Game 2 Round 3
1ゲーム、10ラウンドをしっかりプレイしたことで、全員が『無理して乗るのは危ない』『ハッタリは基本的に損する』『毎ラウンド参加費として100ずつ取られるし黙ってるだけだと絶対に勝てない』『龍園の無駄レイズむかつく』あたりを理解した状態で始まるニューゲームだ。
1回くらい俺がディーラー替わろうかとも思ってたんだけど……神室が集中してて似合いすぎてるし、今日は俺もゲーム楽しんじゃってるから無理だな……。ポーカーはどうしたってその日の運が影響するけど今日はそんなに悪くない。そのせいで変わる気が起きない……。今度違う場でやらせてもらおう。神室に後でありがと言っとこ。
「……虎徹、アンタだよ」
お?気付けば俺の番だった、伊吹に注意されてしまう。ボケーッと手札眺めて色々考えてたらゲーム忘れてた、手札は『74683』か。このストレート狙えそう?どうせ無理!感あんまり好きじゃない。
「ん~……フォールド」
「じゃあ私は、レイズ」
チャリ、と鳴るチップ。心なしかちょっとだけテンション高そう?な伊吹、良い手札っぽいかな。頑張れ伊吹!龍園から巻き上げろ!
「私はコールで!えっと……、伊吹さんは虎徹くんと仲良いの?」
「……クラスが一緒なだけ」
あ、アカン!虎徹呼びしてくれる美少女2人、伊吹と櫛田が席並んでるじゃねぇかこれ!今更気付いた。私のために争わないで!
「そう?もしかして……付き合ってたりするの?」
櫛田がいたずらするような笑顔で聞いてきた。
「バレた?」
「違う!」
「おげっ」
横に座ってる伊吹から脇腹パンチを食らった。普通に痛い、というか苦しい……。
「次バカなこと言ったら、本気でやるから」
今のも本気だろ……。
「分かった分かった」
「あ、あはは……」
櫛田が苦笑いだ。神崎もちょっと呆れた顔を向けてくれていた。
こんなやり取りを龍園、堀北が完全無視なのは分かる。けど意外にも坂柳と一之瀬の2人もまったくこちらを見てなかった。お互いに観察しあって、何か読み取れないか……みたいな攻防を視線で繰り広げている。なんか必死だ。は~大変っすね……。
忘れかけてたけど、一之瀬にとっちゃBクラスへの妨害を辞めさせる大事なゲームでもあるのか。てか既に1ゲーム目は龍園が取ってるしそりゃ必死か……。俺からしたら、そんな約束を龍園が守るとも思えないし、勝っても負けても「飽きたからやめてやる」とか言いそうだと思うけど……勝負に水を差しちゃうかもだから言わんとこ。龍園ぶっ倒す!モードの真剣一之瀬なんて二度と見れないかもだし。
……なんて考えながら眺めていたら、このラウンドは最初からジョーカーを持ってたっぽい一之瀬がフラッシュで勝利した、お見事。そりゃ最初からジョーカー手元にあれば龍園のレイズ祭りもハッタリだって分かりやすいもんね、伊吹もツーペアで悪くなかったけど……まぁナイスチャレンジってやつだな。
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2ゲーム目も終わった。
相変わらずアホほどレイズする龍園は6ラウンドあたりでチップを使い果たして破産してた。アホかな?「クク、終わったから良いだろ」とか言って歩き回って手札を覗こうとしてたけど、一之瀬と堀北に睨みつけられ、坂柳からの「ダメですよ龍園くん」宣言と鬼頭からの強制連行で席に戻されていた。うん、アホだな。その後「便所だ」言うて出て行った時も、全員が手札をしっかり隠したのは面白かった。
龍園が消えたお陰で落ち着いてみんなプレイして、常識的なレイズ額が続いた2ゲーム目では……一之瀬、堀北の1位争いだった。ゲームとしても割とみんな楽しんでくれてたっぽい良いゲームだった。害悪なロン毛が居ない方が確実に楽しめてたな。
そういや伊吹は手札良くないと不機嫌そうになっちゃうのがダメだな……。まぁかといって龍園みたいにワンペアだけでも偉そうにレイズしまくったり、とかする子にはなって欲しくない。
他には、櫛田は目立ってないけど、しっかりと相手の様子から降りるべき時に降りてる感じがする。あとはなんていうか、それほど勝ちたいという気持ちが見えない。なんか付き合いで来てくれただけ?で楽しんでなかったら申し訳ないね……。
最後は一之瀬が『9,Joker,J,Q,K』のストレート、ぎりぎりロイヤルじゃないストレートで勝ち抜き、1位を取っていった。おめでとう。
それにしても2ゲームやっただけで余裕で1時間半くらいかかってるな。
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Game 3 Round 1
「時間的にこれが最後っぽいね」
一応言って確認しておく。……誰からも反論無いけど、これは賛成だからなのか、みんな配られる手札を確認して集中しているからなのか、俺が無視されてるのかが分からない……。
「うわっ!フラッシュだ~!」
ちょっと寂しかったので手札を配られてすぐ堂々と嘘をついてみたが……、誰も反応してくれない。みんなチラッとこちらを見てすぐ手札に視線を戻していた。真横に居る龍園なんかこちらを見もしない、顔面ビンタしたろかこの野郎。
手札をちゃんと見たら『68769』でワンペアだった。カスだね。文字が似てるせいでもうちょい揃ってそうな雰囲気あったのに……。あ、でも6を捨てて5か10来たらストレートかこれ。一応狙ってみよう。
ベッティングでは、坂柳と珍しく神崎もレイズ、龍園も無思考レイズ、そして俺も当然レイズだ。伊吹はフォールド。そして続くメンバーは、さっさとコールしておかないと龍園のアホに無限レイズされてしまうというのを把握してるので、コールで統一。場のベット額は1人500、まぁまぁ。
そして手札交換のターン、6を捨てて1枚もらう。
「……交換してるじゃねぇか」
は?何の話?いきなり龍園が話しかけてきたけど何のこと?いちゃもん?……あぁ、フラッシュって言ったからか。
「嘘に決まってんじゃん」
「……。」
無視して続けちゃおう。さーて来たのは……クラブのJ!はい、終了!やる気無くなっちゃったな~!
