こんにちは、南国の孤島に漂流し、必死に生き延びようとしている浅井虎徹です。高温多湿を具現化したような、地獄のような環境で生き延びることが出来るのか！？間違いなく気温は30度を超えてるし、餓死とか脱水症状で死ぬ前に、これ熱中症で死ぬんちゃう？
ゲンナリしながら俺もCクラスも担任の所に集合する。しかし坂上先生は上下長袖のジャージ姿……よくまぁこの暑さで我慢出来るな……。改めて見るといつもはスーツ姿だから新鮮だ。休日の疲れたパパリーマンさん感はあるけど意外とそこまでヒョロヒョロじゃないのな。
「今から皆さん全員に腕時計を配布します。これは1週間後の試験終了まで外すことなく身につけておくように。許可なく腕時計を外した場合にはペナルティが課せられます。この腕時計は時刻の確認だけでなく、体温や脈拍、人の動きを探知するセンサー、GPSも備えており、また、万が一に備え学校側に非常事態を伝えるための手段も搭載しています。緊急時には迷わず使用するように」
絶対に死傷者を出してたまるか、という優しく厳しい管理精神が見えるな。嬉しいはずだけど、今回は悪いことしてでも勝ち抜きたかったので相当に厄介だ。GPSあったら誰が関与してるか分かっちゃうじゃん……邪魔ですねぇ！
「それではこれから腕時計を」
「坂上、先にマニュアル渡せ」
「……龍園、教師には敬語を使え」
「クク、早くしろよ」
「……。」
なにあの無礼なヤンキー、嫌ですねぇ……。てか流石の坂上先生でも龍園には敬語を使わないのか。初めて知った。でもまぁ妥当な対応だね、あんなヤツに敬語使うなんてアホらしいし、木刀で殴りつけてもいいくらいだ。
まるで態度を変えようとしない龍園を追い払うかのようにさっさとマニュアルを渡した坂上先生は、いつもの真面目さで1人1人に腕時計を渡していった。「必ず動作確認をして下さい」とのこと。めんどくさい気もするけど、動かなくて困るのは基本的に俺らだから素直に聞いておこう。ちゃんと装着してるのに『破壊しただろ！』認定や『死んでるやんけ！』認定されるのも面倒だし。
配布が終わると、坂上先生が補足の説明を始めた。ちなみに龍園はかなり集中してマニュアルを食い入るように熟読している。……俺も見たいな、エロい水着とかあるかな。
「その腕時計は完全防水となっています。そして、外した場合はペナルティが課せられます、1週間後まで装着し続けるように。万が一故障した場合は、すぐに試験管理者がやってきて代替品と交換することになっています」
抜かり無いっすね……。壊れたフリして破壊するのもダメってことかよ。
「追加の説明ですが、マニュアルの最後にマイナス査定の項目が載っています。」
そう言って先生がマニュアルを独り占めしているチンピラに目を向けると、龍園は意外とあっさり冊子を……近くの男子に渡した。
「読め、金田。全員に聞こえるように」
「はい、了解です龍園氏。ではまず1つ目は……」
龍園氏？変な呼び方するやつだな。金田は確かCクラスでちょっと貴重な頭良いタイプだ。メガネでオカッパで、かなりムッツリスケベそうな顔だ。俺はあんまり会話したことないな。
そんな金田が頑張って声を張り、みんなに伝えたマイナス査定は以下の4つ。
『著しく体調を崩したり、大怪我をし続行が難しいと判断された者はマイナス30ポイント。及びその者はリタイアとなる』
『環境を汚染する行為を発見した場合。マイナス20ポイント』
『毎日8時、20時に行う点呼に不在の場合。1人につきマイナス5ポイント』
『他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、生徒の所属するクラスは即失格とし、対象者のプライベートポイントの全没収』
「……以上です」
何も出来ねぇな！……当たり前かもしれないけど、他クラスへの妨害にしっかりと罰則を用意している。環境汚染も暴行、略奪、破壊もダメだなんて……。いや、そりゃそうかもしれないけどさぁ……。
島の中だから監視カメラがそこまでカバー出来てないだろうけど、それでもGPS機能のついた腕時計があるせいでバレずにやるの難しいだろうな。本当に正攻法でやるしかないっぽい……。可能なのは『島の食料を先に集めまくる』くらいだろう。
「あの～、先生。点呼というのはなんでしょうか？」
文学少女の椎名が質問した、久しぶりに声聞いたな。
「担任教師は各クラスの生徒と共に試験終了まで行動を共にすることになっています。皆さんが決めたベースキャンプ付近で私も拠点を構え、点呼はそこで行う予定です。ちなみにベースキャンプの変更は認められて居ません、慎重に決めて下さい」
ふーん……。でもまぁ一緒に作業してくれたりってことは無いだろうから、ホントに居るだけとかなのかな。SPを利用する時の手続きくらいってことかもね。
「そのベースキャンプに関する補足説明、さらに追加のルールですが、島の各所には『スポット』と呼ばれる箇所がいくつか存在します。それらには占有権が存在し、占有したクラスのみが使用権を得ます。ただし占有権は8時間しか意味を持たず、自動的に権利は消失します。その都度、他クラスにも占有権を取得する権利が発生することになります」
なんだ？お得なスポット用意してるって話？水源があるとかかな。
「そして、スポットを1度占有するごとに1ポイントのボーナスを得ることが出来ます。ただし、このポイントは暫定的なものであり、試験中に使用することは出来ません。試験終了時に精算されます」
8時間ごとに更新、1日最大3ポイント。7日で理想の最大加点は21ポイント……。スポットがいくつあるのか知らないけど、ベースキャンプ候補ってことはそこまで多くないでしょ？無いよりマシだろうけど、1人離脱でマイナス30って考えるともうちょい加点してくれてもいいのにな……。
