DAY 4
おはよう……。
………起きたくない、一生寝ていたい俺は浅井虎徹です。
もう……このまま溶けて消えたい……。
なんで告白失敗した?……まったく分からない。
最高にめちゃくちゃ綺麗な星空と月、南国の海と砂浜、波の音。
そんな最高のロケーションで、真夜中に2人きり。
もう絶対その場の流れでキスしてセックスまでしてなきゃおかしい状況じゃん……。
なんで失敗した?
櫛田もホントになんか疲れてそうだったし、『俺が色々と話を聞いて、気晴らしになればいいな』っていうのも下心抜きの本音、マジの良心、本気だったのに……。
いやまぁ、下心もあるんだけど。
会話してた感じも、悪くなかったと思うんだけどなぁ……。
分からない。なーんにも分からん。もうダメだ。
帰っちゃおうかな……。実家。
はぁ……。
とりあえず今日はもう休みです。何もしない。てか、出来ない。
休業です。
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そう思いながらテントで横になっていたが、外に出ていたロン毛が戻ってきて声をかけてきた。会話する元気ねぇぞ。
「オイ、浅井。昨夜の偵察でどうだったか教えろ」
「……知らん」
「は?」
めんどくさい。もう本当にめんどくさい……。
「あー……伊吹は大丈夫そうだった」
「Dクラスのリーダーは」
「……知らん」
「フン。……なんだ?何があった?」
なんとなく龍園に目を向けたら怪しまれてしまった。表情筋が涙で溶けて消えて、死人みたいな真顔になってる俺に違和感があったんだろう。
「今日の俺は、もうダメ。死ぬかも。勝手に船に戻るかもしれん」
「意味分かんねぇよ……。まぁ、寝とけ」
「ん……」
あれ?なぜか優しい?……なんにせよ、あんまり会話しないでくれんのは助かるな。
けど、もしかして体調不良だと思われた?そりゃそうなるか。まぁいいか。どうでもいいや……。
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朝、じゃなくて昼だ。10時過ぎ。二度寝から起きた。
流石に寝たらショックも少しだけ薄れてきたけど、まだなーんもやる気しねぇな。
相変わらず暑いけど、今日はなんか全然マシだ。慣れてきたというより……曇りなのか。雨降ってきそうで嫌だな。
「虎徹!大丈夫なのか!?」
天気を見るためにテントから顔を出してすぐ石崎が大声で呼びかけてきた。うるさいんじゃボケ。
「……なんだよ」
「うっ、その、体調悪そうだって聞いてたから……。ほら、水飲め」
ペットボトルを差し出してきた。
「ん、どうも」
「っていうかどうしたんだ?熱でもあんのか?」
もー、うるさいよ……マジで。
「気持ちは嬉しいけどさ、本当に体調不良だったら大声で話しかけちゃダメだろ。うるせーよバカ」
「あっ、その……すまん」
なんかちょっと罪悪感あるけど、謝るのもめんどくさい。なーんもやりたくない……。けど、寝起きで腹がちょっと減ったな。
「バナナまだある?」
「ん?おぅ、持ってくるぜ!待ってろ!!」
ありがたいけど……うるさい……。
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キャンプ地の近く、なんか雨が降りそうな灰色の曇り空の下。近くの草を適当にちぎって集めた、『雑草座布団』の上でバナナを食いながらのんびりしていた。なんかちょっとクサい、草のニオイ。……ダジャレじゃないよ。
流石にもう眠くはないし、雨が降る前に川で水浴びでもしてくるかね……。
「虎徹、もう大丈夫か?」
「あー、うん。まぁね……」
別に体調が悪かった訳じゃないから、そういう意味では最初から大丈夫なんだけどね。
「そっか……。無理すんなよ?」
「はいはい。どうも」
「ホントに大丈夫か?……何かあったのか?」
しつこいなぁ!
「大丈夫だっての……」
「龍園さんとお前が夜に偵察してくれてるのはみんな知ってる。いつもありがとな。今日からは俺らも交代してやれると思うから助けられる。マジで無理すんなよ?なんだったら、俺から龍園さんに船に戻れるよう頼んでもいいから。元気出してくれ」
う、うざい……。でもまぁ、良心から言ってくれてるのは分かるから無下にしにくいのもある……。
ここまでウザ絡みされるなら、もう元気になったフリでもするか……。まぁ確かに集団行動で1人ウジウジしてたらこうなるのかもしれないけどさ。それにしても、ありがた迷惑だぞ石崎。
「あー……もう大丈夫、ほぼ大丈夫。多分ただの寝不足だよ」
「そう、なのか?」
「うん。川行こう、雨降ってきたらヤバイかもだし」
「そっか。よっしゃ、行くか」
川の水が濁ったりしたら飲めなくなっちゃうし、ペットボトルへの補給もしとくか。
今日は……4日目か。あと3日くらい。水の残量まぁ大丈夫だろうけど足りなくなるより良いもんね。
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石崎以外にもアルベルトも暇そうにしていたので、3人で川に行くことにした。
そういえば川の水で体調悪くなったヤツCクラスには居ないのかな。
「石崎、水飲んで腹壊したヤツとかって居んの?」
「え?いや、多分居ないと思うぞ」
「ふーん。了解」
これ、ラッキーだと思う。他のクラスだったら2,3人出てくる頃なんじゃないの?なんか『海外で水道水は飲むな』みたいな話も聞いたことあるし。無人島にある川の水も似たようなもんでしょ。
もし全員が平気ってなると……実は運営側が隠れて浄水して、それを川に流してるとか?
