こんにちは。せっかく南国の無人島に来たのだから、透き通るような青い海で遊びたい。綺麗な白い貝を集めたい。そんな思いを踏みにじられ、待機させられている可哀想な俺は浅井虎徹です。なんて酷い学校なんだ……。
そろそろ夕方になっちゃうし、今日の貝ハンターする時間がほぼ無くなっちゃうよ……。
なんて考えたら、短髪で筋肉質の『俺めっちゃ優秀』みたいなオーラを出してる微妙にウザい体操服姿の真嶋先生と、葛城と弥彦がやって来た。
ついでに、それに気付いた龍園もこちらにやって来た。おまけドラゴン。こいつ今回なんか言うことあんのかね?見物するだけ?
「どうも、坂上先生。Aクラスの該当生徒を連れてきました」
「……ありがとうございます」
なんか知らんけど、坂上先生はAクラス担任の真嶋に苦手意識あるっぽいな。過去に何かあったのかね?……まぁいいや。相性悪いだけかもだし。
「それで、訴えを出したというCクラス生徒の浅井くんは、君だね?」
ん?もう話に入るのかよ。屋外だけど、まぁこのためだけに運営テント入ったりってことも無いのか。
「はい。そうです」
「君のことは、入学式前にAクラスの登校バスに紛れ込んでいた時から少し気にはしていた。だが、こういう形でまた関わるとは思わなかったよ」
「はぁ……」
なんかそんなこともあったね。良く覚えてんな。
「さて、話は既に聞いているが、再び君の口から聞かせて欲しい。何があったんだね?」
「はい。そこの戸塚?……弥彦くんに殴られて、それをウチのクラスの山脇がデジカメで撮影し、弥彦はそれを見てデジカメも破壊しました」
「ふむ……。戸塚、何か言いたいことは?」
「ち、違います!こいつが……こいつが先に殴ってきたんですよ!」
今気付いたけど弥彦の顔めちゃくちゃ青ざめてる?なんか焦りまくって超キモい顔してるな。
「こう言ってるが、浅井くん、どう弁明する?」
「弁明も何も、嘘ですよそいつの言ってること。俺が演技でへりくだるように、下手に出て、あらかじめ『サマーリーダーは戸塚弥彦』っていうことを知ってる前提で会話して、リーダーが誰かを聞き出したんですよ。その後で思わず『バーカ』って言ったらブチ切れて殴ってきただけです」
困っちゃうよね~。
「君から殴ってはいないが、挑発したということは認めるのかね?」
そりゃ言ったのはまぁ事実だし、ボイスレコーダーにも録音してあるだろうけど、別に挑発とは限らんよね。
「挑発っていうか、思わずバカって言っちゃっただけですよ」
「では、戸塚を挑発して、殴らせようとした意図は無いと?」
ん?……関係あんのかこれ?
「すみません真嶋先生、ちょっと待って下さい。もし仮に、仮にですよ?俺が意図的に弥彦を挑発して、それに乗った弥彦が俺を殴ってデジカメを破壊したとしたら、それは俺が悪いことになって、弥彦の罪にならないんですか?」
「……何が言いたいのかね?」
なんか鋭い目になったな。なんで?分からん。
「俺めっちゃ不思議に思ってるんですよ、須藤事件の時も。どっちが喧嘩を売ったとか関係無く、殴り合いしたなら『どっちも悪い!どっちも停学!』で終わりでしょうと。なんで原因とかギャーギャー気にするんです?今回のだって、ただ弥彦がキレちゃって、俺を殴って、デジカメを破壊したってだけでしょ。それ以外の何があるんです?」
「ただ、事態の真相を知りたいだけだ。……それで、君は戸塚に殴らせようとやったのかね?」
真相知りたいだけ?ホントかねぇ?
「うーん、俺が何言ったって変わらん気もするんですけど、まぁそうですね、殴らせようという意図はありませんでしたよ。……誰が好きで殴られようとするんですか!?俺は石崎と違ってマゾじゃありません!」
何か変わるとは思わんけど、わざとじゃないよアピールはしておこう。
「……勝手に変な噂を作るんじゃねぇよバカ」
なぜか龍園が口出しをしてきた。いやお前のせいで石崎のマゾっぽさが増しまくってるんだろ、原因が何を言ってるんだ。
「そうか……」
真嶋はなんか別のこと考えてる?
