ビバ!豪華客船!
アロハ~!アイムコテツゥ、ペヘア・オエ?(お元気ですか?)
7月31日、夏休みに入った今、俺は太平洋の大海原を豪華客船で航海中だ。この船旅で豪遊していい上に、学校が所有する無人島でも遊ばせてくれるらしい。うひょ~!やったぜ。……ハワイ旅行ではなかったか。
1学期を頑張ってきた『ご褒美』なのか、学校側はなぜか夏休みに入った俺達に学校が豪華客船での2週間旅行をプレゼントしてくれた。そういう訳で今は海の上だ。
振り返れば、7月はpp配布遅れと期末テスト対策と、まぁ……あまり楽しくなかった。
期末テスト対策は、また俺が石崎達の面倒を見ることになり……。龍園に軽くボコられた三兄弟は普通に落ち込んで大人しかったのでやりやすくはあったけど、だからといって元気無い感じだったのは少し一緒に居て不憫だった……けど自業自得か。なんで偽の監視カメラを信じたんだよ?とはやっぱ思わなくもない、でもなんか可哀想だから聞かないでおく。……反省はしてるみたいだからええか。
結果として、前と同じようにテスト対策して、また同じように全員の赤点回避は出来てた。めでたしめでたし。「せっかく教えてやったのに前より点数下がってんじゃねぇか!!!」とちょっとキレそうになったが、そういや前は過去問あったなぁというの思い出して落ち着けた。
ちなみに俺は点数ほぼ変わらず、クラス内順位はちょっと下がってたかな。それでも半分より上だからいいや。
考えてみると、過去問はなんで無かったんだろうか。初回のテストほど参考にならない、もしくは逆に過去問以外から出る方が多いから邪魔になるとかいう判断なのかな。……龍園のみぞ知るって感じだな。
まぁいいや。下界のことなんて今は考えなくていいだろう。セレブ気分で楽しみまくろうじゃないか。
「虎徹、昼メシ行くか?」
同室の石崎が声をかけてくれた。
「ん、そうね。行く」
ただ、それぞれ4人ずつの部屋で同部屋が『龍園、アルベルト、石崎、俺』っていうメンバーなのは、なんか……不良グループにぶち込まれた気がして複雑だな……。俺みたいな優等生を何だと思ってるんだ。誰が部屋割を決めたんだ?坂上先生か?そういうことするから生徒に人気無いんだぞ!
俺は伊吹、椎名、あと西野か山下あたりと4人部屋が良かったな……。
「……お前は女子じゃないだろ」
「あれ?口に出てた?」
「女子は女子だけ、男子は男子だけで4人部屋だぞ」
「知っとるわい」
むさ苦しい同部屋メンバーから現実逃避してただけだ……。
でもまぁ、アルベルトとは最近話せてなかったし、龍園とも直接対面して話せる機会は……襲撃以来で初だな。そう考えると良い機会かもね。石崎とアルベルトも居るから、なぜか馴れ馴れしいヤツ、くらいの感じで会話出来るんじゃないかな。
ちなみに龍園はアルベルトを自慢するように連れ歩いて、今も2人でどっか行ってるみたいだ。まぁ気持ちは分からんでもない、超巨大ムキムキ黒人ボディーガードって感じだし。大統領みたいな気分になれそう。
同じように石崎も連れてる事もたまにあるし、そうなると石崎と2人で歩いてる俺が龍園との繋がりを疑われちゃうような気もするけど……ま、ええか。同じクラスとして不自然ではないだろう。ポーカー参加してるリーダー陣は俺と龍園そんな仲良いとは思ってないだろうし、気にすることもねぇわな。疑われたって「同部屋なだけ」「俺は龍園嫌いだよん」とか言えば良いだけだし。実際に嫌いな所いっぱい言えるし。
「……行かないのか?」
「あぁごめんごめん。……龍園の悪口考えてたら色々思い浮かんじゃってね」
「その、虎徹……、前から思ってたんだが、龍園さんにそういうの聞かれたらマズいだろ……」
あ~、そうなるか……。心配してくれてるっぽいし素直に受け取っておこう。
「まぁ……そうね。気をつけるよ」
「あぁ」
「よし、じゃあ行こうか。高級レストランのステーキとハンバーグの食べ比べしてみようよ」
石崎にファミレスでステーキを奢ってもらった後、『もしかして同じ値段ならステーキよりハンバーグの方が美味しかったんじゃないか?』って気付いた。後の祭り。けど、もし最高級のステーキと最高級のハンバーグだったらどっちが美味しいんだ?……気になる。
「お、良いなそれ。行くか!」
何はともあれ、実際に行ったらいくらかかるか予想も出来ない高級感溢れる船の施設を楽しみまくろうじゃないか。
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夜、タダで食える豪華レストランの肉料理でステーキとハンバーグ、そして時間を置いてもう1度行って食ったシュラスコとかいう串肉料理まで堪能しまくり、2日分くらいのカロリーを取ってベッドの上で死にかけている。今日一緒に行動してた石崎も似たような感じだ。それにしても、やけにフカフカなベッドだな……これが高級ベッドか……。
え?ハンバーグとステーキどっちの方が美味しかったのかって?食い過ぎて忘れたよそんなもん。牛も豚も鳥も、あと羊も?食って忘れた。食いすぎて死にそうだし。
てかメシ食ってばっかりだったな……。聞こえてくる声ではプールとか人気みたいだし明日は行ってみよう。ただ劇場とかスパとかは全然興味無いな……。もしかして……遊べる場所そんなに無い?
