ようこそ邪悪な教室へ   作:マトナカ

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ぶらり豪華客船の旅
謀略入門


こんにちは、無人島サバイバルから解放され、ダッシュで風呂&ヒゲ剃りしたあと、高級フレンチレストランでステーキ2枚を違う味で堪能し、食いすぎてベッドで横になってる俺は浅井虎徹です。料理がウマすぎるのが悪いのであって、俺は悪くない。

 

他のみんなよりちょっと早かったからか、時間的には遅めのランチタイムだったからか、レストランでは俺1人だけの貸し切り状態だったので大富豪になったような気分だった。

 

そして現在の時刻は16時過ぎ、満腹になった腹を抱えてベッドでゴロゴロていると龍園達が帰ってきた。どこで何してたんだか。シャワーと着替えは済ませてるっぽいな。

 

「浅井、試験の振り返りするぞ」

 

えぇ……どんだけ元気なんだよ。眠い、めんどくさい。

 

「今ぁ?」

 

「そうだ。起きろ」

 

ヤダヤダぁ、お前みたいな体力無限バグ野郎と一緒にするんじゃねぇよ。寝かせろ。

 

「……スパイ活動を頑張ってくれた伊吹と金田も呼んであげようよ。せっかくなら、こんな客室じゃなくて中華レストランの個室とかで話そう。ひと休みした後でね」

 

「フン……。仕方ねぇ、用意しとけよ」

 

「ういうい」

 

さて、ちょっと昼寝しておこう。いやしかし、フカフカのベッド、しっかり効いてる冷房がこんなにも気持ち良かったとは……。ジメジメと蒸し暑い地獄のような環境で、テントなんかで寝てた俺達は本当にすごいことをしてたと思う。偉業だ。もう二度とやりたくないけどね。

 

 

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時刻は18時半、気付けば外も暗くなっていた。

 

同部屋の石崎とアルベルトも寝ている、そりゃまぁ疲れただろうからねぇ……。ただ龍園は居ない。

 

学生証端末、別名『インターネット制限されすぎスマートフォン』を見てみると、いくつかのチャットが届いていた。

 

1つはCクラスの全体チャット、というかほぼ龍園のみが発言する『Cクラスの情報通達グループ』に届いていた試験結果の詳細と、「CPは増やせなかったがpp契約での儲けはある」というメッセージ。

 

そして2つ目は、龍園からの個人メッセージ。「19時に中華料理屋前に来い」という連絡。んー、今から出たらちょうどいいかな。

 

あんまり腹減ってないけど、話すのがメインだから別にいいか。

 

 

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龍園による今回の試験まとめ、現時点でのCPは、以下の通り。

 

Aクラス:CP1004

Bクラス:CP897

Cクラス:CP512

Dクラス:CP306

 

うーん、いい勝負になってきてるねぇ。B,Dの2クラスは俺らにめちゃくちゃ感謝するべきだろ。BなんかもうAクラスに迫ってるし。

 

そして今Aクラスの奴らは失敗した悔しさと、すぐ後ろにBクラスが居る危機感で大変そうだ。

 

pp換算では以下の通り。

 

Aクラス:CP754相当(1004 - 250)

Bクラス:CP847相当(897 - 50)

Cクラス:CP862相当(512 + 350)

Dクラス:CP256相当(306 - 50)

 

あれ?俺らppだけ見たらもう1位なのか。そしてAクラスは……ドンマイ!

 

っていうか、こうやって見ると驚くほど接戦だな。面白い。そりゃ真嶋のやつも「素晴らしい試験結果だった」とか言うわな。

 

でもまぁ、CP1000切りしてるから、まだ龍園の借金は増え続けてる状態だ。

 

割とみんなは『いい結果だった』と思うだろうけど、俺はちゃんと『もっとCP増やせ』って忠告しておこう。あんまり他に言いそうなヤツ居ないし。

 

何度でも言おう、『CP1000だったらもらえたはずの金をちゃんと補填しろよ』と。別に全員に返せって言ってんじゃなく、俺にだけでいいから払えって話なんだから遠慮しないよ。

 

スマホを見ながらそんなことを考えていたら、既に伊吹と金田が居る料理屋の前に着いてしまった。龍園まだなのかい。

 

 

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「恐らく、この船で特別試験がもう1つある」

 

店の奥にある個室に入り、みんなが座ってすぐ、龍園が開口一番で変なことを言い出した。ホントかぁ~?あれだけしっかり試験やってまだやんの?嘘だろ。

 

もし違う島に行って試験とかになったら、俺は絶対に参加しないぞ。

 

「……ホントなの?」

 

