DAY 2
おはよう……。朝6時くらいだが、もう既に蒸し暑い。ふざけんな。そんなイジメのような環境に放り込まれている可哀想な俺は浅井虎徹だ。『学校はイジメ問題を許容しません』なんて言ってたが、この状況こそ『イジメ問題』だろう。この試験考えたやつ全員ハゲろ。
腕時計を外しちゃいけないルールのせいで手首も気持ち悪い。せめて水浴びしてスッキリしよう……。
「龍園、水浴び行こうぜ」
テント内、隣で偉そうな姿勢で寝転がっているロン毛に声をかける。なんで誰も見てないのに腕も足も組んでカッコつけてんだ。アホだな、アホ。
「……何時だ」
自分の腕時計見ろや!てか今起きたのか?
「6時ちょい」
「……行くか。……2回に分けて集団で行くぞ」
「おーけ」
そういや川の場所まだ知らないやつも居るかもね。
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誰かに見られてるかもしれないという妙な緊張感を持ちながらパンツも脱いで川で水浴びをして、ついでに着てた服を水で手で揉むように洗っておいた。でもまぁ、ちゃんと洗いきれずに臭くなっちゃいそうかな……。
男だけだったから簡単に水浴び出来たけど、女子も居る他クラスはどうしてんだ?同じように川で水浴びしてる?だったら覗き見れる?絶対に確認しよう。場合によってはスパイ活動してる金田からデジカメ奪い取ろう。
ふと思ったけど、フルチン全裸で他クラスの川に出没したら罰則食らったりすんのかな?女子が逃げて水源を使えなく出来そうな気もするけど……いや、男子が動くことになるだけか。あと普通にアホすぎて流石に気が乗らないや。ダメだな。
水浴びしてる途中、そういえば生活用水みたいな使い方をする用にも水が必要だったとも気付き、もう1回往復して空になってたペットボトルへの補給作業もした。リュックがあるから持ち運びは割と簡単だったけど、川までそこそこ歩くのが超めんどくさいな……重いし。今日は俺がやったから次から他のやつに任せちゃおう。
相談して、水はペットボトル未開封でいくつか残しておくことになった。なんとなくだけど川の水の方が腐りやすそう、腹壊しそうだもんね。
それなりに体力ある選抜メンバーの俺らはともかく、女子も居る他のクラスは水が合わなかったりで体調崩してリタイアする生徒も居そうだな。都会育ちの高校1年生、15,16歳なんて普通に頑張ってても1クラスで数人は脱落しそうな気がするぞ。
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水回りの作業をしてたら、気付けば時刻は8時を回っていた。
「坂上、リーダー指名の結果はどう発表されんだ?」
テント近くに待機してた坂上先生、誰も点呼を受ける気が無いのを分かっていても準備してたのかな。そんな先生に龍園が質問していた。敬語使えないアホめ。
「……どのクラスがどのクラスのリーダー指名に成功したか、もしくは失敗したかは、発表されないことになっている」
「最終的なポイント発表だけってか?」
「そうだ」
「クク……」
ふーん、『そういう事は言えない』みたいに誤魔化されると思ってたけど、ちゃんと教えてくれるのか。こんなアホにもちゃんと教えてくれる坂上先生は良い先生やでぇ……。ついでに昨日の龍園の予想通りだね。
龍園が笑ってる理由は『リーダー指名の成功を条件にするのは難しくなった』という喜びだろう。まぁ、気持ちは分かる。
「んで龍園、どのクラスから取引すんの?」
個人的にはAクラスが良さそうに思う。既に取引してるから話が早そうな気がする。もしかしたら既にCP200分の契約してるから『これ以上いらない』って断られる可能性はあるけど……。
「ククク……午前は何もしねぇ」
「はい?」
明日はリーダー情報を売るって昨夜言うてたやんけ。
「食料破壊活動をさせて、それを辞めさせるのを取引のメインだと思わせる」
それは全然良いけど……、