ゴロゴロとベッドの上で端末をいじっていると、龍園とアルベルトが帰ってきた。
「おかえりアール。Where did you go?」
「……Gym」
「ジム!?」
ジムなんかあったのかよ。はー、なるほど、行ってみたいな。明日行こう。……それにしても高1なのに豪華客船に来てまでジム行くのってすげぇな。筋肉教だな。
「えーっと、龍園……さん、もジム?」
さん付けしたくねぇなぁ……。でも石崎に心配されちゃってるからなぁ……。なんか同部屋で無視するのも良くないかなと話しかけてみたら、
「クク……キモい言葉遣いはやめろ浅井。……この2人には言っていい」
「はぁ?何をやねん」
おっと、思わず素が出た。
「……見ての通りだ、石崎、アルベルト。浅井と俺は裏で繋がってる」
キモいこと言うな!俺はホモじゃねぇ!
「ど……どういうことっすか?龍園さん」
困惑しまくりの石崎。
「クク……。ある種、対等な関係なんだよ、俺と浅井は。俺の下でもないし、俺の上でもない。裏で意見交換してる……ある程度認めてる存在だと言っていい」
認めてる?初耳だぞ。
「えっ……。じゃあ、その……椎名みたいな存在ってことですか?」
「まぁ、そんなもんだ」
「そ、そうだったんすね……」
「一応この情報は伏せておけ、誰にも言うな。浅井は俺を嫌ってるという認識されといた方が動きやすいだろうからな」
そういやそういう設定だったな。尊敬したり好きな部分もあるけど、無理なく普通に嫌ってるから忘れかけてたよ。
「りょ、了解っす」
「……OK, BOSS」
「さて、丁度いいから言っておくが……、お前ら2人は俺からの指示が無かった場合、浅井の指示に従え」
「えっ?」
「……?」
「はぁ?なんで?」
俺含め3人とも困惑顔だぞ。なんでやねん。
「別に普段は当然2人とも俺の部下だ。けど俺の目が届かない、俺の声が届かない場合ってもんがある。……この前、須藤をハメようとした時みたいにな」
それを聞いて明らかに体を緊張させる石崎、どんだけ後悔しとんねん。龍園がちゃんと説明しなかったのが悪い!って開き直っとけよ。
「そういう時は浅井の意見を聞くといい。……必ず従えとは言わねぇが、役に立つ、参考になることもあるだろう」
どういう指示だよそれ。言うなら必ず従えとか言えばいいのに……。
「まぁ良く分からんけど、この部屋の中で気にせず話せるってのは気楽だね」
「あぁ」
「じゃあ……恋バナしようぜ!」
「……バカか?」
「うるせぇロン毛」
恋バナしない方がバカだ。
……そして石崎はまだ驚いた様子で俺と龍園のやり取りを見ていた。なんだその顔……。
アルベルトは全然変わんないや。謎の黒サングラスも変わらんなぁ……。夏休みならトロピカルなサングラスにでもすればいいのに、黄色やピンクで星型とかの。
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「じゃあ龍園からで。誰か気になる女子は?」
「……鈴音だな。今の俺の獲物はアイツだ」
「堀北?……なんで?」
「クク、俺の邪魔をした報いを受けさせてやるんだよ……」
あーあ、かわいそう。てかそれ好意の対象じゃなくてイジメの標的だろ。恋バナっつってんじゃん、話の通じないヤツめ。
「レイプすんなよ?」
「……しねぇよ、このバカ」
めちゃくちゃレイプしそうな顔の癖に。週2くらいでしてそうな顔だぞ。
「石崎は?」
「あ、あぁ……そうだな……」
まだ俺と龍園のやりとりに困惑してんのかよ、切り替えろよなぁ。
「好きまでいかなくても、気になってる女子は?」
「あ~………女子と絡む事自体が、あんまねぇな」
「そ、そっか……」
なんて悲しい回答なんだ……。涙が出そうになる。
「アルベルトは……」
「……。」
聞かないでおこうかな……。なんかキツいな、どれだけ恋バナの似合わない集団なんだ。
「テメェはどうなんだよ、浅井」
「俺?今やっぱ伊吹が一番好きかな」
「あ、伊吹が居たか」
石崎なんだその反応、女子として忘れてたのか?……今度伊吹に言っちゃお。
「あとは、Aクラスなら坂柳が好きだけど、恋愛対象ではないかもなぁ……。どちらかと言えば神室の方が可能性を感じるかも。Bなら一之瀬が好きだけど、神崎に勝ち取って欲しい気がする。他には……Dクラスの櫛田は結構好きだな。ちなみに堀北は美人だと思うけど、カケラもいらない」