おっ、伊吹も同意見みたいだ。ビビらず疑わしいのをちゃんと聞いてくれる便利なヤツだ、しばらく龍園と2人でばっかり話してたからなんとも新鮮。楽ちん。

 

「間違いねぇ。過去のCP変動から99%確定だ」

 

ヤダなぁ……。一応覚えておくけどさ。

 

「了解です、龍園氏」

 

金田はなぜか張り切ってる、相談されるのが嬉しいとか?変なの。ホモなのかも。

 

「まぁ次の試験に関しては今やれることは無いだろう。……それより無人島試験の件だ」

 

「ちょっと待った龍園、それより注文が先だよ。のんびり食いながら話そうよ」

 

あんまり腹減ってなかったけど、店に入ってから食欲をそそる香りを嗅いで、メニュー見てたら普通に食いたくなってきた。

 

「フン、……好きに頼め」

 

偉そうに言ってるけど、全部タダなんだからお前に言われるまでもないだろ。バカ?

 

チンジャオロース、ギョーザ、北京ダック、春巻、チャーハン、担々麺、よりどりみどりだ。何にしようかな……。

 

こうなると酒もちょっと欲しいけど、流石に高校生相手には出してくれなさそうだな。家じゃなくても、古臭い外観で、日本語カタコトの中国人とかがやってる店だったら年齢確認なんて100%されずに飲めるんだけどね。今回は諦めよう。

 

 

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「それで、把握する必要があるのは今回の試験で他クラスがどう動いていたのかだ。伊吹、金田、それぞれのクラスでリタイア者は出たのか?」

 

注文が終わると、龍園が真剣な表情で話し合いを再開させた。

 

「Dクラスでは、高円寺とかいう奴が初日にリタイアしたらしい。私は見てないけど。それと……堀北が最終日の早朝か、6日目にリタイアしてた。詳しい時間帯はちょっと分からない……」

 

んー、まだ罪悪感あるっぽいな。すげぇマジメだ、そういう性格とは知らなかった。

 

「リタイアしたのは、その2人だけ?」

 

せっかくだし俺からも質問する。

 

「……そのはず」

 

マジかよ、そこそこ過酷だったと思うけど2人で済んだのかい。しかも1人はリーダー指名の回避のためっぽいし。頑張ったねぇ。

 

「Bはどうだった、金田」

 

「はい。Bクラスでは、最後まで誰一人として離脱せず、協力し合って、交換アイテムも多くを工夫して節約していました。……それで最終的なSPは200近く残せた、とのことです」

 

「マジで!?すげ~!」

 

とんでもないな。40人全員で生活して、金田っていうスパイも1人増えてて、それで使ったSPが100ちょっとだけ?マジですごいな。どうなってんの?ホントにそんなに残したの?

 

1つのテントを6人で使ってたとか、そもそも野宿してたとか、ガチサバイバルしてたとか……?気になる、後で一之瀬にどうやったのか聞いてみよう。

 

「ただ、その……、最初に自分が特別試験でのポイントを『残せたとしても最高で150くらいだと思う』と言った予想が大きく外れてしまい、その、申し訳ありませんでした……」

 

そういやSP150が限界説は金田からだっけ。しかし謝るほどのことか?コイツはオカッパメガネだし見るからにマジメそうだけど、それにしても謝るほどかね?

 

「フン、気にすんな。あとは……、一応聞いておくが、BとDの間でお互いにリーダー指名をした可能性はあると思うか?」

 

んん?確かに指名し合って相殺されたパターンありえなくもないだろうけど、まず無いでしょ……。

 

龍園が通達したチャットの中に……あった、SPの最終結果。

 

Aクラス:0

Bクラス:234

Cクラス:0

Dクラス:219

 

笑っちゃうほど両極端だなこれ。

 

「あれ?Dクラスってリタイア2人なんでしょ?」

 

「……そのはず」

 

えっ、じゃあDクラスは219に60足して、279までありえた?すげぇな。

 

「浅井、俺らからBクラスへの指名は成功してるはずだ。そしてB,Dは俺らへの指名と、Aクラスの指名でSPを100ずつ増やしたのが最終結果になっている」

 

「えーっと、そうなると……」

 

「Bが184、Dが119、これがリーダー指名前の最終ポイントになる」

 

はー、なるほど。そしてリタイアが無かったら、Dも179か。

 

「うん、確かに金田もちょっと謝った方が良かったのか」

 

150からはちょっと外れすぎだな。200って言っておくべきだったね。

 

「その、すみません……」

 

「いやいや、別に気にしなくていいでしょ。BとDが頑張ったんじゃね?」

 