「それで相手に来させるって事?」
「あぁ。実働部隊に文句があるなら俺に言いに来いと伝えさせる」
なるほど。そこら中で食料焼きまくって、辞めさせたいなら龍園に言えと。それで交渉する……。
「うん、良さそう」
最初から相手が交渉に乗り気、というか相手から声掛けてきた形だと契約も成立しやすそうだ。もし『クラスメイトの意見も聞いてくる』って言ったって、ひたすら食料を焼かれている状態だったらどうしても急いじゃうだろうし。なかなか良い方針なんじゃないかな。
そして、俺としてはテントでのんびりしてられそうというのが気に入った。何もしないのはヒマ過ぎて嫌かもと思ってたけど、朝ちょっと水を運んでもう疲れた。今日の仕事は終わりだ。
太陽も朝でコレだと、昼めっちゃ日差しキツくなりそうだし、サングラスと帽子があった所でどうにかなるもんでもないな。休めるなら休んでおきたい。
って、やべ忘れてた、肌がヤバくなりかねないから日焼け止めやらなきゃ。
「坂上せんせー!日焼け止めください!」
みんなにも絶対やっておいた方が良いって伝えておこう。
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午前11時、山脇に火を起こすコツを教えてもらっていた実働部隊が出てから2,3時間が経つ。遠くで火の煙っぽいのが見える。
本当は実働部隊を3つに分けたかったみたいだけど、火の取り扱いに慣れてるのが山脇くらいしか居ないので、まずは1つの集団で出発していった。慣れたら分担して色んな所で燃やすのだろう。
下手にキャンプの素人が色々燃やしまくって、山に引火して島が全部燃えたら普通に人が死んじゃいそうだもんな……。もし山火事が起きたら全クラスの生徒が避難して、全クラスSPがゼロになって、ポイントだけ見たら裏契約してるCクラスだけの一人勝ちになり、俺個人としてもAクラスとのCP競争に勝ち目が出てめっちゃ嬉しいけど……流石にやらん!やりませんよ!
まぁ割と熱帯林っぽいこの森が燃えるのかどうか分からないけど、興味だけで試したいとは思えないな。山脇なら多分ちゃんと配慮して火の処理してくれるでしょ。
「あっつい……」
そんなことをのんびり考えてる俺は今、ゴールドサングラスと帽子を被った状態でテントの日陰に寄りかかるよう座っていた。テントの中だと完全に蒸されてしまうので風が少しある外のほうがまだマシ……だったけど太陽が真上に来て日陰がもうほぼ無いな。どうしよう。
結構前からペットボトルの水を頭からチマチマ浴びて暑さ対策はしているが、うーん、もっかい川に行ってこようかな……。もうずっと全裸で水に浸かっていたい。浜辺、海に行くという手もあるけど、いやでも塩水だし日陰無いし、あんまり涼しそうではないかな……。
完全に忘れていたけど、スパイ2人から無線機で連絡あるかもしれないというので龍園と俺のどちらかは残っていた方が良さそうではある。……こんな真っ昼間に連絡してくるとは思えないけど、一応居なくちゃね。『連絡するなら深夜』とか決め事しておくべきだったよなぁ。ただ来るか分からん連絡を待ち続けるだけってのも不毛だ。
あれ?そもそもベースキャンプこの位置取りだったら別に無線機を使わないで、深夜になって抜け出してくれば良くないか……?本来のプランだと『全員リタイアしたけど龍園だけ残ってた』だったみたいだけど、今もう堂々とテント張ってるし、無線機のいらなかったかも?……なんか損した気分だな。まぁ、ええか。仕方ない。何かに使えるでしょ。
それにしても他クラスは『アンチモッタイナイ作戦』もとい『食料全部燃やそう作戦』に気付くかな?煙が上がってる方角的に、Aクラスが一番近そう。Bクラスはみんなで同じような所に行ってそうな気もするし、Dクラスは頭悪そうなのばっかりだから全然気付かないかもしれない。ってか森の中にずっと居たら見えないかもしれないや。下手したら今日なんもなし?マジで?
