こんにちは、焦燥感に駆られている俺は浅井虎徹です。クラスメイトで1番、学年女子でも多分1番好きな伊吹がDクラスのアホ共に輪姦されてるかもしれないと気付いてしまったから、もう、ひたすら不快感や、気付かなかった自分への怒りとかが溢れ出して止まらない。
坂上先生には「伊吹がスパイとしてDクラスに行ってるんですが、男子生徒から暴行や強姦されてないか監視して頂きたいです」と言っておいた。返事は「生徒は公平に監視していますよ」という定型文のようなものだったけど、まぁ運営側はそう言うしかないだろうから仕方ない。警戒くらいはしてくれると思う。
そして昼を過ぎ、Cの食料調達メンバーも戻ってきたので、俺と龍園、ついでに石崎&アルベルトのフォーマンセルでDクラスのキャンプ地へと向かっている。いつも使ってる川の場所から歩いて10分くらい。意外と近かったという。
そういえばCクラスは全員が太陽対策で帽子を被ってるので、ひと目でCクラスだと分かりやすい。当然だけど他クラスはそんなものにSP使ってないからね。
……龍園はなぜかサングラスもかけてないけど、もったいねぇな。いや俺も今日はちょっと忘れて帽子だけなんだけど。
なんとなく早足になってしまうのを落ち着けつつ、やっとDクラスのキャンプ地に辿りついた。さっさと契約交渉をまとめよう。
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「おーっす!Dクラス~!Cクラスとの取引の話だよ~!」
意識して軽く笑顔を作って、友好的に交渉しに来たというアピールをする。それでも早くしろ早くしろ……と思ってしまう焦りを感じてしまう。伊吹が大丈夫かどうか確認したくて思わず視線が動いてしまうけど、いや、切り替えよう。後にしなくちゃ。
男子はあまり居ないみたいだけど、残ってる女子は遠巻きにこっちを見るばかりで話しかけてこない。なんでだよ。どうでもいいから早く代表を連れてきてくれって……。動き遅いなぁ。
「こんにちは、浅井くん」
おっと、Dクラスのイケメンがやってきた。
「おっす平田。何しに来たかは分かるでしょ?」
「うん、分かってる。昨日の話、だよね?」
「そうそう。取引どうする?成立?」
別に変な駆け引きやる必要も無いからさっさと話しちゃおう。
「えっとね、みんなと相談して賛成多数だったんだけども……」
「待ってくれるかしら平田くん」
ん?堀北じゃん。邪魔すんなよ。
「龍園くん、交渉してもらうわ」
「よぉ鈴音、そこの浅井に言え。聞いててやるよ」
なんで俺やねん。いやまぁ良いけどさ。
「浅井、くん……。Dクラスは、昨日の条件を飲めないわ」
「は?」
久しぶりに目が合った……と思ったけど、もしかして目が合ったの初めてかも?
「昨日の条件では飲めない、と言ったのよ」
意味分からんくらい睨みつけられてるけど、いや意味が分からん。ムカつくなぁ……。自然と俺も硬い態度になってしまう。
「なんで?AもBも契約してくれてるんだけど」
「……だからよ。私達Dクラスと契約しなければ、アナタ達は取引が完了しないってことになるわ」
「あー、そうかも」
確か『3クラスと契約が完了したらリーダー情報を開示する』とかいう条件にしてた気がする。
「だから、私達は今回の取引で『Dクラスが支払うppはゼロ』というのが条件なら、契約を結ぶわ。AクラスとBクラスとの契約でCクラスが得られるppが欲しいなら、この条件を受け入れることね」
金を払わないだと?その上、金が惜しけりゃタダで寄越せだって……?
