ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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スパイ経済

こんにちは、太陽がちょっとオレンジになりかけてる現在、今日だけでガッツリと日焼けした気がする浅井虎徹です。「日焼け止めなんて女の使うもんじゃ!いらんいらん!」とか思ってたけど、これマジでヤバいことになるかもしれん……。南国の太陽で一日中焼かれてたら、本当に大変なことになるかもしれない。明日から日焼け止めちゃんと使おう、舐めない方がいいなマジで。肌とか頭皮とかもう少し痛い気がするもん。

 

船の近く、Cクラスの集まってる場所に戻ってきたが……俺達2人が探索組で最後だったようだ。ごめんち!

 

「ごめん、みんな」

 

「ん?遅れたか?」

 

水浴びしてちょっと良い気分になってるビチョビチョ石崎が悪びれもせず挨拶してるが、もっと申し訳なさそうにしろアホめ。

 

「……戻ったな。オイ、移動だ。ベースキャンプの場所を決めた」

 

そう言った龍園に率いられ移動することになった。誰かが良い場所見つけたのかな。

 

 

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時刻は15時過ぎ、もう夕方だ。

 

無人島のんびりライフのはずだが、考えてみると決めなきゃいけない事の時間制限がいくつかある。

 

1. リーダーを誰にするか(今日20時まで)

2. 何人ほど島に残すのか(日が落ちるまで?)

3. SPを全部使い切る(誰かがリタイアする前)

4. スパイを誰にして、どのクラスに送り込むのか(今日中?)

 

必ず決めなきゃいけないのはリーダー。流石に先生に決めてもらうというのは自主性無さすぎというか戦略もクソもなくなってしまう感がある。20時前にちゃんと報告しないとね。

 

次に、居残りメンバーの決定。SP200を既に使ったので40人で7日間の生活するのはまず無理。だから少数選抜して、それ以外の生徒には客船に戻ってもらうことになるはずだ。島に残ってても水食料を消費してしまうだけだし、好きに何でも飲み食い出来る豪華客船にさっさと戻ってもらった方がいい。あと暗くなったら船まで戻るの大変かもだし。

 

それでいて、大多数がリタイアする前に残りSP100を使い切らないといけない。リタイアでのSP減点が1人あたり30マイナスなので、絶対その前にやっておかないとダメだ。

 

……なんかすっげぇ決めなきゃいけない事が多いな。誰だのんびりライフって言ってたやつ!

 

あとは、BクラスとDクラスへのスパイを選抜しなきゃいけないだろうけど、これは龍園が誰かの名前もう出してたっけ?

 

Dクラスはうるさいし馬鹿そうだからあんまり関わりたくないけど、Bクラスへのスパイなら俺がやってもいいかな……?

 

いや、でも仲良いの神崎だけだし、あの仲良しグループに異物として入ってすぐ馴染める自信は無いな……。ついでに俺が「龍園さんに制裁されるのが怖くて逃げてきたんだ」とか泣きながら言っても、ちょっと無理があるかもしれない。

 

もっと言えば、リーダーをもし見抜けたとしても、その情報を漏らしたとして俺がどうしても恨まれちゃいそうだ。ダメだな、あの一之瀬にも嫌われたら泣いちゃうよ。

 

ちょっと真面目に考えたとしても、せっかく『嫌われてはいない』くらいの関係性を作ったのに、それを放棄するのはもったいない気もする。Cクラスあんまり社交的なヤツが居ないから、俺なんかでも他クラスと関わりが一番あるかもしれないし。

 

龍園から「どうしても頼む」みたいに言われたらやるかもしれないけど……正直自信ねぇなぁ。そもそも潜り込む時点で難しすぎるだろ。他クラスの生徒が「仲間入れて~」って来たって追い出すだろ普通に。もし仮に入れたとしても、なんとなくウザがられ続けて、それでもこっちは気を使わないといけなくて……。いや、これ無理だ。無理無理。面倒すぎる。

 

几帳面で繊細そうなスパイ活動は俺には無理だ。それだったらCクラスでSP気にせずのんびり7日間過ごした方が気楽でいいや。

 

スパイ、やっぱヤダ!

 

 

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「ここだ」

 

龍園に連れられて来た場所は、森が途切れ、草原のようになっている場所だった。くるぶしくらいまでの高さの草だけのまぁまぁ大きい広場……ていうか草原だな。

 

位置としては、浜辺からAクラスの洞窟へ行く途中の道から少しズレたくらいの場所かな。

 

周りは森で囲まれていて、中央のあたりにわざとらしく折れて根本だけになっている枯れ木があり、近付いてみると……その木に機械が埋め込まれてあった。これがスポット更新するやつか。

 

ピクニックとかするには良い所かもだけど、水源なんて無いし、周りに食料がありそうでもない。この場所で何の得があるんだ?