「ってか、ボイスレコーダーの録音は聞いたんです?」
「あぁ。それなら把握している」
じゃあなんで俺に聞いたんだよ。全部そのままだろうに。
「で、でもっ、真嶋先生!……俺はハメられたんですよ!!」
うわぁ、すんげぇ必死だ弥彦。ちょっと泣いてるし鼻水出てるしキモいなぁ。
「それで、山脇くん、君は暴行の様子をデジカメで撮影し、それを戸塚に破壊された。それで正しいかね?」
弥彦をチラリと見るだけで無視する真嶋。ウケる。
「えっと、はい。そうです……」
「そうか。ふむ……」
「先生ぇ!お、俺は悪くないですよ!全部こいつら、いや、こいつのせいです!!」
おいおい指差すんじゃないよ。失礼なやつだな。
「それでは……学年主任として、今回の特別試験の最高責任者として、この場で今回の騒動への判決を下す」
あら?もう?なんにせよ楽しみだ。
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「今回の特別試験、現時点で『Aクラスの試験失格』とする」
それを聞き、泣きながら崩れ落ちる弥彦。そしてそれを、唇を噛みしめながら見つめる葛城。うーん……絶望感あるねぇ2人とも。写真撮りたいくらいだ。あっ、カメラ2つとも壊れてるのか。
「理由を……伺ってもよろしいでしょうか……」
絞り出すように声を出すハゲ。まだ冷静なのか、しっかりしてるよ。泣かなかったね。
「もちろんだ。……戸塚も、泣いてないで聞きなさい。お前が1番聞かなきゃいけない事だろう」
なんか忘れかけてたけど、やっぱ『教育者』なんだよな。この人も、坂上先生も。なんか無人島生活に同行してるだけのオッサン達だと思いかけてた。
「う、うぅ……。はい、真嶋先生……」
ちなみに龍園は目立たない所でニヤニヤしてる。楽しそうやね。俺とポジション代われよ、俺は海に行きたいんじゃ。
「今回の騒動、俺の意見を言わせてもらえるならば……戸塚、お前が他クラスを無意味に軽蔑し、見下していたのが敗因だ。上の者が、下の者になら何を言ってもいい。何をしてもいい。そういう傲慢が失敗に繋がったのだろう。そんな事は、決して無い」
「で、でも!アイツが……!」
何度俺を指差せば気が済むんだよ弥彦。あとキモい顔で見てくんなよ。
「それを反省できないのならば、お前に成長は無いだろう」
「うっ……。は、はい……」
おぉ、なんか厳しいこと言うね。でも相手のことを思って説教してる感じが伝わってきて、なんか熱いね。良い光景や……。この機会を作った俺に感謝するべきなんじゃないか?
「さて今回の試験、失格となる行為は『暴力行為』『略奪行為』『器物損壊』の3つが大きく定められていた。その理由は分かるか?……では、葛城」
なんか青空教室になったね。いや良いけど。
「それは……それらの行為を認めてしまった場合、試験が試験として成り立たなくなるからです」
マジメな回答だね。
「具体的にはどうなるか……浅井、分かるかね?」
なんで俺に聞くんじゃ!
「うーん……」
Aクラスも居る場で有能アピールしても、俺に得が無いんだよなぁ。むしろ警戒されすぎたら損だ。
「なんでもいいから言ってみてくれたまえ」
「うーん、分かんないですねぇ!えーっと、龍園くんなら分かりそうです!」
「キメェ呼び方すんな浅井……。あと巻き込むんじゃねぇ」
お前ばっかり楽しく見学してんじゃねぇよ。ずるいぞ。
「……では龍園、君ならどう答える?」
「フン……。間抜け共に教えてやる義理もねぇが、お前らはもう終わったカス共だからな。少しは教えてやるよ」
「なんだと!?」
なんで終わったクラスの人間に追い打ちで挑発するんだよ。相変わらずだな。
「『暴力行為』の禁止は、他人を殴り潰してリタイアさせるバトルロワイヤルの禁止ってことだろ。『略奪行為』は、それを認めちまえばSP交換がルールとして成立せず、ただひたすら強奪し合う状態になる。『器物破損』の禁止も同じ理由だ、SP交換物資や調達したものを好き放題に奪って壊してたら、ただひたすら暴力のやり取りが続くことになる。だから禁止したってことだろ。ククク……別に禁止しなくても俺は困らなかったけどな」
