ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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天使は悪魔?

まだ陽が出てる17時過ぎだけど、もうなんか眠い俺は浅井虎徹です。昨夜は暗闇の中で山歩きとかして疲れてたし、微妙に寝不足って感じはあるんだよな……。龍園もそれで調子悪そうだったのかもね。もう寝ちゃおっかな。

 

みんなでいつも通り川に行って汗を流して、洗濯して、水をペットボトルに補充した。毎日やることって感じだな。昨日と違って日が落ちるギリギリのタイミングでもないので、のんびり余裕を持って行動できた。

 

そういう訳で、今は全員が自由にのんびりしてる。俺はテントに戻って寝転がってたら本当にもう寝ちゃいそうになってる所だ。また深夜に出るなら今寝ちゃっても良いんだよな……。

 

「浅井、起きてるか」

 

目を閉じて隣に寝転がっていた龍園から声がかかる。そりゃこっちのセリフだろ、お前こそ寝てたのかと思ってたよ。似たような生活してんだし。

 

「ん、起きてるよ」

 

「……Dクラスとの契約、ペナルティを無効化する案は無いか?」

 

「んん?……いや、無いんじゃないの?」

 

「……。」

 

条件は『提示されたリーダーが後からリタイアされていたと分かったら、契約を無効化した上で月々30万pp払うこと』だったはずだ。別にもう、リーダーをリタイア交代する必要も無いと思うんだけど……。

 

「なに、まだ他クラスのリーダー指名に成功してCP増やせそうってやつ続いてんの?」

 

「続いてるもクソも、諦める理由がねぇだろ」

 

えぇ……。

 

「いやだって、リーダー交代したらせっかく成立した取引がほぼ無駄になるじゃん。AとDからppもらえなくなって、その上でDには月30万pp、CP75相当取られちゃう。……何を言ってんの?」

 

バカなの?

 

「お前こそヌルいこと言ってんじゃねぇよ。Bとの契約は生きたままだし、他3クラスのリーダー指名に成功したらCP150のプラスだ。……忌々しいDとの契約ペナルティがあったとしても、収支でプラスだろうが」

 

「まぁ、そうかもしんないけどさぁ……」

 

なんだよもう、この2日の頑張りをほぼ無駄にするようなもんじゃん。

 

「不満か?オイ」

 

「そりゃそうだよ」

 

「……俺らがCP150のプラスというだけじゃなく、他3クラスがリーダー指名に失敗することでCP50のマイナスも食らわせられることになる。何を悩む必要がある」

 

そんなこと考えてたのかよ、めんどくさいなぁ……。

 

「まず、俺は他クラスのリーダーを3クラスとも見抜ける……とは思ってない」

 

「フン。現時点でまだ伊吹も金田もリタイアしてないし戻ってきてねぇんだ。あとはAクラスさえ見抜けば、低い確率ではねぇよ」

 

あ、そうなのか。確かにスパイが成功する可能性はあるかもしれないけどさ。

 

「うーん、反対する理由の1番は、『他クラスからの信用が無くなる』かな。これがやっぱ1番大きい。今でさえお前のせいでめちゃくちゃ嫌われてるだろうけどさ、今回そんな無断でのリーダー交代なんかして騙し討ちすると、絶対に次なんかあった時に契約結んでくれないでしょ。まったく同じ場面になった時に」

 

「……どうせ潰し合う関係なんだ、配慮する必要なんて無い」

 

「まぁ、そうかもしれないけどさぁ……。それでも、真嶋いわく『最初の特別試験』で『絶対にコイツらとは契約しちゃダメ』ってなったら、今後もう動けなくなるようなもんじゃん。今回このまま終わったら、ある意味でみんな幸せで終わりなんだから良いじゃん」

 

「だが、俺たちはCPで他に大きく離されることになる。ムカつく状況だ」

 

「分からんでもないけど、他クラスより多くのppを獲得出来る訳でしょ」

 

「……。」

 

「確かに一時的にCPは引き離されるだろうけどさ、pp契約を擬似的なCPだと見たら、今回と同じ試験がもう1回あるだけでppだけ見たら1位みたいな状況に出来るでしょ」

 

俺らは今回このままいけばCP350相当のpp契約を結べた訳だし、AクラスはCPを300以上増やせたとしても、ppだけ見たらそのうち250はCクラスに吸い取られる訳だし。

 

「ppだけ見たら、まぁそうなる」

 

