料理もスポーツも喧嘩も、後片付けが一番めんどくさい。
こんにちは、いやもう夜なので、こんばんは。ロン毛のヤンキーと一緒に教室の拭き掃除をしまくっている、謎のシチュエーションで罰則のようなことをしている浅井虎徹だ。
今は唐辛子スプレーを撒き散らした後片付けとして教室の掃除をしている所だ。換気だけして逃げてしまおうかと何度も迷ったが、そこら中にスプレーを撒き散らしてあり、龍園のヨダレと涙と血と青春の汗も合わさってベチョベチョに汚してしまった以上、やっぱ掃除しないとダメだな……ということで、2人で掃除をしている。
喧嘩に勝ったのは俺なのだから「お前が掃除しろ」とか命令してもいい気はするんだが、道具無しでのステゴロ喧嘩となると俺は十中……六七くらいで負けるから、無意味に恨みを買いたくない。
あそこまで痛めつけたらしばらく反抗しないだろう……と思いたいが、プライド高くて暴力的なイカレ野郎にそんな期待をしたくない。どうせすぐ逆襲しようとしてくるだろう、くらいに思って触れ合うのが丁度いいでしょ。
そういう訳で、命令してやらせるのは諦め、かといって俺だけがやるのも絶対に嫌なので2人で掃除をしているという訳だ。
何枚かタオルは少し用意してたが、まるで足りなかった。流石に雑巾やバケツなんかは持ってなかったので特別棟にあったものを勝手に借りてやっている。
そんな訳で共同作業だが、外も暗くなりきった今、部屋の電気を点けると一発で見つかりそうなので廊下から入ってくるだけの光で作業してる。……なんとなく、逆にこの暗さだとお互いの顔をハッキリ見ないで済むため、そのお陰で会話しやすい感じにになっていた。
「……ってな具合で、ここ最近は2年と3年から情報を引き出してたっつー訳だ」
龍園から色々と話を聞いていた。ここ数日間で部下を使ったりしての情報収集に徹していたらしい。
「で、間違いなくクラス対抗戦があると?」
「いや、たまにあるとかじゃない。この学校は、それがすべてだと」
大げさな……。ホントかよ。
「しかし良く聞き出せたね。担任から一切言われてない情報なんだから、学校としても『1年生には伝えるな』みたいな伝達あったんじゃないの?」
「直接聞かなくても、『3年のBって今何ポイントくらいでしたっけ?』なんて聞けば漏らすアホは少なくなかった」
「ポイント?」
「あぁ、クラスごとに、クラスポイントを競う形式だ。そのポイント順がそのままA,B,C,Dになる、ポイント数がクラス順位を表してるってことだ。間違いない」
マジかよ、とんでもない貴重情報じゃないか。確かに同じ敷地内に居る人間から聞き取れる話だから、そりゃ手に入るかもしれないけど……。いやはや、お見事だ。
「……うん。すげーな、素直に感心したよ。お前やっぱリーダーの素質は半端じゃない。行動力とか早さとか統率力とか」
だからこそ、悪徳スカウトになるなんて悲しいわぁ……(決めつけ)
「……ただ、その情報を確認する過程で、脅してみたり買収したり名前を偽ったり、そういう部分がペナルティにはなってるだろう」
やりたい放題かよコイツ。……ちょっと注意しておくか。
「あー、女を使って色仕掛け~とか、抱かせた後に気を抜いてるとこ情報聞き出す~とかは、本人が心から納得してる場合だけにしろよ?脅して使って、報酬としてこんだけやるからいいだろ、抵抗したらバラすぞ、みたいなのはやめろよな」
「……しねぇよ」
なぜか呆れた雰囲気で返される。いやいやいやお前に呆れる権利は無いだろ。女を食い物にしてそうな生物ナンバーワンのくせに。
「ん、まぁいいや。でもなんでクラス対抗戦っぽいってそこまで分かってんのに、みんなに伝えてないんだ?」
死ぬほど嫌われてるんだから、せっかくの好かれるチャンスなんじゃないの?
