ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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田中じゃなくて山田でした(訂正)


ようこそCクラスへ

Sシステムの衝撃、……というよりは、毎月10万円相当をもらえるっぽいと騒がしくなったCクラス。残念ながら俺、浅井虎徹は話し相手を見つけられずに居た。バスの中とかでちょっと仲良くなった関係とかが出来てたみたいだ。出遅れた、ちょっとあせる。

 

そんな騒がしいクラスで、1人の少女が声を上げた。

 

「みなさん、ちょっといいですかー?」

 

興奮して雑談している大半が彼女に気付いてない。間延びした優しい声だと、そらそうだろう。少しかわいそうなので手助けをする。

 

「はい、ちゅうもくー!」

 

と大声で言いながら、手を大きな音で2回、もう2回叩くと、クラス中の視線がこちらに集まる。

 

「はい。……どうぞ」

 

「ありがとうございます。みなさん、ちょっと時間があるみたいなので、急いで簡単に自己紹介をしませんか?」

 

いきなりではあるが、全員初対面のはずなので妥当な提案だろう。全然急いでるような声ではないが。

 

「別に良いけど」

 

なんとなく不機嫌そうな少女が同意の声を上げた。

 

「では、私から。私は椎名ひより、です。趣味は読書です、よろしくお願いしますね~」

 

パチパチ、というかパラパラと拍手がされる。

 

「では座席の……そこの方から、こういう感じの順番でお願いします~」

 

良くも悪くも、全然空気を読もうとしない彼女に釣られて自己紹介が始まった。

 

……やばい、全然覚えられん。ほとんどの生徒の紹介が終わったが、2,3人しか覚えられなかった。もう諦めよう。筆記用具もノートも無いからメモも取れないし無理に決まっとる。そのうち座席表作ってチマチマ埋めていくか。最高にラッキーなことに、一番後ろの座席なのでそういう作業も苦労しないだろう。

 

「龍園だ」

 

……ん?なんだ?もう終わり?右隣の席のやつが自己紹介とも言えない自己紹介、名前しか紹介してないしょうもない紹介、名前だけ紹介をしたせいで、いきなり俺の番になってしまった。ふざけんなロン毛。

 

「あー、じゃあ次は俺か。浅井虎徹、です。……よろしく」

 

ロン毛のせいで趣味を何言えばいいか忘れちゃったじゃないか。麻雀でもパチンコでもバカラでもなく、一般ウケする趣味をなんか考えてたんだけどマジで忘れてしまった。……あぁ、サッカー観戦だ。

 

そんな名前だけ紹介となってしまった後悔をよそに、自己紹介は続いていった。

 

 

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自己紹介がギリギリ全40人分終わってすぐ、入学式に移動して、参加して、そして学校の敷地内をみんなで周りながら施設の説明を受け、昼前に解散となった。

 

明日から授業開始で、学校生活スタートという訳だ。今日は移動もあったし早めに休んでおけという事なのだろう。

 

「ちょっと待て、お前ら」

 

ん?なんだ?THE不良という感じの例のロン毛が教壇の前に立った。

 

「龍園だ。今日からこのクラスでは俺が上に立つ。俺に従え!……文句があるヤツはかかってこい」

 

ニヤニヤっとした顔で言い放った。うーん、この上なく分かりやすい不良だ。地元の中学じゃあんまり不良とか見なかったけど、今でも居るとこには居るんだなぁ。小さい頃、組の若い衆……チンピラ達が良く高校武勇伝をしゃべってたけど、実在したんだなぁ、と変な感動をしてしまう。

 

「なんだよおめぇは!」

 

「お前は?」

 

「石崎だ!……いきなりなんなんだよ!認められっか!」

 

これまた不良が出てきた。ガタイとしては龍園とかいうやつより大きそうだが……、なんかバカそうな顔だなぁ。

 

「よし……じゃあ教えてやる、よ!」

 