なんで無人島でマジの戦争しなくちゃいけないんだよ、アホか。そんなクソ面倒な状況を喜ぶのお前だけじゃボケ。俺だったらすぐリタイアして船でステーキ食うよ。
「まぁ、所々気になるが……龍園が言ったことで基本的に正しい。最低限、必ず守らせるルールが無いと試験として成り立たないだろう。ゆえに、今回の件は正しく罰せねば試験が成り立たない、という訳だ」
「そう、ですか……」
苦しそうなハゲ。理解してたけど確認するため聞いてみたってとこかな。
「葛城、お前の言う通り『試験を成り立たせるため』なのだが、その『理由』まで考え、その重要性を他者に伝えて、守らせ、秩序を保つことも考えるべきだったかもしれないな。……色々と、他にも考えることがあったのかもしれないが」
「……はい」
葛城派と坂柳派のクラス内でやってた『派閥戦争』に加えて、『リーダーがバカ』だったから気が休まらなかったのかもしれないね。視野が狭くなってたというか。あとまぁついでに『SP物資とppの交換契約』を龍園とやったし、それに加えてCクラスから『リーダー情報の売買取引』もあったから大変だったろうね。ごめんね。
葛城には1人くらい頼れる相手が居たりしたら変わったのかも。頼れるはずの相手が弥彦だったら、そりゃ内政あんまりやってらんねぇだろうなぁ。
そう考えると龍園は俺みたいなアドバイザーが居て幸せだな。感謝して100万ppくらい出すべきだよ。
「戸塚、お前は間違いなく調子に乗りすぎていた。Aクラスだから何をしてもいいなんていうことは決して無い。そしてAクラスといっても、卒業まで『Aクラスから1度も脱落しなかった』というクラスは、歴代でそう多くはない。『Bクラスに降格するかもしれない』という状況にならなかったクラスは、まず無い。入学時のクラス分けだけで3年間トップの地位が守られることは無いんだ。悔しかったのなら、反省して成長するんだ。……分かったか?」
「……うっ……はい」
真嶋、別に好きになるほどじゃないけど、やっぱ学年主任やってるだけあって優秀な先生なのかもね。『歴代でAクラスから脱落しなかったクラスは少ない』ってのも、どうせ嘘でしょ。そう言った方が頑張るだろう、みたいな。
それに比べてウチのクラスは、あんまり先生が意見すること無いかもね。俺と龍園が優秀すぎるから、説教する場が全然無くてごめんね、坂上先生……。
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「では、我々は失礼させてもらおう。恐らく、今日中にはAクラスの全員が船に戻ることになる」
もう帰っちゃうのかい。聞いておきたい事あるぞ。
「ちょい待って下さい、真嶋先生。もしこのまま帰ったら、弥彦がめちゃいじめられちゃうんじゃないですか?俺としては公表しない方が良いと思うんですけど」
「そうかもしれないが……君がそれを言うのか……」
俺めっちゃ優しいぞ。弥彦も大好き、Aクラスの大事な欠点だもん。
「ついでに言うと、殴られた上にデジカメ破壊されて、俺らはなんか弁償してもらえたりしないんですか?Aクラス失格とか割とどうでもいいですし、手付金……じゃなくて、賠償金みたいなの欲しいんですけど」
金くれよ金。殴られたんだぞ俺。
「余計なこと言うんじゃねぇよ浅井」
横からまた龍園が口出してきやがった。
「は?なんでよ。正当な要求だろうが」
「浅井……お前はこのような奸計を巡らせておいて、まだ要求するというのか!?」
なぜかハゲがいきなりキレた。なんでだよ。俺 vs 龍園 & 葛城、なんだこの状況。イジメか?
「カンケイ?……って何?」
「……ズルい、悪巧みの事だ」
「悪巧みぃ?何がよ」
「しらばっくれるな。お前が弥彦を挑発して、それを利用してAクラスを失格させたのは明らかだろう。その上、まだ金を寄越せだと?お前には……良心というものがないのか?」
はぁ……?まぁ、俺からも少しは教えてやるか。
「まず、今回のことについて、俺ってか龍園やCクラスのせいにするのは良くないよ。ただ単に弥彦がバカなだけだよ」
「なっ!」
驚くハゲ。なんで?