なんかもう船に帰りたくなってきたね……。この数時間で30回目くらいだけど、しみじみと思う。もう帰りたい。
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「龍園!出てこい!!」
うぉっ、ウトウト眠りかけてたら誰か知らん男子生徒が大声で呼びかけて来た。
「オイ、お前!龍園はどこだ!?」
「テントに居るよ」
何を興奮してんだコイツ。キモイなぁ。
「うるせぇな……」
なんとなく眠そうなロン毛がテントから出てきた。寝てたのか。まぁ夜も暑かったし眠れてなかったのかもしれんな。
「龍園!てめぇ何させてやがる!?」
「あァ?」
「島の食料を破棄させてるだろが!ふざけんな!」
「うるせぇんだよカス。低能がギャーギャー騒ぐな」
龍園がブチ切れまくってる生徒を煽りまくってるけど、正直面白い。
「な、なんだと!?いや、それよりさっさと辞めさせろ!」
「テメェは……Aの高橋だな?」
「あ、あぁ。そうだ」
他クラス男子の名前も覚えてんのか、偉いな龍園。俺はまだCクラスの名前も全員覚えてないぞ。
「なら葛城に言っとけ。『やめさせて欲しけりゃ取引だ、ココに来い』ってな。……ついでに食料の処分も辞めてやるよ」
「なんだって?……チッ、分かった、伝えてやる」
「さっさと行け、犬」
「なんだと!?」
ニヤニヤ顔で追い払うジェスチャーをする龍園。楽しみ過ぎだろ。
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キレまくりのAクラス男子が去っていくのを見送った後、龍園に声をかけた。
「んで龍園、もし他クラスとの契約が3クラスすべてと出来なかったらどうすんの?燃やそう作戦やめちゃうの?」
3クラスと契約出来たら普通に終わり~だけど、1クラスだけとか2クラスだけだったら辞めるのもなんか負けた気がするよね。
「その時は、契約しなかったクラスの活動圏で妨害工作させる」
「ふーん……。3クラスすべてが契約を飲んだ時だけ焼却活動やめるって感じ?」
「そうする予定だ」
「なるほどね」
そう考えると1クラスずつ訪れるより、3クラスすべて呼び出した方が効率良いってことか。
「……。」
場が動いた、みたいな感触があるのだろうか。テント内に戻らずに待ち始めた龍園。暑そうだな。
「帽子使えば?……あとせっかく交換したんだからサングラスかけろよ」
なんでこの上なくウザい炎天下でせっかくのサングラスを使わないんだ。アホか?
「……仕方ねぇ」
は!?嫌そうにすんな!照れ隠しか?変な所でメンタルがザコだな。
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なぜか帽子を使わずサングラスだけの龍園と、Aクラス葛城の到着をのんびり待っていたら……全然違う方角から生徒が数人やってきた。あっ、一之瀬じゃん!わーい、大天使が来たぞ~!ついでに神崎と、他にも男子2人女子1人が付いてきてる。仲良し感あるけど、なんか緊迫した雰囲気だ。
「龍園くん!……言いたいことは分かってるよね!?」
おぉ、レアなはずだけどそこそこ見覚えのある怒り顔の一之瀬だ。この表情でも可愛い。
「クク……分かんねぇな。俺に抱かれに来たのか?その乳だったら抱いてやってもいいぜ?」
そう言うとサングラスをズラしながら、視線で一之瀬の体を舐め回した。アホかこいつ、口説き文句、ゴミか?
「てめぇ!」
神崎が思わずと言った様子で龍園に手を出そうとするが、
「ダメだよ神崎くんっ!暴行事件になっちゃう!」
あれ、一之瀬が止めちゃった。ちなみに俺は「やれっ!神崎!」と思ってた。龍園が殴られるのは普通に見てみたいもんね。ちょっとは殴った方が人間性が良くなりそう。
「ククク……殴りたきゃ殴れよ?」
「くっ、この……!」
ウキウキで他クラスを挑発しまくる姿がなんか一番楽しそうだな龍園。不健全なヤツ。
「んでどうしたの?一之瀬」
話が進まんから俺が助け舟を出した。
「浅井くん……。あ、その帽子とサングラス似合ってるね」
「サンキュ~!Yo!Yo!ッチェケラ!」
うーんやっぱ良い子だ、このゴールドサングラスの良さが分かるとは……。可愛いし巨乳だし性格は神だし、パーフェクトだな。やっぱ俺の適性クラスはBだったんじゃないのか?今すぐクラス替えしよう!
「黙ってろボケ。……それで、要件は何だ」
「決まってるでしょう?島での破壊活動を今すぐ辞めさせて!」
「フン……。クク、ザコが大集合ってか」
は?何言ってんの?会話になってないぞ。カッコ付けて帽子使わないから暑さで頭がおかしくなっちゃったのか?
「龍園くん、私達にもどういうことか説明して欲しいわね」
あ、堀北だ。いつの間にかDクラスのメンバーも来てた。堀北、平田、櫛田、あと知らん女生徒と、男子は綾小路だっけ?
「ククク……ここまで集まったならAクラスも待つぞ。全クラスが揃ったら破壊活動を辞める条件を教えてやるよ」
おぉ、焦らすねぇ。まぁAクラスもそろそろ来るでしょ。