「あァ?……ざけんじゃねぇぞこのボケェ!!誰を脅迫しとんじゃ!!!」
あっ……やべ。ムカつき過ぎて思わず聞き馴染みのある恐喝セリフが出てしまった。しかもすっげぇ大声で……周囲のDクラス10人くらいも驚いた顔してる。あ、櫛田も居た。
「っ……、大声で脅しても、条件を変えるつもりは無いわ。AとBと結んだ契約が惜しいのなら、契約を飲むことね」
「んだとゴラァ!!」
思わず目の前に居る、腕を組んで偉そうな女の、その綺麗な顔面を殴りつけようとしたけれど……後ろから両腕を掴まれて止められ、ふと我に返る。アルベルトが抑えてくれたみたいだ。
くっそ、落ち着こう……。
「すーっ……ふー……」
軽く深呼吸。
「……。」
死ぬほどにムカつくけど、流石に衝動的に殴りつけて失格は面白くない。やるならバレない所で、第三者に止められない状況で殴りまくるべきだ。
焦りと怒りで思考がまとまらなかったけれど、曲がりなりにも交渉だ。ちゃんと冷静に考えよう……。
「あー……俺らは割と善意で取引を持ちかけてるんだけどね。見た目の上でCPなんかより、そのCPでもらえる額のppさえもらえばいいって。これ別にWin-Winじゃんか」
「……。」
相変わらずムカつく目だけど話は聞いてんのな。
「Dクラスは確かCP100も無いでしょ?カスみたいなCPしかないDクラスが、絶望的な状況から、Aを目指すクラス対抗戦に参加出来る可能性が上がる。代わりにppは徴収されるけど、増えるはずのなかったCPが増えるから損をする訳でもない。何が不満なんだよ?」
ほとんどAとBが居る場所でした説明の再公演じゃん。めんどくさいな。
「Cクラスは、DクラスのCPが50くらい増えようが追いつかれない程度なんだから別に構わないでしょう?」
チッ……。話をズラしやがって。クソめんどくせぇ。
「確かにお前らのCPが50や100変動しようが、現時点で400くらいの差があるから別に良いけどさぁ……それとは話が違い過ぎるっての。なんでお前らなんかに無償でCPをプレゼントしなくちゃいけないんだ?何の見返りも無く、頭を下げて頼まれてる訳でもないのに」
そうだよ。何が楽しくてゴミクズのお前らなんぞに何かを与えなきゃいけないんだ。
「別に、頼んでるつもりは無いわ。Aクラス、Bクラスとの契約によって得られる利益が惜しいというなら、私達とさっき言った条件で契約しなさい。と言っているのよ」
……本気で殺したいなコイツ。
「お前さぁ……。問題は『どっちを選んだ方が得をするか』とかそういう話だけじゃないんだよ。お前みたいなクズ相手に、なんで俺らが譲歩しなきゃいけないんだ?って話でもある」
「……。」
なんでクズって言われて嫌そうな顔すんだよ。自覚が無いのか?何度でも言ってやるよ。
「とりあえず、もし取引が成立しなかったとしたら、俺らはそれをDクラスのクズの堀北が理由だと喧伝するぞ。『アイツがクソみたいな条件出してきたから飲めなかった』と」
「別に構わないわ。私達には何の害も無い」
「あっそ」
「もしそうなっても、AクラスもBクラスも本来の姿に戻るだけ。損するのはアナタ達Cクラスだけよ」
「うーん……どうしようかなぁ……」
「利益を捨てたくないっていうのなら、条件を飲むことね」
悩むなぁ。とりあえず、譲歩することは、無い。
「お前みたいな、人間と会話したことないようなクズには分からんかもしれんけどな、俺からしたら横から金を奪われて『返してほしかったら金を払え』って言われてるような気分なんだよ。しかも嫌いなヤツに脅されてる。そんなの……殺したくなるね」
「……。」
これがもし一之瀬からの『ごめん!お願い!ちょっとだけ値下げしてくれる……?』とかいう素直な頼み事だったら譲歩するかもしれないけどさ。半額くらいまでなら譲るかも。けど、なんで見てくれが良いだけのクズカス性格ゲロブスに譲らなきゃいけないんだって話だよ。
「あー、最終決定権は龍園にあるけど、俺からはこう返すよ。『舐めんじゃねぇよブス。死ね』ってね」
こんな所で脅迫外交するつもりなんて無かったけどね。やる気にさせたのはお前だよ。
「……契約を飲まない、というのね?CP100相当にあたる、月々40万ppという大きな利益を捨てるというの?」
脅迫してきたお前が言うんじゃねぇよ。
「あ~……別にそれでも良いけど、たった半日やらなかっただけでもう忘れたのか?契約が無効化されるなら、ひたすら環境破壊だって出来るんだよ。島の食料を燃やし尽くすし、お前らDクラスを徹底的に妨害して、テント燃やして、そこにあるトイレやシャワーもぶっ壊して、リタイア続出させて、お前らのSPを全部消し飛ばしてやるよ」
「そ、そんなことしたら……。っ!」
おっ、言いながら気付いたっぽいな。
「そうだよ。別に俺らは暴行や器物破損でクラスが失格になっても良いんだし、問題生徒のpp没収なんていうヌルい罰則食らっても大して痛くもないんだよ」
俺も8月入ったばかりだから7万ppくらい持ってるけど、別に絶対失いたくない額ってほどでもないし。
「……。」
おっ、ムカつく顔だったけど、ちょっと焦り出したかな?