龍園の趣味は悪すぎる。
「めっちゃ名前出したな……」
石崎に呆れられてしまった。普通じゃい!……多分。
「坂柳は今回来てねぇぞ」
「は?……どゆこと?」
「この船自体に乗ってねぇ」
「うっわマジで?……寂しいな」
「クク、つまりは体が不自由な人間には参加出来ないような特別試験が待ってるってこった。……ククク、楽しみだなぁオイ?」
「いや別に……」
全く楽しみじゃないけど、むしろ大変そうで嫌だけど……。てか特別試験あんのかよ。こういう事で無意味に龍園が嘘つくとは思えないから、十中八九あるんだろうなぁ。めんどくっさ。
「だから今回はAクラスの葛城で遊んでやるのさ」
「葛城……そういや会ったことないや」
「……ハゲだ」
「ハゲた?マジかよ」
そのロン毛はカツラだったのか……。全然気付かなかったぞ。
「……違ぇよボケ。葛城がハゲだっつってんだ」
「はぁ?高1でハゲが居るわけ……あっ!居たなそういや!」
入学式前のバスに居たじゃないか!……どんな奴だったっけ?忘れちゃった。4ヶ月も前だもん、覚えてないよ。
「そのハゲが今Aクラスをまとめてるってこった。クク、見ものだぜ」
誰目線やねんコイツ。
「なんにせよ、特別試験があるならCPが大きく変動するとかなんとかでしょ?」
「あぁ、そうなるはずだ」
「もうちょい増やしてね。頼むよ」
「そのつもりだ」
「今の所は減らしてばっかのクソリーダーだぞ。求心力が無くなっちゃうぞ」
「……うるせぇよボケ」
「事実だぞ、アホ」
それにしても、今まで龍園とは電話やチャットばっかりだったから、こうやって直接話すのなんか……新鮮だな。なんか割と普通の友人っぽいね。……ちょっとだけ楽しいかも。
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さて、寝る前に坂柳にチャットしとくか。「今回来てないってマジ?」と。
【坂柳有栖】:今回は留守番です
【坂柳有栖】:楽しんで来て下さい
返信はっや。誰かとチャットしてたのかな。
【浅井虎徹】:今電話してもいい?
【坂柳有栖】:構いませんよ
【浅井虎徹】:ちょい待って
さて、客室で電話したら話し声が申し訳ないな。外に出るか……。ラウンジとか電話しても迷惑にならない所あったでしょ多分。
「ちょっと電話してくる」
「相手は誰だ?」
龍園がなぜかすぐ反応してきた。
「……坂柳だけど」
なんで聞くんだ?
「ここでしろ」
「はぁ?なんで?」
いや別に良いけど……。迷惑じゃね?
「お前が余計な事を言わないか聞いといてやる」
「余計なお世話じゃい!……まぁいいけど。でも横でしゃべらないでよ?」
「あぁ」
「石崎もね」
「ん?……あぁ、分かった」
ウトウトしてたのかな。あとアルベルトには……言わなくていいか。いつも静かなクールガイだ。
「じゃあ電話するね、静かにしといて。……もしもーし!」
「こんばんは浅井くん。船旅はいかがですか?」
「楽しいっていうより、美味しいって感じだね、船内レストランめっちゃ良かったよ!食い過ぎて味ほぼ忘れちゃったけどね。ただ、その……坂柳はなんで来なかったの?」
「……体調が優れませんでしたので」
なんか本気で悲しそう?悔しそう?な声だ。いつも世話になってる医者の近くに居ないとダメそうだった、とかかな。そりゃあ参加したかったか……。
「あー、それは、お大事に……」
「私の分まで楽しんできて下さいね」
「ん、そうする。……でもなんか特別試験あるかもだけど、坂柳としては自分が関わってない所でAクラスのクラスポイントが変動するの嫌じゃないの?」
「ふふ、えぇ、大丈夫ですよ。葛城くんが頑張ってくれるでしょうから」
「そう?……ホントぉ?」
怪しいな~。派閥戦争で敵対してるならミスしてくれた方が嬉しいとかありそう。
「何か疑問がありますか?」
「詳しくは知らないけど、葛城派と競い合ってるんでしょ?……葛城が失敗してくれた方が坂柳としてはAクラスでの影響力が増してええんちゃうの?」
「……ふふ、そうかもしれませんね」
ってことは、坂柳派はある意味で味方?敵の敵は味方として成り立つ?Aクラスの坂柳派にスパイみたいなことしてもらえたりする?
