ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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前回ちょっと良い感じの終わり方だったんですけど、無人島試験のルール説明がどうしても長くなってしまうので、2話ほどお付き合い下さい……。

「そういやこんな感じだったな」的なルール復習みたいに思ってもらえたら幸いです。


ようこそ無人島へ

おはよう、昨日食いすぎた浅井虎徹です。8月1日、朝のバイキングは程々にしたけど昼は何食おうかな~、和食あるのかな~、なんて考えてたら船内アナウンスが鳴った。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

なんだ、もう島着いたのか……。

 

「クク、始まるぜ」

 

そう言うと龍園はさっさと出て行ってしまった。アルベルトも石崎も一緒に付いてってしまった。……俺も行くかぁ。

 

てかこれやっぱもう特別試験だよね。めんどく……いや、でも今回は気張ろう。絶対にAに勝とう。よっしゃ、やるぞ!

 

気合を入れながらデッキに行くと、集まった生徒達が見えてきた。その中でも目立って緊張感無くはしゃいでるのは……あれDクラスだな。いつも元気だなぁお前ら。特別試験だなんて夢にも思ってなさそう。

 

「おい邪魔だ、どけよ不良ども」

 

騒がしいDクラスにわざわざ近付いていった男子がいきなりDの生徒に体当たりをかまして喧嘩を吹っかけた。危ないだろ、下手に海に突き落としたら死んじゃうかもだぞ。

 

「テメェ!何しやがる!」

 

あ、トラブル常連の須藤じゃん。またかよ。

 

「お前らもこの学校の仕組みは理解してるだろ。ここは実力主義の学校だ。Dクラスに人権なんてない。不良品は不良品らしく大人しくしてろ。こっちはAクラス様なんだよ」

 

うっわ、傲慢の極みだな……。Dクラスへの同情心は無いけど、あのAクラスのヤツは腹立つなぁ。Aから脱落した時にどんな顔になるかめちゃくちゃ見たいな……。アイツの顔、覚えておこう。

 

そんな騒動から離れて龍園達を探すと……お、居た。Cクラスのメンバーはだいたいあそこに集まってんな。

 

「おいっす伊吹、おはよ~」

 

「……おはよう」

 

流石に挨拶は返してくれるか。

 

「龍園が絶対に特別試験あるってさ。無人島ならサバイバルかね?」

 

「そうか……」

 

「あと関係ないけど、石崎が『あっ、伊吹も女子か』って言ってたよ。失礼な奴だね~」

 

この上なく堂々とチクる。

 

「は?……喧嘩売ってんの?」

 

あれ?俺が睨まれてる。なんでやねん。

 

「俺は……伊吹のこと、かなり可愛い女の子だと思ってるよ」

 

小声でそう言ったが、

 

「………あっそう」

 

伊吹は冷たい目を俺に向け……近付いてくる島に視線を戻してしまった。

 

うん……反応悪すぎるな!まるで喜んでる様子が無い。もうちょい良い反応してくれてもよくない……?

 

軽くヘコんでいると、なぜか船は島に近付いても一定の距離を保ちながら着岸する様子がない。そして……島の周囲を回るみたいだ。どういう島か確認させてくれてるのか?

 

配慮は嬉しいけど、見てても全然分からんなぁ。森ばっかりじゃん。意外とかなり大きくて、木ばかり、人影は見えない……くらいしか分からん。あ、浜辺は綺麗そうだな。

 

そして島を一周するとまた船内アナウンスが流れた。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定のカバンと荷物をしっかり確認した後、学生証端末を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

端末すら持ち込ませず、か……。めちゃくちゃヒマになりそうだな。ジャージなのはまぁ良いね、動きやすくて結構好きだ。夜は寒くなるだろうし長袖も忘れないようにしておこう。

 

さーて、始まるぞ。

 

 

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ジャージ姿が微妙に似合わない坂上先生に端末を渡してから下船したあと、太陽がガンガンに照りつける暑さにゲンナリしつつ、生徒が全員整列するのを待っていた。というか、ABCD順で下船したので、Dクラスが整列をするのを待っていた。……めっちゃ楽しそうに降りてくるなぁアイツら。

 

なんか暑すぎてやる気無くなってきちゃったな……。

 

ちなみに担任達は全員ジャージ姿だし、見たことない大人達が作業着で特設テントの設営などをしている。雰囲気もなんかピリピリしてるし……これ間違いなく試験だな!