「フォールド!」
「……まだ浅井くんの番ではありませんよ」
坂柳が呆れた目で指摘してきた。あ、そうでしたか……。
ちなみにこのラウンドは龍園が普通に勝ってた。コイツなかなか運良いよな……。だからこそハッタリが効いちゃうクソ迷惑な存在って感じだ。たまに上手くフォールドするのもなおさら腹立たしい。
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Game 3 Round 7
全員が「必ず1人がレイズしまくる」という状況にも慣れた3ゲーム目、龍園が居てもそこそこ楽しめてそう。1ゲーム目より良い状況って言えそうだ。
ラウンド7、今回含め残り4ラウンドの現状で、持ち金は以下の通り。
坂柳 :7700
一之瀬:1300
神崎 :10400
龍園 :5500
俺 :2600
伊吹 :2700
櫛田 :3200
堀北 :6600
割とじっくり楽しんでて忘れてたけど、そういえば俺は龍園に勝ってもらわないといけないんだったな……。
坂柳は結構レイズする上に、運もなかなか良かったっぽい。あっさりフォールドすることもあるし……。ただ何より「本当に良い役持ってそう」と思わせるのが上手かったな。自信溢れる美少女の微笑、そりゃあ少し信じちゃう。
一之瀬はやはり焦ってしまって乗りやすくなってたのが響いてたかな。結構良い手もあったけど、3ゲーム目ではギリギリで2回くらい負けて結構落ちちゃってた。まぁしゃーない、そういう運ゲーではあるからね。
神崎は無難に「良い手の時だけ乗る」の典型例だと思ってたら、ワンペアなのに最後まで競って最後勝ってた、A2枚だったとはいえお見事。ハッタリ効かせた勝ちのお陰で現状1位だ。龍園と違って普段からの信頼があるからこそ、嘘ついた時の威力は強いね。
龍園はずっと手札交換前から必ずレイズする迷惑な存在だ。それでもボロ負けしてないで悪くない位置につけてるのは妙に観察眼があるみたい、降りる時は降りてる。だったら初手ほぼレイズもやめろよと思わなくもないけど。
俺は最近景気悪いっすね~。ノーコメント!3ゲーム目に限ればディーラーやってても良かった。
伊吹はなんか知らんうちに負けてんな。2ゲーム目はかなり上だった気がしたけど……龍園との相性悪いんちゃうの?あと引いたら負けみたいなこと思ってそう。んで負けてそう。
櫛田は『今日そんなやる気無い説』が俺の中である。実力を隠してるのかもしれないけど……、他人の顔色見て「今のは嘘かな、どうかな」的な観察を楽しんでるだけでゲームはどうでもいいみたいな雰囲気ある。思い違いかもだけど。
堀北はやっぱ思考力あるみたいだけど、ハッタリ見抜くのとか、ハッタリすることは無く、適切な対応を取り続けて手札の強さ次第で勝つ時は勝ててる感じ。多分。
そんな状況で俺はちょっとやる気失くしちゃってたけど、相変わらず龍園のレイズが聞こえてきた。
「レイズだ。……浅井、お前もレイズしろ」
はぁ?……でもまぁ、最後くらいズルしていいかな。
「なに、勝てそうなん?」
本当はやりたくなかったけど、堂々と組んでしまおう。だってもう俺勝てそうにないし、けどCクラスとしては勝ちたいし。
「あぁ。しろ」
「じゃあ……レイズ!」
「伊吹もだ」
「チッ……レイズ」
これだけであっという間にベット額400だ。3人組んだら簡単にMaxの1人1000ベットに出来るねこれ。
「あはは、……私は降りておこうかな。フォールド」
「……コール」
櫛田は降りたけど、堀北は乗るらしい。まぁ1回くらい1位取っておきたい、そろそろ勝負に乗っておかないとっていう判断かな。
「……ふふふ、では私もレイズで」
一之瀬はもう降りてた、流石にこのゲームは勝てないやろな……。
「どうする一之瀬……」
こちらが堂々と組んだのを見てBクラスの2人もコソコソ相談してる。あっ、ちょっと羨ましい……。内緒話、距離近いなぁ。
「……ううん、自信の無い手札だったら降りた方がいいと思う。龍園くんにプラスになっちゃう」
「そうか……。フォールド!」
このベット額が確実に1000まで上がるとなると、手札交換のあとも1000になるってことで参加するだけで2000削られちゃうもんな。勝てば優勝ほぼ間違いないけど、かといって乗ればいいもんでもないし……まぁ良い判断なのかな?……あれ?でもこの場で1位取ったやつがすぐフォールドしちゃえば終わりみたいな気もするけど……。焦ったのかな?
