こんにちは、雨が死ぬほど降ってるのに、なぜか傘もささず外を歩き回ってる俺は浅井虎徹です。もし本当に『無人島』だったら全裸になってたね。
なぜこんな時にテント内で大人しくしてないかといえば、『Aクラスのリーダーが誰か』をBクラスとDクラスに教えに行くためだ!
俺はなんて優しいんだろう……。
無償でプレゼントを贈るって、もうこれ完璧にサンタクロースだよね。メリークリスマス!
ちなみに、北半球と南半球では季節が逆転するから、オーストラリアとかニュージーランドではサンタクロースが12月だけど夏の海でサーフィンしてるらしい。面白いよね。地理で聞いて感動したよ。
そしてこれも余談だけど、世界の主要国はほとんど北半球にあるらしい。不思議だけど、そもそも陸地面積が北半球のほうがずっと多いからとかなんとか。……それだけの理由かい!
ついでに、正月に芸能人とかが毎年のように行くハワイとかセブ島とかは北半球らしい。ただ気候が温暖だからとかなんとか。なんじゃそりゃ。
なんてどうでもいい事を考えていたら、川の音が聞こえてきた。
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さぁやって来ましたBクラスのキャンプ地、かなりの大雨だけど川の近くで大丈夫かな……と思ってたけど、まぁなんか平気そうだな。そりゃ流石に『スポット設定してある場所でキャンプしてたら洪水で死んだ』なんてこと起きないようになってるか。
めちゃくちゃ雨が降ってるけど、数人はしっかり外に出て活動してるみたいだ。マジメだね。
「あー、そこのBクラスの男子!ちょっと一之瀬呼んできてくれない?」
しっかり大きめの声を出さなきゃ聞こえにくいほどの雨だ。
「どうしたの?何か用?」
「Aクラスのリーダー情報を持ってきた!」
「あー……、待ってて!」
超ウザい雨だけど、良いこともある。俺は天才だから気付いたんだが、こういう大雨だったら服がめちゃくちゃ濡れる、現に俺もそうだし。女子の服が濡れたら、多分だけどエロい。何かが透けて見えるはずだ。俺には見える、そのために来た。
はやくしろっ!!!間にあわなくなってもしらんぞーーっ!!!
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数分待たされてる間、ちょっとだけ雨が弱くなったかも?けどこんなジャングルみたいな環境だと、すぐ強くなったりしそう。
「浅井、話を聞いて来た。何があったんだ?」
やって来たのは、えぇ……なんで神崎なの?どうして?
「一之瀬はどしたの?」
「……あと1日だけとはいえ、この雨に濡れたら体調を崩すかもしれないだろう、女子なんかは特に。だから、俺達はもう最低限の活動以外は外に出ないことにしている。俺は一之瀬の代理だ」
「そっか……。まぁ、そうね……」
女子の居ない生活をしてたから、そういう発想がカケラも無かった。仕方ないか……。
「それで、Aクラスが失格したというのは本当なのか?」
割と素直に驚いてる感じだ。あっさりライバル脱落してて半信半疑、かな?