「……アンタから言ったんでしょうが」

 

伊吹がジト目で睨んでくる。いや別に金田を責めてはないっての。

 

「問題は、Dクラスがリーダー交代して指名を回避したのが誰の案かだ。……伊吹、心当たりは?誰が怪しい?」

 

「その、リタイアしたのが堀北だから、多分堀北だとは思うけど……」

 

「フン……、可能性としてはそうだが、どうにも引っかかる……」

 

はぁ?考えすぎでしょ。

 

「何がやねん。伊吹が居る時点でスパイされてるのバレバレなんだから、そりゃ疑ってもおかしくないでしょ。程々に危機管理出来るヤツなら誰がやってもおかしくないだろ」

 

誰が考えたも何も、ちょっと考える頭があったら気付くだろうし、対策するのが不思議って程でもないでしょうよ。

 

「……カメラの件はどう考える」

 

そういやあったな。浸水に見せかけて壊すとか、嫌なことするよなぁ。

 

「リーダー交代を考えたのと同じ人かもしれないし、違う人かもしれない。気にすることか?そりゃまぁ堀北がそこまで考えてるとは思わないけどさ」

 

かといって櫛田ではないような気もするし、平田……なのかな?

 

「チッ……」

 

なんだ?愛しの堀北がバカにされて不満なのか?いやお前が堀北じゃないかもって言ったんだろ。訳分からんわ。

 

 

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料理が次々と運ばれてきて、みんなで食いまくること20分ほど。流石の龍園も無駄にイキることなく同じようにメシを食うので、伊吹&金田もなんとなく打ち解けてリラックスしてきたような気がする。ええことや。

 

「そうだ龍園、言い忘れてた。Aクラスの弥彦を持ち上げる情報操作的なのやっておいた方が良いと思ったよ」

 

「……どういうことだ」

 

「今回アイツは大失敗しちゃったけどさ、反省してめっちゃ良い人間になるとも思わんし、まだAクラスの短所として使えそうじゃん?」

 

「クク……まぁな。それで何をしろってんだ」

 

あれ?龍園にしては察しが悪いな。

 

「謀略の基本だよ。『敵勢力の有能な人間は排除して、無能な人間を重用させる』ってやつ。流石に弥彦をAクラスのリーダーにするなんてのは無理だけど、『Aクラスのために戦ってくれた立派な仲間』くらいには思わせたいよね」

 

日本でも中国と韓国からの金が入りまくってる新聞とかテレビが良くやってんじゃん、とにかく現体制の政治家を批判しまくって邪魔して、害悪なカス政治家を持ち上げまくるやつ。

 

それと同じように弥彦を持ち上げて、重用させられずとも、せめて排除を回避させたいもんだ。優秀な生徒が多いAクラスでの貴重な無能。大事にしよう!

 

「……なるほどな」

 

あれ?マジで知らなかった?

 

「龍園、……あと一応、伊吹と金田も。スパイ活動の『五間』とか聞いたことない?」

 

「……。」

 

黙り込む龍園、マジかよ……。

 

「ゴカン?視覚とか聴覚のこと?」

 

「違う違う」

 

スパイの五感、まぁたしかに鍛えてそうだけどさ。

 

「なら知らない」

 

「自分も知らないです」

 

いやまぁこっちの2人は知らなくても納得だけどさ。それにしても金田はなんで俺にも敬語やねん。

 

「いやー、龍園まで知らなかったとは意外だ……。ホントに」

 

「……うるせぇ。説明しろ」

 

まぁ仕方ない。龍園ほど知ってた方が良い人間も居ないだろうし説明しとくか。Cクラスの強化っぽさもあるし。

 

「俺も原文を読んだわけじゃないけど、かの有名な『孫子の兵法書』にある、スパイ活動の5種類、考え方?みたいなやつね」

 

ちょうど2人もスパイやったばっかりだし、そのせいか視線がやけに真剣だな。おもろい。龍園も割と真剣かもしれない、変なの。

 

「五間の間は全部『あいだ』っていう漢字。スパイのことを間諜っていうから、それと関係するだろうね」

 

カンチョーじゃないよ。カンチョウだよ。

 

「……それで?」

 

龍園が相槌とはホントに珍しいな。

 

「五間とは、郷間、内間、反間、死間、生間。それぞれ字は……チャットで見せるわ」

 

そう言って、4人グループを作ってメッセージを打ち込む。やっぱ目で見ないと分かりにくいもんね、異国の言葉だし。それにしても中華料理屋で話すにはピッタリすぎる雑談だな。

 