 

空が見やすくて、昼だったら洗濯物が乾きやすそう。夜だったら星空めっちゃ綺麗に見れそう、ってだけじゃね?天体観測してる場合か?……いや、それはそれで悪くはないけどさ。そんな余裕ぶっこいててええんかな。

 

「……なんでこんな場所なの、リーダーがバレやすいだろ」

 

お、伊吹がツッコんでくれた。確かにスポット更新するならこういう広場みたいな所は不利だな。森から隠れて覗き見されやすそう。まぁスポット更新なんて多分しないだろうけどな。

 

「俺達は今回、他クラスの妨害を主とする!そのために他3クラスのベースキャンプからほぼ等距離に位置するここに決めた!」

 

龍園が全員に聞こえるように大きな声で話し始めた。

 

等距離なるほどね、3クラスと関与しまくるからって他クラスとの位置関係的に決めたのか。それにしたってもうちょい良い所無かったのかな……。

 

「戦略上、クラスからは10人ほど残ればいい!体力に自信がある、サバイバル知識がある、その中からどうしても残りたいというヤツだけが残れ。他の人間は、俺が指示したら客船に戻れ。……リタイアしろって事だ。サバイバルなんてせず、船の中で遊んどけ」

 

流石にざわつくCクラス生徒達。どうやってサバイバルするか、SP残すために頑張ろうかなんて考えてた所にそう言われたら、嬉しい以上に困惑するだろう。

 

「心配するな!……ククク、俺達はもう、CP200相当のプライベートポイントが毎月Aクラスから振り込まれるよう契約してんだ。クク、つまり、既に戦わずして勝ってるって事だ」

 

ニヤリとした笑顔で言い放す。何度見てもこの悪役顔が似合う男やなコイツ。

 

それにしても、もうみんなにSP交換のこと言うのか。須藤事件で秘密主義にし過ぎて失敗した教訓かな?それとも別に情報漏れてもいいやって事かな。

 

「俺が指示したら、客船に戻れ。……男子の中から、どうしても試験の役に立ちたいというヤツだけが残れ。今から30分、ここで良く考えろ」

 

堂々と言い放ち、不敵に笑う我らが帝王。……ここまでリーダーとして立派だと、誰がどう見てもリーダー指名したくなっちゃうだろうな。だからやっぱ龍園をキーカード持つリーダーにしておくのはダメだな。

 

「石崎、小宮、近藤、アルベルト、浅井。お前らは言うまでもないが残れ」

 

いや、まぁ、残るつもりだったけど、言うまでもないってなんだよ……。

 

「伊吹、金田。お前らも居残りだ」

 

「……。」

 

「了解です、龍園氏」

 

この2人はまぁスパイ活動だろなぁ。龍園が信頼してるメンバーの中から、龍園に追い出されても違和感の無い数少ない2人。他のメンバーは龍園の舎弟っぽさがありすぎるし、不良っぽすぎるし。

 

 

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「坂上、試験のポイント残りはあと何点だ?」

 

「……90だ」

 

「クク、上等だ」

 

まったく敬語使う気配無い龍園。坂上先生は割と味方なんだから仲良くしとけよなぁ……。

 

ちなみにSPはAクラスへの物資分SP200をもう使って、最初の水食料分の10が減って、他には誰も使ってない現状の確認ってことか。

 

「おい浅井、マニュアルよこせ。カメラがあったはずだが……これだ。坂上、デジタルカメラを2つ交換だ。あと……無線機も10ポイントの方よこせ」

 

「……。」

 

言われるがまま手続きをする坂上先生。そうかベースキャンプに運営側が荷物持ってきてくれるのね、便利だ。

 

「アルベルト、石崎、小宮、近藤……浅井。俺らを隠すように立て。周りを警戒してろ」

 

なぬ?良く分からんなりに適当に立つと、

 

「さて、こっちに来い伊吹、金田。お前ら2人にはそれぞれ、DとBに潜入してもらう」

 

なるほど、外から話してる相手が分からないようにするための壁代わりか。俺だけ勝手に内側向いちゃおう。

 

それにしても、やっぱこの2人がスパイか。まぁ他に出来そうなの居ないもんなぁ……。

 

アルベルトが1人ぼっちで困ってても「筋肉の調子が悪いのかな?」とか思われてスルーされちゃうかもだし、そもそも困ってる様子を演技できなさそうだし。舎弟3兄弟は前科あるからどうしようもないし。龍園だったら死にかけてても演技を疑われて声かけられないかもしれないし。

 

「名目はこうだ、『最初からポイントを使い切ろうとしたリーダーの龍園に逆らったら、制裁を加えられた。船に戻っても、いつ龍園が来るか分からない。時間が経つまで1人で行動するしかなかった』ってな」

 

「……。」

 

「潜入スパイ、ということですね?」

 

「そうだ。伊吹もやれるな?」

 

「……あぁ」

 

「よし。そのために顔面を1発ずつ殴らせてもらうぞ。見るからに傷があるようにな」

 

えぇ~、伊吹の顔面もかよ……。金田はどうでもいいけど。

 

「ちょい待って龍園。流石に女の顔はちょっと、ダメでしょ」

 

