DAY 5
おはようございます。無人島試験も5日目、ジャングル多めの島生活に割と慣れてきたかもしれない野生児の俺は浅井虎徹です。野生児じゃねーよ。
まぁ、慣れても残りは2日だけどね。
昨日の夜は櫛田と別れた後、俺&龍園&伊吹の3人で軽く会話をした。
伊吹は別に痩せてる訳でも疲れてそうな感じでもなく、Dクラスでちゃんと生活させてもらってたっぽい。良かった良かった。ちょっと見直したよDクラス。
伊吹いわく、サマーリーダーは「多分だけど、堀北」とのこと。意外だよね、何を評価されての選出だよっていう。
俺としてはB,Dクラスのリーダーはどうでもいいんだけど、せっかく頑張ってくれてる伊吹の前で「Dクラスのリーダー指名やめようよ」と言うのもアレなので流石に言わなかった。龍園にはめちゃ言っておいたけど。
龍園からは伊吹に「証拠の優先順位を下げて、Dクラスの偵察しとけ」みたいな指示を出してた。Aクラスも失格させる予定だし、証拠があっても売り付ける相手居なくなっちゃうもんね。あと、取引の『リーダー変更の通知をしなかった場合は月々30万ppを払うこと』っていうペナルティを追加した人間が誰か探りたい、っぽいかな?
あんまり長く一緒に居るとバレちゃうということで、2,3分で深夜会談は終わった。
ただ、龍園は伊吹に「デジカメ取ってこい」と命令してた。あれ?俺達で持ってなかったっけ……。Aクラス潰すのに必要だけど、てっきり持ってるものかと思ってた。
そういえば伊吹は『龍園から逃げた』設定だったんだよな……。完全に忘れてた。櫛田にバレちゃったけど、ま、別にええか。
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さーって、どうしようかな。
時刻は昼の10時過ぎ。あれだけあった大量のバナナもみんなで好き放題に食ってたらもう無くなっちゃったので、パサパサの美味しくない交換食料を食べてる。
「浅井……話がある」
「どしたん」
やけにシリアスな雰囲気じゃんか。手招きされたのでテントに戻る。
「伊吹に渡してたデジカメだが、壊れて使えなくなっていた」
「えぇ……。なんでやねん」
「水が入って壊れてたという話だ。しっかりビニール袋に入れておいたってのにな……」
「え、何、誰かに壊されたって?」
雨降ったとはいえ、土砂降りって訳じゃなかったもんね。そう簡単に壊れないと思うんだけど。
「……その可能性が高い」
「はー、マジかよ。伊吹ってことはDクラスでしょ?意外と危機管理ちゃんと出来てんのなぁ」
素直に感心した。Cクラスでも龍園以外にそこまでやれるヤツあんまり居ないんじゃないの?
「お前に犯人の心当たりはあるか?」
「え?いや、うーん……。分からん。無いね」
まったく心当たり無いな。マジで思いつかん。っていうかDクラスの顔ほとんど知らないくらいだし。
「チッ……仕方ねぇ。今回の試験でCP獲得は諦める。俺達のリーダーを交代してまでリーダー指名するのは辞める。ペナルティの時点でも腹立たしいが、その上でCP獲得まで失敗したらアホらしすぎる……。辞めだ辞めだ」
失敗するかもしれないって?
「いや俺が前からそう言うてるやんけ」
「……てめぇのは『嫌われちゃうから』とかいうバカな理由だろ」
「違いますぅ、『失敗したら最悪』ってのもちゃんと言ってました~」
俺の返答に嫌そうな顔を返す龍園。なんじゃその顔。
それにしても、Dクラスに平和ボケしてない、ちゃんとしてるヤツが居たのか。なんか、すごい意外だ。
誰か分からないけど、そういうヤツも居るっていうのは覚えておこう。
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「んで、カメラどうすんの?代わりに金田のやつ使うの?」
「これを使え」
「おっ、流石じゃん」
もう受け取ってたんだ。仕事が早いね。
「それで浅井、計画は考えたのか」
計画って言っても、
1. 龍園が葛城と2人だけで話し合う
2. 俺が弥彦からリーダーを聞き出す(録音)
3. 弥彦に殴られる(撮影)
4. 弥彦にカメラを破壊させる?(録音)
これだけなんだよなぁ。もし弥彦が噂通りなら、そう難しくもなさそう。
「考えたけど……ちょっと迷ってるのが『ボイスレコーダーを破壊させて、それを写真に撮る』というプランAと、『暴行写真を撮って、カメラを破壊させて、それをボイスレコーダーで録音』のプランBかな」
プランBだと俺が殴られなきゃいけないし、プランAの方がラクなんだけど、ボイスレコーダーを最初から最後まで隠してるプランBの方が上手くいきそうなんだよね。
「プランBでカメラを破壊させる必要はねぇだろ。写真が証拠になる」
ん?