「スポットに関しての詳細ルールは次の5項目です」
そう言って説明してもらったルールは以下の通り。
1. スポット占有には専用のキーカードが必要である
2. 占有権の取得1回につき1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用できる
3. 他が専有しているスポットを許可無く使用した場合50ポイントのペナルティを受ける
4. キーカードを使用することが出来るのはリーダーとなった人物に限定される
5. 正当な理由無くリーダーを変更することは出来ない
リーダーに関しては龍園以外おらんでしょ。他クラスのスポットを許可なく～っていうのは、略奪行為の禁止と同じような意味だろうね。……『許可』の定義がどうなるのか、クラスの誰か1人が許可するだけでもいいのか、みたいな詳細は後で確認しておいた方がいいかな。
「そして次に、これが最後のルールとなりますが、特別ルールとして最終日の点呼にて『他クラスのリーダーを言い当てる権利』がリーダーには与えられます。そこで他クラスのリーダーを正しく指名することが出来れば、特別試験ポイント50点が加算され、指名されたクラスは50点の減点がされます。……ただし、指名したリーダーが間違っていた場合、指名したクラスは50点の減点です」
あー、なるほど？
指名成功→SP50獲得、指名されたクラスはSP50減点
指名失敗→SP50損失
ハイリスクハイリターンだなぁ……。だからスポット沢山専有しても、リーダーがバレやすくなっちゃうよってことか。なるほどね。
「リーダーは1クラスに必ず1人決めてもらいます。……リーダーが決まったら私に報告して下さい、リーダーの名前を刻印したキーカードを支給します。報告期限は本日20時の点呼までです。それまでに決まらない場合はこちらで決めることになっています。……以上です」
リーダーってどうせ龍園でしょ。あーでも、そこまで分かりやすかったら指名されちゃうかもなのか……。そう考えると絶対に龍園以外の方が良いか。
同じようにAクラスの葛城、Bクラスの一之瀬、Dクラスの平田＆櫛田＆堀北あたりはあえてリーダーなってなさそうね。当てられたらSP50減点ってのは大きいし、なるべくバレないように目立たない生徒にしそう。それでいて隠し通せる最低限の能力はある人間がいいのか……。
ウチのクラスだったら誰だ？目立たず無表情気味のやつ。うーん思いつかん……、龍園はアホみたいに目立つし、伊吹は意外と分かりやすそう。石崎はアホだから除外、同じように小宮近藤もちょっと信頼度が無いので除外。……アルベルト、表情の分からなさは100点だけど、体が大きくて物理的に目立っちゃうからダメかな……。
俺は絶対に嫌だね。メリットが無い癖にリスクばっかりある仕事なんて絶対やりたくない。無表情を維持する自信も無いし、出来ることなら誰がリーダーかも知りたくない。
てか、ありえないけど、もし誰にも決まらなかったら坂上先生は誰を選ぶんだろか？やっぱ龍園？それともランダムで決めるのかな？
「では、質問があればどうぞ。……試験である以上、教師として皆さんを手助けすることは出来ません。そのため結果に影響する事は回答できませんが、ルールを確認するための質疑応答は許可されています」
この微妙に分かりづらい、ルール厳守の上での優しさは良いね。やっぱ良い担任だ。Cクラスのうち何人が気付いていることやら。
「坂上、ポイントがゼロになった上で離脱者が出たらどうなる？」
そんな優しい担任に何ら恥じることなくタメ口で話しかけるクソ不良生徒が居た。Cクラスの恥め。
「……その場合は０ポイントのままだ。マイナスになることもないし、代わりにクラスポイントやプライベートポイントが減点されるということもない」
「クク……」
何喜んでんだ？いきなり諦めてんじゃねぇよこのカスゥ！早すぎるだろ、開始1時間……どころかまだルール説明中だから開始もしてないんじゃないの？
---------------------------------------
その後、クラス毎に配布されるテントの使い方と、1つだけ配られる簡易トイレの説明を受けた。ダンボールトイレ……被災地で使うトイレじゃん。俺は別に良いけど、女子達には結構キツそう。
てかこんなトイレ使うくらいだったら、自衛隊スタイルでもええんちゃうの？穴を掘っておいて、使った後に土をちょっとかけるやつ。大差無いでしょ。
船のアナウンスでトイレ行っとけ言ってたからあと数時間は大丈夫だろうけど、もうちょいちゃんとしたのをSPで購入するのも検討しなきゃだと思うな。いくら龍園の恐怖政治クラスだからといっても、女子にまでダンボールトイレを強要したら流石に反発されるだろう。……女子達が泣き叫びながら集団で龍園を殴りまくる光景が見れたら面白いとは思うけども。
「坂上、10ポイントの食料と水のセットを1つ交換だ」
「敬語を使え……龍園」
龍園のタメ口にムカつきながらも半分諦めてそうな坂上先生が、他の試験管理者に指示を出して……飲料水などが運ばれてきた。固形食料はあの小さい1箱と500mlのペットボトル1本が1人分ってとこかな。これ全部で40人分、1食分みたいかな。
「オイ、聞け」
おっと、ウチのクラスの暴君がついに話すみたいだ。
「作戦を考えたが、情報が漏れないよう関係する人間にのみ話す。他の奴らは日陰で休んでろ。……水は飲んでもいいが、食料には手を出すな。その場で大人しくしとけ。あと、勝手にポイントを使ったら殺す」
龍園に大人しくしとけって言われても、お前が言うんかい！感がすごいな……。
「じゃあ今から呼ぶヤツはついて来い。金田、石崎、アルベルト、浅井、伊吹、椎名。……小宮、近藤もだ」
俺もか。さーて、どんな作戦なんだろか。