「失格した、というか、『失格させた』だけどね。……龍園の案で」
あぶね、つい自慢したくなっちゃう系の話ではあるけど、ちゃんと龍園の指示ということにしておこう。
「詳しく聞いても良いか?」
「俺から説明してもいいけど……これに証拠が入ってるよ。ついでに、Aクラスのリーダーが誰かも録音してある」
そう言いながら、ボイスレコーダーの入ったビニール袋を見せる。多分だけど防水ではないからね。
「俺達にその情報を渡すと?……見返りに要求するものは何だ?」
ちょっと警戒されてるっぽいな。
「なんか勘違いしてるかもしれないけど、俺は龍園と違うよ。俺は他クラスともなるべく仲良くした方が良いと思ってるタイプだよ。ある意味で、割とBクラスの適性ある人間だよ」
『俺は実はBクラスだった説』はまだ消えてないよ。
「それは……、仲良くしたいから無償で差し出すっていうのか?」
なんか警戒心が増してる感じだな。なんでだよ。
「うーん、本当はSP50相当の情報だと思うし、出来たらCクラスのリーダー情報と同じように買って欲しいんだけど、間違ってるかもしれなくて、証明出来ないんだよね……。だから売るのは難しいし、だったらあげちゃおうって」
Aクラスが失格になったのは事実だけど、それと別に『Aクラスの生徒と一緒に演技したやり取り』っていう可能性は消せない訳だし。
「龍園の指示か?」
やっぱそう疑われるか。
「違う違う。龍園はケチだから『売れないなら教える必要はねぇ』みたいに言ってたけど、俺は流石にもったいないと思ったから持ってきたって感じ」
いや本当は言ってないけど、似たようなことは思ってるでしょ。多分。
「……そうか。なら、受け取ってもいいか?」
「良いけど、水に気をつけてね。あと、Dクラスにも教えてくるから返して欲しい。……録音の上書きとかしないように気をつけてね!?」
そう言いながらビニール袋を渡す。
「了解した。……少し待っていてくれ」
「オッケーイ」
なんかアホみたいに降ってる雨も、これだけ濡れたらもう慣れてきたな……。プールに服のまま入ったくらい濡れてる。もう気にするだけ無駄だな。
別に夏だから濡れまくっても寒くは無いし、のんびり待ちますか。
ある意味、これもう水浴びだな。そう考えると悪くないや。
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神崎が消えてから20分ほど経った。
髪の毛や服の上下がビッチョビチョになるのはまぁ別に慣れたけど、靴までビショビショで歩く度に水を踏む感触がするってのは、やっぱちょっと気持ち悪いなぁ……。
「すまない浅井、待たせた」
お、神崎が帰ってきた。
「おかえり。ちゃんと聞けた?」
「その……Aクラスが失格した理由も、リーダー情報として信憑性が高いというのも理解した、情報には感謝する。だが……」
なんだ?なんか複雑そうな顔だ。素直に喜んでくれてもいいでしょうに。
「どしたの?」
「……俺らBクラスとしては、Aクラスの試験失格は嬉しい。CPの差もかなり大きかったからな」
「そりゃそうでしょ」
「だが、正直に言って、俺らはお前達Cクラスを、その……脅威に感じた」
「えぇ……」
いや、まぁ、そうなるかもしれないけどさ……。
「今回の特別試験、『SPゼロ戦略』だけでも驚くほど柔軟な発想だと思ったが、それを最大限利用した『自クラスのリーダー情報の売買取引』まで行い、それだけでなくルールを悪用しての、挑発からの『Aクラス失格』だ。俺達は、正直お前達のことが……恐ろしい」
「そ、そっか……」
いやはや、返す言葉が出てこない。やりすぎた?
「それで、そこまで音質が良い訳ではなかったが、Aクラス生徒への挑発をしたのは浅井だろ?……それも、やけに慣れていたように感じた」
「え?そう?……照れるなぁ」
自分でも良いとは思ってたけど、演技を褒められるとちょっと嬉しい。
「いやそういう意味じゃないが……」
「え?」
じゃあどういう意味やねん。
「なんにせよ、Cクラスは、現時点で我々Bクラスが1番警戒する対象だ」
「あ、そうすか……」
いや別にそんなこと言われても……。てかなんで教えてくれたんだ?