あとは、交換食料にめちゃくちゃ胃腸薬が混ぜられてるとか?そう考えると微妙にマズいのにも納得できるな。
……そんなことするくらいなら、胃腸薬を無制限で配れよと思うけど。
「えっ、あんまり飲まない方が良いのか……?」
お前は腹を壊さなそうな体力バカの代表だろうが。何をビビってんだ。
「いや大丈夫だと思うけどね。症状出るならもう出てるはずだろうし」
「そっか……」
気にするなら最初にガブガブ飲んでたのがおかしいだろが!
「別に……変に気にして水飲まなくなって、熱中症でぶっ倒れるとかやめてくれよ。普通に飲めよ?」
「あ、そうか。分かった」
返事は素直なんだよな。
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それにしても、やっぱ櫛田のこと考えちゃうなぁ……。
服を川でバシャバシャやったりしながら、どうしても昨晩のことを考えてしまう。
なんかちょっと無理して人付き合いしてるのは間違いないと思うんだけど、その動機が本当に分からん。
『良い子』だと思われて、その期待を裏切れなくて、無理してでもひたすら演じ続けてる……みたいな感じなのかね。
あと、櫛田に何か聞かれたな。なんだったっけ……。
えーっと、「どうして『秘密』を教えてくれたの?」だったっけか。
うーん、『秘密』ねぇ……。
「石崎、俺に話せるけど、あんまり言って欲しくない『秘密』ってなんかある?」
「えっ!?なんだよいきなり……」
「良いから。怒らないから。なんでも言ってみ」
「えぇ……そうだなぁ……。やっぱ『龍園さんちょっと怖い』かな」
「誰が見ても分かるわアホ」
思わずツッコミになっちゃったよ。
「そ、そうか?うーん、他には……」
そう言いながら思わずアルベルトの方をチラ見した石崎。そういや怖いみたいなこと言ってたな。
「アルベルトとは仲良くしろって言ってんじゃんか。このイジメっ子!アホ!」
「いや違うって。ただ、英語が分かんねぇから……」
間違いなくアホじゃないか。
「気にすんなっての。アルベルトー!こっち来て!」
「バカ、虎徹お前!」
は?誰にバカ言うとんねん。もう許さん。
「……What's up?」
「石崎がさ、英語なんも分からんバカだからアルベルトと話すのが怖いってさ」
「……。」
「今言ったのは、分かる?」
「I understand most of it.」
「オーケーオーケー。……ってかアレか、アルベルトが少しだけでも日本語を話せれば良いんだよな……」
「……。」
無表情だけど、嫌そうな感じではない、のかな。
「アルベルトも話すタイミング逃しちゃったのかもね、高校始まって4ヶ月くらい。いきなり日本語話し始めたら何か言われるかも……って」
「……。」
「そうなのか?アルベルト」
「……。」
無言かい!なんか言って欲しいぞ!
「じゃあ、あれだ。これから日本語レッスンだな。Please repeat after me! OK?」
「……OK」
「よし。じゃあ……石崎、バカ」
「……Ishizaki, BAKA」
「なんでだよ……」
「虎徹、かっこいい」
「……Kotetsu kakko ii」
おぉ、良いじゃん良いじゃん。
「俺の、筋肉、は、最強、無敵、です」
「……Oreno kiniku wa saikyo nteki desu」
ちょっとだけ違うけど、まぁ全然通じるでしょこれ。
「俺達の、リーダーの、龍園は、頭が、いかれています」
「…………。」
……これは言ってくれんのかい!
てか、聞き取っての理解はやっぱかなり出来てるのね。
「じゃあ、うーん……」
てか、考えてみたら英語で言われても伝わる気もするんだよな。ハロー、グッバイ、ストップ、エクスキューズミー。それくらい中学でやってんだし。
「えっ……アルベルトって日本語で聞くのは出来るのか?」
なんかバカ・イシザキが話しかけてんな。俺が日本語で話しかけたから?