「そしたら、前に言った『2000万ppでのクラス移動』を使って、他クラスに移動した後に授業中私語とかでCP減点されまくれば、そのクラスのCPを破壊出来る。ゼロに出来る。長期的に見たら、今回の契約しっかり守って、次も同じことすれば良いだけなんじゃないの?」

 

まぁ2000万も集まるのか分からんし、クラス移動した後に戻ってくるなら追加で2000万、1クラス破壊に4000万ppも必要だから現実的なのかどうかは微妙だけどさ。

 

「フン……」

 

なんだよ、不満そうな顔しやがって。どんだけ契約破りたいんだこのアホ。

 

 

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「そもそも、俺は他クラスのリーダー指名を諦めてるんだと思ってたけど、もし仮にそうするとしたら……やっぱ色々危ないと思うよ」

 

「言ってみろ」

 

相変わらずクソ偉そうにしやがって。

 

「今回の『みんなで幸せ』取引でさ、散々リーダー交代の危険性について話題になった……というか、全クラスが考えることになったじゃん。それでいて、BとDに関してはスパイっぽい生徒も居る。そんな状況で、今言ったお前の作戦を誰も考えないと思うか?」

 

「対策してくるってか?」

 

「そりゃあそうでしょ。……考えてみれば、龍園ならペナルティ食らう覚悟でやってきそうかもなーって思うし」

 

仮に、龍園が居ないで、俺がリーダーだったとしたら警戒されなかった可能性あるかもしれないけどね。

 

「……。」

 

「そもそも『やっぱお前出てけ』ってスパイの2人を追い出してもなんもおかしくないでしょ。そんな状況で他クラス3人のリーダー見抜けるか?」

 

本当にほぼ無理だと思うんだけどなぁ。

 

「3クラスのリーダーが分かっても、変更される可能性がある……」

 

「あ、それもあるか。……ってなると、俺達が契約無効にされた上で、他3クラスのリーダー指名に失敗する可能性すらあるじゃん。いやもう最悪中の最悪な展開だね、俺達はCPを増やせない、契約によるppはBクラスからはもらえるけど、Aクラスからはもらえないし、Dクラスへはペナルティで支払わなきゃいけない。CP増やせない上に、毎月10万ppの赤字になるのか。うっわ、グロ過ぎる」

 

考えたくもないほど最悪な結末ってことになるな。それでいて、信用も地の底。次から取引に乗ってもらえる訳もないってね。笑うしかないほどBAD ENDだ。

 

「Aクラスからの80万は変わらないがな」

 

「ん?そういやそっか」

 

物資SP200分の取引はまぁそのままか。

 

「……Dクラスのザコ共がペナルティまで考え至ったのが本当にムカつくぜ。あのクソ共が」

 

それでキレてて元気無かったのかね?意味分からんヤツ。

 

「あれ思い付いたのってやっぱ平田なのかな?」

 

「…………。」

 

うぉい!……いきなり黙り込むな!

 

「平田、櫛田、あの2人以外で誰か頭良いヤツ居るの?」

 

「……お前が嫌いな鈴音も、一応候補に入れておけ」

 

「堀北ぁ?ウソだ~」

 

「別に……アイツも頭が悪い訳じゃねぇよ。お前がキレた時に提示してた条件も、前提が違えば悪い提案じゃなかった。ククク、お前に泣かされたから言えなかっただけで、ペナルティを条件に加えることをアイツが思い付いてたとしてもおかしくはねぇ。ただそれが言えなかっただけでな」

 

えぇ~?

 

「龍園お前めっちゃ変な趣味してるよな……。堀北の見た目、顔とかが良いのは認めるけど、あんなの好きになって擁護してるの正直キモいよ」

 

ぶっちゃけ引くわ。趣味が悪すぎる。

 

「……そういう話じゃねぇよボケ。平田以外の候補が居るかの話だろうが」

 

「まぁ、うん……。そこまで言うなら堀北も候補入りでいいよ。他に誰か居んの?」

 

「あー……学力的にはその3人に並ぶ、近い生徒は当然居るが、勉強だけ出来ても思考が巡るかは別問題だ。可能性があるヤツは居るが……分からねぇな」

 

ふーん、結局分からんのかい。まぁ仕方ないか。

 

でも、堀北は無いでしょ……。須藤事件の監視カメラ偽装の時はたまたま思い付いただけなんじゃねーの。

 