「それゆえに、このボイスレコーダーの情報も、半分以上信じられない」
そう言いながらビニール袋を返してきた。
「まぁ、うん。龍園だったら確かにAクラスと組んで、演技とかさせたと思うよ」
「……違うと言うのか?」
「だから、今回は龍園の指示じゃないっての。……もしもその情報が正しかったら『浅井は龍園とちょっと違う』って分かってもらえたら嬉しいかな」
「……。」
あー、これまだ疑ってるっぽいね……。でもまぁこれ以上は言いようがないんだよなぁ。
「うーん、疑う気持ちも分かるんだけど、今回のその情報に嘘は無いよ。Aクラスが失格ってことになる前にリーダーを交代してる可能性はあるし、そこの確認が出来てないから確実じゃないんだけど、まぁ多分そんな時間無かったと思うし……。ただ、100%ではないね」
「そもそも、保証できないと?」
「そんな感じ。Cクラスのキーカード見せるみたいに保証が出来ないし、もし売るとしても『間違ってたときはペナルティで』みたいな条件付けられてもおかしくないし、俺らも100%の確証は無いからそういう取引は出来ないって感じ」
情報が間違ってたから俺らが金を払う、みたいになったら、なんかアホみたいだし。
「そう、だな……」
「かといって使わないで試験が終わるのも、なんかもったいないじゃん?だからタダで持ってきたってことだよ」
「……そうか」
「まぁ、別に信じなくていいんだけど、俺個人としては90%信じていい情報だと思ってるよ。……間違ってたらゴメンだけど!」
「分かった。……なんにせよ、情報には感謝する」
「いえいえ。んじゃね!」
「あぁ。じゃあな」
グッバイBのイケメン、まさに水も滴るいい男だった。会話しててもムカつかないイケメンは良いね……ウチのロン毛とはやっぱ違うわ。
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さーて、次はDクラスだけど……情報をどう渡そうかな。っていうか誰に渡そうかな?
いや、そもそも知ってる生徒が少ないんだけどね。俺が知ってるのは、櫛田と平田、ウザい堀北、猿みたいな須藤、あとは……影が薄い綾小路と、なんか1回だけ会ったギャル。名前忘れた。
これ、普通に櫛田くらいしか選択肢が無いな。平田でもいいけど。
それにしても、Dクラスには俺が堀北を泣かせたのを見てた生徒も居るし、なんとなく行きにくいね……。これは堀北が悪い。いきなり舐めた事言ってきて、普通に言い返したら勝手に泣いて、俺が悪者みたいになって。ふざけんじゃねーよあのアマ。
いきなりキャンプ地に行って、悪い噂になったりするのも嫌だなぁ……。もうDクラスには情報渡さなくてもいいかな。めんどくさくなってきちゃったな……。
「……浅井、どうしたんだ?」
ん?
「おっ、綾小路じゃん。お前こそ何してんの?こんな雨なのに」
Dクラスのキャンプ地はもうちょい先だったと思うけど、なぜか森の中から綾小路が出てきた。こんな所にある食料なんてもう取ってるだろうし、なーにやってんだ?
「俺は……食料を探してこいって言われてな」
なにそれ、パシリ?
「あー、お疲れ様。……そうだ、行くの邪魔しちゃって悪いんだけど、目立たないように櫛田をちょっと呼び出してくれない?」
俺が乗り込んだら騒ぎになっちゃうかも?だし、呼んでもらった方が良いでしょ。ちょっとだけ俺も綾小路を利用しちゃってる感はあるけど、リーダー情報持ってきたんだから許してくれや。
「……分かった、ここに来るように言えばいいか?」
「おっ、ありがと。よろしく!」
「あぁ」
なんだ、無表情で意味分からんヤツだけど、意外と良いヤツなのかも。
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「こんにちは、虎徹くん。……こんな日にどうしたの?」
おぉー、やってきたのは水を浴びたくらい濡れてる美少女。雨雲があるせいで暗いけど、ちょっとだけ下着が透けてるじゃん。ありがとう雨、愛してるよ天気。
ちなみに、櫛田の表情も今の天気と同じように微妙に暗い。そりゃまぁアホみたいに濡れる状況に呼び出したらイラつきもするか……。すんません!