たまにはCクラスの役に立っておきたい気分もあるから聞いてみよう。
「坂柳派を味方につける、みたいなのって可能?」
「……いえ、それは許可しません。私が堂々と足を引っ張ることでAクラスが負けても、それは葛城くんの評価とは関係なく、ただ私の評価が下がるだけになるでしょう。そして、私はそういう形での足の引っ張り合いをするつもりもありません。ただ純粋に、葛城くんの力で勝負を付けてもらわないと……つまらないです」
「なーるほど。良い悪い問わず、葛城がリーダーだったらどうなるかってのを見たいって訳か」
「そうなりますね」
「んでもって、葛城が上手くやったらAクラスは伸びるし、悪かったら坂柳の勢力が増す。どっちでもいいって感じか」
聞き耳を立ててるであろう龍園達へのサービスがてら説明っぽく確認する。
「えぇ、そうかもしれません」
「どちらかと言えば、どっちが良いの?」
「……ふふ、どうでしょうね」
いつもの微笑みがハッキリ思い浮かべられる声だったけど、まぁ間違いなく葛城が失敗した方が喜びそう。CPもっと欲しい!ppもっと欲しい!なんて俗物的なこと全く考えて無さそうだし。俺と違って。
「じゃあさ、今回……というと良く分からないから、夏休み中のCP増減でAとCの勝負しようよ。もしCクラスの方がCP増やせたら、今度こそ『虎徹くん』呼びしてよ」
「……では、もし逆にAクラスが勝ったら?」
えぇ、全く考えてなかった……。
「その時は、じゃあ、俺が坂柳を『アリスちゃん』呼びするよ」
「結構です。……必要ありません」
ぐぇ、驚くほどハッキリした拒絶。まぁそりゃそうか。
「ええ~、じゃあ何かして欲しいことある?」
「……では貸し1つということでどうでしょう?」
「うーん……」
坂柳に貸し1、怖すぎる……。何させられるか分かったもんじゃない……。
「勝てば良いんですよ?」
「うわっ、煽ってきた……。なおさら怖くなってきたよ。んん~~~」
やだもう、怖い。自分より圧倒的に頭の良い人が何してくるかなんて分かりゃしないもんな、だったら「龍園くんの金玉1つ潰してきて下さい」とか言われておいた方がまだ全然マシだ。そっちの方が遥かに気が楽。
「……私が何か企んでるかもしれない、と?」
「そりゃそう思うよ、俺より遥かに頭良いんだから。俺が考えてないことも沢山考えてそうじゃん……」
俺は龍園のアホと違って、自分が世界で一番賢いみたいなことをまったく思ってないのだ。自分は多分、半分よりは上くらい……って思ってるくらいが丁度いい。
AとCどっちが勝つか、まず葛城と龍園どっちが勝つかに賭けるような感じだよな。うーん……7:3でウチのボスが勝ってくれそうかな、これは希望でもあるし葛城のこと知らんから何とも言えないけど。
その3割引き当ててしまい、その上でどんな要求が来るかだけど……怖いなぁ。なんかヤバいのだったら、もう無視しちゃおう。しゃーない。ヤバくなさそうでもヤバいかもしれない、ヤバくなさそうだからこそヤバい陰謀とかかもだし、もう基本無視することにしよう。そうしよう。
「……。」
「ん~、要求があまりにヤバすぎたら『無理!』って言うけど、それでもいい?」
「……仕方ありませんね。それで良いですよ」
あれ?でもそう言ったらヤバくなさそうに見えるよう偽装工作されるのか?……余計な事言ったかな?
「んじゃ、夏休み中にAクラスよりCクラスの方がCP増やせたら俺の勝ちってことで。逆にAクラスの方がCP増やせたら、その時はAクラスで葛坂派がもっと優勢になっちゃうってことだよね?」
「Aクラスが勝ったら、浅井くんに貸し1です。……誤魔化しちゃダメですよ?」
「はい……了解。じゃあそういうことでよろしく!」
「ふふ、夏休み明けにどうなるか楽しみですね。それでは、おやすみなさい」
「おやすみ~!」
こうして坂柳に『虎徹くん』呼びしてもらえるセカンドチャンスが訪れたのだった。
「よっしゃ!勝つぞ龍園!」
「あぁ……」
「打倒Aクラス!Cクラスバンザーイ!!」
「……うるせぇ、ボケ」
今は気分が良いから龍園の罵声も無視してやる。
夏休み、浅井虎徹の全力をお見せしようじゃないか。