「悪巧みって言ったって、俺も龍園もめちゃくちゃルール守ってんじゃん。ルールの中での行為でしょうが。まぁそれでも『悪巧み』になるのかもしれないけど、俺は『悪い事をした』とはカケラも思ってないよ。競争状態だったら、相手を出し抜くなんて当たり前すぎるだろ。何を甘えたこと言ってんの?」
「なんだと……?」
「スポーツの世界でも割とありふれたことでしょうに。ルールの中で創意工夫、色々な手段が生まれ使われ、また対策されて……。世界中でありふれてる事でしょ。そんな状況で、イチイチ立ち止まって文句垂れてるのアホだよ」
スポーツでなら、例えば……、
野球でボールを投げたように見せて、実際には投げずアウトにする『隠し玉』や、ボールを見失っているのにキャッチ出来るようなフリをして敵を進塁させない『フェイント』、バッターボックスに立つ打者にボソボソと気が散る事を言って集中を見出そうとする『ささやき戦術』。
サッカーだったら『痛いフリをして時間を潰す』『パス回しで時間を潰す』『転んだフリをしてPK/FKを獲得しようとする』『ペナルティーエリア内で倒れ込んで敵GKの邪魔をする』とか色々ある。
アメフトだったら『どうやって勝つか』は『どうやって相手の想定外のことをするか』にほぼ等しい。ズルいもなにも、ルール内で相手を裏切ることこそ勝利への道だろうに。右か左か、中央突破かサイドか、ディープかショートか、パスかランか、キックかパスか、誰が誰をマークするのか。それの読み合い、思考の勝負が連続するスポーツだってのに。さらに言えば、相手の弱点を突かないのはただのバカで、勝つ気の無いゴミだ。
あと、どんなスポーツだって、『審判に聞こえないように悪口を言って挑発する』なんて当然のようにされまくってることだぞ。
相手をハメるなんて、ごくありふれた事だろうに。やっぱ高校1年生だから世界を知らず、潔癖なのかね?
「ルールを破らされた我々が悪い、と?」
睨みつけてくるハゲ。うーん、まるで分かってないのか。
「もちろんそうだし、あえて言うならルールも悪いね。環境も悪いでしょ。もし仮に、俺がわざと挑発したとしても、それを許容してしまうこの試験の環境が悪いよ」
サッカーだって、ビデオ判定を増やしたりして対策してる。アメフトなんて毎年のようにルールの見直しや議論をしてる。今回の無人島試験なんて運営側もただ手抜きなだけだろ。
「お前は、ルールを『守らない側』ではなく、ルールを『守らせられない側』が悪いんだと言いたいのか……?」
微妙に違うかな。
「だから、俺らは今回ちゃんとルール守ってるじゃん!っての。それに加えて、環境も悪かったね、って言ってんの」
ルールを守らなくていい方法なら、他にいくらでもやれる事あるわい。
もしも、本気で、『何が何でもAクラスにならなきゃいけない』としたら、今回の俺らの動きなんて手抜きも手抜きだよ。これだけ監視カメラの網がヌルい環境で何一つ犯罪行為してないんだぞ。脅迫材料を集めたりもしてない、何もしてないに等しいよ。めちゃくちゃ手抜きだろうが。
「……。」
「あとまぁ、俺が言うのも変だけど、『相手もルールを守るはず』っていう認識はすこぶる危険だよ。やるやらないは別にして『物理的にどんなことが可能か』って考えるのは絶対に大事だよ」
ただ、考えたらついやりたくなっちゃうんだけどね……。龍園みたいに。
日頃から『どう攻めるか』をひたすら考えまくる癖は、『どう攻めてくるか』の想定にそのまま使えるはず、そういう意味では本当に優秀だアイツは。守る側で考えるのをめんどくさがってるのと、趣味に合って無さそうなのと、脅威になりそうな外敵が居ないからサボってるみたいだけどね。
それと比べたら『ルールは守られるべき』で思考停止して、得られるものは何も無いね。
「余計なこと言うなって言ってんだろ浅井。お前、もう黙ってどっか行ってろ」
は!?
「行っていいならとっくに行っとるわボケ!……死ね!」
「テメェが死ね」
やっぱ二度とコイツのこと良く思うのやめよう。
そしてハゲはまだ俺のことを苦々しい表情で見てる。なんだよ、マジで良心からくるアドバイスなのに……。
さらに真嶋先生も坂上先生も、ついでに泣きじゃくってる弥彦も俺を見ていた。なんでじゃい!
なんだよもう……。さっさと消えろよA共、なんで失格してんのにまだ居るんだ。早く帰れ帰れ。
そして気付けば太陽がもう既に赤い、海に行く時間もうほとんど無いね……。ちくしょう。
という訳で、5日目とAクラスは終わりです。