「ごめんね櫛田、でもそれに見合う価値のある情報だと思うから」
「……情報って?」
あまり楽しくなさそうな雰囲気の櫛田、そりゃまぁそうだな。さっさと話を終わらせて屋根のある所、テントに戻ってもらおう。
「Aクラスのリーダー情報だよ」
「えっ!?……そんなの、どうして?」
「俺らが持ってても仕方ないし、Bクラスにはもう聞いてもらったから、Dクラスにも恩を売っておきたい、みたいな感じ」
「それは、その、嬉しいけど……信じていい情報なの?」
やっぱちょっと不安になるのか。
「これはBクラスにも同じこと言ったけど、90%くらいは信じて良いと思う。けど、このボイスレコーダーへの録音をした後、リーダーがリタイアして交代してた……っていう可能性はある。けどほぼ無視して良いはず」
泣いてた弥彦が失格って言われた後に1人だけリタイアってのはどうにも考えにくいからなぁ……。いや可能性はあるけどさ。
「聞いてみないと分からないけれど……。それをDクラスに教えてくれるのはどうして?」
なんかBクラスにしたのとほぼ同じ説明になっちゃうけど、仕方ないか。
「俺らはもう秘密にする意味が無いんだよね、Aクラス居ないし。そして、売る情報としては信憑性が100%じゃなくて、『情報が正しかった場合』の証明がアホみたいに面倒で、パターンを網羅して考えるのが面倒すぎる……だったらプレゼントしちゃおうよ、ってね」
「それは……龍園くんの考えなの?」
櫛田にもそう聞かれるのかよ。ちょっと悲しいな。
「違う違う。龍園はどうでも良さそうだったけど、俺が仲良くしたいと思って持ってきたって感じ」
「そっか……」
なんかまだ不安そうだね。マジの良心からのプレゼントなのに疑われすぎだよ、嫌になってきちゃうな……。だいたいウチの不良ロン毛のせいなんだろうけどさ。
「あ、ただ、お願いだけど、出来たら録音を聞くのは少人数にして欲しいかな……。俺の評判が悪くなりすぎちゃうかもしれないし」
龍園のアイデアだからと言い張るつもりだけど、それはそれとしてあまり聞かれない方が良かったな。……Bクラスにもそう言っておけば良かった。しくじったかな。
「えっ……。分かったよ」
なんかもっと不安にさせちゃった感じがあるぞ。
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「情報はまぁ、櫛田の好きにしていいし、手柄みたいにしてくれていいよ」
考えてみると、Dクラスには櫛田の他に好かれたい相手も居ないし。
「私がAクラスのリーダー情報を手に入れた、ってこと?」
「そうそう」
「……聞かなかったことにしても良いの?」
「あー、まぁ、超もったいないと思うけど、別に良いよ。俺としては試す価値のある情報だと思うし、リスクも許せるレベルだとは思うけど……櫛田の好きにしていいよ」
「そう……」
「仮に、もし情報が間違ってたら『Cクラスに騙された!』って大々的に言っていいよ。うん。どうせ恨まれるの龍園だし」
アイツの信頼性はどれだけ下がってもいいからね。無限に捨てられるゴミ箱、みたいに考えたら悪くない存在だな。
「あ、あはは……」
「他は……なんか理由あった方が納得されるかもね」
「理由?例えば、どんな?」
「そうだね……『櫛田に色々お世話になってるから、感謝として持ってきた』とか。これだったら割と良いんじゃない?櫛田の評価も上がるだろうし」
「うん、それはそうかもしれないけど……」
あれ?イマイチか。
「だったら……そうだ!『実は浅井虎徹と付き合ってるから』ってのはどう!?」
天才的なアイデアだ!という顔をしながら試しに言ってみた。
「……だから、付き合ってないよ?」
笑顔だけど、心なしか冷たい目だ。ちょっと怖い。
「そうすか……」
流れでいけるかな?と思ったけど全然ダメだった。ぐぇ~。
「えーっと、普通に『仲が良かったから教えてもらえた』とか言ってみるね!」
「うん……」
なんでもいいです……。ってか、どうでもいいです……。
「それじゃ……ありがとねっ、虎徹くん」
「ん、じゃあね櫛田」
当初の目的は果たせたし、まぁいっかこれで。
それにしても、試験終了まであと24時間くらいか……。
流石にもうやる事無いし、このまま船に戻っても良い気がめちゃくちゃするけど、6日も耐えたのなら最後まで居てもいいかな……。
とりあえず、報告するためにも戻ろう。勝手に船に戻ったら雨の中で遭難したと思われちゃうかもだし。