「まぁ、これに関しては学校側のペナルティが甘すぎるのもある。他クラス暴行とかに関してはCP200減点くらいは設定しておくべきだったね」
「……。」
思わず黙り込む堀北。軽く脅されてビビるくらいなら最初からお前も言うんじゃねぇよクズ。誰に向かって何を言っとんねんマジで。
「ついでに言えば、失格されないままに他クラス妨害ってのも余裕で出来るんだよ。俺らは優しいから楽しくキャンプファイヤーしてただけでさ、ルールにある『他が専有してるスポットを許可無く使用した場合SP50のペナルティ』とか、だから何?だし。お前らDクラスが利用してる川、水場、いくらでも汚染出来るんだよ。ウンコ味の水でも飲めや。お前のせいで人が死ぬかもな」
「……。」
開き直って余裕が出てきたから周りを見る余裕が出来たけど……なんかめっちゃ俺を見る目がアレだ、怯えてるっぽい?な、なんでよ、そこまで脅してないじゃん……。
「うそうそ!体調管理してもらってるんだから気にすんな!ウンコ飲んでもすぐ治療してもらえるぞ。良かったじゃん!死なない死なない!」
「そっ、……」
「……は?なんか言いたいならちゃんと言えよ」
「フッ、ククク……鈴音、今なら寛大な俺が許してやるよ。『最初の条件で許して下さい、ごめんなさい』って土下座しながら今ここで言え」
横からいきなり龍園が口を出してきた。何だよいきなり面白いこと言い出しやがって。
「土下座するなら全裸にしようよ、全裸土下座だ。パンツも全部脱げよ。俺は優しいからCクラスのテントの中で、他の奴らには見られないようにしてやるよ。安心して脱げ」
全裸土下座してる堀北の頭をグリグリ踏みつけたら割とスッキリしそうだ。
「……黙ってろ浅井、バカ言うな」
「なんでだよ!?」
土下座させようとしたやつに言われたか無いわい!
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「ごめん、浅井くん。それ以上、僕のクラスメイトを責めないで欲しいな……」
ちょっと下がって見ていた平田が出てきた。
「あー、そうね、ちょっとやりすぎたかも」
慌てて普通の人間アピールをする。Dクラスには俺がキレたこと結構広まっちゃうか……。まぁ仕方ない。他クラス含め大半には直接見られてないと前向きに思おう。
「その……堀北さんもDクラスを少しでも上げようと頑張ってくれただけなんだ。不快にさせてしまったなら、ごめんね。許してあげて欲しい。この通り」
なぜか平田が頭を下げてくる。
「いや、それは無理だよ。平田は関係ないじゃん」
「……ううん、堀北さんも大事な仲間なんだ。僕から謝らせて欲しい」
それはそれで優しいイケメンで良いけどさ、
「お前に謝られてもどうでもいいもん……。おい堀北ぁ!何を黙っとんねんこのクズ!言うべきことがあるじゃろが!!」
「っ……」
堀北の赤くなっていた顔から涙がこぼれた。
「あぁ!?泣けば有耶無耶なると思ってんじゃねぇぞこのダボが!!」
なんの詫びもなく、何を黙り込んでんだよ!?あぁ!?