「……じゃあどうすんだ浅井、ここで手加減して失敗したらただの間抜けだ」

 

「まぁそうかもだけど……。あ、そうだ、蹴られた跡とかが服にいくつかあったらええんちゃう?軽く泥のついた靴で、足跡みたいに」

 

「……仕方ねぇ」

 

「別に、殴られるくらいどうってこと、ない!」

 

伊吹がそう言うかと思うと、いきなり自分の顔をかなり強く殴りつけた。うわ、根性あるな。「ガチッ」みたいな硬い音したぞ、骨までいったろ。……左頬がまぁまぁ赤く腫れてる、かな。夕日のせいでちょっと分かりにくいけど。あーあー綺麗な顔なのに……。

 

「りゅ、龍園氏。自分も、失敗したくありません、そのために、その、顔を殴ってくれても、構いません!」

 

なんだこのオカッパメガネ。根性あるな。

 

「クク、良く言った。……オラッ!」

 

少しは手加減しろよと思わんでもない良いパンチが金田の顔面中央を見事に捉えた。……鼻、潰れた?

 

「いたた……。ありがとうございます龍園氏、これに加えて蹴られた跡や、土などで少し汚してから行けば、きっと潜入出来るでしょう」

 

そう言う金田の鼻から、おぉ、鼻血だ。

 

「金田、鼻血出てるよ。良い感じに」

 

「そ、そうですか……」

 

思わず手でこすり、広がる血の跡。うーん、素晴らしいボコされ感。なんか上手くいきそうに思えてきた。

 

「んじゃ、蹴られた跡も付けるよ。ほーれ」

 

そう言いながら、土の地面を擦った足の裏を押し付ける。なんか合法的にいじめてる気分だな。

 

「ありがとうございます、浅井氏」

 

「ほれほれ、伊吹も。蹴られた跡のプレゼントだよ~」

 

「……。」

 

ムカつくけど仕方ないという感じの苦々しい顔の伊吹にも足跡を付ける。背中と腰のあたり。逃げた相手への追い打ちっぽく、それほどクリーンヒットしてないカスった感じで。

 

「良いか金田、伊吹。……お前らにこのデジタルカメラと無線機を渡す。バッテリー抜いてビニール袋をしっかり閉じとけば、まず大丈夫だろう。バレないためにキャンプ地の近くに埋めとくのも手だ」

 

「了解です、龍園氏」

 

「……分かった」

 

「んで、リーダーが誰か見抜き、証拠を写真で残せ。キーカードの強奪でも構わない。……その証拠が、Cクラスを大きくAに近付ける。……お前ら2人次第だ」

 

「はい」

 

「……。」

 

せっかくだし俺からもなんか励ましの言葉を贈るか。

 

「リーダー見抜けば、1人あたり最大でCP100相当、月々40万のメリット得られると思っていいはずだよ。かなりメリットのある作戦だと思うし、2人が行ってくれないとどうしようもない話だから、その、頑張ってきてくれると嬉しい。無理はしなくていいよ全然」

 

「……どうもです、浅井氏」

 

「ふん。分かってる」

 

「ククク、まぁ、写真は諦めても許す。Cクラスが指名を成功するのが第一目標だ」

 

確かにAクラスのために証拠取ろうと無理して追い出されたらアホみたいだもんな。

 

あとはアドバイスっぽいこと言いたいけど……金田に関しては思いつかないな。

 

「金田はどうすりゃいいか分かんないけど、伊吹は『龍園に逆らったらレイプされそうになった』って言えば良いと思うよ。『同じクラスだから何しても問題にすることが出来ない』そして『腕力的に負ける無理やりされてしまうかも知れない』とかそんな設定。そしてこの上なく……ありうる」

 

「ねぇよボケが。勝手に捏造すんな」

 

めちゃくちゃ説得力ある設定だろうがよ。鏡見たことないんか?

 

「……そんな弱い女に見られる気は無い」

 

あれ?気に入らないのか。意外だ……。

 

「女子達の同情をすぐ引けて、簡単に潜り込めそうな良いアイデアだと思ったけど……まぁ、いいや。気が向いたらこの嘘も使ってみてよ」

 

「……。」

 

複雑そうな顔だ。あんまり女の子扱いされるの嫌なのか?それで男っぽい口調がよく出てるのかも知れない。

 

「ってか、本当にレイプされかけたって事にしても誰も困らないでしょ。龍園の評判なんてこれ以上もう落ちないだろうし」

 

「てめぇ……」

 

龍園がめちゃくちゃ睨んでくるが、反論出来ないだろうよ。そう思いながら真顔で視線を返す。

 

「チッ……まぁいい。リーダーを見抜いたり、証拠を取れたら無線で連絡してこい。そうでなくても最終日の前日には連絡しろ」

 

「了解しました、龍園氏」

 

「……分かった」

 

「よし、行って来い」

 

そうして、学校指定の袋にデジカメと無線機を入れた2人は、それぞれの戦場へと歩いて行った。

 

「がんばれー!」

 

さらば戦友よ!


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