「説明すると、『郷間』は敵の身近に居る人から話を聞いたり推測するやつ。今回でいうと、それぞれのクラスの生徒が腹減ってそうかなーとか、元気あるのかなーとかで生活状況を間接的に調べる、みたいな」

 

「……その土地の人間、ってか」

 

多分そのはず、漢字としても故郷とか言うもんね。でも正確には知らんから黙っておこう。

 

「そして、『内間』は敵組織の内部に居る人間を利用するやつ。今回でなら、弥彦からリーダー聞き出したのがまさにそれかな」

 

そう言うと、なおさら真剣な表情になる龍園。そして龍園の顔を見てつられて真剣になるスパイの卵2人。そういやAクラスのリーダーうんぬんはまだ聞いてなかったのかもしれんね。

 

「3つ目、『反間』これは平和な現代であんまり無さそうだけど、敵のスパイを利用するスパイ活動。嘘や偽情報を渡す、って感じだろうね」

 

使う機会あんまり無いだろこれ。多分。

 

「嘘を流すってか」

 

「まぁそれはそうなんだけど、敵からのスパイを利用ってなると……まぁ無いでしょ」

 

「フン……」

 

なんか残念そうだ、気持ちはちょっと分かる。敵が必死にスパイやってるのに嘘情報を渡して踊らせるとか楽しそうだもんね。

 

「4つ目の『死間』は……なんだっけな。確か『誰かを犠牲にしてでも』だった気がする」

 

「……敵のリーダーを殺す、とかか?」

 

「多分それもそうだし、もう犠牲になるの前提で敵組織にスパイを送り込んだり、他国のスパイを装って誰かを殺して殺されたり、とかだったはず。とりあえず犠牲者が出るやつだね」

 

……なぜか伊吹と金田がちょっと引いてる。なんでじゃ!ただの雑談だよ!

 

「最後はなんだ?」

 

「えーっと、死間の反対で『生間』かな。ちゃんと生きて帰ってきて、情報を持ち帰りましょうね的な」

 

「……普通だな」

 

「は?うるせぇやい!」

 

確かにそうだけどね!

 

 

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俺がふてくされてデザートのページを眺めていたら、何か考えてた龍園が話しかけてきた。

 

「弥彦の立場を上げておきたいってのは、『内間』か?」

 

「ん~、多分そう。偽情報って意味では『反間』かもだけど」

 

ぶっちゃけどっちでも良いんだけどね。やることに変わりないし、何をどうするかの分類をしてるだけみたいなものだし。

 

「敵の弱体化、か……」

 

ちょっと遠い目で考え込む龍園。もう理解はしてくれてるみたいだな。

 

「浅井氏、つまり、その……弥彦という生徒が良い人間だったと偽装しようというのですか?」

 

金田からの質問、俺もあんまり考えてないから詳しく聞かないで欲しいんだけど……。

 

「弥彦がキレて俺を殴っちゃったりカメラ壊したせいで、Aクラスは失格した。けどそれは仕方なかったし、弥彦を責められない、アイツは良くやった……みたいになれば良いね」

 

「それは……難しいのでは……?」

 

めちゃくちゃ困った顔の金田。そうか?

 

「龍園の指示で挑発しまくった事にすればいいでしょ。大事なのは何を言ったのかであって、『ハゲとかいう身体障害者、坂柳とかいう身体障害者、障害者だらけのAクラスで何を調子乗ってんだ?』みたいに煽ったことにするとか、『坂柳とかいう女を、そのうち龍園と一緒に襲って脅迫写真を撮るけど一緒に来るか?』みたいに言ったことにして、弥彦がそれに怒ったっていう事にでもすればいいんじゃない?」

 

説得力もあるし、俺も龍園に言わされた事にすればいいし。龍園の評判はどれだけ下がってもいいし。ついでに坂柳派も怒れなくなるかもしれないし。

 

「チッ……おい浅井、声を抑えろ」

 

そんなに大声じゃなかったけど、まぁ確かに小声で言うべきことだったかも。

 

「龍園、……考えてみれば中国人っぽい名前なのに知らなかった?高級中華の個室はね、悪いことを相談する場所なんだよ」

 

「……うるせぇよ」

 

テキトーな言い訳したけど、まぁ誤魔化せないか。

 

「虎徹、アンタ……やっぱ頭おかしいでしょ」

 

「なっ、……えぇ~!?」

 

Cクラスが勝つための提案だっていうのに、なんでそういうこと言うんだ……。なんか悲しくなっちゃうよ。間接的に伊吹のためでもあるのに。

 

もう悲しいから、我慢してたマンゴープリンも頼んじゃお。

 


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