「あっ、そういえばそうか……」
ちょっとだけ嫌だけど、普通に殴られるとしますか。
「カメラを持たせるのは誰にすんだ」
「悩むけど、山脇かな。アルベルトだと相手がビビっちゃいそう。石崎小宮近藤の三馬鹿だと何言っちゃうか分からんし、須藤事件のせいで警戒されそうだし。そう考えると鈴木と山脇しか居ないんだよね。この2人だったら山脇の方が警戒されなさそうかな」
「まぁ、異論はねぇ」
「ってか、暴力的じゃない生徒が俺含めても3人しか残ってないってヤバくね?少なすぎるだろ」
「いやテメェも暴力側だろうが」
「……。」
まぁ、流石に龍園から言われると反論出来ないな……。ちくしょう。
「あー……そろそろ行くぞ。警戒されないよう昼は偵察させてないから、ハゲがどこに居るかは分からねぇ。Aクラスのスポットに居たとしても他のAクラス生徒に聞かれないようにとか言って呼び出すことは可能だろう。ただし、弥彦が居なかった場合は何もしないで次に備えろ」
「オッケー」
さて、山脇に軽く説明しとくか。説明というか「俺が殴られると思うから、それ写真に撮ってね」ってだけなんだけども。
ボイスレコーダーの使い方もちゃんと確認しておくか。
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さて来ました、抜群のロケーションにあるAクラスのキャンプ地、洞窟、その近く。
メンバーは龍園、俺、そして山脇。
山脇は袋に入れてるデジカメを明らかに気にしまくってる感じもあるし、緊張感がありすぎだな……。バレちゃうじゃん。勘弁してくれよ。
「山脇、もうちょい気楽にしてくれよ」
「あっ、あぁ……」
緊張しすぎだろ。なんかヤバそうだな。
「ペットボトルの水も入ってるでしょ?その袋」
「ん……あぁ、飲むのか?」
「いや、いらない。ただ単に『荷物を持たされて面倒だなぁ』とか『龍園うざいなぁ』みたいな事も考えててよ、写真撮ることばっか気にしてないで関係ないこともちょっと考えよう」
「わ、分かった……」
うーん、不安だ。けど仕方ない、大丈夫だと思うしかない。鈴木にしとけば良かったけど。
そういえば昨日はずっと曇り空だったけど、今日は快晴なので普通にめちゃくちゃ暑い。これ、無人島の環境に慣れてたんじゃなくて、ただ昨日は涼しかったからキツくなかっただけっぽいな……。
「オイ、そろそろ黙っとけ」
龍園が命令してきたが、ちょうど葛城と数人が一緒になって戻ってきた所だった。
「龍園、あんまり時間が短かったらどうしようもないよ。頼むよ?」
5分や10分だったら会話出来るかも怪しい気がするし。まぁそうなったら龍園の失敗ってことで俺は悪くないけど。
「フン。お前こそ、しくじるんじゃねぇぞ」
「うぃうぃ」
任せとけって。
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「おい葛城!話がある!」
「……そうか」
いつも通り偉そうに呼びかける龍園。ハゲもなんか慣れた感じの対応だな。
「そこのザコ共は置いとけ。聞いてる人間は少ない方が良い」
「ふん、仕方ない。お前達、先に帰ってくれ」
そう言う相手は一緒に居たAクラスの3人ほど。
あっ、やべぇ。どれが弥彦ってヤツか分からんぞ。「戸塚って誰~?」って聞くしかない?いやいや怪しすぎるだろ。うーん、どうしよ。もうダメかな?
「……なぁハゲ、なんで手下にザコ入れてんだ?特に、アイツ、船でもすぐDクラスに喧嘩売るようなバカじゃねぇかよ」
「な、なんだと!?」
おおっと、これもしかして俺への援護か。なるほどアイツね、サンキュー龍園。覚えてたら後で礼を言っておこう。
「余計な挑発は辞めろ、龍園。弥彦も落ち着け。……すぐ感情を揺さぶられるなと言っているだろう。相手するだけ損をする人物というのは存在する」
酷い言われようだな龍園。割と事実な気もするけど。
「す、すみません葛城さん……」
「クク……Aにもザコは居るんだな」
「こっ、この……!」
「弥彦」
「あっ、その、すいません……」
「行くぞハゲ、お互いに人目に付かない方が都合がいいだろ」
「……そうだな」
そう言うと2人はさっさと森の方へ入っていった。
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さて、残るは俺と山脇、あとAクラスの3人。ここからどうやって弥彦1人だけ残すかだけど……思いつかんな。
なんとなく気まずい沈黙が流れるけど、別に仲良く会話する理由も無いっていう。
俺も暇そうにポケットに手を突っ込み、ボイスレコーダーのスイッチをONにしておく。
……1分ほど経ったかな、Aクラスの3人が洞窟に戻りそうな感じを出してるけど、全員に戻られちゃ困るんだよな。