そう言うかと思えば、いきなり石崎を前蹴りする龍園。構えてなかった石崎は机を倒しながら軽く吹っ飛んだ。龍園とかいうやつ、カケラも遠慮しないで蹴りつけたらしい。女子の一部から悲鳴が上がる。

 

「てめぇ!やってやるよ!」

 

当然キレた石崎が龍園に殴りかかる、コイツも喧嘩慣れしてるのか顔面をいきなり躊躇なく狙ったようだ……が、龍園はボクシングスタイルで頭への攻撃を腕で防ぎ、すぐさまアゴへのアッパー、それが防がれてもほぼ同時に出していたヒザ蹴りで腹を潰し、

 

「ゔっ!」

 

怯んだ所に正面からの顔面パンチ。おぉ~痛そう。

 

「がっ……」

 

さらに追い打ちで前蹴りを胸に、鈍く大きい音がした。心臓蹴り潰す勢いだったろこれ。

 

「……どうだ、まだやるか?」

 

ボクシングっぽいポーズを維持して、いつでも殴るぞと言わんばかりのポーズで石崎を挑発する龍園。

 

「いや……、俺は……、アンタに従う」

 

しっかり鼻血を出してしまってる石崎、胸を抑えながら敗北宣言をした。不良らしく力の差を感じたのか素直に言ってるけど、なんかアッサリな気もする。あまりに一方的だったから抵抗する気が失せたのかね。

 

……それにしても、クラスの大半は突然の暴力闘争に引きまくってるじゃないか。あーあ、女子なんか泣きそうな子も居るぞ。かわいそうに。しっかりした学校に来たと思ったら、いきなり底辺不良高校だったと言われたようなものだろう。詐欺みたいだな。

 

けれど、一部の女子や数人の男子はビビリもせず龍園を見ている。怖くないのか、正義感が恐怖を上回ったのか、それとも何か別の感情なのか。喧嘩慣れして見慣れてる、とかもありそう?

 

「Hey, I beat you.」

 

おっと、めちゃくちゃガタイの良い、190cmくらいありそうな巨漢の黒人……ハーフ?が龍園に殴りかかった。名前はもう忘れた。というか覚えられなかった。

 

「へっ、おもしれぇ!」

 

なぜか嬉しそうな龍園が素早く避け、黒人のフトモモに蹴りを入れる……が、少し揺れただけで何の効果も無さそうだった。めちゃくちゃ鍛えてるっぽいな。

 

黒人もデカイ手を使って掴みかかるが、龍園が上手く避けたり手で払ったりして全然掴めない。殴りかかったりもするが、上手く軌道を変えられてしまいクリーンヒットしない。反面、龍園のパンチやキックは普通に当たっている……ものの、あまり効果は見られない。

 

「Shit!」

 

全然攻撃がヒットしないのにイライラした黒人が今まで使わなかった足蹴りを当てようとした……ら、うっわ……。ひぇぇ……。

 

動きを見切っていた龍園がしゃがむように体を低くし、蹴りを避け、残った足にタックルし、体勢を崩した黒人の、その……、股間を殴りつけた。えげつなさすぎる。見てるこっちも悲鳴を上げそうになった。

 

「ンノォオオオ……」

 

流石の巨体でも、ただひたすら股間を押さえてうずくまるばかり。あまりにも酷い、男にとっての悪夢そのものだ。

 

そんな黒人に向けて、龍園はサッカーボールキックで2発ほど頭を蹴り飛ばしたが、全然反応しない。容赦無いすね。痛みに苦しむ黒人を見ながら龍園が偉そうに言った。

 

「俺に下れ、山田アルベルト。お前のタフネスも俺には通じねぇ、俺に従え」

 

「Umm,OK,BOSS...」

 

山田なんていう名前だったっけか。めちゃくちゃ日本人っぽい名字やね。それにしてもまだまだ股間を痛そうに押さえて立ち上がれずにいるのが見てて痛々しすぎる……。大丈夫かよマジで。

 

「他に文句あるやつは居るか!?」

 

達成感に満ちた表情の龍園が楽しそうに、獰猛な顔をして声を張り上げた。

 

 

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今の感情は……、イライラ?