「浅井くん!落ち着いて!」
なんかめちゃくちゃ必死な平田に体を抑えられてしまう。いや別に落ち着いとるわい。
「いや、平田。これマジな話でさ、言うべきことも言えない人間にはちゃんと怒るべきだよ。相手が俺だから良いものの、世の中に出てもあんな態度取ってたら、いや本当にどうしようもないって。ここはお前が代わりに謝るとかいう話じゃないよ」
これは本心だ。誰にでもこの態度だったら本当に殺されるだろ。人間性が小学生以下のゴミに教育してる気分ってのはあるぞ。
「そう、かもしれないね……。堀北さん、浅井くんに一言、ちゃんと言える、かな?」
「保育園児でも言えるぞ」
「浅井くん!」
おっと、思わず口が出ちゃった。
「……、そ、……ごめん、なさい……」
うっわ、小さい声だな。でもまぁ聞こえたからいいか。
「いー、いー、よー!」
なんとなく明るくしようと小学生っぽい返事をしたけど、周りからは変な目で見られただけだった。解せぬ……。許してやったやんけ!
堀北も顔を伏せながらテントの中に行っちゃったし。そもそもなんで泣いてるんだよ?意味分からん。
龍園だけがニヤついてた。ムカつくけどちょっと救われた気分ではある。味方でもアルベルトは無表情だし、石崎はなぜか困った顔をしてるし。気にせず笑ってくれる龍園への好感度がちょっと上がってしまったかも。
あと、もう全裸土下座を要求出来る空気ではないな……。残念だ……。
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「で、平田。取引は成立か?」
俺から引き継ぐように龍園が話し始めた。まぁ決定権が龍園ってのは変わらんから、そっちの方が話が早いもんね。
「うん。みんなの賛成は既にもらってるから大丈夫だよ。ちょっと足して欲しい条件はあるけれど」
「……ならCクラスのキャンプ地に行くぞ。お前らの担任も立ち会わせたいなら呼んでこい」
「分かった。……ただ、龍園くん、もし堀北さんが引かないようだったら、君だったらどうしてたのか聞いてもいいかな?」
龍園だったら?そりゃ食料キャンプファイヤーでしょ。
「クク……浅井の話してた方法でも構わねぇが、話はもっと単純なんだよ。『3クラスと契約したらリーダー情報を開示する』なんていうのは口約束でしかねぇ。Dなんて放っておいて、A,Bとの契約を成立させることは今でも出来るんだよ」
は!?
「うぉい!……言えよ!」
なんで黙っとったんじゃこのボケ!
「ククク……お前がキレてんのが面白かったからな」
「なんやねんそれ」
意味分からん。見世物ちゃうわい!
「……堀北さんのアイデアは、意味が無かったのかな?」
なんか残念そうに言う平田。あー、そうか、クラスの賛成はもらってたけど、堀北の話が通ったら良いな~的に見逃してたのかな。
「テメェもボケてるヤツだな……。敵に何を聞いてんだ」
「ごめん。でも、教えて欲しいんだ」
「フン……。A,Bと契約を成立させて、Dとの契約が成立してない場合、『A,B,Dの3クラスとリーダー情報の開示取引が成立したら、Cクラスは無人島試験での環境破壊活動をすべて辞める』という条件に引っかからず、ただ俺らが何の制限もなく破壊活動を続けられるだけだ」
よくそこまで詳しく覚えてんなコイツ。
「デメリットが、無いと?」
「そういう事だ。あえて言うなら、BあたりからDに俺達のリーダー情報が漏れることだが……まともな精神があるなら契約して破壊活動を止めるだろ。クク……つまり、鈴音の提案は何の意味も無かったのさ」
楽しそうに言いやがって……。もっと早く言えよマジで。
「そっか……」
「契約条件に関しては、恐らく一之瀬が勘違いしてたのを聞いたってとこだな。それほど悪い発想じゃ無かったが……ククク」
今回一番損したの、絶対に俺じゃん。意味無くキレた所を見られちゃったし……。やっぱ龍園嫌いだ。