてやるよ。……ポーカーで俺に勝ったらな」

 

「言ったね?絶対だからっ!」

 

はぁ?「もしCクラスが優勝したら」って言えよ、敵を増やしてどうすんねんこのクソアホ。何で勝ち筋減らしてんだ?このボケ。……いやまぁ、Bクラスの2人が全力で手を抜いたらゲームとしてつまんなくなっちゃうけどさぁ……うーん……。

 

そしてこんなやり取りを、坂柳はいつも通り微笑みながら見ており、櫛田は困ったような笑顔、堀北は冷たい目で見ている。三者三様だな。

 

ついでに伊吹は騒動を無視して役の一覧を確認していた、このマイペースっ子め。でもまぁ龍園が挑発してる光景なんて飽きるほど見てるだろうし、見ててそれほど面白いもんでもないもんな。

 

男子といえば、神崎は一之瀬のすぐ横で龍園を警戒している。そして鬼頭は相変わらず坂柳の後ろに控えており、坂柳の護衛をしてるようだ、参加はしないみたいだな。

 

「クク、坂柳に一之瀬、それに鈴音かよ。俺の獲物だらけじゃねぇか」

 

何言ってんだコイツ。少なくとも一之瀬は神崎のものだろう。

 

「ふふふ、龍園くん。今日は楽しみましょう」

 

楽しそうな坂柳。挑発されるの好きなのかな?

 

「龍園くん、アナタに私を名前で呼ぶ権利は無いわ」

 

下の名前を呼ばれた堀北が不機嫌そうに反論していた。

 

「スズメ?」

 

「……。」

 

「……テメェは黙っとけ」

 

えっ、なんか俺が悪い感じになってる。スズメって言ったじゃん……。堀北は軽くこちらに目を向けたがすぐ逸らされてしまった。俺に苦手意識あるのかも?そりゃまぁそうか。

 

てかポーカー始めようよ!なんだこのやり取り!?

 

「あー、じゃあそろそろ始めよう!疑似クラス対抗戦だ!」

 

そうして、勝っても負けてもほとんど何の意味も無いけれど、それぞれのプライドを賭けたポーカー大会は開かれた。

 


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