ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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I'm Not You

DAY 6

 

おはようございます、無人島試験、6日目の朝8時です。

 

早く豪華客船の風呂に入って温かいシャワーを浴びたい、そして温かいものを食べたい……という人間として当然の願望を持ってしまっている俺は、早くあと1日過ぎ去って欲しくて仕方がない浅井虎徹です。

 

今日はめちゃくちゃ雨が降ってる、土砂降りだ。テントの上から延々とバケツで水をかけられてるような水量、雨音が超うるさい。ゲリラ豪雨ってやつかな。

 

流石にこの雨の中で、傘もレインコートも無く外に出るのは嫌なので、トイレのために出なきゃいけない以外はまるで歩き回る気にならん。

 

そういえば昨日の『Aクラス失格宣告』の時、ハゲが謎のタイミングがキレたせいで賠償金の話がいつの間にか消えてた。

 

今考えてみても、殴られたのに何も無いのおかしいと思うよ。損害賠償を出せ!ふざけるな!「もう金しかないなぁ!」くらいキレてアピールすれば良かった。「ハゲうざいなぁ、Aクラス早く退場しろよ」とか思ってたら言うの忘れてたよもう。

 

俺を恨むのは違くない?とも思ってたから、なんかアドバイスしたみたいになっちゃったし……。まぁいいか。

 

ついでに、龍園が俺の発言を止めた理由は良く分からんかったな。

 

「龍園、おはよう。起きてる?」

 

「……なんだ」

 

「昨日のやつだけど、なんで俺が賠償金せびろうとしたら止めたの?最低でも新品のデジカメくらいだったら運営からもらえたと思うんだけど」

 

スマホと別に証拠残せるデジカメを1つくらい確保しておきたかったんだよね……。後で坂上先生に聞いてみるか。ダメだったら、弥彦に踏み潰された方じゃなくて、水没して壊れた方を修理して使えるように出来るかな?

 

「テメェはアホか、真嶋が『失格にする』と宣言してはいたが、実質的にはすぐ訂正出来る状態だったろ。ルールで明記されていたとはいえ、個人の責任として弥彦だけの失格という処分も十分にありえた」

 

「あー、まぁ……そうかも」

 

そう言われてみればそうだ。

 

「そんな状態でお前が余計なこと言って、もし『Cクラスは反道徳的すぎる』みたいな判断をされて、失格の取り消しとかになったらどうすんだよ。あぁ?」

 

「う、うるさいわい!」

 

俺はもう確定してると思ってたけど、龍園はまだ未確定で判決を変えられかねないと思ってたのか……。珍しく俺より龍園の方が慎重だったってことか。

 

「あと、賠償金なんて出てもカスみたいなもんだろ。どう考えたって、AクラスのCP320を潰す方がデカいだろうが……。バカも大概にしとけ」

 

「は?……じゃあ、そこまで言うなら、今回の成功報酬として俺に金を出せよ。なんで殴られておいて何も無いんだ?Aの失格とかCPだけ見たら大きな成果だろうけど、俺になーんも得が無いじゃん。ふざけんなアホ。完璧に殴られ損じゃねーか」

 

いやもう別に痛くもなんともないけどさ。

 

「チッ……、まぁ考えといてやる」

 

なんだそりゃ。後でまたちゃんと要求しておこう。

 

 

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もー、すっげぇヒマだ……。

 

久しぶりに夜の偵察も無かったので早寝早起き、めっちゃ寝たってのに、この無駄な待機時間。貝殻集めしたかったのに、アホみたいに雨が降ってるから外に出る気はしない。なんだよもう。せめてスマホ使わせて欲しい。

 

「ヒマー!」

 

「……うるせぇ」

 

この無人島生活で龍園との距離は近付いたとは思うけど、それはそれとしてお互い微妙に嫌い合ってるというか、ウザがってるのは変わらんな。

 

この関係は何なんだろう、『友人』とは思えない、そんなに好きじゃない。『相棒』では絶対に無い、そんなに信頼してない。流石に『敵』ではないけど、『仲間』と言い切るのはなんか嫌だな。『利害関係者』くらいでいいや。

 

「てかさ、龍園、もう船に戻って良くない?」

 

考えてみたら、まだ居る意味が何も無いじゃん。もう帰ろう。

 

「……貝がどうこう言ってたのはどうすんだ」

 

「いや、この雨の中で探すのは無理でしょ」

 

雨雲で暗すぎるし、懐中電灯で照らしながら、雨でビショビショになりながら貝探しなんてやりたくないぞ。

 

「フン……。別に良いが、お前1人だけ帰ったってなったら目立つだろ。『なるべく注目されたくない』とか言ってたのはどうした」

 

「ぐぬぬ……」

 

そう言われるとそうだな……。他のメンバーはどうせ龍園に従ってずっと居るだろうけど、その中で1人だけ離脱ってのはおかしいか。体調悪いフリするのも面倒だし諦めた方がいいかも。

 

けどやっぱ帰りてぇなぁ……。道連れに石崎だけでも一緒に船に戻ったら目立たないかな。

 

 

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「言っておくが、最終日の試験結果発表でどうなるかを確認するためにも残る必要があるだろ。試験後に提示される保証が無い」

 

「まぁ、そうだけど……」

 

そんなんお前1人が居ればいいだけの話やんけ。

 

「あと、俺らCクラスからB,Dクラスへのリーダー指名が成功するかの確認も必要だ」

 

「……は?」

 

え、やらないって言ってなかったっけ?何を言ってんの?