おっと、「龍園がごめん」とか呼びかけて弥彦1人だけ残せるなんてか考えてたら、何も言わずとも2人だけが洞窟に戻り、弥彦1人だけが残るようだ。ラッキー。やっぱ日頃の行いが良いからな。
「あー、その、戸塚さん?さっきは龍園がごめん……」
申し訳無さそうに、気が弱そうな生徒を演じる。
「ふん。……なんだよCクラスが」
「えーっと、ごめんなさい。ウチのリーダーちょっと頭おかしくて、なんか挑発すればするだけ自分が偉いって勘違いしてるようなバカなんすよ……」
「……まぁ、そんな感じだったな」
やっぱ共通の敵っていうのは仲良くなる1番の理由になるね。
「それにしても、Aクラスで1人残った理由は、葛城さんに1番信頼されてるからっすか?」
「ん、あぁ、そうなるな!俺が一番葛城さんを支えてると思うぜ!」
ホントかぁ?同学年から敬語を使われても気分良さそうにしてる単純バカで何を支えるというんだ。
「流石っすね……。俺Cクラスだけど、やっぱAクラスのみんな頭良さそうだし、その中でも葛城さんが1番なんでしょう?」
「当然だ!……あんな女よりずっと良い人、優秀な人だ」
あんな女、坂柳のことだろうな。面倒だから触れないでおこう。
「いやぁ、優秀な生徒ばっかりのAクラスで1番優秀な人、そんな人に1番信頼されてる戸塚さんもめちゃくちゃ優秀じゃないっすか。羨ましいっすね……」
「ふん、分かってるじゃねーかお前。……名前は何だ?覚えといてやるよ」
ここで無意味に偽名使っても面白い気がするけど、ややこしくなるから辞めとこう。
「あっ、ありがとうございます。自分は浅井、です。覚えてもらえたら嬉しいです」
「アザイ……。覚えといてやるよ」
「あざっす!」
なんか嬉しそうだな弥彦。やっぱ媚びるタイプは媚びられるのが死ぬほど好きってのはマジなんだな……。
ウチの菅原が『面倒な上司は適当に褒めまくって味方にしておくのが得です』って言ってたけど、聞いた時は『いつどこで誰に活用すんねん』と思ってたけど、実際にやってみると面白いもんだな。
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さて、仲良くなった所で本題に入るか。
「その、戸塚さん、実は戸塚さんにしか聞けない悩み事があるんですけど……」
「……なんだ?」
「俺、実はそんな頭良くないんで、言われたこと忘れちゃったんすけど、龍園さんにバレたらめっちゃ怒られそうで殴られたりしそうで聞けなくて……」
「確かに、なんかバカそうな顔してるもんな。なんだよ、言ってみろ」
殺すぞこの野郎。アホそうに媚びる笑顔は演技じゃボケ。
「その、CクラスはB,Dクラスに偽のAクラスリーダー情報を流すって言うんですよ」
「……そうか」
葛城からは聞いてないけど、それを表に出せない、みたいな感じだろうな。顔がちょっと固くなってるぞ弥彦くん。
「それで、『実際のリーダーは戸塚さん』っていうのは聞いてるんですけど、代わりに流す偽リーダーの情報っていうのが、誰にしろって言われてたのかを忘れてしまいまして……」
「おいおい」
「葛城さんだとリーダーっぽすぎるから違うヤツにする、っていう話までは覚えてるんですが、どうしても代わりに流すリーダーの名前を、その、忘れてしまいまして……」
「どうすんだよ?」
「戸塚さんと葛城さん以外で優秀な方で、名前が出てきても不思議じゃない方っていうのは……誰か思い付きますか?」
「うーん……。数人思い付くけど、そこはやっぱお前がちゃんと謝って聞いたらどうだ?」
「あ……そうっすね……。分かりました、そうします」
「まぁ何かあったら俺も助けてやるから」
お前になんか出来んの?
「ありがとうございます!……戸塚さんって、優秀な上に人間力もあって優しいって、やっぱそういう面で葛城さんから信頼されて、えっと、それで今回リーダー任されたって感じですか……?」
最後の方は近くにいる山脇に聞こえないよう、声をかなり小さくして耳元で話した。
「まぁ、俺が一番、葛城さんの凄さを見抜いてたから、っていうのもあるかもな!」
うーん、こんなものかな。証拠になるでしょ。
別にいらない気もするリーダー誰かの証拠だけど、まぁ十分でしょ。カマをかけた訳じゃなく、『お互いに知ってる前提』で話して全く否定されず、認めちゃったという証拠。
龍園が候補をしっかり1人まで絞ってくれたのが勝因の50%以上だけど、俺も悪くない誘導出来て貢献した気がするかな。
バカをハメるために演技するの、意外と楽しかった。相手が調子に乗りまくって「そこの灰皿でテキーラ飲めや!」とか言われたら思わず反発しちゃったかもしれないけど、そういうのじゃなかったし。
さて、次が本番だ。Aクラスを失格させるために、バカを煽りまくって殴られようじゃないの。
絶対に次の方がラクな気がするけど、時間制限もあるし、多分だけど一発勝負だからちょっと頑張ろう。