「……Yes. But, not all」
「な、ナッタ……?」
あ~、発音で伝わらないのかもしれないな。
「アルベルト、試しに単語で区切って発音してみてくれない?今のだったら、バット、ノット、オール」
「……But, NOT, ALL」
良いじゃん。
「オーケーだよ、それなら英語のままでも通じるかもよ」
「えーっと、ノットは否定、オールは全部……全部じゃないってことか?」
いやそれくらいすぐ分かれや。アホ石崎。
「……Thank you, Tetsu.」
おっ、久しぶりにテツ呼びされたな。やっぱ良いね。
「Your welcome, R.」
このコードネーム感、たまらん。
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川からの帰り道、石崎がちょっと神妙な顔で声をかけてきた。
「なぁ、虎徹。さっきなんで『秘密』なんか聞いてきたんだ?」
なんでだっけ?……あぁ、櫛田がなんか気にしてるみたいだったから、なんか他のヤツの『秘密』がちょっと気になったんだった。
「なんかさ、『人と仲良くなりたい!』って思ってるヤツの気持ち、思う理由が分からなくてね……。もしかしたら、仲良くなって『秘密』を知りたい、とかなのかなって」
「ふーん……。変なヤツなんだな、そいつ」
「ん?変なヤツ?なんで?」
「だって、『言いたくないこと』も、ダチの間で普通にあるだろ?」
「そりゃまぁ、そうだと思うけど」
俺はそこまで友達居なかったからハッキリ分からないけど、まぁそうでしょ。
「言えないことがあっても、別に、一緒に居て楽しかったら良いと思うけどな」
「……まぁ、そうだね」
良いことを言う。ちょっと見直した。
不良をまとめるガキ大将みたいなタイプだから、やっぱそういう仲間を作ってきた経験があるのかな。家庭環境が良くないヤツ同士で仲良くしてた、みたいな?
ただ、女子だとまた別なのかも……?
男だったらお互いの『秘密』なんて気にせず楽しめると思うけど、女子は『秘密』を共有することこそが信頼、とかあるのかもしれない。
『好きな相手は誰?』とかいう話もするだろうし、そういうので信頼関係を確認してるのかも。いや知らんけども。
「逆に、言った方が良い事もあるのかもしれないけど……」
ん?なんだ?
「どういうの?」
「その……虎徹、お前がDクラスの所で女子をいじめて泣かせてたやつ、あれはちょっと、あんなに脅すの良くないんじゃないかなって思ったぞ……。ちょっと怖かったし。本気ではない、よな……?」
「……。」
俺に言うのかよ。ってか、なんでそんなに引くんだよ、大したこと言ってないだろが……。舐めた提案されたからやり返しただけだし。別に手を出した訳じゃないし、実際にやった訳でもない。何が悪いの?
「えっ……マジだったのか?」
「あー、なんていうか……。半分以上やるつもりは無かったっての。けど、お前だって舐められりしたら、怒ったりもするでしょ」
「いや、まぁ、そうかもしれないけどさ……」
「別に手を出した訳でもないんだし」
「けど、お前……」
「あぁ?」
「えーっと……、なんでもない」
なんだよもう。手を出しそうだった、殴りかけてただろってか?
……うるせぇ!
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帰り道、空気がちょっと悪くなって沈黙が続いていたけど、また石崎が話しかけてきた。こういう引きずらない性格は良いよな。
「さっきの話だけど、龍園さんは『秘密』とかめっちゃあって、誰にも言ってなさそうだな……」
「あー、確かに」
それは間違いない。アイツ死ぬまで誰にも言えないこと、言わないこと超ありそう。
「虎徹もちょっとありそうだけど……」
「なんでじゃ!」
俺は全然ねーわ!……実家での色々は死ぬほどあるか。ありました。
「アール、龍園と俺、どっちの方がシークレット、多いと思う?」
「……Boss」
「だよね」
そりゃそうだ。
「うーん、龍園さんの隠してる事……。虎徹は何か聞いてるか?」
「龍園の秘密といえば……」
それこそ俺がボコボコにして殺しかけちゃった例のヤツかな。
あっ、けど考えてみたらコレって俺にとっても『秘密』じゃんか。流石に言いふらされるのは困るな、引かれちゃいそうだし。完全に忘れてた……。
「なんか知ってんのか?」
「うーん……知らない。知らんってことにしといて」
一応アルベルトの方もチラッと見たけど、まぁ言わないでくれるでしょこっちは。
「……。」
「あっ……分かった。俺は何も聞いてない」
何も言ってないんだから当たり前だろアホ。
あと、石崎なんだよその真剣な顔。なんか勘違いしてそうだなコイツ……。