 

「計算をやり直してみろ。Aクラス失格で状況がかなり変わってるだろ」

 

「えぇ……考えるのめんどくさい……」

 

せっかく気持ちよくpp大儲け出来たってのに……。まだ何を考えるってんだ。

 

「チッ、どうせ勘違いしてるだろうから言っておくが、俺が諦めたのは『Cクラスのリーダー交代した上でのCP増加』だ。Aクラスが失格になった今、俺らはリーダー交代せずともCP50を増やせる状況にある」

 

「……マジで?」

 

そう言われたら考えたくもなるな。

 

えーっと……、俺らがA,B,Dの3クラスの指名成功したらSP150のプラス。

 

Aクラスが居なくなったから、指名を受けるとしてもB,Dの2クラスから指名されて、SP100のマイナス。

 

プラマイで、SP50のプラス。あ、ホントだ。

 

「この状況でB,Dへの指名をしないのはアホだ」

 

まぁ、確かにそうだな。その通りだ。俺は聞いてないけど、Bクラスのリーダーも判明してるの?

 

「Bのリーダーも分かってんの?」

 

「既に金田から聞いてる」

 

「そっか。あ、俺には言わなくていいよ」

 

「……あぁ」

 

それで、伊吹はDクラスは『多分だけど堀北』って言ってたもんね。

 

ただ、ペナルティってどうなってたっけ……?

 

「Aクラスとの取引でやった契約違反の条件は、確か『CクラスのSPがプラスになった場合、契約無効』だったっけ?」

 

「そうだ」

 

「んで、Dクラスとの取引は『Cクラスのリーダーが交代したのに通達されてなかったら、ペナルティとして月々30万pp』だよね?」

 

重ね重ね、驚くほど的確で面倒でムカつく条件だよなぁ。敵ながらアッパレ。

 

「あぁそうだ。死ぬほどウザい契約だ……」

 

「俺らがリーダー交代しなきゃ考える必要無いけどね。アルベルトの体調も今は大丈夫そうでしょ?」

 

「フン。無理そうなら早めに言えと命令してある」

 

……なんかちょっと不安だな。まぁいいや、流石に毒盛ってギリギリで強制的に交代させようとしたり、闇討ちしてまでリーダー交代させようとする事はないでしょ。多分。

 

「一応、1人であまり行動せず、ずっと安全確保しておいた方が良いかもね」

 

「……アルベルトの安全を、か?」

 

「アルベルトだって、見た目はターミネーターみたいだけど、普通の人間じゃん。別にこれからやることもないんだから、大人しく集団行動してもらっても良いでしょ」

 

あと残すは今日と明日の昼まで半日だけ、1.5日……っていうか24時間ちょっとだけなんだし。

 

「フン。……まぁいい」

 

「あー、リーダー指名するのはまぁ俺も納得だよ。そりゃ確かにした方が良い」

 

「当然だ。……問題は、B,Dがリーダーを変更して指名を回避してくる可能性だ」

 

えーっと、

 

「リタイアでのSP減点って確か30だよね?リーダー指名されて50減らすより、生徒リタイアの減点30の方が良い……って?」

 

「そうだ」

 

指名されるかどうかも分からないのに、そこまでリスク回避するクラスあるかねぇ?

 

「まぁいいや。BかDのどっちか1クラスでもリーダー交代しちゃったら、俺らはリーダー指名に失敗しちゃって、SP50のマイナス。そして成功がAとB,Dどっちか合わせての2クラスだけになっちゃうから……SPゼロで試験終了か」

 

「そうなる」

 

まとめてみよう。せっかくならメモ取るか。

 

 

【パターン①】

B,Dクラスのリーダーに変更が無い場合

(スパイが成功してた場合)

 

A,B,Dへの指名成功:SP150プラス

B,Dからの指名成功:SP100マイナス

合計:SP50プラス

 

 

【パターン②】

B,Dクラスのリーダーが1人でも変更してた場合

(スパイが失敗してた場合)

 

Aへの指名成功:SP50プラス

B/Dへの指名成功:SP50プラス

B/Dへの指名失敗:SP50マイナス

B,Dからの指名成功:SP100マイナス

合計:SP50マイナス

 

ただし、SPがマイナスになってもゼロ止まり。CPとして見たら50の差で済むのか。

 

 

「パターン②の場合は、Aクラスからのpp振り込み契約が継続されるから、ppだけ見たら別に損ってほどでもないのか……」

 

逆に言えばSP50の獲得時はAクラスからの『CP50相当のpp契約』が無効になってしまうという。こんな所でハゲが邪魔してくるとは……。死後の怨念かな?