 

別に龍園を疑ってた訳でもないし、8割くらい信じてはいたけど、やっぱあるのか特別試験。龍園いわく「過去のCP変動からして夏休みに絶対ある」とかなんとか。まぁ、豪華客船使ったり島用意したりって、これだけアホみたいに金使って、ただ遊ばせて終わり~なんてことないわな……。俺は遊ぶだけでも全然いいけど。

 

やっとDクラスまで全員が揃い、準備されていた白い壇上にAクラス担任の真嶋先生が上がった。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。」

 

船に乗ってただけじゃん、何の心配しとんねん。

 

「しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかった者が居ることは残念でならない」

 

坂柳のことか、確かに残念だ……。けど無人島サバイバルなら流石に無理があるかもね、そういう意味では体調不良も嘘だったのかな。……無人島に上陸しないで船の中に居たら良かったような気もするけど。医者の関係とかかな。

 

「ではこれより……本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

はい来た~。……でも、あれ?これが最初なの?4月の授業態度うんぬんは特別試験にカウントされてないのか。

 

「え?特別試験って?どういうこと?」

 

誰の声か知らないけど、ちらほらと似たような疑問の声が上がる。……Aクラスのあたりと、我らがCクラスではそういう声ほぼ無いように見えるな。まぁ優秀な生徒達ですからね!

 

「期間は今から1週間。8月7日の正午に終了となる。君たちはこれからの1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。なお、この特別試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的、かつ現実的なものであることを最初に言っておく」

 

だからなんだ?どうでもよくない?……いじめじゃないよっていう言い訳?

 

「無人島で生活って……船じゃなくて、この島で寝泊まりするってことですか?」

 

Bクラスから声が上がる。

 

「そうだ。試験中の乗船は正当な理由無く認められていない。この島での生活は眠る場所から食事の用意まで、その全てを君たち自身で考える必要がある。スタート時点で、クラス毎にテントを2つ。懐中電灯を2つ。マッチを1箱支給する。それから日焼け止めは制限なく、歯ブラシに関しては各自1つずつ配布することとする。特例として女子の場合に限り生理用品は無制限で許可している。各自担任の先生に願い出るように。以上だ」

 

なんか……何もかも足りなくない?

 

テント2つだけって、20人ずつ入れるテントとは思えないし。懐中電灯が少ないのは夜の制限ってことで分からんでもないけど、それにしても……少ない。精々10人分くらいってとこか?

 

無制限物資の日焼け止めも生理用品も俺はいらないから関係ないし。

 

「はああ!?もしかしてガチのサバイバルとか、そんな感じ!?そんな滅茶苦茶な話聞いたことないっすよ!アニメや漫画じゃないんすから!テント2つじゃ全員寝れないし!そもそも飯とかどうするんですか!あり得ないっす!」

 

めちゃくちゃ大声でDクラスの誰かが騒いでる。言ってることはかなり同意出来るけど、必死感がキモすぎて同意したくないな……。でもまぁ確かにアイツの言う通り、ほぼ映画の世界だな。

 

これだけで40人全員が1週間も過ごせる訳はないから……『どれだけ耐え抜けるか』の試験っぽいかな。半数以上は脱落するとして……、『1週間過ごせた生徒1人あたりCP10』って感じかな。最高に上手くいったらプラスCP200くらい。うん、割とありえそうなラインなんじゃないかな。

 

最高でプラス300、最低でマイナス100とかで設定しちゃうと無理しすぎる生徒が出てきそう。このジメジメ蒸し暑く、結構キツい環境下で我慢しすぎたら……熱中症で死にかねない。そうでなくても脳に障害が残りかねない。そんな状況が怖くて大人達がピリピリした雰囲気で警戒してると思えば納得も出来る。

 

Dクラスの大声出してたやつが真嶋先生に「ありえないと思うなんてありえない」的な説教をされていたが、途中変なこと言ってた。バーベキューでもキャンプファイヤーでもしろ?なんだって?