 

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「てか、お前がキレてるDクラスだけど、そもそもの原因は違うんじゃないの?」

 

「……どういうことだ」

 

「いや、もしかしたらDクラスの誰かが気付いたのかもしれないけどさ、そもそも昨日の契約締結した後に、Bクラスが条件とかをDクラスに伝えたから思い付いちゃったんでしょ」

 

「……。」

 

「Bクラスが『リーダー交代の可能性あるよ』ってわざわざちゃんと伝えたからこそ、その後じっくり考えて、『ペナルティを用意しておこう』ってなったんじゃないの?」

 

Bクラスと契約してから、ほぼ丸1日経ってからDとの契約だったもんなぁ。どうせ統率取れてないクラスだから仕方ないと思ってたけど、その時間がDクラスの味方をしちゃったのかもしれない。

 

「……つまり、一之瀬が最大の敵だと?」

 

いやどういう理屈やねん。

 

「敵っていうか……ある意味で、Cクラス封じのMVPかもしれないよね」

 

「は?」

 

は?ってなんだよ。ムカつくな。

 

「『対Cクラス同盟』なのか、単に『仲良しBD同盟』なのかは知らないけどさ、一之瀬が多分Dクラスに情報を伝えた訳じゃん?」

 

堀北が『3クラスと契約しないと成立しない』みたいな勘違いしてたんだし。

 

「……まぁ、そうだろうな」

 

「Dクラスに黙ってたら、『Dクラスも自分達と同じように契約でハメられかねない』って判断して、正義感があったからか、ちゃんとDクラスに教訓を伝えた。『リーダー交代されちゃうかも』みたいなのを伝えた。本来は敵同士なのに、優しいから助け合おう精神が働いちゃって、伝えちゃったからこそ、俺達が最初のプラン通りに進めなくなった。みたいなね」

 

Dクラスだけでペナルティまで思いつけたとはあんまり思いたくないし、優しすぎる一之瀬のせいで動けなくなったと思ったほうがまだ許せる。

 

「俺が……Bクラスに妨害活動をしたのが原因だってか?」

 

「はい?どういうことよ」

 

いきなり何を言ってんの。

 

「チッ……。俺がアイツらを警戒させたせいで同盟を組まれて、今回失敗したとでも言いたいのか?」

 

あ~、そういえば『須藤事件』の前にBクラスに嫌がらせしてたね。そのせいでBとDが手を組んだ、みたいなのもありえるのか。いや他クラスの動向は正直あんまり知らないけどさ……。

 

「その通りだ!……って言ってもいいけど、なんか、一之瀬だったらそういう関係無しにでも伝えてた気もするよ」

 

めっちゃ良い子だもんな。

 

「脳内が花畑の間抜けだから、敵対してる相手にも塩を送ったかもしれないってか?」

 

可愛い天使になんてこと言うんだよ。お前の脳内なんか時代遅れの不良漫画の癖に。

 

「一之瀬が優しかったからなのかもしれないけどさ、今回の件に関しては『Bクラスが契約した直後から一之瀬が頑張ったのかもしれない』とも思うんだよね。今考えてみると、Bクラスが何もしなかったらDクラスは予定通りの契約してくれてたと思うし、それだったら俺達Cクラスはリーダーを交代してた訳だから」

 

「フン……。俺達がリーダーを交代しないように、一之瀬がDクラスに交代時ペナルティまで用意させたってか?」

 

ん?

 

「あ、そっか……。言われてみればペナルティも一之瀬のアイデアとかだったのかもしれないね。めっちゃあり得る話だ、Bクラスにとってはリーダー交代されたい放題だったけど、Dクラスとの契約でペナルティを用意させて、交代させにくくする……」

 

いやー、ありえる。めっちゃありえる。美しいほど見事な作戦だな。

 

「あとは裏取引で、『Dにリーダー交代の情報が入ったらBに情報提供するように』とか決めてる可能性があるのか。チッ……やってくれたな……」

 

確かに、そう考えるとめちゃくちゃ筋が通るな……。

 

「いやはや、実際どういうやり取りがあったのか後で聞いてみたいね」

 

「……。」

 

うーん、帰りの船の中でまたポーカー大会でもやりたいな、多分時間もあるだろうし。そこで雑談がてら今回の試験について色々話したら楽しそうだ。

 

神室またディーラーやってくれるかな……。


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