 

「……。」

 

「あ、もちろんCPの方が良いってのは分かるけどね」

 

「フン……」

 

それでも、どっちに転んでも別に損しないっていう状況は美味しいねぇ。気分が良い。

 

リーダー指名に成功したら、CP50のプラス。失敗しても、SPがゼロでも、Aクラスとの取引が成立するから、別に大差無いっていう。成功しても失敗してもいい、気楽だ。

 

「ただ、こう考えてみると、スパイが無駄にならなくて良かったね。伊吹と金田にしても」

 

リーダー情報を売り付ける契約でペナルティを設定されちゃったし、そのせいで他クラス指名出来ず、そうなるとスパイやってる意味が無くなっちゃってたけど……最後の最後でめっちゃ重要になったな。良かった良かった。

 

「……最初から指名はする、それに変更はねぇよ」

 

「あ、そう」

 

得する訳でもないのに喧嘩売るのアホだろうに……。

 

 

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「そういやボイスレコーダーってどこにあんの?」

 

Aクラスのリーダー情報がしっかり証拠として残ってる、主演男優賞もらっていい程の俺の演技による戦利品。

 

「坂上がまだ持ってるだろ」

 

「だったら返してもらって、Aクラスのリーダー情報もB,Dに売ろうよ」

 

「フッ……クク、悪くねぇ」

 

またCP100相当、つまり月々40万ppの収入増加だ!……と思いたいけど、うーん、どうかな。

 

「俺から言っておいてなんだけど、成功するかね?」

 

「あー、……なるほどな。指名成功したとしても、俺らからの指名が成功したら変動無い上に、BとDの相手でリーダー指名をして成功する可能性も関わってくるから、証明するのがクソめんどくせぇってか」

 

情報が正しかったかの証明がほぼ出来ないっていう。

 

「死ぬほどめんどくさすぎるね……」

 

やめちゃおうかな。

 

「ただ、捨てるには惜しい情報でもあるな……」

 

確かに。録音でまさに『証拠』そのものだし、実際にAクラスはもう失格になってるんだし。

 

「あれ?そういやAクラスの生徒ってどうなったの?」

 

「昨日の夜、全員が船に戻った。クク、良い眺めだったぜ。せっかくの無人島生活5日間が無駄になった、絶望感と怒り溢れるアホ共の顔は……。面白かったぜ」

 

なんだそれ……俺もちょっと見たかった。撮影しておきたいくらいの珍しい光景だろうに。タイトルは『落ち武者たち』かな。

 

「まぁいいや。失格してるクラスが、失格した後にリーダー交代してるとも思えないもんね。証拠としてはめちゃくちゃ信憑性高いと思うし、使わないのは超もったいないね」

 

うーん、雨の中めんどくさいけど、買ってくれるか交渉しに行こうかな。ボイスレコーダーしっかり保護して濡れないようにしなきゃ。

 

「俺としてはもう必要無いが、売れるなら売ってこい」

 

いらない?まぁそうか、Aクラスのリーダーはもう変わりようがないもんね。情報が漏れた所でどうでもいいんだろう。

 

「えーっと……売り付けるんじゃなくて、タダでプレゼントしてきてもいい?」

 

買ってくれるか分からんし、証明条件があまりにも面倒だし、これ以上の取引とか契約結ぶの面倒すぎるし。ほぼ最終日みたいなものだし、考えるの面倒だし。

 

「……なぜだ。理由を言ってみろ」

 

「なんていうかさ、今回の試験で『俺と龍園の仲が良い』みたいに広まっちゃったかもしれないじゃん?」

 

「まぁ……そうだな」

 

悪夢みたいだよ。

 

「俺が龍園の指示で動く『忠実な部下』みたいに思われちゃったら、めっちゃ損でしょ」

 

「実際には違うしな。お前ほど、俺の言うことを聞くかどうか怪しい人間は他に居ない」

 

まぁ、そうね。自分でもそう思う。

 

「俺が何をしても『どうせ龍園の指示でしょ?』とか思われて、信じてもらえなくなってるかもしれないじゃん?最悪だよ。龍園の信頼性はゴミ以下だし」

 

「うるせぇ」

 

事実だろうに。妨害活動しすぎの変態め。

 

「だから、ある程度『龍園の意思に反した行動』をしてアピールしよう、ってね」

 

「……利害が常に一致してる訳じゃない。少しは信じられる存在だと思われたい、信頼性を上げたいってか?」

 

「そんな感じ」

 

龍園と同一視なんて絶対されたくないもんな。事実まるで違うんだし。

 

「フン、くだらねぇが、別にケチる意味もねぇから勝手にしろ。他クラスにCP増やされるのは面白い状況じゃないが、俺らが損する訳でもないからな。好きにしろ」

 

「ん、オッケー」

 

じゃあ、面倒だけど、死ぬほど降ってる雨の中、めっちゃ美味しい情報をプレゼントしてくるとしますか。

 

これだけ土砂降りだったら、もう全裸で行った方が良い気がするよな……。服が濡れるだけ無駄だし。

 

とりあえず、まずは坂上先生にボイスレコーダーを返してもらおう。

 

そんで、濡れないように、ちゃんとビニール袋に入れておかないと。


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