「今伝えても意味が無い。クラス対抗だからって今やれることはねえよ。んで他のクラスに落ちてもらわなきゃ困る。情報が他クラスに漏れて、他が落ちないリスクの方が高い」
「まぁそうかも?」
「後は、まだオレが目立ちたくないのもある」
初日で同級生シメといて何いってんだコイツ。……あぁ、あのあとクラス全員に「言いふらしたら潰す」とかなんとか言うてたっけか。
「なーるほど。……じゃあ生徒が『この学校はクラス対抗戦がすべてだ』って分かる前に、ある程度は他クラスの生徒と仲良くなっておいた方が良さそうだね」
敵クラスに遊びに来ました~より、違うクラスに遊びに来ました~の方がラクに決まってる。俺は程々に友達が欲しいんだよ。こんな悪そうなヤツじゃない友達が。
「……お前、そんな社交性あんのか?」
龍園の顔を見てみるとめちゃくちゃ疑わしい顔をしていた。失礼なやつだな。人類のだいたいはお前より社交性あるわボケ。
「あるわい。クラスじゃお前を叩き潰す前に目立ちたくなかったのと、放課後とかはお前を倒すための準備とか下調べで忙しかったんじゃい」
振り返ってみると、龍園のためだけに活動してたような10日くらいだった。死ぬほど不健全な高校生活じゃないか……。
「もし出来るなら、他クラスとの繋がりはかなり貴重だ。やってくれ」
「はいはい。言われなくても龍園ボコす計画が終わったんだから、楽しく交流するよ」
「……。」
苦虫を噛み潰したような顔をする龍園、負けたことの悔しさとかが出てきたのかもしれない。……すぐ復讐してきそうですげぇめんどくさいな。
「あー、今日のことは一切誰にも言わないから、バレる心配もしなくていいよ。俺がリーダーに成り代わろうなんて思っちゃいないし、出来ないし」
思わずビビり、念を押しておく。下手に障害物だと思われたら死ぬほど面倒そうだし、なんとか仲間だと思ってもらおう。ビビってねぇわ。
「……あぁ。……だが、リーダーになりたい訳でもないなら、お前はなんのためにこの学校に来たんだ?」
いきなり重めの質問してくるなぁ。少なくともお前みたいに不良漫画生活するためではねぇよ。
「社会体験、かな。色々楽しめたらいいなぁ、くらい。あとは……、友達とか彼女が欲しいかな」
祖父からは色々経験してこいって言われただけだし。ある程度は自分の欲求のままに動いてもいいだろう。
「そうか……。なら、確かに俺がリーダーの方が良さそうだ」
そらそうよ。お前以上にリーダー向きの人間なんて滅多に居ないだろうよ。
「ちょっとくらいなら、俺を部下として使ってもいいよ。周りからの目もあるだろうし、不仲に思われるためにーとかで。……いや、ムカつくな。めんどくさいし。やっぱ嫌だ、やりたくない」
「……部下として、まるで信頼出来ないからいらねぇよ」
「はー?失礼なやっちゃな。……じゃあ今なんとなく部下扱いでこき使ってる連中はどうやって、何を基準に選んだんだ?伊吹なんか従順そうに見えないけど」
サバサバ格闘ガールっぽい伊吹は、言いたいことをストレートに言っちゃうせいで女人気のめちゃくちゃ低い女子だ。俺は結構好き。口が悪いけどそれがまた可愛い。
「石崎、アルベルトは喧嘩で認めさせたから従順だ。伊吹はアホだし文句も多いが、納得させれば、やるべきことを正確にやる兵として優秀だ。あとは……ひよりくらいだが、たまに意見させるくらいだ。他にも不良上がりのやつ数人に指示は出してるが、暴力で従うような奴だけだ」
「ふーん……。なんで俺は入らなかったん?」
いや別に入りたくもないが。
「お前は普通の一般人だと思ったんだよ。最初は武闘派で固めておきたかっただけだ」
まぁ喧嘩も別に強くないしね。ちゃんと真面目に授業受けてたから、コイツの不良センサーには引っかからなかった訳だ。そりゃそうだ、中学時代から現在に至るまで不良じゃないんだし。
「なるほどね。んで話を戻すけど、俺と龍園の関係は……なんとなく嫌ってる設定にする?」
「……悪くねぇな。お前が俺を嫌う理由も『暴力的だから』、そして俺がお前を……興味がない、とかで十分納得されるだろう」
「いいんじゃない」
裏で繋がってるけど、表面上は不仲。ありきたりだけど色々と使える状態だろう。
「何か情報のやり取りがあったら、端末でのやり取りだけにすればいいだろう」
「オッケー」
こうして、俺と龍園はなんとなくの共闘関係となった。
でもまぁクラス対抗って言われたって、全然まだ良く分からない。しばらくはチャットで少し話す程度の関係だろう。龍園が何するのかは面白そうだし結構気になるから、そういうのを聞けるかもしれないという意味では良い関係になれたと言えそうだ。
初めて出来た友人が龍園になってしまうのか……?とも思ったが、先に坂柳と友達になっていたと思おう。そうしよう。