 

「この特別試験のテーマは『自由』だ」

 

何を言うとんねん、このボケ教師……。諦めても良いよって事か?

 

「この無人島における特別試験では大前提として、まず各クラスに試験専用のポイントを300支給することが決まっている。このポイントを上手く使うことで1週間の特別試験を旅行のように楽しむことが可能だ。そのためのマニュアルも用意している」

 

それを、先に、言え!!!

 

真嶋先生はそう言うと結構分厚い冊子を別教師から受け取った。

 

「このマニュアルには、ポイントで入手できるモノのリストが全て載っている。生活で必需品と言える飲料水や食料は言うに及ばず、バーベキューがしたければ、その機材や食材も用意しよう。海を満喫するための遊び道具も無数に取り揃えている」

 

なるほど、それなら全員で1週間耐え抜けそうだな。

 

「つまり……その300ポイントで欲しい物が何でも貰えるってことですか?」

 

「そうだ。あらゆるものをポイントで揃えることが可能になっている。無論、計画的に使う必要はあるが、堅実なプランを立てれば無理なく1週間を過ごせるよう設定されている」

 

なるほど、『どれだけ耐え抜けるか』じゃなくて『どれだけ脱落しないか』って感じか。……いや意味は同じだけど、大多数が脱落するか残れるかの違いは大きい。

 

「1週間遊ぶだけでもいいってことですか?」

 

「そうだ。全ておまえたちの自由だ。もちろん集団生活を送る上で必要最低限のルールは試験に存在するが、守ることが難しいものは一つとしてない」

 

何でもアリだったら物資を殴り合いで奪い合ったりしちゃうもんな。そりゃあルールあるか。

 

「そして、この特別試験終了時には、各クラスに残っているポイント、その全てをクラスポイントに加算した上で、夏休み明けに反映する」

 

まぁそうでしょ。それくらいじゃなきゃやる意味が無い。理論上のマックス加点はCP300ってことか。

 

「1週間我慢したら……来月から俺たちの小遣いも大幅に増えるってことだよな!?」

 

それにしてもDクラスはようしゃべるなぁ、さっきからDクラスばっかりが大声で話してるぞ。楽しそうで良いね。アホっぽすぎて絶対に混じりたくないけど。

 

大幅かは知らんけど、まぁ300すべて残すのは無理じゃねぇの?いやサバイバル経験無いから確実には分かんないけどさ……。

 

「マニュアルは1冊ずつクラスに配布する。紛失等の際には再発行も可能だが、ポイントを消費するので大切に保管するように」

 

1冊だけかよ。1クラス40人居ること忘れてんのか?せめて2冊出せよ。

 

「また、今回の旅行を欠席した者はAクラスの生徒だ。特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスにはマイナス30ポイントのペナルティを与える決まりになっている。そのためAクラスは270ポイントからのスタートとする」

 

坂柳の責任でCP30のマイナス、みたいなもんか?あらら。

 

ただ1人あたり30ポイント……、CPとppもあってややこしいから特別試験ポイント、スペシャルテストポイントとしてSPとするか。サマーポイントっぽくもあるし丁度いいだろ。

 

脱落1人でSP30減点っていうのは結構大きいと思う。他クラスで1クラスあたり10人脱落させれば確実にSPをゼロに出来る、と……。そこまでしなくても、1人や2人でもかなり大きな影響になるんじゃないだろうか。

 

「以上だ。それでは解散し、各クラスの担任から補足説明を受けなさい」

 

真嶋先生がそう宣言すると、全てのクラスがそこそこ急いで分かれていった。

 

Cクラスの生徒達は、誰もが自然と龍園が何を言うか気になりチラチラと見ている。人気だね、ロン毛。

 

そうして、それぞれの担任から追加の説明を受けることになった。

 

 

 


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