 

クラスで解散した後、なんとなく飲食店やスーパーの方に歩いて来たが……、どうにも落ち着かない。なんだろうかこの感情は。

 

せっかく朝のバスで可愛くて頭良さそうな子、坂柳と仲良くなり、Cクラスにも天然系美少女も居れば不良っぽい美少女も居てウキウキしていたら、なにこれ?恋愛マンガ読んでたのに不良漫画になってた、みたいな感じ。

 

……いや、問題はそこじゃない。龍園だ。

 

人を暴力で従わせる、というのはハッキリ言ってヤクザそのものだろう。暴力団と呼ばれる無法組織がやることであり、我が家がやってきた事だ。

 

そういう意味では、龍園のやった事に拒否感を持つのはおかしい。俺が実際にやっていなくても、やってる光景を見たことだってあるし、そういう部分をもう飲み込んで人生歩んできたはず……だ。

 

じゃあ、なんでイラつくんだ?

 

近くにあったベンチに座り、冷静に考えてる。

 

何がイラつく?

 

イラつくのは、あの龍園の顔だ。偉そうで、俺が王だと言わんばかりの笑顔、暴力的な笑顔。文句あるヤツが居たら、全員ぶちのめしてやるという顔。他人を見下す顔。

 

暴力的なのが気に食わないのか?

 

いや、違う。そういう手段も俺はアリだと思ってる。

 

俺の上に立たれるのが気に食わないのか?

 

そうかもしれないが、違う……と思う。俺が上に立ちたいか?って考えても、そんな気持ちはまったく無い。頼まれたらやるかもしれない、とは思うが……。この部分に関しては、初日であそこまで強行的に立候補して、暴力を見せつける、という意味では尊敬出来るレベルだ。

 

じゃあなんでイラつくんだ???

 

もしかして……、俺が『暴力で支配される側』になったからなのか?

 

『言うこと聞かなかったらぶん殴る』

 

これを言われる側に立ったのは、…………初めて?

 

当然だが中学でそんな経験は無いし、ヤクザ業を見せられた時も……命乞いする姿とか、ボコボコに殴り潰した後とか、心の壊れた女とか、そういう姿だ。

 

そうか、俺は初めて支配される側に立たされたのか……。あぁ、そう考えるとしっくりくる。俺は、今日、支配される側になったんだ。

 

なるほどね。なるほどなるほど。

 

今まで、全然見えなかったし、把握出来ていなかったけれど、間違いなく浅井家の保護下に居たんだ。俺じゃなく、浅井家という存在を認識されていた。だから干渉が無かったし、いざという時に頼れる人間が沢山居たんだ。

 

けど、この場では俺しか居ない。誰も頼れないし、俺の力でどうにかするしかない。

 

そういうことなのか。そして、こういうのを見越して全寮制の学校に入れてくれたのかもしれないな……組長は。

 

分かった。俺は俺の手で、支配される側から出なくちゃいけないんだ。自分だけ、一人の力で、組の力を一切借りず、男一人として。

 

言葉をこう変えよう、「舐めんじゃねぇぞ」と。

 

そうと分かればやることは決まった。タイマンで龍園を叩き潰し、俺を認めさせる訳だ。……アイツがやったのと同じってことだな。

 

そのためには準備しないといけない。残念ながら俺のステゴロ性能は良くない。……殺してもいい状態だったら色々とやれるけど、やりすぎて後遺症になりうるものばっかりだ。

 

ちゃんと道具も用意して、場所も用意して、相手の精神状態も揺さぶって、完勝しよう。

 

さぁ、始めようか。

 

 




「浅井虎徹」
【学 力 】:C
【知 性 】:D
【判断力 】:B
【身体能力】:C
【協調性 】:B


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