「レイズだ」
「またレイズ?」
「あぁ」
「伊吹、どうしようか……?」
さっきの神崎一之瀬を真似て内緒話をしようとしたが、冷たい目とパンチングポーズで黙らされてしまった。ちくしょう……。
「……レイズ」
「レイズ」
「私もレイズよ」
「ふふ、レイズです。これでベット額は1000ですね」
どうせコールしてもCクラス3人にレイズされてしまうからと堀北、坂柳の2人もレイズして、他全員もコールした。これで本日2度目?3度目?となる最高ベット額、Maxの1000だ。……手札交換前にもう場の総額が6000以上になった、やべぇな。
手札交換、ジョーカー2枚来い!……とノリで手札5枚全交換したけど、まぁ来るわけもなく。『A455J』でワンペアだった。しょぼい。
他のメンバーは、坂柳は1枚交換。龍園は交換無し。伊吹は面倒くさがり交換無し。堀北は2枚交換だった。
そして2度目のベッティング、龍園、俺、伊吹が必ずレイズしていき順当にベット額はMax1000になり、場の賭け金総額は5000プラスされた。坂柳はずっと微笑だし、堀北も焦る様子を見せず無表情のままだ。……堀北のことちょっと見直したな、意外と強い。
「それでは、オープン」
龍園は『Joker,K,K,2,2』のフルハウス!良いじゃん!
そして坂柳は『Joker,Q,Q,Q,7』でフォーカード!!
ってことは、
「うぉい!……負けてんじゃねーか!!」
「……クク、やるじゃねぇか坂柳」
「クク、じゃねー!!!」
はっ!……思わず全力で吠えてしまった……。
「うるせぇよボケ」
ボケはおめぇだろ!
「ふふっ、……私の勝ちですね」
ちなみに伊吹は役無し、それで堀北は……『6,6,6,A,7』スリーカードか。そこそこ良かったのね。
そういう訳で、点数は以下の通り。
坂柳 :16500
一之瀬:1200
神崎 :10200
龍園 :3400
俺 :500
伊吹 :600
櫛田 :3100
堀北 :4500
もう話にならないじゃん……。あーあ。……いやまぁフルハウスは賭けに出るのに妥当かもだけど、はぁ~……。
そして残りラウンド2つ、坂柳は「勝ち逃げつまらないからやらないよ」的に気を使ってくれたのか毎回のようにレイズしてくれたけど、まぁ差はほとんど縮まることなく、普通に坂柳の圧勝で終わった。
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Game End
「という訳で、総合優勝はハイスコア14900の坂柳さんです。拍手~」
なんとなく拍手~を言ってみたけど、意外と全員がパチパチとやってくれた。もちろん龍園は除いて。
「では坂柳、一言どうぞ!」
そう振ってみると、坂柳は歩行杖を持って律儀に立ってくれた。
「今日は皆さんありがとうございました。とても楽しかったです。……頭脳戦という意味では正直物足りない部分はありましたが、運と、嘘と、性格。表情、視線、プレイ傾向、癖など色々な部分を楽しめるゲームとして、ここまで楽しませてもらえるとは思いませんでした。あまり大人数でこういうゲームをしたことありませんでしたが、ここまで楽しいとは思っていませんでした。ありがとうございました」
おっと、割と本気で楽しんでくれたっぽいかな。良かった良かった。……まぁあれだけ大勝すれば気分も良くなるか?
「私たちは今後、クラス同士で競い合っていくでしょう。その際にはきっと今日のポーカーを思い出すでしょうし、それを踏まえてさらに全員が深く考え、成長してくれるよう願っています。私のAクラスを脅かす存在が出てきてくれるように願っています。……今日は来て頂き、ありがとうございました」
なんとなく全員パラパラと拍手する。……なんかちょっと挑発してるよねこれ。上から目線、わざとやってるのか、自然とそう言っちゃうのか……。まぁ、可愛いからええか。
こうして、あっという間に2時間以上経ってたポーカー大会は、龍園、一之瀬、坂柳が1度ずつ優勝したものの、最高スコアで圧倒的差を付けた坂柳の総合優勝で終わった。
あれ……、でも……あっ!思い出した!
坂柳に『虎徹くん』呼びしてもらえないじゃねーか!!!
葛城くんだったら1位取った後にひたすらフォールドしそう。